6/24(金)タッチか、挿入か

2022年6月24日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
IMG_1396.jpg
↑Albanyのチケット売り場も、当然カード決済。これが読み取り機。

ロンドンではほとんど現金を使わない。多くの場合、カード決済なのだ。
私にとってこれは喜ばしい。記録が残りやすいし、スリを恐れてポケットに
ねじ込む財布も厚くならず、かなり薄くて済む。
エスニック料理店のうちのわずか何軒かが、
うちは現金のみでと言うが、紙幣もコインも、だからあまり持たない。

カード決済には2種類の方法がある。
読み取り機会にカードを差し込んで支払う方法と、
ピッとカードをタッチするやり方だ。

渡英当初から、私はもっぱら前者を選んできた。
タッチでの支払いをしたことが無かったし
私の持っているクレジットカードには、もともとその機能が無いのだ。

が、しばらく生活するうち、皆が皆、タッチ支払いしているのに気づいた。
速いし、手軽なのだ。が、危険も感じる。挿入支払いにはパスワード入力が
必要だが、タッチにはその必要さえない。つまり、カードを落としたら
使われ放題になる。恐ろしい。

そんなある日、現金の引き出しのため、
渡英直前につくった手持ちのデヴィットカードが、
タッチ対応していることがわかった。
便利に違いないし、大概の人がタッチ支払いだから、
会計のたびに店員と問答し、彼らが機械を翻すのにもくたびれてきた。
だから試してみようと思ったのだ。

なるほど、確かにこれは便利だ。レジでの流れも極めて良い。
郷に入っては郷に従うのも悪くはないか。そう思った矢先、
しくじりがあった。その日、私はケータイ・ホルダーに
英国のSuicaであるオイスターカードと、デヴィットカードを
一緒に入れてしまったのだ。

結果、地下鉄の支払い機は同時に2枚を読み取り、
ネットでキャンセルせよと駅員に告げられた挙げ句、
厄介な手続き方法に四苦八苦するうちに時間が過ぎて
約260円を失う羽目になってしまった。

あんなことは二度とゴメンだ。
そう誓った私は、すぐにまた元の挿入支払いスタイルに戻った。
いちいち暗証番号を打ち込むから間違いもないのだ。

今日も私は、タッチを求める店員にCan I insert?と切り出す。
すると店員は、OK!と言って機械をクルリと反転させる。
やはり安全が一番だ。お金は安全第一!

6/23(木)永い出稼ぎ

2022年6月23日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
IMG_1398.jpg
↑今日からAlbanyでは、特に注力して準備してきた"Sun and Sea"が始まる。
レセプション会場の飾り付け、DJブースの準備もバッチリ。

今日は知り合いから聞いた話をしたい。本当に驚いた。
彼女の家には週に一度ハウスキーパーさんが来る。
その人は、フィリピンから来た男性だそうだ。渡英して40年になる。

週に一度やってきて、家中を掃除し、庭やゴミ捨て場を整え、
買い物のサポートもしてくれるそうだ。始業時間は朝8:00。
買い物も含めると午後まで働くらしい。

ところが、彼はいつも朝7:00にやってくる。
ロンドンでは電車よりバスの方が安い。けれど時間がかかるので、
5:30には家を出てやってくるらしい。
そして早めに到着し、電話をかける。フィリピンに向かって。

家族との会話の時間だ。
奥さんと喋り、お子さんと喋り、お孫さんと喋る。
ただし、彼はそのお孫さんに会ったことがない。
40年間、国に帰っていないからだ。

国に帰るのにはお金がかかる。
そしてそれ以上に、彼は観光ビザでイギリスに入ったので、
一度帰ったらロンドンに戻ることができなくなる。
彼にはロンドンのパートナーがいて、おそらくフィリピンの奥さんにも
別の相手がいるのだろうということだ。

今のようにWhatsAppやLINE、Facebookメッセンジャーなど、
無料で国際電話できるようになる前はどうしていたのだろうとも思うが、
ともかくも今の彼は家族で電話している。

不思議な関係だ。
40年会っていないという状況を私は想像することができない。
おそらく、彼が話しているお孫さんに彼が会うことは、この先もないだろう。
そんな風に思いを巡らせてしまう。

そして、それが当たり前の彼にはまったく悲壮感がないらしい。
極めて明るい人だそうだ。そりゃ、人間はいつも悲しんではいられないもの。
だけれど、やはり不思議だ。
こういう生き方を知ると、優れた劇場プログラムと同じくらい、
いや、それ以上に、ロンドンにきて良かったと何故か思う。

6/22(水)ストのはじまり

2022年6月22日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
IMG_1367 2.jpg
↑5種類ある魚のうちHaddockを選んだ。タラ系の魚だ。

今週は鉄道のストライキ週間。
火曜、木曜、土曜とそれは行われるらしい。
過去30年間で最大級規模という

たまたま昨日は電車を使う予定がなかった。
朝からAlbanyに行き、午後は劇団のオンライン会議や事務をして
夜は近所で行われるフォークソングの集まりに行く。
すべてが徒歩だから問題はない。そう思っていた。

が、生活に影響がある。
周辺の店がけっこう休んでいるのだ。
確かに、電車が停まるということで、職場や学校をオンラインに
しているところが多数あると聞いた。
ということは、飲食店にとってお客さんが減るわけだし、
従業員が店にやってくるのも大変だ。ええい、休んでしまえ!
と休みことに対して常に前向きなイギリス人が判断するのは当然だ。

そういうわけで、Albany周辺のカフェもインド料理屋も、
ベトナム料理屋も休業しているためにランチ難民になり、
結局はゴールデンチッピーに行くことになった。

私はこの店が休んでいるのを一日しか見たことがない。
バンクホリデーのその日にだけ開いていなかった以外、
ずっと11-23時で営業している。

おかげで午後5時にやっと昼食を食べることができた。
面倒なことが目に見えているので、珍しく昨日は出かけるのをやめ、
日用品の買い出しに精を出した。

戦争の影響により、何もかもが値上がりしている。
貧しい人たちが住むゾーンまで歩いていって、
トイレットペーパーを買いだめした。
高いものは十分に在庫があるが、
4ロールで1ポンドというのは稀になってしまった。
6セット買い、まるでオイルショックのようだと思いながら、
大荷物を抱えて家に帰る。久々によく寝た。

6/21(火)オールドバラ音楽祭に行ってきた

2022年6月21日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
IMG_1225.jpg
↑すごく良い人だった。彼への感謝は尽きない

先週末もいつくかの場所に出かけたが、やはり遠出は印象深い。
DVDで予習済みのオールドバラ音楽祭に行ったのが面白い体験だった。

まず、ロンドンを出る際のやり方は相変わらず難解だ。
リバプールストリート駅から北東に進む電車に乗れとナビが入っているが
駅に着いたところで自動券売機が壊れまくっている。
仕方なく窓口に並ぶと、スムーズに券は買えた。
次は正確な電車が停まっているレーンを探さなければならないが、
これがよく分からない。だらしなく立つ駅員に訊いたら、
その人にも分からないという。

イギリスでは、どの電車がどのレーンに入るか、
場合によっては直前になるまで分からないのだ。
出発10分前になり、不安になりかけたところでようやく
電光掲示板に13番と出た。急いでそこに入ってみると、
今度は改札が開かない。なぜだ? さっき買ったばかりの切符を
通しているのに。駅員に訊きたくとも、改札の中、
10mくらいのところに立っている二人はおしゃべりに夢中だ。
役に立たない奴らよ。

かなり遠いところにいた駅員のところまで走ると、
彼がチケットを確認して入れてくれた。他にも同じ事情で
困る人たちがいて、私の後に続いた。

電車の中は空いていて、快適だった。
1時間ほど行ったところで乗り換え、そこから3駅の単線無人駅に
降り立つ。そこから8キロのところに会場はある。

送迎車があると聞いたが、ぜんぜん来ない。
不安にかられて事務所に電話すると
「あなただけ? すぐ迎えにやるから!」と電話が切れた。
そして、電話を切った瞬間に向こうの駐車場から一台の車が動し
こちらに向かってきた。待機はしていたが、誰も来ないので
運転手がぐうたらしていたのだ。ロンドンの駅員とは違い、
彼の高木ブー的な感じに好感を持った。

距離は遠いが田舎道なのであっという間に着く。
この時点で、帰りはタクシーを予約しなければならないことが
分かった。コンサートが終わる時間に送迎サービスはないらしい(何故?)
なんとか歩けないことはない距離だが、狭い道に歩道は無く、
車がかっ飛ばすので危ない。それに、動物に襲われる可能性もある。
親切なブーちゃんがタクシー予約を手伝ってくれた。

会場に着く。そこは、ブリテンがウィスキー工場を改造してつくった
施設群だ。ひなびていて、アートセンターという言葉は似つかわしくない。
工芸品を売る店があり、楽器を売る店があり、ギャラリーがいくつもある。
もちろん、食事や酒を売る売店やパブもあり、川下りも楽しめる。
それに、美術の野外展示が多くて、どれも変テコで面白かった。

例によってCDやパンフレットを買ってしまいながら、開演を待つ。
バームンガム市交響楽団によるブリテンの曲がメインのプログラムだが、
私の目当てはパトリシア・コパチンスカヤのショスタコーヴィチ
ヴァイオリン協奏曲1番一択だ。恐るべき弱音を聴きたいし、
一番安かったので、最前列、ソリストの目の前の席を買った。
アンサンブルは捨てる。

当たりだった。聴いているとこっちまで身体が熱くなる演奏だった。
昔、巨人時代の清原が大嫌いな阪神・薮を相手にホームランを打った瞬間
「ボケェ!」と叫んでしまった。あんな感じなのだ。
ソリスティックな部分をガンガンに弾きまくり、オケにつなぐ時など、
彼女は「オラァ!」という感じで後ろを向く。最高だった。

終演後、例のタクシーが来るまで時間があった。
聴衆もスタッフも引き上げてしまって、自分ひとり、時間を潰すために
もう一度オブジェを見て回った。すると、向こうから演奏を終えたばかりの
パトリシアが一人でやってきた。思わずデカい声でリアリィ!?と言ったら
笑っていた。彼女は、ずっと誰かとビデオ電話していた。

帰り道はあっという間で、ナビよりも常に早めの電車に乗り継ぎながら、
2時間ちょっとで帰ってくることができた。
地元のシニア・ボランティアが大活躍して支えている
実に人間味のある音楽祭だった。

6/20(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS8回レポート(中野)

2022年6月20日 Posted in 唐十郎戯曲を読む『蛇姫様 わが心の奈蛇』
10-07-10_396.jpg
↑2幕の終わりに再びてんかんが発動(写真:伏見行介)

昨日は本読みWSでした。
4月にYahoo! JAPANの配信を断たれて以来、日本の情報は格段に
入りにくくなりました。あと、取り立ててニュースにならないような
当たり前のこと、マスク生活の実際についてなど、WS参加の皆さんに
伺ったりもします。唐組や新宿梁山泊の唐作品上演がどうだったのか
聞いたりもして。

『蛇姫様 わが心の奈蛇』本編に入ると、
前回に引き続き2幕の終わりから3幕にかけてをやりました。

伝次のリードに従って日本に帰化し、
自分の出自を顧みるのをやめようとするあけび。
母シノの魂が憑依した薮野一家の知恵がド迫力で迫り、
さしもの楽天家あけびの心も折れかかり、短刀で右腕のアザを
とられかかったところに、バテレン扮するワシに飛び乗った小林が
助っ人として現れます。

男として成長し、矢継ぎ早にトンチの効いたせりふを連射する
小林に伝次も押され気味に。すっかり勢いを取り戻したあけびは
包丁を振り回して権八一家を追い詰めます。そして舞台裏で、
一家の一人を傷つけて臆することがありません。

が、これに怖気付いたのが小林でした。
揃うかに見えた二人の足並みは、あけびの乱暴狼藉の行き過ぎにより
ほころびます。身から出た錆とはいえ、蛇のウロコは単なるあざと
言い出す小林の心変わりに、あけびは持病のてんかんの発作を起こし、
期せずして小林を庇ったタチションを刺してしまいます。
これで2幕が終了。

3幕冒頭は、通例だったら幕間と呼びたくなるライトなコントから
始まります。あけびを追い詰め、犯罪者にしてしまったのを気に病む
小林は、蛇を求めて街を彷徨います。たどり着いたのは証明写真機。

2幕で蛇のウロコになぞらえた鏡もある、カメラについた蛇腹もある。
というわけで、ショックで心身不調の小林は写真機に蛇を見出します。
どおくまんプロ『嗚呼!!花の応援団』にインスパイアされた学ラン男に
説教される小林を救うのは、すっかり駆け出しのヤクザになった
タチション。しかし、自分を兄貴と慕うタチションの言葉も耳に入らず、
小林は放心してこの場を去ります。

次週は薮野一家と伝次の登場から。
2幕を経て、それぞれの悪役たちがどうなったのか。
そしてあけびの行方を追う、3幕序盤がスタートします。

ちろ、林麻子外部活動情報!

2022年6月20日 Posted in 外部活動情報
梅雨で涼しい涼しいと思っていましたら、
急激に夏日街道まっしぐら!
唐さんのせりふの中でも有名なフレーズ
「なんてじめじめした陽気だろう」
がぴったりな昨今です。

さて、6月も月末に向かう中、
劇団唐ゼミ☆ちろの客演舞台『クツの中の、石ころ』初日が今週23日!
「下らないことを真剣に!」をモットーに
毎日、ありえない真剣さで稽古に汗水垂らしているとのこと。
下らないと思っていると、いつの間にか
滂沱の涙を流しているかもしれません。
是非劇場まで足をお運びください!

また時同じくして、
前回の『唐版 風の又三郎 延長戦』公演にて気を吐いていた俳優陣
演劇カンパニー「平泳ぎ本店」のメンバー
松本一歩くん、丸山雄也くん、小川哲也くんが演出・出演する
『俳優の魂・贋作 不思議の国のニポン演劇盛衰史』も23日から。
劇団唐ゼミ☆・林麻子も楽曲提供をしています!
ご興味のある方は是非!
zemirogu20220619_1.jpg

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

劇団いいのか...?ワークショップ公演

『クツの中の、石ころ』

 

作:てっかんマスター 演出:戸辺俊介

 

【公演日程】

 2022/06/23(木)-26(日)
 ※受付開始は公演の45分前、開場30分前。


【場所】

 千本桜ホール

 〒152-0004 東京都目黒区鷹番3丁目8-11

 第三エスペランスビル

 tel.03-3715-4019



【チケット料金】
 前売り・当日3,000円 (全席自由)

 学生割引2,500円 (全席自由) ※要 学生証または生徒手帳

 5月23日(月)から前売り販売開始
 


【出演】

 荒屋敷雅章、岸山雅俊、越渡倭真、鈴木亮介、

 花たろう、福士雄大、橋本将貴、小川アリタ、

 北舘怜奈、 キムライヅミ、ちろ、寺杣風花、

 古本美優、宮地恭子


【ちろ専用チケット予約フォーム】

https://www.quartet-online.net/ticket/iinokaws2022ishikoro?m=0tijghi


zemirogu20220619_3.jpg


zemirogu20220619_2.jpg


6/18(土)劇中歌WSレポート

2022年6月19日
「青頭巾」最終回でした!

それではいってみましょう!
トランクのロープを持って高らかに歌うオイチョカブ。
でもその歌詞は、、

♪でも本当はそうじゃない
トランクは闇夜をぬって マウントサタンに帰るんだ
その時あたしはロープを話そう
昔はよく騙したが 今はもう騙さない

とそこへ、鐘の音。

和尚がまたもやオイチョカブを追い詰める。
和尚、そして商社の者たちはザクロの木の下に埋めた弟の骨を掘り起こしていた!
この骨と引きかえにトランクの鍵を返せというのであった。

"二人で噛んだザクロの味"
と思っていたザクロの木には、すでに弟の骨はなかった。

杉作はオイチョカブにやはり騙されたと、
オイチョカブを置いて去ろうとする。
待って! と、声をかけ引き止めるも、オイチョカブは
こうして見ていると、あなたの顔が白頭巾のように見えてきます。

1幕で、「坊や、白頭巾」と呼んでいたのがここで思い出されます。
頼もしくなったと思った杉作がまた自信をなくして去ろうとするのを
白頭巾と呼ぶオイチョカブ。

もうプッツリと振り切ったオイチョカブは、その勢いで
警察のところへ行き、自分はこの男(杉作)にそそのかされたと訴える。
それを聞いた杉作はオイチョカブにつかみかかります。

もみくちゃになっているところへ、ガセ像が飛び込んでくる。
覚えていますでしょうか。
2幕冒頭で、女房のユリアに愛想つかされ、もしあたしをいたいなら、
「どえらいことやってみな。」と言われていたのを。

そう言われたガセ像は、なんとオイチョカブを刺してしまった!
杉作とも仲違いしたままオイチョは運ばれて行ってしまう。

一人取り残された杉作のところへ、
カラスがやってくる。
「君は僕を一人ぽっちにしたね。」
そう語り始めるカラスの手にはトランクが。
カラスもまたトランクを狙っていた一人だった。
杉作に近づいたのも、そのためだったと吐き捨て去ろうとする。

それを聞いた杉作はカラスを追いかけトランクを取り返そうと
またまたもみくちゃになる。

ぐるっと回った拍子に、トランクが空いて、
中から異国のザクロが!!


唐ゼミの上演では、ザクロを持った「オイチョカブ」または「マウントサタンの女」
がトランクの中から飛び出して来ます。
今回改めて、台本をみると、ザクロとしか書かれていなかった!

散々取り合って来たザクロ石は
商社でもなく、カラスでもなく、杉作でもなく、
純粋に弟を思う姉である「オイチョカブ」はたまた「マウントサタンの女」
のところへかえって行くのであった!

rasuto.jpg


7月からは新しい作品へ突入します!
来週は、そのお知らせをしますので、どうぞよろしくお願いします!

6/17(金)それは彼の王国だった

2022年6月17日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

IMG_1192.jpg

↑わざわざスコアを持たされて撮影したのだろう。

後ろに見えるホールに行く予定。



今週末、再び遠出するつもりだ。

前回に行ったブライトンとグラインドボーン音楽祭から3週間。

次なる目的地はオールドバラ音楽祭である。


これは『戦争レクイエム』で有名なベンジャミン・ブリテンが

1948年に創立した音楽祭だ。彼は20世紀イギリスが生んだ最大の

作曲家だが、その最晩年期に自分の故郷オールドバラでの音楽祭を

立ち上げるに至った。ロンドンから電車で2時間半の土地。


その後、彼自身は1976年に亡くなってしまったが、

半世紀を越えた今も、音楽祭は健在、今年も6月に行われている。


音楽もさることながら、ホール自体も愉しみだ。

もともとウィスキー工場だったところを改装してできたというのだ。

音楽祭が開始されて程なく火事になったが、また復元されたらしい。

趣きもあって音響も良いと聞くから、期待が高まる。


ところで、先日、いつも都心に出た時に立ち寄る大型書店で、

この音楽祭に関するDVDを発見した。これは行く前に見ておきたい。

けれど15ポンド=2,500円する。一回見てしまえばおしまいなのに

高いと思い、Amazon UKを調べたら2ポンド送料無しの出物を発見、

注文した。


たった三日で届き、蓋を開けると監督のサインまで付いていた。

サインしてもらったのにとも思うが、ふとどき者のせいで恩恵に

あずかることができた。早速に本編を見たら、創立時の様子、

ブリテンの奮闘、若かりし日のエリザベス女王が祝辞を述べるところまで、

経緯が良くまとめられていた。


ホールの様子も 予習することができたが、

そのうち、気になることが出てきた。妙に少年たちがものを

食べるカットのインサートが多いのだ。

それに、ボーイソプラノのコーラスの稽古を熱心にやるブリテンにも

しつこいくらいにフォーカスしていた。


・・・要するに、そういうことなのだ。

ブリテンの盟友といえばピーター・ピアーズという男性歌手であり、

その関係が公私にわたるものであることは有名だ。

加えて、この監督は、ブリテンが音楽祭を立ち上げるに至った

モチベーションを潜ませたのではないかと思う。


少年たちを故郷の田舎に集め、熱心に指導をし鍛え上げる。

当然、都会からは遠いので合宿状態。

これは、ブリテンのモチベーションを大いに高めたに違いない。


私は、こういう仕事の仕方が心から好きだ。

個人的な動機があってこそ、仕事はただの仕事以上の迫力を帯びる。

そう考えてみると、『春の交響曲』『シンプル・シンフォニー』

『青少年のための管弦楽入門』など、ブリテンの仕事はまた違った

角度からも強く輝き始める。明日の昼過ぎ、オンラインの本読みを

終えたら出発だ。

6/16(木)神より仏

2022年6月16日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
IMG_1150.jpg
↑目を凝らすと台座に落書きが見える。罰当たりな奴らよ。

学校が終わったところで、今日が自由であることに気づいた。
皆さん、昨日のTea Danceで燃え尽きているので、Albanyに行っても
会える人が少ない。特筆すべき会議も無い。
そこで、繰り出すことにした。

前から行きたかった聖マリー教会バタシーに向かう。
ここは極めてマイナーな場所だが、ウィリアム・ブレイクが
結婚式を挙げた場所だ。アクセスが極めて悪いから、
こうして大きな時間がとれないと訪ねることができない。
チャンスだと思ったのだ。

徒歩→バス→電車→徒歩という工程は面白かった。
東京都心から芝浦の方に向かう感じなのだ。
工場や倉庫が増え、テムズ川を挟んで対岸はお金持ちゾーンを
思わせるが、やはり南側はハングリーだ。

駅を降り、小ぶりかつワイルドな商店街を抜けた川沿いに
目的の教会はあった。結婚式の前後に、ブレイクもこの川面を
眺めたのだと思うと良い気持ちだ。言い忘れたが、今日から
気温は急上昇に、ロンドンにも夏が来た。

すっかり良い気持ちになって教会に入ろうとしたところ、
扉が閉まっている。側面に入り口があるのだろうと回り込んだが
そんなものはどこにもない。ネットで見たら18:00まで開いている
と書いてあったのに。教会の半地下にある幼稚園を覗いたら、
保母さんが出てきて優しく教えてくれた。
最近は昼で閉めるようになっていて、今日の営業はおしまい・・・。
別組織なので、私はカギを持っていなくてごめんなさい。

せっかく来たのに中に入れなかった。
でもまあ、道を付けたので次は早い。
自分なりに安く、早く来られる方法も発見できた。
ナビもまた当てにならないのがイギリスだ。

そう思って歩き出した。次の予定はウィグモアホールで、
かなり離れている。夏到来で汗だくになるので、途中からバスを
利用することにした。バタシー公園の反対側に、都合の良い
バス停がある。スタスタと公演を抜けるべく歩いていると、
八角堂を発見した。生まれたばかりの釈尊が天を指差し、
「天王天下・・・」とやっている黄金の像も見えた。

曹洞宗系の高校を卒業しているので、親しみを感じる。
かつて我が演劇部は、いつも仏像のある講堂で稽古していたのだ。
テムズ川沿いにあるこのお堂は日本人の手によるものらしく、
なんちゃって、でなく本モノだった。材料の調達から、
こちらの大工さんとの共同作業まで、さぞ苦労したろうと思う。

そしてよく見ると、神をも恐れぬ落書きがあった。
まことに罰当たりな話だが、台座にアルファベットが書かれていた。
新鮮で、ちょっと面白いと思ってしまった。
神様は見られなかったが、立派な仏様を見ることができた。

ウィグモアでは、今日からイザベル・ファウストによる
ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集が始まった。
3日通って全部聴くつもりだ。日本にいたらこんなスケジュールは
絶対無理なので、これも海外研修の贅沢だ。
人が燃焼し尽くすのにドキュメント的に立ち会う苦労が良いのだ。

『ジョン・シルバー』シリーズを連続でやった時に立ち会ってくれた
唐ゼミ☆のお客さんへの感謝も思い出す。

それにしても、先週のサー・シフの協奏曲全集といい、
本当はベートーヴェン生誕250周年だった2020年に公演される
予定だったのではないかと思う。ほとんどの人がマスクをしない
ロンドンにも、パンデミックの残滓がある。

6/15(水)すべてティー・ダンスに通じる

2022年6月15日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
IMG_1098.jpg
↑15台以上のポットが使われて壮観だった。

昨日は、「ティー・ダンス」という催しが行われた。
会場は、ゴールドスミス・コミュニティ・センター。
キャットフォードという街にある地区センターだ。

会場に着くと、すでに昨日からエンテレキー・アーツのメンバーを中心に
仕込みが行われていて、パーティーの様相が整えられていた。
「Rooted 21 Century Tea Dance」というのが会の正式名称で
イス・机の他に「Rood」→植物にまつわる飾り付けがなされている。
もちろん、音楽演奏や合唱、朗読をするための設え、
お茶やケーキを食べるための準備もなされていた。

いつもWS「Meet Me」「Moving Day」に参加している
シニアたちがお洒落して集まり、会の中で発表する合唱の仕上げをした。
その中の何人は、一人で詩の朗読に挑戦し、別の男性は得意の
『ダニー・ボーイ』を独唱するようだ。

そして、別の曜日にやっていて、私がまだ加わったことのない
障害者向けWSのメンバーも集まってきた。

クリスという、歌も演奏も司会もできる万能パーソナリティの
仕切りで会が始まった。恰好は女性用のワンピースで、
「彼」と「彼女」、どっちで呼べば良いか訊いたら、
どっちでも良いということだった。
前回はWS中に会って、その時は男性の恰好をしていたけど、
今日が本領発揮だそうである。英語も性別も難しいね、
と笑いながら話した。

参加者とスタッフ、併せて100人くらいの大パーティーだった。
前後に、お迎えや、タクシーでの送りの管理もあるから、
エンテレキーの中心スタッフ、ジャスミンやロクサーヌは
大変そうだった。こちらは、英語と会への不慣れの二重苦を乗り越え、
ちょっとずつ手伝うことができた。イベントのアテンドは、
どこの地域に行っても似たようなものだから、勘は働く。

ああ、このために日ごろのWSがあったのだなと合点がいった。
飾り付けに使われたバナーなんかも、美術の時間に創作されたものだし、
歌も、この時のために練習されたものだった。

美術には植物を使ったり、楽しい歌、悲しい歌、思い出の歌を
取り混ぜたり、会の趣旨に合うよう、日常的に行われてきたWSが緻密に
計算されていたことが分かった。会場デザイン、進行台本づくり、
すべてアーティストの仕事だ。こちらの芸術家は、自分たちの職能が
社会に向けて広範に役立つことを知っていると思った。

美術館やオペラハウスを頂点とするような、
芸術分野の中のヒエラルキーからも自由な感じがした。
人間や社会のためのものなので、どっちでもいいじゃん、
という物腰だった。これは強い。

恐るべき量のチョコレートケーキ、レモンのパウンドケーキ、
生クリームとジャムを塗ったスコーンが供され、皆が一斉に食べてゆく
様子は壮観だった。日本だと、餅つき大会みたいな盛り上がりだった。

半年に一度行われるわけだから、次の会は12月だろう。
その時はAlbanyでやるようだ。今回のことで全体像を理解できたので、
これからの日々行われるWSの意味を噛み締めながら参加してゆける。
長期スパンで研修できるありがたさを実感した。

それにしても、クリスの仕切りはすばらしかった。
そして、もっともすべての人を狂騒に巻き込んだ最強コンテンツは
シヴァ先生による「ジャマイカ・スカ」だった。カリブ海の文化は強い。
Linton Kwesi Johnsonがレゲエを武器とした理由を実感した。