4/4(月)『下谷万年町物語』本読みWS第9回レポート(中野)

2022年4月 4日 Posted in ワークショップ
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2009年秋『下谷万年町物語』上演時の三幕冒頭 金杉病院の場面

幕間から三幕本編へ。これが第9回の主眼でした。

唐さんの三幕ものは二幕が盛り上がる。
一転、最終幕の序盤はアイドリング気味になるのが常です。
一旦クールダウンし、その後の顛末を語り、
ここから最後の盛り上がりに向けて徐々に加速していく。
今回はその入り口に立ちました。

幕間の終わりは、
キティが文ちゃんの励ましを受けて復活する姿を描きます。
洋一がお市たちに囚われたことを受けてサフラン座の危機を察し、
再び浅草に向かいます。ここで、わざわざ破れ鏡を抜けるのがポイント。

まるでどこでもドアのような不思議で、
ともすればちょっとバカバカしい仕掛けではあるのですが、
だからこそ、唐さんがこの作品に込めた構造と思いが端的に現れます。
孤独な人は鏡越しの自分と対話する世界に沈んでいます。
そして、大切な"誰か"はいつもその鏡を突き破って登場するのです。
だから、破れ鏡を抜ける。

さらに、この場のラストには、
乞食のパン助と医者の哀しい遊戯が描かれて、
文ちゃんのせりふが際立ちます。慈しみにあふれた一瞬がふいに訪れる。
唐作品の面白さが詰まっています。

一転、大騒ぎとなる本舞台。
総監の帽子を取り戻すべく、オカマ軍団が軽喜座に殴り込みを
かけている光景。万年町のセットについて、劇本編と劇中劇とで
違いを明示する、舞台装置家の腕の見せどころです。

いよいよ大ボス・お市が登場する寸前のオカマ軍団の描写も面白く。
かつてNo.2であったお春がすっかり凋落し、かわりに上り詰めた蘭子が
権勢をふるいます。そして登場するお市。

いつまで経っても帽子を取り返せないお春への
蘭子やお市の処し方は、組織や権力の本質をあぶり出して楽しい。
そういう話も熱を入れてしました。

唐さんが細部にほどこしたおもしろさを存分に味わって欲しい。
乞食のパン助や軍医、蘭子というキャラクターにこも、
唐十郎が世界に向ける洞察や眼差しが込められています。

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