第30回 『唐版 風の又三郎』
前のページへ戻る唐さんと同時代を伴走した批評家の扇田昭彦さんが「現代の神話」と表現したこの『唐版 風の又三郎』は、まさにそれだけの芝居です。
唐十郎ゼミナール発足から20年、劇団唐ゼミ☆創立から15年。
抜け出すことのできない穴を這いまわる地獄への旅か、恍惚に向かって飛翔する天国への道行きか、その両方を味わいながら私たちは突撃しつづけてきました。大小に積み重ねた公演は30回。右の表を作りながらその時々を思い浮かべ、ずいぶん多くのメンバーやお客さん、事件とともにここまで来たのだという思いを新たにしています。
『唐版 風の又三郎』は、唐十郎を究めようとする者にとって特別な、
まさに金字塔と呼ぶべき作品です。
単に初演時の観客が多かったとか、唐十郎がもっとも評価された演目だということを超えて、物語の純度、そこに込められた野心が最高なのです。ここには、人と人とが虚構の世界を思いえがくときに必要最小限の条件と、人類が生み出してきたすべての物語を集め、さらにそれらを凌ごうという最大の野心があります。
今こそ、この『唐版 風の又三郎』に自分たちのすべてを乗せ、空高く飛ばします。
Covid-19が脅威となった現在、私たちは覚悟を持って公演に臨んでいます。人が生き抜くのに必要な熱い芝居を届ける。今この時に必要な「現在の神話」を届ける。
そう決意して、まずはこのチラシをお届けします。
宇都宮のホステス「エリカ」は、客である航空自衛官「高田三郎」に恋するが、高田は隊の戦闘機を乗り逃げし、海の藻屑と消える。
どうしても高田を思いきれぬエリカは、彼の死の謎を追って元の上司たちが転職している代々木のテイタン(帝國探偵社)に辿り着く。
そこが女人禁制ゆえに、男装して探偵たちに迫るエリカだったが、名前を訊かれ、とっさに「風の又三郎」を名乗ってしまう。
一方、精神病院を脱走した熱烈な宮沢賢治読者の青年「織部」は、男装のエリカを見かけ、
思わず「風の又三郎さんではありませんか?」と問いかける。
偶然一致した呼び名をきっかけに協力するようになった二人は、帝國探偵社の奥で、棺に眠る高田三郎に辿り着くが・・・。