9/28(水)極寒、リバーサイドの野外劇

2022年9月28日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑野外劇のカーテンコール。普段は加害者の側に回る私だが、
やっと終わったと拍手しながらかなり嬉しかった

昨日は午前中からAlbanyに行った。
再来月のパーティーに備えて、シニアたちは二班に分かれて
準備している。美術製作がしたい人たちは、飾り付けの造花を作る。
アーティストによるお手本を参考に量産していく。

もう片方のチームは、出し物の合唱の練習をしている。
『ブルーベリーヒル』『スカボローフェア』
『ワンダフルワールド』に加え、みんなで作詞して先生が曲を
振ったもう一曲をやる。昨日は3つの既存曲の練習。
パート分けしてハモるのだが、自分は高い方に配属されている。

『スカボローフェア』を歌いながら夏に二度行ったエジンバラを
思い出した。電車の窓から見えたスコットランドの海沿いの景色。
夏だけど寒そうだったあの風景が、サイモン&ガーファンクルの
描いた世界だと思う。

『ワンダフルワールド』の2番を歌っていると、自分の子どもが
生まれて2歳くらいまでを思い出す。
それなりに長く生きて来たので、歌詞が沁みるようになった。

その後はデスクワークをして、夜に野外劇を観に行った。
テムズ川沿いのベニューで、ナショナルシアターのバックアップによる
新作劇の発表があった。

18世紀、産業革命前夜に発見された不思議な牡蠣をめぐる
エピソードに、現在のジャーナリストが北極の様子を
ライブストリーミングする話が絡む、というトリッキーな物語だった。
要するに、気候変動と環境破壊を意識して創作されたストーリーだ。

俳優のレベルが高く、スタッフワークも緊密で唸ったが、
野外に必要なワイルドさには乏しかった。
明らかに膨大なコストがかかっている。

舞台は貧乏臭くてはいけないが、
あまりにテクノロジーを駆使しすぎると、
もはや劇場の中でやれば良いのではないかということになる。
そういうステージだった。

それから、昨晩は寒すぎた。
気温は10度だったのである。もっとマックスの厚着で
行けば良かったと後悔しながら観劇し、1時間50分を震えながら観た。
直前に近所のベトナム料理屋で熱々のフォーを食べたのが幸いして、
風邪をひくことはなさそうだ。一方で、隣の席に座ったおじさんは、
なぜかハーフパンツに半袖Tシャツにも関わらず余裕そうだった。

英国ではこういう人をよく見かける。
極寒なのに半袖短パン、バーの屋外席でギンギンに冷えた
ビールジョッキをあおっていたりする。

多様性という言葉を実感する。彼らは同じ人間に違いないが、
同じ人間には思えない。体感温度にも、かなり個人差があるらしい。

役者は役によって露出度高めだったり、
ずっと倒れている役の人もいて心配になってしまった。
かつて、極寒の中で自分が公演してきた様々な作品を思い出した。

9/27(火)Croydonの教会から

2022年9月27日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑ガラの悪い街ながら壮麗な教会がある。コンサート直前の風景。

イギリス国教会の様式


Croydonという街に初めてやってきた。

といってもロンドン市内、Albanyから徒歩と電車を合わせて

南に小一時間行ったところにある街。


ああ、また一つワイルドな場所に来た。

スリや盗難に遭わないように。ケンカにも巻き込まれないように。

けれども、見るべきものは見たいのでジロジロと周囲を睨め回しながら

歩いてしまう。


目的は9月頭に都心で聴いた合唱集団The Sixteenの公演。

彼らほどの実力者であれば、同じプログラムでも何度も

聴きたくなる。むしろ、違う会場の建築を観て、

そのアコースティックをいかに彼らのものにするのか、

愉しみは膨らむ。それにしても、なかなかの土地柄・・・


こういう新たな土地、しかも経済力や治安が良くなさそうな場所を

訪れるのにも慣れてきた。パウンドランド(英国の100円均一)や

Icelandという量販店スーパーを発見したら、その土地の平均所得は

推して知るべし、ということも分かってきた。


自然に、財布やケータイを仕舞う場所を組み替える。

後ろポケットに入れていようものなら、

ヒョイとつままれてしまうこともあるからだ。



先週末、日曜日は面白かった。

ピーター・フィッシャーの出演するフィルハーモニア管弦楽団が

マーラー1番を演奏するので、この曲が最も好きだというダイアンを

連れて行った。指揮者のサントゥ・マティウス・ロウヴァリは美音で、

精妙な優雅な音楽をやる。


主題の変遷がよくわかり、綺麗な演奏だった。

これがロンドン交響楽団ならもっと躁鬱の激しくなるけれど、

彼らの演奏は温かみがあって、高齢のダイアンを招くに

もってこいだった。


ピーターがお友達割引を駆使して、特等席を格安で用意してくれた。

私たちが座った席の周りには彼の他のお友達もいて、

終演後はその中のご夫妻のご自宅に伺った。


我ながらちゃっかりしたものだが、

ダイアンは持ち前の社交性を発揮し、サウスバンク・センターと

ナショナル・シアターから徒歩5分のところにあるその家を

「ステキな部屋だ!」絶賛しながら、私と一緒にお呼ばれした。


帰り際になって、その家のご主人に、

「昔、日本人の演出家が演出した舞台を観たことがある」

と言われた。アラン・リックマンが出ていた、とも。


ということは、蜷川さんが演出し、清水邦夫さんが書いた

『タンゴ・冬の終わりに』の英語版『Tango at the end of Winter』

に違いなかった。


1991年。プロデューサーの中根公夫さんは勝負をかけた。

それまで、十八番である『王女メディア』『NINAGAWAマクベス』

に向けられた海外での評価は高かったけれど、いずれも各地で

短期に公演したイベント的な公演だった。


その点、『Tango〜』は座組を海外でつくり「興行」を目指した。

日本の演劇人が挑んだ大ジャンプだった。

会場は、ウエストエンドの中心にあるピカデリー・シアター。


結果的には、勝ったとは言えない公演だった。


初日直前にチケット販売を行っていた会社が倒産して

売れていた入場料が全く入って来なくなった。

(それでも中根さんは、わずか当日券が売れる収入や助成金を

駆使し、赤字と闘いながら予定していた公演を全うした)


演目も、西洋のリアリズム演劇の延長にある戯曲をなぜ持ってきたのか

と言われたらしい。期待された"日本"の要素は、確かに弱かった。


けれど、観劇したその人は、面白かったので二度観に行ったそうだ。

これには嬉しくなった。

帰国したら、中根さんに伝えに行きたい。

9/23(金)店には決して近づけるな

2022年9月23日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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Albanyに通うこと8か月が経とうとしている。

しかし、まだまだ知らないことは多い。

通い慣れた企画ですら、知らない計画が進行中ということもある。

これが日本語でのやりとりならば、注意して聴いていなくても

会話が自然と耳に入ってくる。「何それ?」と会話に割り込み、

情報を得ることができる。しかし、やはり英語は難しい。


そんな状態ではあるが、先日、

シニアたちを連れて都心に出かけると聞いた。

尋ねれば、数ヶ月に一度そういう外出をしているらしい。

連れて行ってよと頼んだら、ウェルカムと言われた。


結果、昨日は学校をサボって都心に出た。

朝10時にヴィクトリア&アルバートミュージアムに集合。

英国の黄金時代を築いた女王と旦那さんが世界から収集した品々を

展示した施設だ。南はアフリカ、東は中国まで、"帝国"という言葉を

強く実感させる展示品の数々。


10時に行ってみるとスタッフが集まっていた。

シニアたちはタクシーでやってくる。

今現在タクシーがどこにいるかはケータイでモニタリングできる。

それを眺めながら、導線を確認する。


このスロープを使おう、とか。

荷物置き場はここで、学芸員に話を聞く場所はここ。

最後に集合して軽食を取る場所はここ、という具合だ。

運営にあたるエンテレキー・アーツの面々は、サンドイッチや

スナック、フルーツを持参している。まことに余念がない。


今日の目当ては、常設展ではなく、

アフリカ・ファッションをテーマにした特別展だ。

コンテンポラリーにアフリカ色を反映したモードを展示していて、

華やかだった。その上で、常設展のアフリカ部門も見てね、

というコンセプトなのだが、今回は時間を限っているために、

シニアたちはひたすら特別展のみを見る。


果たして、タクシーから降り立ったシニアたちは輝いていた。

ルイシャム地区は移民の街。アフリカやカリブからやってきた婦人たち

なので、アフリカ・ファッションを地でいっているのだ。


展示場では一つ一つを食い入るように眺め、記念撮影をしてゆく。

とにかくじっくりと見て、キャーキャー盛り上がっている。

こういう性質の展覧会だから、おそらくファッションを学んでいる

学生たちが大勢来ていて、彼らもなかなかの洒落者揃いだったけど、

恰好も振る舞いも、うちの組は度外れに派手で周囲を圧倒していた。


ツアー開始前のスタッフ会議でお互いに確認しあったのは、

彼らをミュージアムショップに絶対に近づけてはならない、

ということだった。それだけで2時間過ぎてしまう。

そういうわけでショップには目もくれさせず、目的地まで案内した。


一通り終わった後は軽食を取り、迎えに来たタクシーにみんなで

乗り込み、にこやかに帰っていた。なかなかの遠足である。

9/22(木)鷹野さんに会う

2022年9月22日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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昨日は日本からやってきた鷹野梨恵子さんにグローブ座で会った。

優れた女優である鷹野さんは、
今やGMBH(ゲーエムベーハー)https://www.gmbh0802.com/という集団を
立ち上げ、運営もしている。

ちょっと前にプロデュースしたイエローヘルメッツの『ヴェニスの商人』
を終えたばかりだが、疲労も感じさせずイギリスにやってきて、
シェイクスピア関係の場所を巡り歩いたらしい。

グローブ座のガイドツアーと『ヘンリー8世』を一緒に観た。

鷹野さんを初めて認識したのは彼女がまだ無名塾に在籍していた頃、
当時、よく唐ゼミ☆に出演してくれていた虎玉大介くんが
他の芝居に出るというので観に行ったら、そこに鷹野さんも出演していた。

物語の設定は昭和初期。戦争に向かっていく日本を生きた
若い芸術家たちを描いた話だったと思う。
あだっぽい踊り子役を彼女は演じていた。

持ち前の身体能力を活かしてピョンピョンと跳ねるように
舞台に現れたのが、とても目を惹いた。

それから、他の男の役者たちとせりふを応酬した後、
「あたし、ヌードはしないわよ」と言ったのをよく憶えている。
言葉のインパクトもさることながら、その見栄の切り方、
表情はせりふを凌ぐ押し出しの強さだった。

いかにも勝ち気そうな感じがしたけれど、
3年程前に再会した普段の鷹野さんはおっとりした感じで、
そのギャップに驚いた。しかし、やはり強い。

無名塾に入る前、ドイツでコンテンポラリーダンスを学ぶために
一年間留学した経験もあるという。
そんな風に国際経験もあり、踊り込んでいるから体力も違う。

渡英の翌日にはストラトフォード・アポン・エイボンに行き、
さらに翌日にはロンドン塔を巡りグローブ座に来て、二本の劇の合間に
ガイドツアーにも参加していた。

自分はといえば、渡英翌日はビザのカードを郵便局に取りに行った後は
頭痛がひどい上に買い物の仕方もよくわからなくて、ビクビクしながら
ホテルで寝ていた。実感として三日間は動けなかった。

それに比べると、イギリスでスイスイとでフル稼働し、
1週間くらいで日本に戻っていく鷹野さんは強靭だ。
研修を終えて日本に帰り、再訪したとしても自分には真似できないと思う。

シェイクスピアについての全てにキラキラした視線を送っていて、
この歴史上もっとも有名なイギリス人に、どれだけ彼女が
突き動かされているかが分かった。

それにしても、『ヘンリー8世』こそは渡英以来観てきた
シェイクスピアの中で、一番の自分のお気に入りである。

エリザベス1世の誕生シーンで締め括られるあの劇を、
プラチナムジュビリーの時に観、お葬式の周辺で観たことになる。
出生の場面では場内から大きな拍手が送られた。

幕開け直後だった6月よりも出演者が好き放題に演じていた。
細部に遊びがあって、熱演する場面の燃焼も激しく、両者のメリハリが
効いていた。バカな下ネタの数々を大胆に繰り出す中に、
それぞれの役柄の悲哀を滲ませていた。

2回目だし、作品をよく知っている鷹野さんにも教わり、
どこをカットし、何を足しているのかもよく分かる。
自立した台本としては、他に優れたものはいくつもある。
ここまで押し上げたのは現場の力だとつくづく思う。
やっぱり昨日も面白かった。

↓エリザベス1世(左)を黒人の女優が演じる。技ありのアイディア
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9/21(水)安保さんが亡くなった日

2022年9月21日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑2011年のリサイタルより。ステージ上でいつも張り詰める唐さんも、
安保さんが横にいれば安心の表情


昨日、9/20は安保由夫さんが亡くなった日だった。
改めて思い出してみれば、2015年のこと。
もう七年も経ってしまったのかと驚く。

ほんとうに、ちょっと前まで安保さんの肉声を聞いていた
ような気がするけれども、あの時はまだ、今度6歳になる長男が
生まれる前だったから、確かに七年だ。

安保さんが亡くなった日、セレモニーはやらないと聞いたけれど、
居ても立っても居られなくて、高円寺駅南の火葬場に押しかけた。
唐組や梁山泊のメンバーはもちろん、状況劇場で同級生的な
仲間だった十貫寺梅軒さんや小林薫さんも来ていた。
式はないけれど、それに匹敵する人の輪がそこにあって、
僕らも末席に加えてもらった。

あれから、『あれからのジョン・シルバー』や『唐版 風の又三郎』を
二度ずつやった。その度に安保さんを思い出してきた。

ああ、生きていてくれたらなあ、と思う。
紅テント在籍中、卒業後も安保さんが手がけた歌で、
まだまだ知られていない劇中歌があると思う。

『音版唐組(CDで復刻し『状況劇場劇中歌集』)』に
収められたのはいずれもそれぞれの演目中、メインに歌われた唄。
けれど、ちょっとしたコミックソングや、役者たちが群れなして
歌うような記録に残りづらい劇中歌の中にも、安保さんの傑作はある。

ちょうど、劇団員たちとオンラインで『ベンガルの虎』を研究している。
10月後半から唐ゼミ☆WSも同じ演目を読むことにした。

あの中でヒロインが歌う『雑巾の唄』はもちろん良い。
でも、女性劇団員たちが唐行きさんに扮して合唱する
『鬼と閻魔』も傑作だ。

本当に、唐さんを追いかける自分たちにとって、
安保さんが逝ってしまった喪失感は大きい。
もっともっと色んな話と歌を聴きたかった。

安保さんがいた新宿のナジャに行くと、
酒が得意でない自分のために、安保さんは薄い水割りと
食べる物を作ってくれた。長芋を輪切りにしてバター醤油で炒めたもの、
日本らしくもちもちの麺でつくった特性のナポリタン・・・

今こそああいうものが食べたい。
安保さんはちょっとしたものを仕立てる料理上手でもあった。

9/20(火)まるでお正月のように

2022年9月20日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑チェーン店ではないこのコンビニ。ここは開いているはずだと思ったが


昨日はエリザベス女王の葬儀だった。
朝から日本とのZoom会議をしたが、その後は予定が無くなった。
語学学校も研修先も劇場もどこも閉まっている。
本来はケンブリッジまでコンサートを聴きに行く予定だったが、
それも1週間前には中止の連絡が来ていた。

日用品の買い物があったから、家を出て近所を歩いた。
道すがら、あの店は閉まっている、この店も閉まっている、
しかし、やっている店もある。2割程度の稼働だった。

メジャーなスーパーは全部閉まっている。
チェーン店も大概閉まっている。
ロンドンには日本のコンビニにあたる24時間営業の店は稀で、
そのかわり雑貨屋みたいなものは無数にある。
これらもほとんど休みだった。

小さい頃のお正月を思い出した。
当時は昭和の終わりで、現在のように元旦から、
あるいは二日から店が開いているということもなかった。
三が日という言葉が生きていた。
おせち料理やお餅は、それら店舗が閉まっても食事が絶えないための
保存食だった。

小学校に入った頃からコンビニができ、
それに引きずられるようにスーパーも開き始めた。

だから学校に上がる前の、あの静だったお正月を思い出した。
予定から予定を渡り歩いている時の方が、熱心に音楽を聴こうとするし、
本だって読もうとする。今日は早朝のミーティングで燃焼してしまって
なんだか能率の悪い日になってしまった。

洗濯はした。
ロンドンは寒く、もう半袖や薄手のジャケットに活躍の機会はない。
コンパクトに畳んで、近く、日本に送るための準備を始めている。
届くのに数ヶ月かかる安い船便で送る予定。

残り三ヶ月半。100日ちょっとだ。

9/19(月)『黒いチューリップ』本読みWS 第7回レポート(中野)

2022年9月19日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑鉢にはノブコ(Nobuko)の頭文字であるNの文字!
咲いてすぐ散る花の仕掛けは、当時劇団にいた安達くんが開発し、
仕掛けを実験しては盛り上がった記憶があります。


昨日は『黒いチューリップ』本読みの第7回。
2幕の終わりから、3幕冒頭をやりました。

前回に引き続き問題になっているのは、
姉ノブコが獄中からケイコに送ってきた球根入りの鉢です。
エコーがこれに触れたところ、成長は加速し、
もう少しで花開きそうなつぼみまで急激に変化していたことが判明。
これを、花にとって心地よくもとあった鉢に戻し、
いま少し見守れば見事開花、という寸前まで来ます。

途中、エコーを伝説のパチプロと思い込む泡小路の邪魔も入りますが、
彼のエコーへの一途な想いは簡単に黙殺されるギャグも挿入される。

球根が鉢に還ると俄然、身を乗り出してくるのが春太です。
彼は花屋のプロとして、黒いチューリップの生育に
病みついた者として、花弁の色が黒へと向かっていることを確認。
さらに、それが暗闇の中だけでなく、立派に世間(陽の当たる世界)
でも生きていかれるかどうかをテストします。

それこそ、この芝居の全ての場面に底流として流れる善福寺川の
川の水を注射器で含ませることで、黒い花を試そうとする。

このシーンの春太とケイコの問答は、
黒いチューリップと姉ノブコの存在と特質を重ねて見事に展開します。
同じ花を相手にしてそれぞれのせりふを言いながら、
ノブコを想うケイコ、ノブコそっちのけで花に執着する春太を
鮮やかに描き出す。

結局、ノブコの花はシャバの水には耐えられず、
その花びらを散らします。そして、花を試す春太の強行な姿勢を
恨んだケイコは、かねて練習していた毒入りキッスを
春太に食らわせようとする。

が、その時、練習中に誤って虫歯の穴に入ってしまっていた
毒薬が口の中に踊り出し、ケイコはこれを飲んでしまう。
春太は口から吐き出された一粒、自分を襲おうとした丸薬を
すぐにの農薬と見抜きます。

ケイコの遺した書き置きにより、
エコーはケイコの解毒のための景品買いの婆あサキを
訪ねる運命に直面します。これが2幕の終わり。

ここまで、ずっとタクシー運転手の菊地も刑事の泡小路も
舞台におり、しかも、80〜100人からなる警察学校の生徒たちが
それぞれに抱えたチューリップの鉢、すべての花弁が散る
というト書きは、唐さんが現場に託した挑戦状といえる
ト書きが炸裂します。

変わって3幕。
おっかなびっくりパチンコ店「黒いチューリップ」の裏手を
訪ねたエコーとサワヤカ(エコーが加勢として呼んだ)は、
サキをボスに頂く婆あの群れと対決します。

『ロミオとジュリエット(小田島訳)』をパロディしながら
このシーンは展開し、エコーはサキに課されたロミオの
せりふを見事に言ってのけ、解毒の薬の調達まで、一歩前進。

・・・というところまでやって昨日は終わりました。
いつも3幕ものでは、2幕の終わりが緊迫し、時に血を見るなど
苛烈なシーンが唐作品の持ち味ですが、この芝居は特別です。

基本的には非常にシリアスなのですが、
設定の中にはかなり間抜けというか、バカバカしく、
どこまでいってものどかななのです。

心に波風を立てず、ショッキングな要素を控え目にして、
安心して見られるのがこの演目の魅力。それを象徴するシーンの
連続です。その中に、球根の仕込まれた鉢をテストする場面では
唐さんらしく「引きこもり」の心情を描写しています。

次週は、サキがエコーの体を狙って襲い掛かるところから。
ケイコが復活するまで、物語の本質からは脱線し、
縦横に展開する唐さんのお笑い路線を楽しめる場面が連続します。

9/16(金)これは掘り出し物だ!〜メリナ・メルクーリ歌謡曲集

2022年9月16日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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ダウンロードが隆盛だ。CDを売る店がめっきり少なくなった。

ロンドンでは、私がCDを買う店は2軒に集約されている。
都心のトットナム・コートロード駅近くにあるフォイルズという本屋と
ノッティングヒルにあるClassical Music Exchangeという中古屋だ。
最後の砦として頑張っているこれらの品揃えは良い。
が、たった2軒は淋しい。

フォイルズのジャズコーナーのおじさんと話した際、
彼は元々独立した店舗を経営していたのだと教えてくれた。
それが立ち行かなくなり、この大型書店が中に引き込んでくれたそうだ。
ここからソーホーは近く、有名なジャズクラブがいくらもある。
CDへの需要があると思うのだが、時代の波には勝てない。


最近、遠出した際、お土産物売り場でCDを売っているのを発見した。
懐メロというか歌謡曲というか、そういう類の品揃え。
日本でいうと、高速道路のSAで売っている内容のような感じだった。
そして、ひどく埃をかぶっている。

興味を持ってしげしげと見ていたら、上のCDが1,000円くらいで
売っているのを発見して即買いした。

メリナ・メルクーリはギリシャの国民的女優だ。

私が初めて彼女を認識したのは、蜷川さんの『王女メディア』の
映像を観た高校時代。あの演目をギリシャの古代劇場で上演した
ことにより蜷川さんは世界で頭角をあらわしたのだが、その時の
ギリシャの文化大臣がメルクーリだった。

カーテンコールの映像。
かつては自分も演じた役を、日本人の平幹二朗が演じているのを
涙にくれながら称賛していた。文化大臣だから前列のVIP席で観ていた
彼女は、観客の拍手に応えるステージ上の平さんの前に進み、
何か言いながらキスをしている。

そのキスが、なにやら頭突きみたいな迫力なのだ。
パッチギと言った方が良いくらいの獰猛さ。
興奮して平さんの顔面にゴンゴンやっているようにしか見えない。

あれは印象に残った。
さすがギリシャ悲劇のヒロインをことごとく演じてきただけあると
感心した。ゴツい魅力なのだ。

次に彼女を意識したのは、唐さんとのやりとりの中だった。

唐さんが20代の頃に観て虜になった映画に『Phaedra』という
ギリシャ悲劇を現代化したものがある。邦題は『死んでもいい』。
彼女はその主演なのだ。
※DVDは無いけれど、下記アドレスにフルアップされている
https://www.youtube.com/watch?v=JQVbuCbpZ_c

監督は彼女の夫のジュールズ・ダッシン。
二人の仕事としては『Never On Sunday』の方が有名だ。
邦題は『日曜はダメよ』(見事な翻訳!)。

唐さんは『死んでもいい』の主題曲のメロディが好きで、
その影響は『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』や
『続ジョン・シルバー』『吸血姫』にあらわれている。

ここから先は自分の想像だが。
メルクーリの歌声を聴き、駆け出しの唐さんは彼女の声質を、
隣にいる李さんに重ね合わせていたのではないかと思う。
低音域がよく出るところ、それがちょっとかすれるようなところ、
それでいて音域広く高音まで出るところが、似ている。

ひょっとしたら、野心に燃える唐さんは、
メリナ・メルクーリのような魅力で李さんを押し出していこうと
恰好の好例として捉えたのかもしれない。

・・・というような様々な思いが10秒くらいで過ぎり、CDを即買い。
ギリシャでテレビに出演した際に歌っていた主題歌を集めたもの。

なぜこんなものがお土産物屋の軒先にあったのか、それは謎だ。

9/15(木)新首相は地元民

2022年9月15日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑ゴールデンチッピーのオーナー・クリスさん。
若い時の苦労、商売人としての重厚さが笑顔の奥に滲み出ている。

エリザベス女王の死で霞んでしまったが、
先週は英国に新しい首相が誕生した。リズ・トラス首相。

滞在していた城に新首相を迎えて任命した後、
2日して女王は亡くなった。だから、首相の初の大仕事は
旧国王の葬儀と、新国王の戴冠とを国家代表として仕切り、
立ち会っていくことになる。

外交的に彼女は一気に顔が売れるだろうけれど、
これから女王を頂いていたいくつかの国で
英国王室との距離感をめぐって様々な動きが出てくるだろうから、
これらに対応するのは骨が折れるだろう。

旧大英帝国領の国々にとっては、
ここで動かなければズルズルいってしまうと必死になるだろうし、
英国内の国民だって、あの女王だから許せていた予算の捻出を
今後も維持するモチベーションがあるかどうか。

宮殿7つは多すぎるよ、と英国人の知り合いが言っていた。
日本のロイヤルはそれに比べるとだいぶ質素だよ、と教えた。

マーガレット・サッチャー元首相は現職時、
女性として女王よりも前に出過ぎないように気を遣ったらしい。

それはそうだろう。
主演女優と同じ色の衣裳を二番手が着てはいけない。
若手女優が主演である場合、クレジットの最後に来るような大物女優と
かぶってもいけない。まして、初めて女性として首相になったのだから
先例もなく、大変に気を遣ったと思う。

英国3人目の女性宰相はこの悩みから解放されたとも言える。

トラス首相は地元の人だそうだ。
ホストマザーのダイアンがどこからか彼女の家がグリニッジにあると
教えてくれた。そこでゴールデン・チッピーに行った際にオーナーの
クリスさんに訊いたのだ。
こういうネタは、地元の繁盛店の店主に訊くのが一番。

結果、やはりクリスさんの店の裏手の丘を上がったところに
大きな家があるそうだ。

クリスさんの店は地域ナンバーワン フィッシュ&チップスの呼び声高い。彼は若い時にトルコからやってきて、
働きに働いてこの繁盛店をつくり上げたそうだ。

いつもひっきりなしに多くのお客が出入りするから、
自然とこの界隈の情報は彼に集まる。だからなんでもよく知っていて
「あの辺だ」と指差しながら教えてくれた。

着任後すぐに、トラス首相には若いボーイフレンドがいるという話題が
メディアに抜かれた。夫とは別に、二年間に渡って付き合ってきた彼が
いるらしい。

君主の死がこのニュースを覆ってしまったが、
例え女王の話題がなかったとしても、こちらでは、例えば首相を
辞任させられたりする程のニュースではなさそうだ。

9/14(水)用意していた!

2022年9月14日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑テイト・モダンの前に掲げられたバナー

「用意していた!」
これは、唐さんの作品の中でも80年代の傑作『ビニールの城』二幕に
出てくるせりふだ。相棒である人形「夕顔」を探し続けていた
腹話術師「朝顔」の前に、水槽に封じられた夕顔が現れる。
水に潜って助けなければ!

すると朝顔はポケットから水中眼鏡と水泳キャップを取り出す。
こういう事態を予測し、彼はあらかじめ完璧な用意をしていたのだ。
先のせりふはここで出てくる。なぜこんな周到な準備ができるのか。

もちろん、芝居だからだ。すべて唐さんの思うまま。

しかし、このせりふを言うことで、劇の進行とともに緊迫感に
包まれていた客席に笑いが起きる。
唐さんの、実にズルい手である。


目下、ロンドンはエリザベス女王に染まっている。
至るところに彼女の写真を見る。
娘時代、王位を継いだ頃、貫禄に満ちてきた頃、皆が見慣れた晩年。

それにしても、本当に、驚くべきスピードで、
これらの遺影はあっという間にロンドン中に溢れた。
店先で、バスの停留所で、地下鉄の駅で・・・。

もっとも良いなと思ったのは、テムズ川沿いのテイト・モダンだ。
現代美術を専門に扱うこのギャラリーのバナーも、
いつの間にか、あっという間に女王になっていた。

亡くなってからデザインし、確認し、印刷したのでは
絶対に間に合わない速さで流布したのを見るだに、この国がいかに
女王の死に備えていたのか体感することになった。

不謹慎だから誰も表立っては言わないけれど、
ちゃんと用意してきたのだ。いつの頃からかは分からない。
けれど、実に鮮やかな手口だと思った。

葬儀が9月19日(月)に決まり、その日に予約していたライブは
キャンセルになった。

9/13(火)夏の終わり

2022年9月13日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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写真では多く見えるけど、イスの数は300くらい。大きなホールより
かなり少ないので、いつも売り切れる。


朝起きたら、霧がかかっていた。
すっかり忘れていたが、確かに春までのロンドンはこんな感じだった。
必然、やや肌寒い。

こちらでは先週の木曜に女王が亡くなり、
興行が停止するかと思いきや、予定通り行われるものもある。
自分が予約していたものはたまたまそれにあたり、
金土日と夜は何かを観て過ごした。

いずれも音楽がらみだったから、冒頭はGod Save The Kingを捧げる
ところからは始まる。同じ曲のタイトルがQueenからKingに変わった。

土曜に行ったペッカムは、
治安の悪い南ロンドンの中でも札付きの一つだ。
ブリストン、ニュークロス、デトフォード、ルイシャム・・・
ペッカムでは語学学校の友人がケータイを奪われた。
バス停のベンチに腰掛けてスマホを操作していたところ、
ヒョイと持ち上げて逃走されたのだ。

そういう場所の、駅前のビルでフィルハーモニア管弦楽団の
コンサートは行われた。映画館とかゲームセンター、ビアガーデンが
雑居するビルの立体駐車場がライブ会場として使われており、
そこでラフマニノフのピアノ協奏曲2番をやった。

この場所とこのオケの組み合わせは3回目だ。
この夏に行われた演奏会をすべて聴いた。
とにかく会場が好きなのだ。手の届きそうな天井により
増幅された轟音、隣近所で飲む若者たちの声、脇を走る国鉄の
レールの軋み、そういったものがガンガンに闘うのだ。

いつも演目は1曲か2曲で、1時間くらいで終わった。
それでいて入場料は一律4,000円。

都心の立派なホールで2時間半の公演を1,800円くらいの席で
聴くより割高な感じがする。けれど、好きなのだ。
演奏スペース近くの吹き抜けの部分はカーテンで覆っているけれど、
客席半ばくらいからは外の景色とコンクリートの隙間から沢山
のぞいている。なにせ駐車場なのだ。

冷暖房なしだから、夏限定の会場だ。
ずいぶん愉しませてもらったけれど、今年はこれでおしまい。
来年またやるかどうか分からないけれど、やったとしても
自分はいない。今後イギリスに来ることがあっても、
まずは仕事だろうから最後かもしれない。
だから、3回とも行った。

メインシーズンが帰ってくると、こういう遊びの公演も終わる。

9/9(金)200本達成と帰国への心配、女王の死

2022年9月 9日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑公演するはずだった図書館の受付前に置かれた女王の写真と記帳セット

一昨日にチェーホフの『かもめ』を観て、
これまで鑑賞してきた催し物数が200本になった。
昨日はスタンダップコメディのコンテストを観たので、現在は201本。

今週から、イギリスでは新しい年度が始まった。
だから、各劇場でも次々と新シーズの演目が開幕している。
観たいものがたくさんあるので、まだまだ増えそうだ。

試しに確認してみたら、現在、336日の滞在予定のうち、221日目だ。

鑑賞数300本は無理だろうけれど、それに迫る数字にはなると思う。
あらゆる物価が高いこの国で、なぜかチケットは安い。
正確に言うと、ほとんどの催しが安い席を用意してくれている。
語学学校にも通っているので、学割もしばしば使える。
これには助かっている。

ところで、帰りの飛行機をどうしたら良いか思案している。
ルールとしては、45日前に海外研修の事務局に連絡して航空券を
手配してもらうのが基本なのだが、どうしたものか。

と言うのも、今回の研修期間はビザによって決定した。
文化庁的には350日まで滞在が許されたのだが、
取得できたビザの上限が335日だったので、
それでイギリスにいられる期間が決まった。
残りの1日は飛行機の上にいる。それで336日。

現在のところ今年の大晦日にヒースロー空港を発ち、
元旦に羽田空港に着くつもりだ。
が、何かの拍子に、例えば大雪などで
イギリスを発てなかったとしたらどうなるのだろうか。

ビザが切れているのに滞在し続け、これが問題化すると、
今後10年はイギリスに入れなくなるらしい。
そうなれば、せっかくつくった人間関係や土地勘の意味が激減する。

用心を重ねて12/30に発った方が良いのか、
それとも予定通り12/31まで使い切ろうか、
やむを得ないトラブルであれば許してくれるのか。
ちょっと早いが、そんなことも気にし始めている。

慣れない海外のことだから、何がどんな具合かよくわからない。
何が本当に厳格で、どういう時には許されるのか。
この研修を終えたら、だいたいの落としどころは身につくと
思うのだけれど。

・・・と、ここまで書いたところで
エリザベス女王が亡くなったことが発表された。
新しい首相を任命する際、こやかなに笑って談笑する写真を
今朝の新聞で見たばかり。夕方に不調が報じられた数時間後に
その死が発表された。

Albanyのみんなが騒いでいる。
これから喪に服し、Albanyでは催しをストップするらしい。
新国王はチャールズ3世と

9/8(木)図書館での本番

2022年9月 8日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑昨日は観客に合わせてイスを用意。演者が移動するとイスも一緒に移動

最近、雨がちである。
時にはカミナリも鳴る。英語でサンダーというがどうもしっくりこない。
ファイナル・ファンタジーを思い出してしまう。

いよいよ、噂に聞いていたロンドンの本領発揮と思う。
暗くて曇りがちなロンドンという定番の印象が、自分にはない。
1月末に渡英して以来、日々、春に向かって時間が過ぎたし、
何より一つ一つの行動に必死すぎてよくわからなかったのだ。

今、季節は冬に向かっている。
だから今度はロンドン独自の気候を存分に味わえると思う。
そして、もっと暗くて寒い1月を自分はパスする。

日本の予定やビザ取得に難儀してたまたま2〜12月の滞在になったが、
これが9〜7月だとずいぶん印象が違ったと思う。
日照時間が長く活動的で、旅行に向いた季節を失わなくて良かった。


秋の始まりに、シニアたちの本番に立ち会っている。
先週はショッピング・センターでの本番だったが、
今週は図書館に場所を移して、別のメンバーで構成された本番が
始まった。

物語は基本的に同じなのだが、
先週はコミカルだった。メンバーにアフリカ系の陽気な人が多かったし
ショッピングセンターの賑やかさが方向性に拍車をかけていた。

今週は本格派ストレートプレーの趣きで、
聴衆は会話をよく聴き、演者たちはあまり声を張らずに内容を聴かせる。

先週は民族衣装を着てくるというコンセプトでかなり派手だったが、
今週は日常に近い格好で、「移民」「引っ越し」をテーマにした社会派の
匂いがする。こういうのも、演出のレミーはきちんと計算している。

休憩時間の過ごし方も2チームで全く違って、
先週はお茶を飲んでワイワイ歓談し、人によっては食事や買い物に
行っていたけれど、今週の面々は演技の改善に余念がない。
中には、上手くいかなかったところを悔やむ人もいて、
周囲が彼女を慰め、「まだ次がある!」と鼓舞していた。

1日に2回ずつ、週末にも上演する予定なので、
次の回への対策を話しながら、一緒にサンドイッチを食べていると愉しい。
ああ、一年ぶりに劇をつくっているな、と実感する。

9/7(水)野菜もカリブからやってくる

2022年9月 7日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑ジャマイカ出身の野菜カラルー。花が咲いているが葉を食べる

毎週火曜日は定例となっているシニア向けWSに参加する。
だいぶ慣れてきたが、それでも細部に発見がある。

昨日は合唱の練習が終わり、参加者がそれぞれのペースで帰宅する時、
Albanyの庭で採れた野菜を持ち帰る人がいた。

Albanyには広めの庭があり、ここで植物が育てられている。
英国人が庭を愛することはダイアンやミミの情熱に接して知っていたが
劇場でもそれは同じだ。

よくスタッフが庭を手入れしているのを目にする。
植物に水をやり、必要な栄誉剤をやり、雑草を間引き、掃除する。
温室まである。劇場受付やチケット販売業務の傍らに庭を世話する。
しかも、楽しそうにやっているのが良い。

今日、参加者が持ち帰ったお土産はSpinach=ほうれん草だった。
また一つ英単語を覚えた。

ただのほうれん草ではなく、カラルー(Callaloo)というものらしい。
これはもともとジャマイカの野菜だそうだ。
野菜なのに高たんぱくで、しかも鉄分やカルシウムも
驚異的に含んでいるらしい。

ロイシャム地区にいると、ジャマイカ移民の存在感をひしひしと
感じる。彼らが、ハングリーな生活や日常的な闘争を経て
市民権を獲得してきたことが切実に理解できる。
もちろん、レゲエという音楽も彼らとともにやってきた。

国境を超える時には、水分、植物、動物、昆虫なども
厳格に管理される。生態系に影響するからだが、
(そういえばロンドンではセミを見なかった)
人が動けばそういったものも移動するのだろう。

カラルーが、多くの栄養や効能で大勢の人たちの身体や健康を
支えてきたことを想像すると、野菜ひとつにもロンドンを感じる。

ちなみに、ルッコラはロチェットと言い、
ダイアンのお遣いの際にそれを教わった。
パプリカはペッパー。特にフレッシュ・ペッパーという。

前にペッパーを買うよう頼まれて、胡椒を買いそうになった。

9/6(火)ロンドンの野外劇場

2022年9月 6日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑開演前のリージェントパーク・オープン・エア・シアター

昨日はリージェント・パークというところで野外劇を観た。
演目は『アンティゴネー』。ソフォクレスの原作を
Albanyでポエトリーの催しをしていたイヌラ・エラムスが
翻案したものだ。

彼は移民の問題を背負いつつ、優しい語り口の詩や台本で
ファンを得ている。ナショナル・シアターで2018年に上演した
『バーバーショップ・クロニクルズ』が代表作、
日本語にすると『床屋年代記』、魅力的なタイトルだ。

同じ日に、各国の床屋で起こる小さな事件を集積させることで
この台本は成り立っている。上手いアイディアだと思う。
かつて巨大な帝国を築き、今は移民の街となったロンドンの劇だ。

今回はギリシャ悲劇が原作だけれど、
彼はこれを家族からテロリストを輩出したムスリム家庭の葛藤に
読み替えていた。

反社会性力の最たる者として扱われるテロリストの死を
その妹であるアンティゴーは弔うことができるのか、という問い。
ソフォクレスの原作では国王だったクレオンは首相という
立場になっている。

この公演に興味を持ったダイアンが、
自分の障害者手帳を利用して格安の良席を手に入れてくれて
贅沢な環境で環境で観ることができたし、天気も持ち堪えた。

『アンティゴネー』野外劇といえば、
去年のゴールデンウィークにSPACによる上演を観た。
会場は駿府城公園だった。

こういう観劇を重ねていると野外劇場とギリシャ劇への思いが募る。

小さい頃にアニメ『聖闘士星矢』を見て以来、
ギリシャは憧れの地なのだ。小学校の頃に、
名古屋の科学館に通って星座に関わる神話をたくさん聞きもした。

ギリシャといえば、私にはなんと言っても
蜷川さんのプロデューサーだった中根公夫(ただお)さんだ。

1960年代にパリに留学し、
夏はいつもギリシャに行っていたという中根さんの話を思い出す。
日本人でもっとも沢山のギリシャ悲劇を観た中根さんは
それから20年後に蜷川さんを擁してギリシャに乗り込んだ。
『王女メディア』に出演していた金田龍之介さんのエッセイに、
現場の様子が臨場感をもって描かれている。

今は神奈川芸術劇場の館長である眞野(純)さんも、
2004年に野村萬斎さんがオイディプスを演じた公演で
古代劇場を体験ずみだ。うらやましい。

リージェントパークでさまざまなことを思い出した。
ウェールズにはミナック・シアターという海辺の岩場を利用した
素晴らしい野外劇場があるという。ここにも行ってみたい。

9/2(金)いつまでもウンコちんちん

2022年9月 2日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑右から2番目が演出家のレミー。もうすぐ新作詩集が出版され、
ドラマーとしてスペインに演奏の仕事にもいく多才の人。
男性出演者は勝手にどこかに行ってしまい、この写真に写っていない。


昨日はシニアたちによる移動型演劇を公演した。
近所にあるルイシャム・ショッピング・センターという商用施設内の
メインストリート、ギャラリー、事務所スペースを使い、
お客さんを連れ回しながら物語の進行させる。

初めのシーンはかなり往来なのでピンマイクを使い、
そこからは静かな空間に入っていくので、
マイクを外してせりふを通していた。

シニアたちはいずれもキャリアがあり、強メンタル。
高揚はしていても緊張はしていなかった。
衣裳はそれぞれの国の民族衣装という指定で、
アフリカ系の人がほとんどなので、ド派手な格好で家からやってきて
2ステージこなし、そのままの姿で意気揚々と帰っていった。
面白い人たちだとつくづく思う。

とりわけ興味深かったのは、
2ステージあるうちの休憩時間の過ごし方だ。

初回が終わり、皆よろこんでいたが、演出のレミーから
2回目に向けての作戦会議が提案される。
集合時間も告げられた。

皆は1回目のお客さんと喋った後、
思い思いに軽食を取ったり、休憩したりしていたが、
会議の時間になり、女子がビシッそろった。
が、男は来ない。

一人はテイクアウトのコーヒーを買いに行ったまま
なかなか戻って来ず、もう一人はそのカフェで、観に来てくれた
息子さんと娘さんとガッチリ昼飯を食べていたところを後で
発見された。女性たちは演技の工夫と詰めに余念がない。
見事なコントラストだった。

小学生の頃、掃除の時間にふざけていたのはいつも男子だった。
女子はいち早くトレンディドラマを観て大人になっていくのに、
私も含めて、ミニ四駆やガンダムのプラモデルをぶつけ合って
喜んでいた。

場所がロンドンだろうが、年齢が80歳オーバーだろうが、
この構図は普遍だった。2回目の本番、男子たちは段取りを
飛ばしたり勝手なことを喋り始めたりしてスタッフを大いに
焦らせることになった。

明後日も2ステージやる。彼らに幸あれ。

9/1(木)基本的に間違っていた

2022年9月 1日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑白い衣裳がジャンヌ・ダルクを演じた俳優さん
バイセクシャルを公言しており、鎧をまとう時の腋毛が印象的。
横浜国大の先輩、黒木香さんを思い出した。


9/1といえば関東大震災。
うちの子どもたちも保育園で避難訓練をしているらしい。
関東大震災は1923年に起こったから、来年で100年が経つ。

自分が生きてきた期間だけでも、
阪神淡路大震災、中越沖地震、東日本大震災と
大きな地震が続いてきた。かなりの頻度だ。

子どもの頃にはわからなかったけど、
親になって避難訓練の大事さがわかった。
災害はいつも不測の事態だけれど、それでも、
訓練があるのとないのとではだいぶ違う。
テント公演をする時にも、私たちは避難誘導訓練をする。

演劇史的には、
関東大震災は築地小劇場の成立に影響を与えた。
震災後は建築基準法がゆるみ、建てられる建物のバリエーションに
幅が出た。その機に乗じて新劇の始祖たるあの劇場は成立したらしい。

第一次世界大戦の敗戦国であるドイツやロシアの貨幣価値が下がり
留学しやすくなったこと。震災の影響。といったもので
演劇ムーヴメントが成立したとは。因果なものだ。


さて、昨日のこと。
だいぶ豪快に間違えてしまった。

グローブ座で新たな演目がスタートしたので観に行った。
ずいぶん前に日本から取り寄せていたシェイクスピア『ジョン王』の
台本も読み、歴史も調べ、予習はバッチリだった。

いつものように、5ポンドの立ち見席へ。

しかし、冒頭シーンからかなり違う。
女の子が出てきて独白を始めた。そして剣を振りかざす。

グローブ座は基本的に原点主義だから、
ここまで原作と違うとは何事かと思った。
カバンに入っていた台本と見比べても、冒頭シーンからぜんぜん違う。

そして気づいた。これは『ジョン王(John)』ではない。
よく見ると、タイトルは『I, Joan』→"わたし、ジョアン"だ。
つまり、ジャンヌ・ダルクの劇。

作者はシェイクスピアですらなく、
現代作家が書いた新作のお披露目だったらしい。
グローブ座では、シェイクスピアでは無い作家もの劇もかけるのだ!

そこからは、必死にせりふを追いかけて内容を追った。
セットはほとんどないから情報源は圧倒的に言葉。難しかったけれど、
有名なジャンヌ・ダルクの一生をベースにしたものだから、
その本案やパロディとして何とかついていけた。

グローブ座に何度も来るうち、何人か顔を覚えた役者もいて、
彼らを応援しながら愉しむやり方もわかってきた。劇団の魅力だ。

それにしても、あまりにも基本的な、こっぴどい間違いだった。
愕然とする。ロンドンではこういうことがたびたび起こる。
かなり情けない気持ちにもなるが、笑ってすますことにする。

8/31(水)ロンドンでのさまざまな体の不具合

2022年8月31日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑投稿内容とは関係がない写真

Albanyの主催でスウェーデンの作家Ruke JerramのGAIAという作品を

展示した。てっぺんとそこの部分から3方向ずつワイヤーを引っ張って

安定させる。良いロケーションだったが、プロデューサーのメグが

仕込みも含めて4日間つきっきりだった。巨大バッタの展示を思い出した



マジでビビっている。


英国での暮らしは気楽で愉しいばかりではない。

まず体が痛い。2013年にKAATでの『唐版 滝の白糸』を

上演した後から、整体に通い始めた。

劇団員だった禿恵の紹介だったが、

あっという間に彼女より通うようになった。


回数券を買い、1ヶ月に一度身体が痛くても痛くなくても行く。

走ったり歩いたり習慣化した頃とも重なり、ルーティンになった。


と、このように、床屋、歯医者、整体、これらに月にいっぺん行く。

日本にいた頃は。


ロンドンではたくさん歩く。街が狭く交通費が高いからだ。

それは良いのだが、パソコンとスマホを見ている時間も長い。

これが結構堪える。そしてシャワーのみで風呂はないから慢性的に

首が痛い。これから寒くなる。大丈夫だろうか。


先ほど歯医者を挙げたが、歯も不安だ。

日本の自宅の隣の隣には近所で評判の歯医者がある。

これにしょっちゅう行っていた。

初め、痛かった奥歯をたちどころに治療してくれて、感激したのだ。


英国の歯医者は劣悪だと聞いた。

ロンドンで歯科治療を受けた場合、噛み合わせが悪くなることも

充分にあるらしい。語学力的に、細かく症状を伝える自信もない。


だから、歯医者に行かないために必死だ。

機会があれば歯磨き、歯磨き。


で、最後の難問は目である。

最近は目がかすむ。視力が落ちてきているのではないか。


基本的に英国の室内照明は暗い。

そしてホストマザーのダイアンは間接照明が好きなのだ。

ロシアとウクライナの戦争による電気料金の高騰は節電に拍車をかけた。

ますます、夜が暗い。


ひょっとして老眼か、とも思う。

早めにきているのかも知れない。

が、とにかく出来ることをしなければ、と思って最近は

スーパーでブルーベリーを買うことにした。


物価が高いのでブルーベリーも高い。

ひとパック400円くらいするが、仕方ない。

薬だと思って買っている。


残すところ4ヶ月である

英語に慣れ、知り合いも増え、色んなものを見聞きできたのは良いが、

この11ヶ月間の後遺症が残らないようにしなければならない。

8/30(火)深夜のルイシャム病院にて

2022年8月30日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑必ずしもヨーロッパ人が強気で日本人が従順なわけではないと思う。
救急医療で待ち時間4時間44分は、日本では許されないだろう。
が、皆さん、おとなしく待っていた。

研修先 The Albany Theatre のあるルイシャムは悪名高い。
多くの移民が住み、治安が良くないのだ。

知り合ったロンドンっ子に研修先を切り出すと、大概の人に
「気をつけて」と言われる。家のあるグリニッジは高級住宅街だ。
だから住所を伝えると「ラッキーだね」と言われる。
2キロくらいしか離れていないのだが。

そのルイシャムの病院に行くことになった。
ホストマザーのダイアンが私の不在中に救急車を呼んだらしい。
めまいがしてそのようにしたようだ。

Albanyが地区内の公園でやっていた野外の美術展示の帰り、
たまたま近くを通りかかっていた時に、ダイアンから電話があった。
日曜の21時くらい。それで家ではなく病院に向かうことにした。

結果的には何事もなかったが、
診察や血液検査にやたら時間がかかった。
何しろ、待ち時間表示に「あと4時間・・・」などと平気で出ている。
隣に「スタッフには待ち時間の詳細を訊かないでください」という
張り紙も。体調が悪そうな人たちがたくさんいたが、
これではさらに悪化を招きかねない。

ただし、これは日本人感覚だと思う。
スーパーも駅のチケット売り場も、そして病院も、
待っている人を気にすることなく一人一人に時間をかけるのが英国流だ。

待ち時間が長かったので、興味深い人たちをたくさん見た。
待っている間、大いびきをかいて寝ているおじさん。
若い女性は、苦しそうに姿勢を崩して床に倒れてしまったために
看護師たちが足を上げたりして応急処置しながら奥に運んでいった。
ネイルがやたらと長い女性が、高速でスマホを打ち続ける音が
待合室に響く。爪がスマホのモニターにカツカツと当たるのだ。
ずっとヘアセットをし合っている母親と娘。
震え続けている車椅子の老女。などなど。

極め付けは、警官二人を両脇に連れている男。
彼はプリズナー=囚人らしい。体調が悪いので仕方なく病院に
連れてきたらしいが、手錠も無く、一般人と同じ待合室で
待っていることに衝撃を受けた。軽微な罪なのだろうか。
それにしては、左右のポリスマンたちがゴツすぎる。

囚人さんは、あたり構わず周囲の人たちに話しかけていた。
まるで、人と話すことのできるチャンスを惜しむかのように
人の会話に割り込み、コミュニケーションのきっかけを拾い集めていた。
ずっと孤独なのだろうか。

ダイアンは温かいものが飲みたいと希望したが、
ロンドンに24時間営業の店やコンビニはほとんどない。
帰りもタクシーがなかなか捕まらず、夜中の1:30に往生した。

翌日はたまたま祝日だったから良かった。
劇場やイベントに行くより、バラエティ溢れるものを見た。
やっぱり好きだな、ルイシャム。

8/26(金)Moving Day 稽古の大詰め

2022年8月26日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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昨日はシニアたちの移動型演劇 "Monving Day"の
ドレスリハーサルだった。要するに、セットと衣裳を本腰入れてやる
本番直前の通し稽古だ。

この公演には赤組と黄組があって、
赤組は図書館で、黄組はショッピングセンターで、
それぞれの施設の中のさまざまなポイントを
演者と観客で動きながら鑑賞する。
今日は赤組の稽古だった。。

発表初日は9月1日だけれど、出演者であるシニアたちにも予定がある。
だから、昨日やって、手直しを8/31(水)にやったら、
あとは公演当日の朝にさらって本番。

こういう企画のためには知恵が必要だとつくづく思う。
豪華なセットやスタッフワーク、入念な準備というのは
コミュニティワークの一環として行う演劇には余計である。

それらはお金も人のかかりすぎる。
コストがかかりすぎると続かない。継続性が大切なのだ。
かといってチープなだけで良いかというと、絶対にそうではない。

本質的に訴えるものがなければ、
演じる側にも、観る側にも迫力を生まない。
これらをどう両立させるのかがクリエイターに問われる。

運営をしているエンテレキーアーツの面々は達者だと思う。
スタッフの一人、カミラは手作りで段ボール製のバナーを
作ってきた。良い出来だ。こういうのがパッとできる。
とても大事な素養だ。いちいち外注などしていられない。

代表のデイヴィット・スペンサーさんは、
俳優として出演することにした。物語の流れ自体は固定だが
せりふ自体は即興だから可能だとも言えるけれど、
人が足りないなら自分がやると言って自然に演者になる。

組織の代表が身をもって創作の身近さを示しているから、
みんなが安心して演じることを愉しむ。
演技や創作をすることに対する精神的なハードルが低い。

構成・演出を担当するレミーは巧者で、
劇の中に、出演者が個人史を語るシーンを盛り込んである。
誰だって過去には多くの問題があり、多くの問題を乗り越えた
あるいは、乗り越えられなかった経験がある。

真率なエピソードは人に届く。
そういう力を巧みに解放して武器に変えている。

本番では、自分も役割を与えられた。
移動中の演者のマイクの着脱を担当することになった。
こういうこともパッとやるのだ。

日本代表なので"そんなの簡単にできますよ"という風に平然と
引き受けているのだが、心中穏やかではない。
果たして上手くできるだろうか。

8/25(木)ハイドパークで

2022年8月25日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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昨日は書き物の一日だった。


年明けにケッチさんとテツヤ(岡島哲也P)と作る舞台の準備をしている。

イギリス民話『3びきのこぶた』を題材にしたサイレントコメディの

ステージを作る。それで構成台本を書いているのだ。


オオカミだ! -『3びきのこぶた』に出てくるオレの話


いつもとは逆で、自分の書いたものに意見をもらって書き直す作業だ。

自分はせりふの台本は書かないけれど、イベントの構成台本を書いたり、

依頼が来て寄稿したりすることは度々ある。

それぞれに、テレビマンにエッセイストになったつもりで書く。

書くことは苦しいけれど、後から考えると充実する。


震災の後に吉原町内会から頼まれてやった節分イベントの

出し物は自信作で、ステージを見ながら近所のおばちゃんたちが

「よく出来てる!」と褒めてくれた。


吉原なので、『助六』を題材にした。

よく唐ゼミ☆に出てくれている鷲見くんがヒロインの揚巻に扮して

鬼たちが襲おうとすると上半身はだかのレスラー姿になり、

プロレス技でやっつける。彼の立派なお腹に「フライド・ロール」

というリングネームが墨で書かれているという他愛もないもの

だったけれど、よくウケたな。

東京乾電池が初期にビアガーデンでやっていた出し物は

こんな感じだったのではないかと、自分なりに考えた。


エッセイの方は、最近は岩波書店の月刊誌「図書」に書いたものが

来月に出る。こちらは、ロンドンでの生活を読書に絡めて書いた。


語学学校が終わり、Albanyでの用事が無かったので、

ロイヤル・アルバート・ホールに行って夜の演奏会の当日券を買った。

その後、ベンチに座ってZoomでテツヤにアドバイスをもらった。

ハイドパークで書き直し、テツヤの寝起きに届くよう送った。


ロンドンにはたくさんの自然豊かな公園がある。

ハイドパークはその王様だ。ハイドパークに行くということが

休日の立派なイベントになるのだ。

宮殿やモニュメント、池やアミューズメントがある。


それ以上に、やたら広くて伸び伸びとした公園だ。

こういう公園の芝生に敷物を敷いて食事したり寝転がったり

するだけで休日や遊びが成立するのが英国人なのだ。


ハイドパークのベンチで、

周りで遊んでいる子どもたちを眺めながら、

とにかく彼らにウケたい、大ウケしたいと心から願って台本を直した。

その後、夜の演奏会は22:15開演だからやたらと時間があり、

公園の反対側の中古CD屋に久々に行き、厚遇してもらえて気を良くした。


初めてハイドパークやこのCD屋に来たのは渡英直後の寒々しい2月だった。

あの時は不気味で幻想的な感じもした夕暮れだったけど、

今はのどかな馴染みの景色になった。


あと4ヶ月ジタバタして、あっという間に帰国。

帰国後の仕事について、徐々に直面し始めている。

8/24(水)あの組織を訪ねて

2022年8月24日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑外見からは何の建物かよくわからない。

誰もが気になりながら、
よく実態がわからないあの組織の本部がロンドンにある。
しかも、割と気軽に入れて、お土産物屋まであると言うのだ。

実は、この建物は渡英直後から気になっていた。
教会のような感じだけど、それよりはそっけない。
企業のビルにしては「売店開いてます」的な看板がある。

ロンドンの中心部にあるものだから、
あっちこっちと訪ね歩く際に何だろう?と気になってきたが、
あれがそれだとようやく気付いたのだ。

フリーメーソン。
モーツァルトが入っていたことで何より有名で、
この世界を操る真の黒幕とも、いやいや只の友愛を目的とした
紳士たちの親交団体とも言われている。

正直、自分はよくわからない。
よくわからないけれど、ライトな感じでとりあえず
行ってみた。行ってみておいて日本に帰り、
あるいはこの先、本など読むかも知れない。
その時に「あ、オレはあそこ行ったな」と思えれば、
とりあえずいい。

入口の荷物チェックは他より厳しめだった。
ロンドンでは、色々なところに出入りする際に荷物チェックを受ける。
でも、かなりかったるそうに係員が流し見ているのが実際だ。
けれど、ここはガッチリ、丁寧に、全てのジッパーを開けて
紹介した。

ホールがあって、時にはコンサートをやっているらしいけれど、
今日はその日ではないので、ギャラリーを観て、お土産物屋さんを
眺めた。展示の量はあるけれども、内容は自分にはさらりとした感じで
グッズショップは面白かったけど、節約しているから何も買わなかった。

この素っ気なさは不気味と言えば不気味だ。
何人かお客さんがいて、誰もが自分よりかなりお金持ちそうに
見えて、訳ありな感じに見える。けれど、無効にすれば
自分がそう見えているかも知れない。

謎である。深淵である。どうも底が見えない。
帰ってきてからも気になっている。

8/23(火)病みついた人たち

2022年8月23日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑ほんとうに善い人たちばかりなのだ。決してスノッブでなく、
素朴で人情味のあるご近所さんといった雰囲気の集い

自分がクラシック音楽を好きになったのは明確なきっかけがあって、
唐さんと同時期に横浜国大で私たちの先生だった大里俊晴先生と
許光俊先生の影響である。

大里先生は現代音楽が専門で、許先生はドイツ文学の研究に加えて
クラシックの音楽批評もされている。自分が28歳の時に
大里先生が亡くなって、学生時代を思い出しているうちに
色々と聴くようになり、好きになった。

ロンドンはウエストエンドに象徴される演劇都市だが、
それ以上に音楽都市でもあって、次から次へと世界的音楽家たちの
出入りがある。自然と方々へ出かけることになった。

で、BBCプロムスである。
イギリスを代表するこのクラシック音楽の祭典のことを
自分は3ヶ月前まで知らなかった。

が、何人かの人に「もうすぐプロムスだね」と言われて
その存在に気づいた。7月中旬からの9月中旬は欧米の年度末
=シーズンオフだ。この期間に国営放送のBBCの主催で毎日
コンサートをやり、ライブで観にくるお客さんを集めつつ、
放送にかけるという趣旨なのだ。

すでに自分は何回か行っている。
はっきり言って、超絶的な感動体験はありそうにない催しである。
会場のロイヤル・アルバート・ホールは5000人以上入るデカすぎる
場所だし、どうも音楽的に散漫な感じがするのだ。

でも、シーズンオフだから他はやっていないし、
豪華出演陣だし、珍しい曲もたくさんやる。
何より当日の立ち見席が安いので行ってしまう。
そんな感じなのだ。

昨日も出かけて行った。
ケルン放送交響楽団が目当てだった。
この楽団の印象は、ギュンター・ヴァント、若杉弘、
ガリー・ベルティーニという指揮者たちとともに覚えている。
CDで聴いてきた親近感にかられたのだ。

早めに行って当日券を買い、
アリーナ席の床に座り込んでPCで書き物しながら開演を待った。

すると、自分の周りの人々がやたらとよく喋る。
先に来ている人が、後からやってくる人を迎えて盛り上がっている。
そうこうするうちに、自分を真ん中に置いて5人くらいでお喋りする
恰好になってしまった。たまらないな、と思った。

が、開演が迫ってきたので、トイレに行くために話しかけて
荷物を見ておいてもらうようお願いしたところから、一気にその
均衡は崩れ、用を足して戻ると自分も輪に加わってガンガン喋り始めた。

聞けば、彼らは毎日来ているそうである。
何人かは仕事の都合で飛び飛びのレギュラーだけど、
中には本当の皆勤賞もいる。どうも、そういう通しのチケットが
あるらしいのだ。2ヶ月弱の間に、全部で72のコンサートがある。

ある女性は「本当にくたびれている。あと3週間もある」と
こぼしていた。だったらやめればいいじゃん、というのは愚問である。
とにかく来る。とにかく聴く。聴きすぎて記憶が曖昧になり
何が楽しいのかさっぱりわからなくなった果ての境地があるのだ。

昨日は日曜だったから、朝11時と19時半からの二本立てだった。
その間に何をしていたのか。家は近いのか。色々と気になったが
そこまで話し込む余裕はなかったし、語学力も足りなかった。

中には夜の回に続く、レイトショー的な回もある。
こういう時は23:30頃に終演する。自分も目当てのものがあって
1回行ったが、帰宅はかなり遅くなった。

友情が芽生えているようである。

次を訊かれたので、水曜に来ますよ、と言って別れた。
水曜のレイトショーが、ザ・シックスティーンというすごく良い
合唱団なのだ。常連と知り合ったことによりインセンティブが付き、
これからは今までより愉しめそうだ。初心者の自分としては
興味深い人たちだ。

肝心のケルン放送響は期待外れだった。
ブラームスの3番はあんなに淡白なもんじゃないはずだ。
1曲目の『フィンガルの洞窟』は良いぞ!と思ったが、
だんだん心が離れていくという珍しいパターンの鑑賞体験だった。
ケルンで聴いたらもっと凄そう。

8/19(金)結局、帰れなかった。

2022年8月19日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑青いドレスの女性はメディアではない。メディアに殺されてしまう
王の娘が、このバージョンでは登場するのだ。女性二人が対決すると
笑いがいっぱい起きた。


結局、エジンバラから帰れなかった。

サヴァール二日目朝のコンサート(プログラムが違う)を終え、
機嫌よくエジンバラ駅まで歩く。悠々13:30には着くと、
電光掲示板のにはロンドン(キングス・クロス駅)行きが示されていた。

余裕じゃねえか、と思ってホームに行くと"電車は来ない"との表示。
おかしいなと思って見渡すと、電光掲示板によって言うことが違う。
ロンドン行きがあったり無かったり、時間も違うし、ホーム番号も違う。

このいい加減さ。
さすがイギリスだと思って駅員に訊いたら、
「今日はロンドンまで行くものはありません。
その手前のヨークやドンカスターで止まってしまいます」との説明。

その二つの街で高速バスを捕まえれば帰れるかも、
ということで駅員二人に協力してもらって粘り強く調べた結果、
ロンドンまで帰る望みは無いと判断し、もう一泊することになった。

現在、先週に泊まったドミトリーの三段ベッド。
真ん中の段でこれを書いている。これまで何度か泊まった時は
いつも最上段だったから、天井の低さが際立つ。
姿勢のバリエーションが少ない。暗いし、強制的に眠い。

朝のサヴァールはもちろん良かった。
1日目はマイク付きだったけど、2日目のコンサートは完全に
アコースティックで彼の演奏の美しさとニュアンスが際立っていた。

1日目を聴いたという高齢者女性に話しかけられて、
彼女がサヴァールと写真を撮るのに協力したりした。
頂いた名刺のメールアドレスに写真を送ったが、
どうやら彼女は画家らしい。ちゃんと届いていれば良いが。

それから、何となしに街をウロウロして
スコットランド国立劇場のギリシャ悲劇『メディア』も観た。

先週とは違い、夜になるとめっきり冷え込む。
北国らしい気候にヒートテックやネックウォーマーも
動員している。この1週間でフリンジに参加するパフォーマーたちは
かなりふるい落とされたようだ。ストライキによる来訪者の少なさも
手伝い、ちょっと路地に入ると閑散としている。

エジンバラは基本的に、落ち着いた渋い街だとよくわかった。
どこか物悲しげだ。

8/18(木)再びエジンバラへ

2022年8月18日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑写真を撮ってもらうことができた

昨日から再びエンジンバラに来た。
と言っても、一泊だけして今日帰る予定。
予定、と書いたのは訳があって、またぞろストライキなのだ。

だから昨日、ロンドンの玄関口であるキングスクロス駅で切符を
買おうとしたら、駅のチケット売り場の人に止められた。
明日はストライキだから帰って来れなくなるかもよ、
電車無しとは言わないけれど、数が少ない、
来週にすれば? とか言ってくる。

そんなこと言ったって、
チケットは買ってあるしホテルの予約もしてある。
「帰れなくなったらもう一泊します。ずっと立って帰るのでもいい」
と伝えたら「グットラック」と言って売ってくれた。

そういうわけで、これから帰れるかどうか不安である。
ロンドンに向かう最終が14:30ということは昨日に確認したから、
とにかく早めに来て待っているところだ。
通路でも何でも良いから、乗って終えば勝ちなのだ。

ロンドンまで4時間半。さらにロンドンに着いてから
全部歩く羽目になるかもしれないけれど、仕方がない。


エジンバラに着いたら、まず、先週に置き去りにしたパスポートを
回収しに行った。無事に完了。
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それから、ジョルディ・サヴァールのコンサートを聴き、
日本ではソロか、せいぜい3人での演奏を数回聴いていたところを、
今回は彼が率いるエスペリオン21の総力戦を聴くことができた。

初日は14世紀に活躍したイスラム圏の冒険家イブン・バトゥータを
主人公に、彼の行動遍歴を音楽的に追ってみようという試みだ。
西はモロッコを出発点に東は東南アジア、中国まで行っていたらしい。

だからゲスト奏者に中国の琵琶や琴を弾く女性たちを招いて
いるわけだが、彼女らのソロパートにじっと聴き入り、かすかに頷く
サヴァールの物腰は、まるで仙人・達人のようでもあるし、
それでいてかなりエロいことを考えていそうでもある、
という具合なのだ。

↓すごい色男っぽいかった
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これまで、東京で彼のバロック音楽演奏を聴いたことはあったけれど、
歴史上の人物や地域にまつわる音楽をジャンルを越えて追究する姿に
初めて生で接することができた。
(ドン・キホーテとかコロンブスとか、アルバムがいっぱいある)

今日、これから、18世紀初めのイスタンブールにまつわる
コンサートを聴いて帰る予定。ひょっとしたら帰れないかも知れないし、
ひどい帰り道になるかも知れないけれど、まったく後悔がない。

サヴァールは81歳、いつまで元気に演奏を聴かせてくれるのか
わからないのだ。

8/17(水)『黒チューリップ』WS オマケ〜さらに情報求む!

2022年8月17日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

ワークショップ参加者や劇団ファンの人から

『黒いチューリップ』を読む上で重要でおもしろい情報が寄せられた。

ありがたいことだ。


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この写真のように、

かつてはこんな様子で人力で玉を出していたらしい。


今の複雑な構造を持つパチンコ台からは想像しがたいが、

このように隙間を行き来してスタッフが当たりを出していた。

(電話交換手みたいなもの)


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↑座ってやるものという印象が強いが、かつては立って打つスタイルも


しかも、人力であるがゆえにこの玉出し係(正式名称は何だろう?)

の気まぐれで、気に入りの客にはちょっと多めに出すとか、

当たり前に行われていたらしい。


そういうわけで、

唐さんが『黒いチューリップ』で描いた描写はかなり

リアリズムであるということがいよいよ分かってきた。


ヒロインのケイコのように、

さすがにその場所に部屋をつくって棲みついている

というのは芝居がかった飛躍に違いないけれど、

エコーをからかってパチンコ玉が飛んでくる場面は

あながち嘘ではないということだ。


それに、天魔が鴉天狗のようにこの台の上の細い面を

駆け抜けてくる場面も、想像できる。


地方ならば1970年代くらいまでこんな感じの店舗が

見受けられたとも教わった。(Hさんに感謝!)

これからも情報があったら教えてください。


昔からパチンコ大好きでやり込んできた唐十郎ファンが

いたら、ぜひ話を聞いてみたい。

8/16(火)夕立が降った

2022年8月16日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑今は枯れ果てているが、渡英直後はフサフサだった↓
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ここ1ヶ月、ほとんど雨が降らなない。
日本にとってのゲリラ豪雨が異常であるように、英国にとっては
この干上がり方が異常らしい。

8月に入り、週に三日くらいは夜に家にいるようになった。
主だった劇場がシーズンオフになったのと、遠出の際にまとめてお金を
つかうために意識してそのようにした。

英国の就業体制は厳格だ。午後6時にオフィスが閉まる。
だから夕方に劇場を出てスーパーなどに寄りながら家に帰ってくる。
午後9時くらいまで明るいので、途中、公園のベンチに寝そべって
本を読む。2週間くらい前に初めてこれをやって、
我ながら優雅なものだと思った。日本では考えられん。

先週半ばから読み始めた『カンタベリー物語』は中巻に入った。
上巻では、作中の巡礼者たちはロンドンブリッジの南を出発し、
Albanyのあるデプトフォードとグリニッジを通った。
面白いものだと思う。

そんな風に読み進めていると、昨日は8時半頃から雨が降った。
イギリスの公園は大きくて緑が豊富だから、
まるで『トトロ』のように大木の下で雨宿りをして、
雨脚が弱まったところでさっと帰ってきた。

ずいぶん久しぶりの雨だから、多少濡れても嬉しい。
考えてみれば、公園も、家の周りも、あのおとぎ話のようだった
緑の豊かな芝生は、今ではすっかり痩せて、枯れた草が地面に
こびりついたような具合になっている。

明日も夕立があり、明後日は本格的な雨が降るようだ。
同時に気温もガクンと下がって、20度周辺で落ち着くらしい。
明後日にはもう一度エジンバラに行く。

今度こそ、避暑地としてのスコットランドを味わえるかもしれない。
パスポートも早く回収しなければ。

8/15(月)『黒いチューリップ』本読みWS 第2回レポート(中野)

2022年8月15日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 唐十郎戯曲を読む『黒いチューリップ』
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↑パチンコ台の奥から部屋が現れた瞬間です。妙に安アパート風。
ひどくだらしなく寝ているようト書きの指示を守っています。
(2004年秋の唐ゼミ公演より)

昨日は『黒いチューリップ』本読みWSの2回目でした。

『蛇姫様 わが心の奈蛇』を経て『黒いチューリップ』に入った
タイミングでお久しぶりでご参加の皆さんが帰ってきてくれました。
別に演目のせいではないと思いますが、これはやっぱり嬉しい。

長編をやっていると、どうしても途中から入って来られる方には
敷居が高くなるとも思います。ロンドンにいる間は長いものを
予定していますが、今後、作品を選ぶ際の参考に思います。

あるいは、
以前に単発で『特権的肉体論』に取り組んだ回があったのですが、
一回こっきりで参加できる回を良いなと思います。お試しになる。
例えば、唐ゼミ☆だけでなく、近く上演が予定されている台本に
取り組めば、もっともっと上演が愉しめるようになるはずだ、
とも考えています。


さて、肝心の『黒いチューリップ』2回目。
今日は物語が徐々に動き始める場面をやりました。

前回はトップシーンですから、インパクトが大事だった。
100台が唸るパチンコ屋に100人の客がいる。
その喧騒の中を、声帯模写芸人のエコーがやってきて、
お客や景品ショップの婆さんに絡まれる、という趣向でした。

今回は、エコーがこのパチンコ屋にやってきた理由が徐々に明らかに
なります。

まずは、前回の最後のシーン。
勝手に玉が出てくる不思議な黒いチューリップ(当たり穴)の台の正体を
エコーは見極めようとします。思わず台を掴み、揺さぶる。
すると、この姿がインチキをしていると誤解を生んで、
釘師の「天魔(てんま)」と孫娘の「グリコ」が駆け込んでくる。

この天魔はカイマキ(着物型布団)を着ています。
グリコも薄汚い少女だという設定ですから、このパチンコ屋に
棲みついて働いているらしいことが想像されます。
そんな彼らからすれば、エコーの行為は許せない。

そして、誤解が解ききれず揉めているうちに次の登場人物が現れる。

パチンコについて一家言持ち、あっという間に100人の客を煽動してしまう
男の正体を、天魔は見抜きます。この男は刑事だったのです。

この刑事は伝説のパチプロ「一本指」を追っており、
一本指が自らの目印とした池袋の喫茶店ネスパのマッチを振りかざし、
一本指に憧れる他の客たちをますます煽ります。

実は当の天魔も、同じく一本指に身構えていたのでした。
近所のパチンコ店「アイウエオ会館」「アトム」「三角ホール」を
次々に閉店に追い込んだ凄腕・一本指に備え、ひどく厳しい釘設定を
仕掛け、強敵の襲来に備えていたことが明らかになる。

と、偶然その場にいたエコーを、この刑事は一本指だと思い込みます。
エコーが違うと言ってもそれを信じず、先ほどまで黒いチューリップ台と
親密に語らっていたエコーこそ、パチプロの中のパチプロと決めつけます。

皆の言いがかり、熱狂を恐れたエコーはその場を逃げ出し、
ほとんどの人間が彼を追います。
先ほどまでの喧騒が去り、静寂のパチンコ店内。

そこへ、エコーが忍び足で帰ってきました。
彼は黒いチューリップに再び語りかける。恋をささやくように。
(このあたり『ロミオとジュリエット』的です)

すると、パチンコ台が外れ、中から不思議な部屋が現れます。
ここには女が住んでおり、この黒いチューリップ台の玉は、
この女の人力で供給されていたらしいのです。
(唐さん得意の可笑しな設定!)

ここから、いよいよエコーの主目的が明らかになる。

初めは寝起きだったこの女「ケイコ」が身支度を整えると、
エコーは彼女に封筒を取り出します。営業で呼ばれた結婚式場の
女性用トイレで拾った封筒、その中に入る10万円が入っていました。
封筒に書かれたパチンコ店を頼りに、をエコーはお金を返しに来たのです。
大喜びするケイコ。

しかし、エコーは10万円のうち1万円を使い込んでいました。
前回に読んだシーンで、エコーは同居するサワヤカ少年の数学塾の月謝を
この封筒から失敬していたのです。

お礼の1割だと主張するエコーの理屈は彼女には通じません。
が、使い途が塾代と知った彼女は同情し、エコーにパチンコで1万円稼がせる
ことで穴埋めをしようとします。(ひどい癒着!)

というところまで、昨日はやりました。
蜷川さんと唐さんが気に入って展開してきた「六本指」というモチーフが
ここではパチンコにちなみ「一本指」に変化しているのも面白いところです。
あと、この芝居には「キス」という行為が象徴的な役割を果たします。
蜷川さんの商業演劇デビューだった『ロミオとジュリエット』は
キスばかり登場する芝居であり、「チュウ・リップ」という語呂合わせ
でもあるわけです。

次回は3回目。
血みどろの決闘も、強姦や近親相姦のような悲惨も、この台本にはありません。
この圧倒的なのどかさも、紛れもなく唐さんの面白さのひとつです。
読んでいて朗らかにたのしい。そういう特性を味わってもらえたらと思います。

8/12(金)あれから色々ありまして

2022年8月12日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

The Bag with me①.jpg

↑黒い服に黒い鞄で分かりにくいので、アップ写真も↓

The Bag with me②.jpg


昨日のゼミログを書いたのは帰りの電車の中だった。

エジンバラ〜ロンドン間は4時間半かかる。

東京から九州に迫ろうという時間だ。

日本にいたら長く感じるだろう。

飛行機で行こうかな、とも考えるだろう。


しかし、イギリスでは断固電車だ。

まず、景色に慣れていないから見飽きない。

そして何より確実性。

ロンドンにはたくさんの空港があり、

待ち時間があり、時間の調整があり、燃料代も変化する。

だったら、安定の電車。そう思っていた。


帰りの電車はうるさかった。

座った席が、ちょうど大家族に囲まれる具合だったために、

彼らがひっきりなしに行き来するし、頭越しに会話してくる。

イギリスの電車には必ず大騒ぎする人たちがいる。

どう処したら良いのか。物申して良いのか、自分にはわからない。


そんな中でゼミログを書き終えた。

すると彼らは二つ目くらいのニューカッセルという駅で降りた。

やれやれ。

と、この瞬間、気づいてしまった。


ずっとTシャツの中に忍ばせていた貴重品入れ。あれがない。

中には、これから観る公演チケット、国際運転免許証、

そして、パスポートが入っている。


しばらくゴソゴソやって、いよいよ手元にないことを確認する。

すると、アラン・カミング観劇中にチケットをしまうため、

客席で胸から取り出したことを思い出した。あそこに置き去り!


それから、ミミに電話し、劇場に電話し、

どちらも電話に出なかったので、問い合わせフォームに

メッセージを打った。


ピーターはその夜もエジンバラで演奏している。

明日、彼が回収してきてくれないかな、などと期待したが、

ともかく劇場に連絡をつけることが先決だ。


ちなみに、昨日に観劇したBURNはあの演目の千秋楽で、

夜公演はない。終演後、あの芝居が気になっていたピーターに

「ひどくつまらなかった」と3分くらいかけて悪口メールを打ったので、

自分は一番最後に客席を出た。だから係員以外に発見は不可能。

という好条件ではあるものの、ドキドキする。


結局、ミミにも状況をメールして、昨日はまっすぐ家に帰り、

夜遅かったので、シャワーを浴びて寝た。

ダイアンに「どうだった?」と訊かれ、「良かったよ」と簡単に伝えて寝た。


翌朝になりミミから返事があったので、どんな貴重品入れだったか、

羽田空港で撮った自分の写真などを送って説明した。

朝食時にダイアンに打ち明けると、涙目になって神に祈り始めた。

・・・やはり、昨夜に黙っていたのは正解だった。


ピーターに連絡を取ったが、彼は早朝からグラスゴーに移動していた。

今夜に別の演奏があるらしい。忙しいそうだ。

ピーター「帰りに戻ろうか?」と言ってくれたが、

見つかりさえすれば来週に自分で回収できるから安心してほしい。

そう伝えた。


すると、ミミが通常より早く電話で劇場オフィスをこじ開け、

話をつけてくれた。自分が送った写真も先方に送ってくれたらしい。

さすが劇場関係者。話が早い。あとはアツシで電話するべし、とも。


早速に先方の担当者とスピーカーホンで話し始めたところ、

横から猛烈な勢いでダイアンが喋り始め、あっさりと自分の物だと

確認された。「これはかなり重要ですね」と先方は笑っていた。


イギリス人のいい加減さに知り尽くすダイアンは油断がない。

相手が何日の何時に確かに劇場にいるかを確認し、

「変更があったら私に電話をしてくれ!」と迫っていた。


そういうわけで、今朝9:30をもって問題にはケリがつき、

巻き込んでしまったみなさんに現状と御礼を伝えて、

通常スケジュールに入っていった。

シニアの街頭劇の稽古に立ち会い、日本とZoom会議をし、

Albanyで会議をして、現在に至る。


2010年以来ファンになったフィルハーモニア管弦楽団の面々と

一気に繋がることができたので、浮かれたのだと思う。

ヤキモキした分、今日はやたら小銭を拾う。人生、正負の法則。


旅行時の装備について、もう一度考え直さなければ。

8/11(木)ロンドンへの帰路

2022年8月11日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑一本目に観た子どもたちのための劇。素朴な感じの二人だったが、

主役の老人人形がフルに活きるよう計算し尽くされた造形だった。


最終日、エジンバラ三日目は二つの作品を観た。


1本目:A VERY OLD MAN with ENORMAOUS WINGS

シルヴプレさんが観たという人形劇を観ようと思っていたが、

道すがら、チラシ配りの女子が渡してくれたフライヤーを見て

ピント来た。開演は10分後だったが、急いで駆けつけて観劇。

しっかり者の女性とトボけた男性のコンビによる、

人形や映像、サンプラーを駆使したキッズプロだった。

と言ってもギミックではなく、マンパワーを主体として、

お客さんの想像力に訴える。ボケてニワトリ小屋に住む

老人に周囲のみんなが困惑するのだけれど、最後にはこの

おじいさんが天に召される。

最小限の規模に考え抜かれた美術の造形ひとつひとつが見事で

さりげない恰好のパフォーマーが周囲を活かしきる姿を

観ている側がどんどん好きになる公演だった。


2本目:BURN(詩人ロバート・バーンズのこと)

スコットランドの国民詩人にまつわる一人芝居を

同じく地元の名優アラン・カミングが演じるという趣向。

しかし、演出家がイフェクトを多用しすぎて、肝心のアランの

魅力が立ち上がってこない。観客は皆、くだんの個性派俳優を

観たくてきているというのに、もったいなかった。

実に嘆かわしい。最後に、緞帳の前に出たアランがカマチに

腰掛け、観客に語りかけるシーンがほんの少しだけあって、

初めからそれをやれよ!と思った。

ライティングとプロジェクションを組み合わせて、

彼の顔がよく見えない。重要なところで、

あまり上手いとはいえないダンスを見せられた。

体は鍛えられているが、そういうことではないと思った。


一本目と二本目の間に、韓国料理を食べようと思った。

学割の効く良さげな店を、昨日のうちに発見していたのだ。

が、開店までに時間があったので、木陰で寝そべってラジオを

聴いた。立ち上がると、近くのカフェからこちらを呼ぶ声がする。

ピーターとフィルハーモニア管最古参の女性奏者だった。

エレナーさんという方。日本に20回以上きたことがあるという。


席を勧められたのでコーヒーをご馳走になり、

かつてのボスであるジュゼッペ・シノーポリの話を聴いた。

昨日『ルサルカ』を観たのでオペラの話になり、歌舞伎について

訊かれたので、現在の市川猿翁が演出して、吉井澄雄さんが

ライティングした『影のない女』の話をして盛り上がった。


ロンドンに帰ったら、リハーサルを観にきなよ、と言われた。

北仲スクールをやっていた2010年にフィルハーモニアと

サロネンによる『中国の不思議な役人』を聴いてクラシックに

興味を持った。これもピーターのおかげだ。


ピーターが主宰するチェンバー・アンサンブル・オブ・ロンドンは

11月にプリマスで公演するということだ。

プリマス〜コーンウォール〜ミナックシアターの旅を

ここに入れようかと思っている。


エジンバラにはまた来週行く。

8/10(水)エンジバラの2日目

2022年8月10日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑24:30くらい。スリー・クワイヤーズ・フェスからエジンバラへ
ハードスケジュールを嘆くミュージシャンたち

3日間の滞在の真ん中に当たる昨日は、
泊まっているドミトリーに荷物を置き、軽装で出かけることができた。

まず、開園時間にお城に行ったら、すでに予約で入場券が完売していた。
明日もダメ。来週に来るから、持ち越そうか。
ただでさえ有名観光地の最盛期に来てしまった。

そこから朝ごはんを食べて、チケットを買いに行った。
エジンバラに限ったことでなく、英国での買い物は時間がかかる。
スーパーでも、駅でも、ボックスオフィスでも、窓口がフル稼働している
のは稀だし、何人並んでいようが受付の人が常にゆっくりなので
当て込んでいた時間の3倍かかったりする。
時間もできたし、あとがタイトにならないように。

1本目:ウィル・テルと悪い男爵
ケッチさんがアドバイザーに加わった子ども用作品。
女の子版ドン・キホーテみたいな話で、ウィリアム・テルに憧れる
少女が身の回りの品で英雄に扮し、悪の男爵の城を探し当てて
これを倒す。造形や動きで観せる。何回か、子どもたちをステージに
上げて助っ人として活躍してもらうことにより、彼らをどんどん味方に。
最後は全員でゴールした感じだった。
お金持ちの子どもたちが多く観に来ているのか、子どもたちの誰からも
エレガントでゴージャスな感じがした。

2本目:ラッカス(騒ぎ)
当てずっぽうに入ったこれは、女優の一人舞台。
男女のゴタゴタを描くせりふ芝居で、ゆえに置いて行かれた。
ファック・ミーと何度も吠えていた。うっかり最前列に座って
しまったので、眠らないように最後まで頑張って消耗した。
早すぎる英語を聴いていると眠くなる。
終わった後、キットカットを食べた。

3本目:一人でロード・オブ・ザ・リング
黒つなぎに地下たびの男性俳優が例の三部作を一人で、
1時間で演じ切っていた。あらゆる役と情景を声と体の動きで表現。
途中に起こるDVDの交換まで。頭空っぽで大笑いしながら観た。
第一部を映画館で観て、エンディングで三部作だと気づいたこと。
第二部を唐さんも観ていて、オーランド・ブルームについて喋ったこと。
第三部はヨコハマ・ウォーカーの葉書応募で当てて先行で観たことを
思い出した。一人で映画を演じるといえば、マルセ太郎さんも
思い出した。

4本目:歌劇ルサルカ
ドヴォルザークのオペラ。セットと照明、演出が良かった。
歌と音楽が先行するオペラでは、オーセンティックでない演出が
成功することは稀だ。どこか足りなかったり、やりすぎて素材を
邪魔していたり、訳わからなかったりするけれど、これは実に巧みに
一体化していた。巨大な蓋つきのセットで水底の世界を巧みに表現。
コミカルなシーンもふんだんにあって、けれども聴かせどころでは
この作曲家のフォークソング的に単純素朴な魅力が全開だった。

終わった後は、ピーター・フィッシャーの手引きでパブへ。
フィルハーモニア管弦楽団の女性ヴァイオリニストたちと
おしゃべりして、これまで来日コンサートで聴いてきた曲目を
伝えた。なぜかイギリスの地方都市であるポーツマスの話題になり、
昔、大里先生に教わったポーツマス・シンフォニアの話を振ったら
ピーターしか知らなかった。で、YouTubeでこのオケが演奏する
『ツァラトゥストラ』を彼らに聴かせたら、大喜びしていた。

あと、明日はイギリスの名優アラン・カミングの一人芝居を観る
と伝えたら、4人のうち誰も彼を知らなかった。
この人ですよ、とスマホで画像を見せたが、反応薄。
終いに「あ、アランはスコティッシュだ。私たちイングランド
だから知らないんだ」と皆が言い出して、冗談の中にイギリス人たち
の国民意識を知ることになった。

静かにシャワーを浴び、午前2時頃寝る。

8/9(火)エジンバラに来た

2022年8月 9日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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ホルーリード・パークの崖の上


昨日からエジンバラに来ている。

有名なエジンバラ・フェスティバルに合わせてやってきた。


噂には聞いていたが、街に降り立って面食らった。

人、人、人。もう観光客がぎっしり。

街中の至るところにショーのチラシやポスターが貼り出されていて、

大きなものから小さなものまで、千や二千のプログラムが

ひしめいているのだと実感し、眩暈がした。


今回、私が目標に置いてきたものはわずか。

①ケッチさんに勧められブライトンでも観たジュリア・マシリーのショー

②ケッチさんがアドバイザーを務めたシアター・フェデリ・フェデリ

③ピーターがオケに加わっているドヴォルザークの『ルサルカ』

④清水宏さんが激闘したパブThe World's Endに行く

⑤エジンバラ城に行く


と、このくらい。

が、日曜日にロンドンでパントマイム「シルヴプレ」のお二人に

会えたことにより、目標が増えた。名優アラン・カミングが当地の詩人

バーンズの生涯を一人舞台にして公演しているらしい。

そこで、これを⑥に。


さらに、街で『一人でロード・オブ・ザ・リング』というポスターを

発見したので⑦。Summer hallという会場の演目が面白そうなので⑧。

朝からやっているパペットの公演を⑨とした。

到着から3時間で街を歩き、タイ料理屋に入ってこういう計画を組んだ。


その後は、なんだか人いきれにヘトヘトになってしまったので、

焦ってジタバタしないことにした。ジュリアのショーは22時頃に始まる。

3時間以上あるから、近くのホルーリード・パークに登ることにした


丘というか、山というか、崖というか。

数時間かかりそうだなと思ったが、麓で寝そべっているおじさんに

訊いたら「30分かからんよ」ということなので、歩き出した。


かなり簡単に辿り着き、フォース湾と市街地を眺め、

「アーサー王の玉座」と言われる岩肌も発見した。

なかなかの眺望で、『マクベス』のことを考えたり、

メンデルスゾーンの3番を聴いたりして頂上で1時間くらい過ごした。


降りるときに、一回転んで尻餅をついた。

筑波山でも、大山でも、降りるときはいつもこうだ。


ジュリアのショーは完成版というより、

エジンバラで観せるために刈り込まれていた。

ポップになっていて客席はウケていたけれど、

クリエイター力の発揮具合はブライトンの方が上だった。

ここには時間制限もある。なかなかに厳しい環境だ。

8/8(月)『黒いチューリップ』本読みWS 第1回レポート(中野)

2022年8月 8日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 唐十郎戯曲を読む『黒いチューリップ』
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↑暴れるラムネ。懐かしい学生時代の上演です。

昨日は『黒いチューリップ』第1回WSの初回でした。

いつも初回は特に準備をして臨みます。
内容以前に、唐さんがどうやってこの台本を書いたか、
経緯や、当時の唐さんを囲む面々について話す必要があるからです。

が、昨日は出鼻をくじかれました。
恐ろしいZoomトラブル。ついさっきまで正常に稼働していたzoomが
いざ時間になって正式に入ろうとしたところ、インストールが必要だ
といきなり言い出し、慌てました。

皆さんに待って頂いて応急処置をし、
ブラウザから入る方法で何とか成立させることが出来ましたが、
冒頭がかなり滞ってしまいました。申し訳ないです。

終了後に最新版をインストールして正常起動を確認しましたが、
便利と思っていたテクノロジーの落とし穴です。怖い。怖い。

さて、肝心のWS内容です。
経緯については、こんな感じの話をしました。

・これまで蜷川さんと作ってきた作品のモチーフが生きている
 →「六本指」「大人数の出演」「池」
・根津甚八さんと小林薫さんという看板を失った唐さんの試行錯誤
 →李さんの相手役探しでもある
・前年に本多劇場柿落とし『秘密の花園』で活躍した柄本明さんの抜擢
・蜷川さんの商業演劇デビュー作『ロミオとジュリエット』がベース
・1980年に状況劇場が行ったサンパウロ公演から、南米の鳥
 グアーチャロ(アブラヨタカ、Oilbird)のアイディアを得たはず

そこから冒頭シーンへ。

100人のお客がひしめくパチンコ屋から劇はスタートし、
主人公エコーのモノローグが始まるのが見事です。

エコーは売れない声帯模写で、パフォーマーとしての腕は
イマイチだが、声無き者の声を代弁するのに長けている。
だから「エコー」という名だとアピールします。
洞窟の奥に棲み、視覚は弱いけれど聴覚でコミュニケーションする
グアーチャロとの共通点にもここにあり、この劇のテーマを強く
打ち出すシーンでもあります。

それから、景品交換所の婆さんとぶつかります。
※後に「サキ」という名だとわかる彼女、「咲き」からきています。
そこから水が異常に噴き出すラムネ瓶と取っ組み合ったり、
エコーがもともと持っていたセブンスターのタバコを巡って、
婆さんに難クセをつけられたりします。

パチンコの玉とお金をいきなり交換することはできないので、
パチンコ店ではキーアイテムと玉を交換、それを少し離れた場所に
ある景品買いに買い取ってもらうことで現金化するシステムについて
話しました。このパチンコ店では「セブンスター」が交換のアイテム。

婆さんの意に従って100人の客がエコーのセブンスターを奪い、
人々の手から手へ渡ります。そして、必死でそれを追いかけるエコーは
一台のパチンコ台を壊してしまう。それこそ、黒いチューリップ
(※「チューリップ」とはパチンコ玉が入る当たり穴のこと)を持つ
壊れた台でした。物言わぬ黒いチューリップに、否応なく惚れ込むエコー。

と、ここに、エコーの同居人である少年サワヤカ君がやってきます。
彼の爽やかさはパチンコ店にたむろする客たちを慄かせ、エコーを守る。
けれど、二人が暮らすアパートの家賃とサワヤカの通う塾の月謝の滞納が
明らかになります。特に塾で学ぶ数学については熱心なエコーは危機感を
募らせ、懐に忍ばせた訳ありの封筒から、一万円を取り出してサワヤカに
渡します。去っていく少年。

すると、一人になったエコーの前に新たな不思議が起こります。
壊れたパチンコ台、黒いチューリップの口からジャラジャラと玉が出てくる。
しかも、まるで生きているように戸惑うエコーとやりとりしながら。

明らかに誰かが隠れている。そう思わせながら冒頭シーンはおしまいです。

ひしめくパチンコ台と大人数の喧騒。
ビンから噴き出るラムネを使ったギャグ。
というスペクタクルから、一気にパチンコ台の当たり口にフォーカスという
極小の対象にフォーカスする唐さんの着想が冴えています。

グアーチャロというモチーフは難しいけれど、それもおいおい明らかに。
次回、第2回のzoomは特に念入りにバッチリにして臨みます!

8/5(金)ショッピングセンターでの稽古

2022年8月 5日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑Lewisham Shopping Center 内部


昨日は、シニアたちと進めてきた街頭劇の稽古が

(と言っても建物内での公演だが)いよいよ本格化した日だった。


会場は慣れ親しんだルイシャム・ショッピング・センター。

ここが本番の会場であり、中のメインストリートとかギャラリー、

Albanyが今年のフェスティバルに合わせて構えたフリースペースなど

複数箇所を使って劇の各シーンが進行する。


構成・演出のレミーのテキパキとした指示のもと、

まずはどの会場でどの場面を演じるのか、それぞれで動きを

付けながら当たっていく作業が続けられた。


いつもの稽古は90分強だが、今日は2時間半以上やったので

最後にはシニアたちもくたびれていたが、開放的で賑やかな空間に

やって来られたことに誰もが嬉しそうだった。

実際、やりとりも活き活きしてきた。


もちろん、昨日の稽古はセンターの許可を得てやっているが、

普通のお客さんが往来する場所で稽古は進められ、自然と衆目が

集まったり、赤ちゃんに絡まれたりするのも面白かった。

警備員が、それとなく見守っているようだった。


思えば、自分のこのショッピング・センターに対する思いは

この半年で劇的に変化してきた。初めてここを訪れたのは渡英2日目。

中にある郵便局にビザカードを取りに来るというミッションが

あったからだが、あの時ははっきり言って怖かった。

治安への不安、言葉の壁が立ちはだかる。

政府から届けられた郵便を受け取るだけの作業にぐったりした。


それが、ダイアンの家に住み始めた頃から、

この場所はあらゆる買い物が安く便利に住む場所になった。

日用品から衣類、食料品まで、ほんとうに何でも揃うのだ。

この中にあるH&MとTK-Maxxxの服で自分の春夏秋ものを買った。

Wilkoというホームセンターでタオルや傘、歯磨き粉を買う。


他にも、パウンドランドがある。

アイスランドという、いつもオレンジジュースを買う定番の店も

すぐ近くにある。油断は禁物だが、安心していられる場所になった。


本番は9月の上旬、二日かけて3回行われる。

あと3回のリハーサルで公演だ。恐るべきスピード。

8/4(木)久々にハードなやつ来た!

2022年8月 4日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑アーネスト・ダウスンの墓参を終えた。

明らかに誰にも顧みられていなさそうだったので、年内に再訪し、

掃除してから帰国しようと思う。


※今日は生々しい話になるので注意してください。


昨日は久々にハードなやつが来た。突然に。

ダイアンには、ロンドンでは道で話しかけられても絶対に相手を

するなと厳命されている。しかし、習慣というのは拭い難いもので、

ついつい立ち止まってしまうのだ。相手もまた、

そういう自分を見透かして声をかけるのか、とも思う。


Albanyの近くで、黒人の女性に声をかけられた。

30歳くらいだろうか。彼女は私を呼び止め、

ワンピースのすそに付いたたくさんの血を見せながら

2ポンドくださいと頼んできた。

生理がきてしまったので生理用品を買いたい。ということなのだ。


オレは英語がわからん!ごめん!

と言って振り切ったが、なかなかの威力だった。


その後、最近ピーターに教わったレバノン料理屋に行った。

鶏肉をタレに漬け込んで焼いたものに、ライスとサラダが付いて7ポンド。

こちらにしてはリーズナブルな値段で味が良く、量が多い。


何より焼き方が優れている。

炭火の管理をせっせとして、うちわであおぎながら焼いてる。

焼き加減を確認するしぐさは日本の鰻屋そっくり。

調理が雑で、基本的に焼き過ぎパサパサのロンドンでは珍しい丁寧さ。

肉がジューシーなまま出てくる。さすがピーターの紹介。


昨日しくじったアーネスト・ダウスンの墓参りも達成できた。

開園時間中の霊園に入ったところ案内がないので、しばらくウロウロした。

物言わぬ墓を探すのは難しい。まして藪の中みたいなところに

いくつもの墓石が見える。暑いし、虫が多いし、植物も棘だらけなので、

そういう場所を探すのは至難の技だ。今が冬であれば!


今日もダメかと思いながら、

向こうからやってきた数少ない通り掛かりの人に訊き、

通常は留守中の管理室に施錠にやってきた係員にも訊いて、

やっと発見できた。


ダイアンからもらったあじさいと文庫本を備えて手を合わ、。

ヘタクソな英語で彼の代表作を誦じた。

昨日の彼の誕生日を祝いに来た者は自分だけのようだった。

清々しい気持ちである。


その後に冒頭の女性に声をかけられ、

今日も一日、ふんだんに人間を味わった。

来週はエジンバラに行く。今週はできるだけ大人しく

リーズナブルに過ごして、エジンバラに備えよう。

8/3(水)ダウスンの誕生日

2022年8月 3日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑この霊園のどこかにアーネスト・ダウスンは眠っている

昨日は収穫なし!
それなりにウロウロしてさまざまなことに手を出したが、
どうも決め手に欠いた。

早朝に日本とのzoom会議をし、
それからAlbanyでシニア向けWSに参加し、合唱の練習をした。
その後、久々に墓参りをしようと計画していた。

「風と共に去りぬ」「酒と薔薇の日々」という言葉を生み出した詩人
アーネスト・ダウスンの墓参り。私は15年くらい前に出た彼の短編小説の
ファンなのだが、彼がルイシャムで生まれ、死んだ人だと渡英後に知った。
生家のあたりも、亡くなった場所も、家から歩いて行ける距離だ。

ライムハウスというテムズ川沿いの街で家業の船着場を
営んでいたらしいが、ここも電車でよく通る。
仲間たちと遊び歩いたソーホーも、簡単に想像できるようになった。

さらに調べると、家から4キロほどの墓地に彼は眠り、
8/2が誕生日ということだった。普通は命日だろうが、
亡くなった2/23は過ぎてしまったから、ひとつ、誕生祝いを
してやろうと思ったのだ。ダイアンの庭からあじさいの花を一輪もらった。

しかし、午後に急に会議に参加することになり、
4時半頃にやっと劇場を出て5時過ぎに霊園に到着すると、
門はすでに閉まっていた。4時閉園なのだそうだ。早い。
そこから、多少はジタバタしたが、結局どうもにならなくて
仕方なく出直すことに。

それから、ロイヤル・アルバート・ホールに行った。
6月にオールドバラ音楽祭でパトリシア・コパチンスカヤの
ショスタコーヴィチ ヴァイオリン協奏曲1番を聴いて凄かったので、
同じ曲を違う団体と共演すると知って行ったのだ。

が、このホールはデカ過ぎ、しかも満員のために音響はさらにデッド。
BBCプロムスに集まるお客の騒々しさで、6月に比べるとかなり
貧弱で散漫なものになっていた。それでも、さすがは彼女の熱演で
多くのお客が熱狂していたけれど、やっぱりあの空間を牛耳ったとは
いえない出来だった。

というわけで、何か煮え切らない1日だった。そういう日もある。
それは分かっているが、期限付きの滞在においてはいかにも無念だ。

8/2(火)特別な夜

2022年8月 2日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑この大聖堂と奥にいる合唱隊が主役なのだ

先週末、7/30(土)は特別な日だった。
ちょうど渡英から6ヶ月。あと5ヶ月を残しているけれど、
こと音楽鑑賞に関してあの日を超える体験はないと思う。
そう断言できる。

2ヶ月前まで、Three Choirs Festivalそのものを知らなかった。
自分がロンドンで聴いて気になった団体がこれに参加すると
知ったところから、この音楽祭の存在を知った。

ヴァイオリニストのピーター・フィッシャーに訊いたところ、
歴史ある音楽祭らしかった。そして、名門フィルハーモニア管弦楽団の
一員として彼も舞台に上がることが分かった。

日曜の朝はWSだから、土曜日の最終日は立ち会うことができない。
そう思っていたところ、ピーターは「絶対に最後の夜のエルガーを
聴くべきだ。コンサートが終わったら、一緒に車で帰ろう」と
言ってくれた。別にエルガーを好きでもなく、聞き覚えのない
曲が演奏されるらしかったけれど、言われるがままに予約した。

↓ピーターよ、ありがとう。
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木曜に当地に行き、いくつものコンサートを聴くうち、
演奏の素晴らしさだけでなく、音楽祭のコンセプトもわかってきた。

イングランドとウェールズの間あたりに、
ウスター、グロスター、ヘリフォードという都市がある。
どれも大聖堂を持つ古い街だ。聖堂に合唱隊は欠かせない。
だから、合唱を主体にしたフェスティバルが始まった。
1715年にスタートし、各都市が持ち回りで会場となる。
だから、3年に1回わが街にやってくるのだ。

今年はヘリフォードという街が会場で、そこに行った。
面白いのは、アマチュアの合唱隊が舞台に上がることだ。
ただし、オケもソリストも超一流が集まる。
アマチュア団体が渡り合えるのかと思うけれど、渡り合う。
大聖堂のアコースティックが、彼らを支えている。

それに、8日間の期間中のラインアップがすごい。
1日のクライマックスを飾る曲目だけ並べるとこうだ。

7/23(土)ドヴォルザーク『レクイエム』
7/24(日)マーラー 交響曲4番
7/25(月)George Dyson『クオ・ヴァディス』
7/26(火)ハイドン『天地創造』
7/27(水)Richard Blackford『ピエタ』
7/28(木)Luke Styles『ヴォイス・オブ・パワー』(世界初演)
7/29(金)プーランク『スターバト・マーテル』
7/30(土)エルガー『ゲロンティアスの夢』

現代曲、新作、マイナー曲、何でも来いのラインアップ。
要するに2日目を除いて合唱隊はフル稼働。
メインじゃない演目の中に合唱曲が際限なくある。
教会だから、夕方のお祈りもこなす。

曲を覚え、歌いこなすだけでも大変なのに、
コンサートだから、当退場や演奏中の起立・着席・移動など
段取りも無数にある。それをみんながこなすのだ。

ものすごく厳しいことを言えば、アンサンブルやソロパートが
弱い時もある。けれど、大聖堂という音響装置が彼らを昇華させる。
何より、これだけの過酷な連続技をこなす彼らはゾーンに入っている。
一年をこの8日間のために研鑽しなければ不可能、
というくらいの音楽祭だった。

プロの力と、アマチュアの献身や情熱、
この場所でなければ!という音響空間とローカリティ、
それぞれの良いところが溶け合っていた。

最後の夜に演奏された『ゲロンティアスの夢』は、
死の恐怖に慄く爺さんが神に救われる、という『ファウスト』の
終盤だけをやるような物語だった。エルガーはこの地で全盛期を
過ごしたらしく、銅像もあった。
地元の人たちにとっては、このオラトリオはこの地が誇る聖曲らしかった。

教会だから、見切れどころか、ステージが完全に見えない数多くの席も
びっしりと超満員で、すごいひといきれだったけれど、みんな陶然として
聴いていた。合唱隊が、主人公を導く天使になったり、苛む悪魔になったり
しながら大活躍して、彼らが主役の音楽祭を表現を以って示していた。

終わった後、聖堂の中で、周囲の庭で、合唱隊も、演奏家たちも、
普段は近寄り難いソリストたちも、そこここでおしゃべりしていた。

音楽鑑賞に関して、このイギリス滞在の紛れもないピークだったと確信している。
あれから二日間。夜は家にいておとなしく本を読んでいる。
身体が余韻でいっぱいだし、お金もかなり使ってしまったのだ。

分厚い音楽祭のパンフレットを何度も見返している。
英語の歌詞を読んで、自分が聴いたものの意味をもっと知りたくなる。
特別な夜の力は、今も生きている。

↓ゲロンティアスを歌ったニッキー・スペンス。
強靭な声を生み出す体格だけでなく、ミサイルのような頭のかたちも凄い。
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8/1(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS 最終回レポート(中野)

2022年8月 1日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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3人のあやとりが広がっていく。友情に溢れたエンディング!
(撮影:伏見行介)

昨日は『蛇姫様 わが心の奈蛇』WSの最終回でした。
この大長編が、どうやって大団円を迎えるのか
10人で読み込みました。

物語は、ヒロインあけびの父親探しを基調にしています。
自分の父親は誰か。自分はどこから来たのか。

前回、バテレンが過去を暴きたてる場面をやりました。
朝鮮戦争中にアメリカ兵の引き上げ船「白菊丸」の中で起こった出来事、
そこに居合わせた人が誰で、あけびの母を集団で強姦したのは
誰だったのか。それが、あけびの父と思しき人物であるはずです。

本物の伝二が登場し、薮野一家が死に絶えていたことが知れると、
これまで伝二を騙っていた男は李東順(り とうじゅん)を名乗ります。
薮野一家の面々もニセモノが居座っていたと暴露される。

ここからが昨日のシーン。
まず、あけびが畳み掛けます。
肝心の部分がハングルで書かれた母シノの日記を読み解けば、
李東順を名乗り、薮野一家だと言い張る男たちは朝鮮人かと思いきや、
そうではなく、彼らもまた日本人だというのです。

このあたりの事情が込み入って非常に分かりにくいとWS参加者から
問い合わせがあったので、よく整理をして重点的にやりました。
こういう質問というか、オーダーは、こちらも助かります。
細部をいい加減にせずに、まずは筋立てて考え抜くことが大切です。

整理しながら、
朝鮮戦争が起こっていた1950-53年に朝鮮半島から15歳で引き上げて
くる日本人がいるとすれば、それはもう太平洋戦争の残留孤児に
違いない。そういう推理を立てました。

・・・が、唐さんはこの問題に回答を与えていません。
突き詰めて考えていくと、伝二を騙り、李東順を名乗る男、
あけびの父親らしきこの男が何者か、決定的な尻尾が掴めない。

朝鮮人かと思いきや日本人かも知れない。
しかし、やっぱり究極的な正体が判らない。

・・・だから彼は「蛇」なのです。正体不明な「蛇」なのです。

考えた末に、
「蛇」は「蛇」であり、「蛇」は「謎」である、
と今回は結論づけました。

あけびの父親は巨大な「謎」なのです。
これはなかなか唐さんの素敵なところだと感じます。
「蛇」で強引に押し切る。考え抜いて尚、辻褄を合わさせない。
これでいい。これがいい。

結局、この謎の男は大蛇になって天に逃げました。
かなり破天荒で強引な幕引きです。スペクタクルを駆使して、
強硬に逃げ切っている。だからあけびの謎は解けずじまい。

あけびも小林も落ち込みますが、
最後に、もう一度まむしに噛まれたタチションを、
あけびは再び身を挺して救います。

目標の探偵事務所取得は遠ざかる一方ですが
小林はあけびを励まし、あけびはタチションと3人で事務所を
やろうと提案します。これで、タチションを加えたトライアングルが
完成します。

最後は、1幕で小林とあけびの出会いのきっかけになった
スリのやり合いを、今度は3人でやってエンディングを迎えます。
皆、スリへの用心のために赤い紐をつけているから、
3人を頂点に、赤い紐はキレイな三角形を描く。

この物語は終始、どこか子どもじみています。
「お姫様ごっこ」を思わせるのどかさで全体が進行する。

大人の男女関係や友情は複雑ですが、
3人は子どもの世界に生きてるからこそ、このトライアングルが可能です。
友情パワーにより、唐作品の中でもかなり幸せいっぱいのエンディング。

三ヶ月かけてやってきた長編もこれでおしまいです。
皆さん、ありがとうございました。
唐ゼミ☆にとってかなり手応えの大きかった作品なので、久々に思い出しました。

来週から10月の半ばまでかけて『黒いチューリップ』をやります。
唐作品の中ではそれほど有名な演目ではありませんが、
唐十郎流に「引きこもり」を追究する物語です。

蜷川幸雄さんと行ってきた一連の作品群の最終形でもある。
ポップで面白い台本です。ぜひ参加してください!

7/29(金)ヘリフォード〜ラドローへの旅

2022年7月29日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑ヘリフォード大聖堂


昨日から旅行している。ロンドンに戻るのは日曜の早朝。

英国の真ん中あたり、ヘリフォードという街を中心に

行われている"スリー・コーラス・フェスティバル"にやってきた。


この音楽祭、

これまで全く知らなかったが300年以上の歴史を持ち、

周辺の3つの都市が持ち回りでメイン会場を受け持つことから、

こういう名前だという。当然、コーラスに力を入れている。


これに興味を持ったのは、

前にウィグモア・ホールで聴いたフレットワークという

ヴィオール集団がきっかけだった。

面白いと思った彼らがこのフェスに参加する。


それでフェス自体が気になるようになり、

ピーター・フィッシャーにどんなものか問い合わせたところ、

彼もフィルハーモニア管弦楽団の一員として当地に逗留、

演奏を連続的にするということだった。


こういう話を聞く過程で、メインが合唱ものだとわかったし、

スケジュール的な事情もあって、当のフレットワークは諦め、

フェスティバルが最高潮に達する最終3日間を狙うことになった。


問題が多かったのはホテルの予約だ。とにかく予約が取れない。

超高額か、車移動なら宿泊が可能なテント泊というのを音楽祭が

推していた。それとて、結構な値段だ。


考えてみれば、ヘリフォードの人口は5万人。

そんなところに普段からたくさんホテルがあるわけはない。

それに、出演するミュージシャンたちが先に近場を押さえている

に違いない。そのような事情から、自分が泊まるのは電車で

30分ほど移動した先にあるラドローという街に落ち着いた。

こちらは人口1万人強。さらに田舎だが、古城で有名らしい。


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↑ラドロー城


まずはラドローに着いて古い城を見物してから、

ホテルにチェックインして荷物を置き、ヘリフォードに来た。


ラドロー城は良かった。先日に観た『リチャード3世』。

あれに殺されてしまう二人の少年王子が出てくる。

兄の方が、主人公であるグロスター公リチャードの兄

エドワード4世の長男にあたる。


彼はこのラドロー城で帝王学を学んでいたところ、

父の死の報せを受け取り、王位を継承するためにロンドンに向かった。

そしてロンドン塔に幽閉され、例の叔父さんによって殺されてしまう。


また、『ヘンリー8世』で離婚させられてしまう賢妻のキャサリン。

あの人もこの地の出身なんだそうで、なかなか高貴な場所のようだし、

実際に行ってみて、その雰囲気はかなり伝わってきた。


そしてヘリフォード。コンサートのメイン会場である大聖堂の立派さ。

これは規模と美観において、渡英以来随一と断言できる。

こんな田舎に、忽然とこんな立派なものがあるなんて。


そういえば、神奈川県には寒川神社がある。

相州一宮というくらいだから県内で格式が高さは抜きん出ている。

そして寒川町はこの神社を頂くことで、横浜市民の私から見ても、

かなり自信満々な感じがするのだ。


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↑寒川神社(去年の12月)


似ている。


ちょっとした中庭なども古い建物と植物が一体になり、

よく手入れされていて抜群に美しい。

フェスティバルのために周囲に建てられた運動会用テントや

仮設トイレは美観を損なっているけれど、それにしても壮麗だ。


帰るのは日曜の早朝。あとまるまる二日間、滞在する。


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↑ヘリフォード大聖堂のコンサート開演前

7/28(木)パーセルの職場②

2022年7月28日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑ウェストミンスター寺院は11世紀に造られた。パーセルが生きた

時点ですでに500年の伝統を持っていた


ヘンリー・パーセルの生没年は1659-1695年だから、

約36年の短い生涯だった。

衛生環境、医療、栄養、あらゆる条件が劣悪だったから、

子どもが成長するのが大変だった時代だ。

実際、パーセルの子どもたちは1歳に満たず何人も亡くなった。


彼の父親もウェストミンスター寺院に勤めた音楽家で、

ヘンリーの息子も同様だったらしい。職業選択の自由はない。


面白いのは、要するに国家公務員的ミュージシャンである

彼の一生が条件闘争の連続だったことだ。

さして多くはない給料はすぐに未払いになる。

さらに、国王に随行して音楽演奏する際、移動費が自費負担に

ならないよう交渉したともいう。

つまり、それまでは出張費を自分で出していたのだ。

出かけたがるのは王様なのに、あまりに理不尽だ。

このように、当時の労働条件はなかなか過酷だったらしい。

制服にあたる衣裳が擦り切れると、これを新調するための折衝が始まる。


17世紀後半といえば、エリザベス1世の統治時代を経て、

国王が斬首されたクロムウェルのピューリタン革命も乗り越え、

王政復古がなされた時代だ。王室の財政も不安定だった。


王が旅先から帰ってくる時、パーセルは様々な詩人の詩に曲を

つけて王を迎えた。オード(頌歌 しょうか)というやつだ。

くだらない詩もあれば、優れた詩人の作もある。


それからもちろん、教会でのセレモニーのために

アンセムをつくった。讃歌とか祝歌とかのことだ。


今回のロンドン滞在中、

沢山の教会のイブニング・コラールに参加してきた。

オルガン演奏からスタートし、開会の挨拶、懺悔の言葉、

ここから合唱と神父(牧師)や会衆(氏子総代?)による

詩篇朗読が繰り返される。合唱団と神父さんが対話的に

歌う時もあって、まだ規則性や手続きの順番を完全には

掴み切れていない。


こういう時に立つ。こういう時は座る。

こういう時はひざまづく。一緒に歌を歌う。

最後に寄付を(自分はほんの少し)する。

全部見よう見まねで、ワタシは外国人です!

という空気を振り撒きながら参加している。


いずれ立派に手順をこなせるようになってから帰国したいけれど、

この時点でも、パーセルが何のために曲を作り、オルガンその他の

楽器を演奏し、時にはバスとカウンターテナーで歌ったのかが

想像できるようになった。


彼は一生をずっとウェストミンスターの周りに住み、職場とした。

ロンドンを離れるのは国王の随行時だが、上記のことから想像するに、

そんなに生やさしいものではなかっただろう。

食事中の演奏を所望され、聴いても聴いていなくも演奏し続ける

という習慣が当たり前だった時代だ。


パーセルは劇場用の曲も作ったから、これまではそちらに惹かれてきた。

『ディドとエネアス』の他に、『妖精の女王』『アーサー王』

『テンペスト』『インディオの女王』などを好きで聴いてきたけれど、

今回の滞在を通じてオードやアンセム、王や女王の死に捧げた葬送曲を

もっと聴いてみたくなった。


作曲の経緯が経緯だから、似たり寄ったりの曲がたくさんあって、

駄作も傑作も入り乱れているらしいけれど、とにかく聴いてみたい。

生で聴いて、録音で確認して、そういう繰り返しの残り5ヶ月に

なると思う。

7/27(水)パーセルの職場①

2022年7月27日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑ようやく訪れたウェストミンスター寺院の入り口で

ロンドンに住んで足跡を訪ねてみたい人が何人かいる。

①ウィリアム・シェイクスピア(劇作家、俳優)
②ウィリアム・ブレイク(詩人、画家、彫版師)
③レジネルド・グッドオール(指揮者)

そして、④ヘンリー・パーセル(作曲家)である。

もともと、パーセルのことは、
横浜国大でお世話になった茂木一衛先生に教わった。
先生は私が大学入試を受けた時の面接官の一人で、
おかげで唐さんに師事できたと思っている。

だからという訳ではないが、先生の退官講義の時にはお手伝いを
させてもらった。そしてその講義についてあれこと打ち合わせする中で、
『ディドとエネアス』というオペラがあることを教えてもらった。

それから幾つものCDを聴いて、今をときめく
テオドール・クルレンツィス指揮のものを気に入った。
彼の指揮もさることながら、ヒロインのディドを演じる
シモーネ・ケルメスという歌手に惚れ込んでしまったのだ。

唐さんはよく、歌いすぎたら語れ、と言う。
せりふが流暢になってくると、ついつい歌い上げてしまう。
劇中歌もやはり、メロディに飲まれて歌いすぎてしまう。

それでは良くない。
それでは、言葉が言葉としての意味や魅力を失ってしまう。
役者の喋り方、歌い方というのはやっぱり言葉が基本だ。
優れた役者はリズムは韻律を持って聴かせるものだけれど、
心地よいだけでなく内容が観る人の胸に迫るためには、
語ることが必要なのだ。

そこへいくと、このシモーネ・ケルメスという人の在り方は
そのお手本のような感じだ。確かに歌っている。
けれども、まるで話すように、喋るように歌うのである。
メロディと詩が一体になって攻めてくる。
だから、いつか彼女の実演を聴いてみたいと思い続けている。

で、ヘンリー・パーセル。
先日、椎野からパーセルの伝記を含む荷物が届いた。
数年前に、神田の中古レコード屋で見つけて買ったものだ。
渡英前に日本でも読んだけれど、正直あまり面白くなかった。
彼が生きた17世紀後半のロンドンや教会がまったく想像できなかった。
内容が入ってこなかったのだ。

が、今はこれがめっぽう面白い。ロンドンに住んで多くの教会に行った。
コラール・イブニング(夕べの祈り)に行くと、本当に珍しい合唱や
オルガン曲が山のように聴ける。しかも、ところによっては無料。

メディア的に有名な音楽家でないにせよ、
腕達者なオルガン奏者や歌手がゴロゴロいて、しかも、
教会建築という音響装置にかかると、その魅力が何倍にも増幅される。
そうこうするうちに、本に書かれているアンセムやオードが
どういう歌で、教会のオルガニストがどういう仕事か、
体感的に想像できるようになってきた。親しみが湧くようになった。

パーセルはイギリス王室の寺院であるウェストミンスター周辺で
生まれ、暮らし、この寺院を職場とした。

長くなったから二日に分けよう。
また、明日。

7/26(火)幾多の空間を巡る二つのフェスティバル

2022年7月26日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑少年少女のためのプレイグラウンド。日本だったら"危険"とみなされる
に違いない。

今、馴染みのカフェDeli-Xで暗然としてこれを書いている。
長らく愛用してきたリュックサックのジッパーが壊れたのだ。
これは、椎野が彼女の父からプレゼントされたもので、
それを借り続けているうちに自分のものになった。
5年以上は世話になってきたと思う。それが、ついに壊れた。

英国に来て以来、特に荷物を満載にする機会が多かったのが
負担だったのだと思う。ダイアンに訊いて、修理してくれそうな店を
何軒か訪ねたが、いずれも無理だと言われた。残念だが仕方がない。

週半ばから遠出するし、アウトドア系の店で大きくて丈夫なやつを
買いたい。都心のあたりでセールとかやっていれば良いが。

ところで、先週末のAlbanyは壮絶だった。
二つのフェスティバルに同時開催するというスタッフ泣かせの
スケジュールが強行されたのだ。

一つは、"Liberty Festival"。
ロンドン市長の肝入りで予算がついた障害者のための祭典だ。
パフォーマーたちは皆どこかに障害がある。彼らによる表現を
立て続けに観せようという企画だ。
どのプログラムも周到に組まれたスタッフワークがあって見事だった。

自分の観たものを挙げると、

①2038年時点の地球の環境破壊をSFテイストで物語る、知的障害者たちに
よる自由奔放な野外劇。その完璧なコスプレの絶叫の破壊力。

②芝居がかったガードマンの案内で、音楽学校の教室を巡りながら
聾者、聴覚障害者、少年たちのダンスを見て回る移動型上演。

③車イスの男性ダンサーと、その上に乗った女性ダンサーの
アクロバティックなダンス。また、雲梯を駆使して足の不自由なダンサーの
上半身のパワーを最大限に活かした振り付け。

④義足の女性ダンサーが複数の義足や車イスを操りながら見せる
脅威のスローモーションを展開。

⑤トランスジェンダーかつダウン症のコスプレ5人チーム
その名も「ドラッグ・シンドローム」による歌とダンス。

⑥車イスと聾者の女優二人が、映画俳優としてデビューする過程を描く
ストレートプレイ。

⑦劇場周辺の高架下などで、瞑想やフォークソングをくり広げる
視覚障害者のためのお散歩企画

⑧稽古場に完全なリラクゼーション空間が出現し、そこで全ての人々を
リラックスさせる瞑想企画

など。全ての企画に立ち会えた訳ではないが、粒ぞろいだった。


そして、二つ目はルイシャム地区が主導する"Climate Home"。
これは、温暖化をはじめとする異常気象を強く訴える
青少年たちのプログラムで、この夏いっぱいをかけて開催される。
そのフェスティバルのオープニングが、金曜に行われた。

会場が実にユニークで、学童のプレイグラウンドなのだと説明された。
木で造られた要塞のようなアスレチック群の真ん中に、そこだけ屋根の
ついた野外ステージがあり、観客は好きな場所に腰掛けたり、
スタンディングで見る。

ダンスや歌などもあったが、一番見事だったのは
10歳くらいの少年少女がひとりずつ披露するポエトリーだった。

自身の主張を詩に変え、これを謳いあげることに
日本人は馴染みがない。しかし、こちらの人々は実にこれを巧みに
実践し、また聴き手としても喝采を送る。さすがシェイクスピアの国だ。

少年たちはまったく臆することなく、自作の詩を韻律に乗せて披露していく。
そして高らかに歌い切った後は、拍手を浴びて興奮のあまり
アスレチックを駆け回っていた。

チームに分かれて運営に奔走しているAlbanyスタッフが心配になる
企画数だが、内容だけでなく、さまざまな空間を新たに発見できた
という意味でも、面白い体験だった。
これらは公金を投下し、入場料無料でやっている。
だから、思い切った実験的企画が多かった。

お金を稼ぐための企画、地域貢献のための企画、
CEOギャビンによる切り分け、メリハリの付け方が見事だと思う。

唐ゼミ☆で野外劇をやったりした際、いつも空間を探してきた。
日常の中にハッとさせられるような場所はあるものだ。
そういうことを知っているから、よりAlbanyの面白さが分かる。

けれど、同じように問題があって、
こういうもので収益を上げたり、芸術として評価したり、
批評を得るのは難しい。そういう話を、チーフプロデューサーの
ヴィッキーとした。面白いけれど、ロイヤル・オペラ・ハウスや
ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーと同列に語られない。

あるいは、同列に語る必要がない、という違う評価軸が整っていない。
これからの仕事である。

↓野外でリサイクルの重要性を訴える、その迷いない力強さ。突破力。
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7/25(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS 第13回レポート(中野)

2022年7月25日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note Posted in 唐十郎戯曲を読む『蛇姫様 わが心の奈蛇』

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↑本物の伝治が登場して、ニセモノが暴かれる。胸には骨壷。

その中身は本物の薮野一家の骨。しかし、こんな格好で働いている人は

この世にいないだろう。これも唐十郎流のギャグ(撮影:伏見行介)


昨日は『蛇姫様 わが心の奈蛇』WSでした。

謎解きが立て続けに展開し、劇の興奮が高まっていくシーンです。

唐さんの筆も乗っているし、その勢いに任せて読んでいけば面白い。

けれども、ところどころ、唐さんの強引すぎる設定を味わいながら読むと

さらに面白い。もちろん、唐さんは、そういうことをわかって書いています。

辻褄の合わなさをシャレにして笑い飛ばしています。


まず、二つの映像を見るところから始めました。


天知茂主演 明智小五郎VS怪人二十面相の予告編

https://www.youtube.com/watch?v=DU2nSdNmYY4


片岡千恵蔵主演 多羅尾伴内シリーズ 正体を明かす場面

https://www.youtube.com/watch?v=xkheg50m3rw


これらを観ておくと、唐さんが思い描いたノリや

造形がよく見えてきます。両作とも、演技が二枚目すぎて笑いの域に

達しているので、おもしろ動画としても楽しめます。


その上で、


ドラゴン=鏡 という引用元不明の理論。

小林と伝治の対決による、小林の敗北。

バテレンの加勢が序盤。


というシーンが展開。


そしてここから、バテレンの壮大な謎解きが始まります。

まとめてみると、


①伝治はニセモノである

これまで伝治を名乗ってきた男はニセモノだと暴かれる。

彼は白菊丸に乗って密航した男で、当時は12歳。

シノが輪姦されるのを見ていたに過ぎない。

ちなみに、バテレンは従軍牧師として乗船していた。


②本物の"伝治"は日本人

小倉で乳飲み児(あけび)を抱えた恩人

シノを世話した。その東京に出て薮野一家の居候をしていたが、

脳卒中で倒れ、今は半身に障害を抱えてバスの整理係をしている。

シノが送った写真を、自分のニセモノになる男にユスられる


③薮野一家もニセモノである

大きい兄ちゃん(蛇)、文化や青色申告、知恵も密航者。

三年前に死に絶えた床屋の薮野一家を乗っ取った。

内縁は、もともとの薮野一家で生き残ったお婿さん、

だから文化たちを恐れている。


④白菊丸で起こったこと

シノが輪姦されたことは間違いない。

しかし、ニセモノ伝治が加わっていたかは不明。

バテレンは、当時12歳だった少年にそれは無理だという。

一方、ニセモノ伝治本人は満15歳だったと主張。

そのため、相変わらず自分はあけびの父親かも知れないと強硬に主張。

真の名前は「李東順(りとうじゅん)」

※唐さんによる「李東順」という名の引用元は不明



・・・と、このように、さまざまなロジックが展開します。

シリアスとコミカルが激しく交錯して、真剣なのかふざけているのか

分からないのがポイントです。劇的なやり取りが連続しながら、

あけびの出生がますます謎めいたことは確かで、

だからこそショックを受けた彼女は三度目の癲癇の兆候を見せます。


次の7/31(日)で最終回。かなりの力技で大団円に突入します!

7/22(金)デビットカード始末記

2022年7月22日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑間違いはここで起きた

ロンドンで生活することを本気で想定し始めたのは年明けだった。
呑気なものである。1/31渡英が決まっていたものの、
用意されているのは文化庁が用意してくれる航空券のみで、
ビザが降りたのが1月半ば、渡英後に宿泊するホテルの予約を始めたのも
同じ頃だった。

他にも、コロナ対策として、
パッセンジャー・ロケーター・フォームの記入とか、
ホテルに政府公認の抗原検査を送るとか、さまざまな手続きを
すべて松の内があけてからの同時期に仕留めたと記憶している。

デビットカードの存在と重要性に気づいたのは、
1/20前後だった。それまで、海外に長期滞在する経験の無い私は、
自分の手持ちのキャッシュカードは、世界の大都市のどこでも
通用すると思い込んでいた。

2種類を愛用しているうち、横浜銀行はややローカルだが、
UFJはメガバンクだ。ロンドンはほとんどキャッシュレスと聞いていたし、
たまにおろせばいいんだろと高を括っていた。

しかし、何かの拍子に知ったのである。
ロンドンでは国産キャッシュカードによる引き出しができない。
デビットカードというものが必要だ、と。

早速に申し込んだ。
出国までに届かなければ、荷物と一緒に送ってもらえればいいやと、
この後に及んでも軽く考えていたが、果たして6日ほどで
ピカピカのカードは届き、晴れてデビットカードを持って
日本を出られることになった。

結果的に、これが功を奏する。

床屋とか、カレー屋とか、こちらでも稀に現金のみの店がある。
もっとも重要なのが、ダイアンに家賃を払う時だ。
彼女の主義は、ニコニコの現金払いなのだ。
もちろん、当初は彼女の家に居候することになるとは知るよしも無い。

で、先週の日曜である。
オペラのマチネを観た私は、いつもの電車を乗り継いで
上機嫌で帰ってきた。こちらでは滅多に昼の公演を観ない。
だから、帰り道にまだ陽が高いのが嬉しかったのだ。

調子付いた私はATMに立ち寄ることにした。
そろそろ月末、来月分の家賃をおろしにかかったのだ。
ところが、スムーズにお金が引き出せない。

こちらのATMは色々と質問してくる。
言葉は何が良いか、とか。
手数料に納得できない点があるか、無いか。
レシートが要るか、要らないか、などと。
その日に選んだ機械は妙にしつこかった。

これらの質問が煩わしく感じながら操作するうちに、
私は自分が使っているいくつかのパスワードのうち
間違った方を連打してしまった。結果、お金が引き出せない。

まあ、連続でミスったから、時間を置くか、
悪くても翌日にトライすればいけるだろうと、その日は諦めて帰った。
そして翌日にもう一度試す。が、このカードは使えない、の一点張り。
別のATMでも同じ反応だった。

仕方がないので日本に電話すると、
「暗証番号番号の誤操作が続いたので、ロックしました。
これを解除するには、ご本人様が帰国後に直接、銀行に来てください」
ということだった・・・

対応窓口の女性の声が持つ、圧倒的な機械的物言い。
ラチがあかないことは明白だった。

・・・というわけで、渡英前にテキトーに作って、
2月に横浜の家に届いていたネットバンクの口座のデビットカードを
椎野に送ってもらうことにした。

ここにもいくつかのハードルがあって、
いくつかの郵送サービスのうち、最も速いものに限ってこういった類の
カードや重要書類が送れないとか、あらゆる郵送物に戦争の影響で時間が
かかるかと、クレジットカードからチャージしたお金は買い物はできるが、
現金をおろすことができない、とか。

要するに、このネットバンクの口座に、他の口座から振り込みを
行った金額のみ現金化できる、というルールがあることがわかった。
椎野にも迷惑をかけながら試行錯誤して、やっと目処がたったけど、
手元にカードが届くのは半月くらい先になりそうだ。

それまで、ダイアンに家賃の支払いを待ってもらっている。
ごめんよ、と言って、彼女の好物のスモークサーモン550円相当を
渡したら喜んでいた。

7/21(木)テンプル・チャーチに行ってきた

2022年7月21日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑テンプル・チャーチにて。会が終わったあとはワインが振る舞われた

昨日はぐっと気温が下がって最高でも30度いかないくらいだったが、
寝ようとするとじわっと自分の体が熱を持っていることに気づいた。
日焼けだ。日本にいた時みたいに窓を開けっぱなしにして
寝たいところだが、それはダイアンによって禁じられている。

うちは一階にあるので、セキュリティを慮ってのことだ。
暑くて寝られないというほどではないが、
朝起きて、窓を全開にした。そしてこれを書いている。

昨日はせわしなかった
学校→WS"Moving Day(シニアたちの街頭劇創作)"
→New Earth Theatreのクミコさんに会う
→テンプル・チャーチでコラール・イヴニング(夜の讃美歌)参加
→帰り道に電車を間違えて、かなり時間をかけて帰る
→その間にひたすら本を読む
という具合だ。

WSのシニア参加者の出席率は半分以下だった。
まだ外出への警戒が解かれていない。が、秋の本番に向けて
配役の発表がなされ、外部から参加する若手の役者も加わって、
稽古の密度が明らかに上がった。
役が決まったことによる興奮が伝わってきた。

その後、New Earth Theatreのクミコさんに初めて会った。
6月に『ソニック・フォー』という、ベトナム料理を食べながら
在英ベトナム人の語りを聴くというユニークなイベントに参加した縁で
「会って話をしましょう」と声をかけて頂いた。

初対面だったけれど、一所懸命しゃべってお互いの興味を理解し、
今後、さまざまな案内をくれることになった。
ちなみに、彼女のお母さんが日本人とのことだったが、
日本語は喋れないそうで、もちろん英語で頑張った。

そして、走ってデプトフォード駅に行き、
電車でブラックフライヤーズに移動。テンプル・チャーチまで急いだ。

夕方のお祈りは18:00から。別に信心はないが目的は二つ。
教会建築を見ることと、声楽曲を生で聴くこと。

今回は大当たりだった。「ロンドン 教会」とググると、
ウェストミンスター寺院、聖ポール寺院と並んでここが出てくる。
建築的にかなり立派だったし、合唱団のレベルが高かい。

女声4人による完璧な倍音と教会の反響で陶然としたり、
カウンター・テナーまで擁しているのに贅沢を感じた。
帰りがけに知ったが、英国のレーベルからいくつかCDも出ている。
ウィリアム・バード、パレストリーナ、バッハの音楽を聴けた。

セレモニーが終わると神父様(プロテスタントだと牧師様)の
話がある。何軒もの教会の儀式に参加して気づいたが、
どの人も必ずスピーチで笑いをとる。彼らの人格の柔和なこと。
笑いの基本である緊張と緩和の典型例だということでもある。

かのテンプル騎士団によって造られたという教会の内部には
展示コーナーも充実していて、見応えがあった。
もちろん、テンプル騎士団といえば、唐さんの劇『河童』を
思い出す。テンプル騎士団が天ぷらを揚げるというシーンがあった。

開催時間1時間という軽めの鑑賞体験だったから読書がはかどった。
『ユリシーズ』3巻目を読み終わって、いよいよ最終4巻だ。
週末までに読み終わりたい。

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7/20(水)山火事も自然発生

2022年7月20日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑22:15開演→23:00終演という大人の集まりだった。帰りは涼しかった。


昨日は火曜日恒例のWS"Meet Me"だったが、オンライン化された。

最高気温40度というあまりの高気温であったために、シニアたちに

とって劇場に来るプロセスそのものが危険と判断されたためだ。


そこで、スカイプによる電話ミーティングが繰り広げられた。

要するに、ビジュアル無しでグループ通話をしたのだ。

Zoomやモニター付きの会議でないのは、

シニアたちのメディア環境に配慮してのことだ。

みんな、電話には慣れている。


結果的には1時間以上も話していたために、

皆さんの腕や耳が疲れないか心配したが、それは大丈夫だそうだ。

このあたり、パンデミックのロックアウトの経験が生きている。


話題として、来年の"Meet Me"10周年をどう祝うかが

話し合われた。そう。この企画が誕生してから、間も無く

10年が経つのだ。参加者たちから次々にアイディアが出て面白かった。


・それぞれの家族を巻き込みたい

・それぞれの出身地・出身国の特色を出したい

・お世話になってきたボランティア・スタッフにお礼がしたい

・これまでを振り返るレトロスペクティブがやりたい  など。


初めてこの企画に誘われて参加した時のエピソードを

話し始めるシニアもいて、感慨深い話し合いだった。

10人強のメンバーずつ、2グループに分かれて、

約1時間ずつ行われた。


その間、私はずっと家の、自分の部屋から会議に参加していたが、

今日はダイアンの友人一家が泊まりがけで遊びに来る日で、

隣の部屋でパーティーめいたランチが繰り広げられた。

休憩時間にあいさつした。


会議を終えて近所に買い物に出た。日用品を買う。

あまりの直射日光と気温だから、日本から持ってきた

善光寺の笠を付けた。


買い物をするたびに店員に話しかけられるので、

これは日本の風習であると伝えた。我が国ではみんな被っている。

夏の常識である。特にこのモデルは最近の流行りである。

という具合だ。


それから、ベトナム料理屋にも行った。

ベトナムには似たような笠「ノンラー」があるから

親近感があるらしかった。米食民族同士、親しみが湧くのだ。


そして、このままBBCプロムス行く。

ハーフパンツに善光寺笠だが、やむを得ない。

昨日、ロイヤル・オペラ・ハウスでハーパン・Tシャツを

何人も見かけたので、強気である。

カジュアルにクラシックを愉しむ。それがBBCプロムスなのだ。


郊外に住むミミの家の近所では、山火事が自然発生しているらしい。

7/19(火)ロンドン沸騰中

2022年7月19日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑暑さがもっとも伝わりやすいからこれを選んだ。撮影は先日の土曜


日本の終戦記念日を思わせる暑さである。

快晴。真上から直射日光が照りつき、影が短く、濃い。

40度近くまでいっているらしい。おかげで街から人がいなくなった。


ロンドンは涼しいと思い続けてきたが、今週は暑さのケタが違う。

当地に住む人たちにとってみれば、これは異常事態のようである。

この気温は、仕事を休むに足る立派な理由だそうだ。

そのようなわけで、今日はWSも打ち合わせもキャンセルされ、

午後はフリーになってしまった。


お金持ちは都会を離れ、所有するカントリーハウスに行ったという。

9月を以って任期を終えるボリス・ジョンソン首相も例外ではなく、

自身の別荘で、お得意のパーティーをまた開いたらしい。


コロナ禍の度重なるパーティー開催により国民感情を逆撫でした彼は、

すこしも臆することなく昨日もこれを続けている。筋金入りのパリピ。

本気になって怒っているイギリス人には言えないが、

私はそんな彼が嫌いではない。


皆の家は暑くて仕方ないという。

学校も、劇場も、両方の友人たちが口々にそう言う。

暑くて寝られない、昼間は家にいられない、そういう状態らしい。


ところがダイアンの家は、冷房もないのに何故か涼しい。

分厚いレンガの壁と、二重サッシのおかげだと思う。


ここにきて、都心の居心地が良い。

普段は人で溢れかえっているのに、何しろ人がいない。

閑散としていて気持ちが良い。暑いことに違いはないが、

自分の地元、あの蒸し蒸しする名古屋と同じくらいだと思う。


Albany近くのカフェでミネストローネを食べ(夏野菜!)、

馴染みのパイ&マッシュの店でサイドメニューである

ジェリード・イール(うなぎ!)のみをオヤツに頂く。

そういう充実の食事を摂って、今日もロイヤル・オペラ・ハウスへ。


演目は『オテロ』。

私が買ったのは2,000円程度の立ち見席だが、

お金持ちたちは15,000〜30,000円くらいの席を軽々と放棄する。

必然、私の目の前には幾つも空席が現れ、開演と当時に、

これにサッと座るのがロンドン流。


日本では考えられないが、より良い席が空いていた場合、

こちらの愛好家たちは躊躇なく席を移り、

よほどマナーが悪くなければスタッフがこれを見咎めることもない。


むしろ、幾つかの劇場では、最安席に座っている人を、

案内係が率先して前に移るよう促してくることすらある。

ルーズというか、余裕というか、ロンドンはゆるい。


とここまでが昨日のこと。

今日の気温は41度まで上がると言っている。観測史上、最高だそうだ。

7/15(金)夏の雑感

2022年7月15日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

シェイクスピアの故郷を旅行して気づいたのだが、

Tシャツの数が足りない。私は毎週土曜日に洗濯することにしている。

が、手持ちの半袖が6枚しかない。


これまでは必ずに肌寒い日があったのだが、

遠出の時には洗濯日もズレ込むだろうし、余分も持って

おいた方が良い。というわけで、Tシャツを買い足した。


場所は気に入りのルイシャム・ショッピングセンター。

カフェやレストランが高いイギリスだが、服は高くない。

増して貧しき者の味方のルイシャム地区なので、

良いものが買えた。


しかし、英国ではほとんどのTシャツが柄モノかロゴ入りだ。

私には、どこのブランドやメーカーか分かるものを着るのが恥ずかしい。

やっと無地を見つけたと思っても、胸にポケットがついている。

Tシャツの左胸のポケットに何か入れている人を

私は見たことがない。あれは、なんのためについているのか。


さすがのロンドンも暑くなり、30度を超える日が頻発するように

なった。それに伴い、ダイアンが庭の植物を心配している。


最近の私は、通学前にアジサイに水をやるようになった。

根っこの部分だけでなく、葉っぱや花びらの部分に上から水をかける。

日本ならば根腐れするほどの量を容赦なくかける。

それでも、あっという間に乾燥する。これが英国の気候だ。


語学学校では、トルコ人の女子がやたらと話しかけてくるようになった。

彼女の上半身は常に水着のような格好だが、手にはいつも毛皮の

カーディガンを持っている。暑さ寒さに極端で、中間部が全くないのが

面白い。露出度の高いロンドンの人々の中でも、彼女の極端さは

際立っている。


辛いものが食べたくなってインド料理屋に行くと、

今日は店員だけでなく、オーナーもいるのを発見する。

彼は面白い人で、店に入る時、食べ終わって出る時、握手を求めてくる。

今日はアレが美味かったと伝える。インドの梅干みたいなやつを

付けてくれるようになった。暑さの分だけ、美味く感じる。


バケーションを重視するヨーロッパ人にあって、

今年のAlbanyは特殊だ。一年間のフェスティバル期間中、

夏が最盛期なので、フル稼働する予定なのだ。


今日も目前のイベントへの準備が優先されて、定例会議が中止になった。

皆、顔を真っ赤にして働き続けているが、土台、働き方に対する

意識が進んでいる分、この先、誰かが音を上げるのではないか。


野外イベントが増えるに伴い、

私が渡英時に持ち込んだ善光寺笠の出番が迫っているのを感じる。

あれを日本で付けているとたいそう目立ったものだが、

こちらでは大したことがないように思う。


人種だけでなく、人々の格好も、こちらはバリエーション豊かだ。

7/14(木)修学旅行の思い出

2022年7月14日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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奥さん、アン・ハサウェイの実家。目下読んでいるジョイスの

『ユリシーズ』では、彼女は徹底してエロ女扱いを受けている



いま思い返してみると、

ストラトフォード・アポン・エイボン行きは完全に修学旅行だった。

だいたい、修学旅行生が多い。あの様子はおそらく中学生だろう。

街に溢れかえっていると言って良いレベルだった。


私もベタなコースを回った。

シェイクスピアの生家、彼が成功者として買った屋敷跡。

勉強し、初めて旅回りの劇団の芝居を見たという学校。

友人たちの家の跡、埋葬された教会、奥さんの実家。

こんなところだ。そしてエイボン川に浮かぶ白鳥を眺め、

川沿いを歩く。


必然的に、どこもかしこも修学旅行の群れ。

彼らのほとんどはシェイクスピアに興味無いだろうが、

イギリス人はこうして国民作家に通じる教養をインプット

されるのだ。私たち日本人が誰でも奈良の大仏を知っているように、

彼らはいくつかの劇のタイトルを言えるくらいに仕込まれるのだ。


ケータイでシェイクスピアが育った家を撮影していたら、

「私たちのことを撮っているでしょ!」と女子中学生に

怒られたのも面白かった。イエゼンタイヲトリタイ、と

訴えてどいてもらった。


あと、学校の案内をしてくれたおじいさんが熱心すぎて

大幅に時間を取られてしまったこと、それと、

昨日、水曜日は特別に教会の営業時間が短く、

結果的にシェイクスピアのお墓参りができなかったのは残念だった。


ウィリアムと妻アン、二人の実家の距離感や、

ともにお金持ちの出であったことを実地に確認できたのも良かった。

そういうことは、彼の描く恋愛に、必ず反映されてしまうものだと思う。


予約した安めのホテルは居酒屋の2階で、

それだって物価の高いイギリス、観光のメッカたる当地では

1万円くらいかかったけれど、これも趣きがあって良かった。

観劇を終えて帰ったところ、開け放しにした窓から大量の虫が

入ってきていたが、部屋を暗くしてあっという間に追い出せた。

何か、旅籠屋という言葉を思い出させる宿泊だった。


名古屋の小学生として、京都・奈良県物をしたことを思い出した。

とてもおもしろかったです。

7/13(水)RSCとグローブ座

2022年7月13日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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RSCとはロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのこと


昨晩、この劇団の本拠地ストラトフォード・アポン・エイボンで

『リチャード3世』を観た。結果、期待したほどではなかった。


この劇の魅力はタイトル・ロールを演じる俳優に依存するところが

大きいと思うけれど、さほど惹かれなかった。

何より、この劇場の構造が良くないと思った。


どう良くないかと言うと、同じシェイクスピアを専門にする

グローブ座と比べると判りやすいと思う。


自分はグローブ座が好きだ。

先日に書いた通り、特に『ヘンリー8世』は最高だった。

けれど、グローブ座が好きだとロンドンで劇場関係者に言うと、

意外に思われる。「あそこは観光施設だからね」という

コメントも即座に寄せられる。


だから、私は好きなのだ。

あの劇場の役者たちは、観光客を相手に闘っている。

正確に言うと、闘わなかったりもする。


まるでうらぶれた芸人のようにやる気がないかと思えば、

急に大熱演して場内を盛り上げ、また急速に意気をしぼませたりする。

要するに、緩急を心得ているのだ。

それに、人間としての自然の姿があって、好感が持てる。

要するに芸能、大衆演芸的なのだ。


そこへいくと、RSCも街ぐるみで観光客を相手にしているが、

彼らは芸術家っぽい感じで、どこかお高い。

劇場は近現代風で、中身もそうかと言えば、ステージ様式は

グローブ座と同じ張り出しを採用しており、演出家の美学が

あらわれにくい。この辺が中途半端なのだ。


何より重要なのは、シェイクスピアは明らかに大衆演芸路線の

作家だということだ。私はグローブ座で、なぜこの作家が書く

台本にラブシーン、下ネタ、残酷シーン、決闘が多いのかを知った。

あれは明らかに、野外上演で途切れがちな集中をつなぎ止め、

庶民で構成される客席のウケを狙ったものなのだ。


チケット料金の取り方や客席の様子も違う。

グローブ座は、舞台近くの立ち見はすべて5ポンド、

椅子席には25〜75ポンドをとる。そして観劇中も飲み食いできる。

野外なので、完全暗転はないし、昼の上演は明るい。


RSCは全て椅子席で、ステージ近くが高くて最高値が65ポンド。

安い席でも40ポンドする。中には10ポンドの席もあるが、

これは柱で視界がさえぎられる席だ。客席は暗く、

周囲に迷惑をかけないように飲み物を口にすることはできる。


ちなみに、双方ともにせりふが徹底的に上手い。

このあたりはさすが専門家だ。


世間の評価は逆だろうけれど、私にはグローブ座の圧勝に思える。

この後は『テンペスト』『ジョン王』『ヘンリー5世』

『タイタス・アンドロニカス』が控えている。


『タイタス〜』では、我が子の死体でつくったミート・パイを母親が

食べてしまうシーンを、観客を大爆笑しながら観るのではないか。

残虐極まりないがゆえに、突き抜けすぎてギャグになってしまう。

芝居とシェイクスピアの不思議な魅力、その真骨頂だと思う。

7/12(火)辣腕の政治家

2022年7月12日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑車窓からは山羊が見えた。シェイクスピアは田舎の小さな村から

世界に挑んだのだ


リチャード3世のことである。

今、ストラトフォード・アポン・エイボンに向かいながら

これを書いている。午前中にAlbanyのシニア向けWSを終えて、

ロンドンを飛び出した。シェイクスピアの故郷で、

これからロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによる

『リチャード3世』を観る。


現地に到着してから開演までさほど時間は無いだろうから、

各所を見て回るのは明日だ。


そういうわけで、先週末は読み進めていた『ユリシーズ』を一時中断、

シェイクスピアの伝記と『リチャード3世』の台本をおさらいした。

思えば、高校2年の時に初めて読んだシェイクスピアがこの本だった。

以前より格段に面白く読めた。


ロンドンに暮らすことになって5ヶ月半。

台本を読みながら、彼が王位を手に入れるため、あるいは、

望みを叶えてからは逆賊を退けるために、いかに素早く立ち回ったか、

実地に想像できるようになっていることに気づいた。


何にもの邪魔者に矢継ぎ早に死を与え、

同時に、必要な人間は最短距離で口説き落としている。迅速だ。


史実としては、リチャードはもっと時間をかけて

一手一手、策を実行に移していったのかもしれないけれど、

シェイクスピアのスピード感は5日間くらいの出来事のように感じさせる。


ロンドン塔、聖ポール寺院、ホルボーン、

ベイナード城があったブラックフライアーズ、

戴冠をしただろうウエストミンスター・・・・など、

新宿区の端から端までの広さをひたすらかけずり回っている。


「ロンドン、街路」とあるだけのト書き、今まで無味乾燥だった

このト書きが色彩を帯びて、豊かに想像できる。

そこここに、忙しなく行き交っては足を止め、持ち前の饒舌を尽くす。

そんなに広くないセントラル・ロンドンをコマネズミのように立ち回り、

口八丁と切った張ったで人生を切り抜けていったことがわかる。


後半の敵軍との闘いのために進軍した場所も想像できる。

最近は英国地図と首っ引きで旅行計画を練っているためだ。

それぞれの都市の位置と距離感がだんだん身体に入ってきた。


そういえば、前にYouTubeの動画で銀座のママさんが語っていた。

デキる男は皆、素早くて可愛げがあるのだそうだ。


グロスター公リチャードは素早くて、可愛げがある。

主人公のキャラ立ちは良くても、若書きだから緊密さに欠けると思っていた。

けれど、辣腕政治家の一代記として、この台本は面白い。

面白いように出世して、政務を取る間も無く殺される。

作者のタイムコントロールに喝采してしまう。


もうすぐ目的地だ。

7/11(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS 第11回レポート(中野)

2022年7月11日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 唐十郎戯曲を読む『蛇姫様 わが心の奈蛇』

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↑シノとあけびの対話。シノ随一の見せ場である(撮影:伏見行介)


難所だった前回を経て、昨日はまたもとのペースで物語が進み始めました。


3幕の中盤です。

あけびが小倉に戻って死体処理と朝鮮半島への輸送に反対していた

小林ですが、その際に必要な帰化手続きを巡って、彼の心が揺らぎます。


日本人の身元引き受け人として、あけびは小林を指名したのです。

それはつまり、最も心の許せる相手であるという告白に他なりません。

さらにあけびは、1幕で切り落とされた小林の指を大切に

保管していました。そして、それを書類に押すハンコとして

使わせて欲しいと小林に懇願します。


それに感じ入り、自らの血を印肉として捺印を完成させようと

小林は提案。写真ボックスの傍に落ちていた三角形のガラス破片

(『唐版 風の又三郎』3幕とまったく一緒の小道具!)

を用いて、傷口から血を得ようとします。


・・・ちょっとグロテスクなシーンです。

が、ここにはハンコというものの本質があります。

ハンコとはもともと、骨と血を以って誓いをたてる呪いめいたもの。

二人の結びつきが強まります。


と、ここにタチションが飛び込んでくる。

ガラスの破片とはいえ刃物ですから、あけびが小林を傷つけようと

していると思って、兄貴分を助けようとしたのです。

(ここは、本作第2幕の終盤と一緒)


しかし、助けに入り、手に入れたバー箱師の権利書を持ち出して

二人で探偵事務所を立ち上げようというタチションを、小林は拒絶。

それだけあけびとの結びつきが強まっているとはいえ、小林を慕って

ここまで尽くし、しかも袖にされるタチションは可哀想です。


そこに、タチションを恨む権八の弟子たちの邪魔だてもあり、

舞台はまた小林とあけびに。今度こそ帰化の手続き書類を完成

させようとする二人に、今度はシノや薮野一家が割って入ります。


薮野一家が千恵の身体を使ってあけびの母・シノを操り、

薮野のハンコを使ってあけびの帰化を果たそうとする。

それによって将来の利益を得ようとする。


ここは、シノの見せ場で、薮野一家に脅かされながらも、

彼女は心の内で娘のあけびに小林という仲間ができたことを喜び、

あけびが自由に生きていくように願います。

薮野一家のハンコを使ってはいけないとメッセージする。


・・・というシーンまでをやりました。

面白かったのは、参加者の中にはこの台本が初めて掲載された

雑誌「新劇」をチェックしながら参加してくださっている方がいて、

シノの見せ場については、書かれていないことを指摘してくれました。


要するに、執筆時の唐さんは、

暴力されながら娘の幸せを願うシノのクドキを初執筆時には

書いておらず、稽古や上演の中で付け足していったことがわかりました。


この役は映画界のスターである清川虹子さんをゲストに招いて

上演した記録があるので、きっと清川さんに合わせて書き足されたものと

推測します。一方、舞台上で彼女をリンチしていることには変わりなく、

この辺が唐さんと清川さんの付き合いの面白いところだと思います。



あと、3回で終了。

クライマックスに向けて、物語が加速します。

7/8(木)オペラ5連投

2022年7月 8日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑小柄だけれど、出てくる音は大きなアントニオ・パッパーノ監督。
名前も鳴りが良さそうだ。

今週はロイヤルオペラハウスに通っている。
月から水曜までで『コシ・ファン・トゥッテ』
『カヴァレリア・ルスティカーナ』『道化師』
『マダム・バタフライ』を観た。

バタフライを除いて立ち見席を押さえることができた。
立ち見は良い。途中で座ることができるし、伝統あるオペラハウスの
あの狭い席に押し込められるより、結局は疲れない気がする。
周囲との距離感も良い。座席に座ると、両隣の人がどんな風で
あるかによってかなりコンディションが変わる。

昨日のバタフライなどは、その最たるもので、
蝶々さんの自殺で終わるエンディングに口笛をもって歓呼するとは
どういう了見なのだろう。

この国の客席は盛り上がる。拍手も口笛もブラボーも大きい。
けれど、それが必ずしも良いかといえば、そうでもない。
人間には、静かに余韻を味わうべき時があるのだ。

最も良かったのは、二日目のヴェリズモ・オペラ2作だった。
アントニオ・パッパーノ指揮のもと歌手も演奏家も解放されていて
何より演出が優れていた。古典劇的にヒロイックなところと
近代劇的に会話や心理が緊密なところ、両方の良いところを
美味しいところどりしたような上演で、見事だった。

だいたい、オペラはかったるいものだと思う。
もともと貴族の遊びなのだ。魂の叫びや、人生を揺さぶられるような
体験を求められるものではないのだ。ダラダラ進むのも仕方ない。
心に余裕がある人が特権で観るものという感じがする。

YouTubeの広告にイライラするような現代人では愉しめないのも当然だ。
という感覚からしても二日目は良かった。

と言いながらも、
昨日はAlbanyでインスタレーション・オペラの『Sun & Sea』を観て、
今日もまた、これからロイヤル・オペラ・ハウスに行く。
たまたまそういう週になってしまった。

明日は『The Blue Woman』という新作オペラの初演。
これにはかなり興味がある。もともとが絶滅危惧種的ジャンルだし、
コストがかかる分、わざわざ作る意味を考え抜いた結果、
珍妙なことが起こりやすい。期待できそうだ。

ちなみに立ち見席の値段は2,500〜4,000円だ。
高い席は40,000円くらいするが、これくらいだから手が届くのだ。

7/7(木)その名もビスマルク

2022年7月 7日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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書類を作り、他にもいくつもの文章を書いている。

外国にいてもけっこう日本の案件があるし、それができるのが現代だ。

パンデミックを経験した今、オンライン会議も常識だ。


書き物をするときは、各地を転々とする。

授業後の語学学校の教室、Albanyのデスク、観劇前のロビーを渡り歩く。

行き詰まると場所を変える。すると、歩きながら頭の中が整理され、

また書き進められるようになる。


昨日はカフェにも寄った。Albanyの近所にあるDeli-Xだ。

ピーター・フィッシャーに紹介されたここは居心地が良く、値段も安い。

コンセントも使えるから、たくさんの人たちがパソコンをつなげて

仕事している。よし、原稿の最終直しをするぞ!

そう意気込んでコーヒーを注文し、奥のソファを見ると

ピーターが座っていた。


即座に、仕事を放り出した。ちょうど、彼を必要としていたのだ。


二日前、私はスリー・コーラス・フェスティバルという音楽祭を発見した。

期間は今月末。場所はイングランドとウェールズの境目にある

ヘリフォード(Hereford)という小都市を中心に、

周囲の街を巻き込んで行われるらしい。


これは面白そうだ。


田舎町に点在する教会を総動員して、各地でプログラムが組まれている。

小規模な城砦めぐりもできそうだ。

さらに調べてみると、フィルハーモニア管弦楽団がやたら出演している。

ピーターはこのオケによく参加しているから、話を聞きたかったのだ。


果たして、彼も出演し、オケと一緒にずっとヘリフォードに滞在することが

わかった。どこに宿をとったら良いかも訊くことができた。


そんな話をしていると、ネコが割り込んでくる。

Deli-Xには一匹の飼いネコがいて、彼の名前はビスマルクというそうだ。

店主のダニエルによれば、ビスマルクこそこの店のCEOらしい。


こういう冗談の感覚は、日本も英国も変わらない。

7/6(水)ロミカの卒業

2022年7月 6日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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昨日は不意打ちのような別れがあった。

火曜の朝は語学学校を休み、Albanyに行く。
いつも開かれるシニア向けWSに参加するためだが、
今日はマネージャーのソフィーが休みだった。
代わりにロミカがいた。

みんなで美術製作を行った。97歳最高齢の女性と、
初めてWSに参加した女性の相手をすることになり、
二人の間に挟まれて一緒にペイントをした。

今日の仕切りはジャスミンというエンテレキー・アーツの
腕利きスタッフ。なかなかの無茶振りだった。

こちらだってKAATで多くのシニアを相手にしてきたのだ。
語学力の不足を除けば引けを取るものではないと自分を鼓舞して
4時間の長丁場を持ち堪えた。特に新人さんはいかにも
不慣れだったから、いろんな話を必死に聞き出しながら、
作業も逐一いっしょにやり、最後まで見送って「来週も会おう!」と
何度も何度も約束して別れた。

今日は特別に長時間やる日だったから、ボランティアスタッフも、
途中でひとりふたりと帰っていく。
最後の片付けまで残ったのは自分も入れて4人だけだった。
ふりかえりのミーティングをして、解散。

すると、ロミカがジャスミンと抱き合い始めた。
なぜ?と訊くと、ロミカは今日が最後だと言う。
正確に言うと、先週で劇場との契約が終わっていたのだけれど、
今日は、前に自分が担当していたWSのメンバーに会うためにやって
きたのだった。

これが英国だ。
終身雇用とはかけ離れたところで働くのが自然なのだけれど、
ロミカは初期に特によくオフィスで顔を合わせていたので
ショックを受けた。

この劇場のスタッフにはいつも仲の良い。
けれど、この仲の良さは常に離合集散を繰り返す
英国スタイルゆえなのかも知れないと思う。
だからこそお互いに敬意を持ち、一緒にいる時間を大切にする。

残る半年間にも同じようなことがありそうだ。
あるいは、自分が帰国して3年も経ったら知り合いが誰も
いなくなりそうな気もする。

みんな、己の腕一本で生きているのだ。

7/5(火)ダイアンの誕生日

2022年7月 5日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑背中に貫禄がある。いかにも目利きという迫力だ。

7/3(日)はミス・ダイアンの誕生日だった。
日本人ならば、自分のバースデーについては殊更に知らせることなく、
慎ましくするものと思うが、彼女はそうではなかった。

もともと、私は4月の時点で彼女の年齢と誕生日に気づいた。
自分のイギリスでの健康保険証取得のために試行錯誤した時に、
ダイアンが実物を見せてくれたためだ。

あ、7月3日生まれなんだ。
そう理解したことを、私は悟られまいとした。
それで、当日になってワッとお祝いしてやろうと思っていた。

しかし、彼女は遥かその上をいった。
5月下旬には自分の誕生日を私に伝え、その日の予定を開けて
おくよう厳命。それからは、週に一度のペースで予定を確認され
何度も「大丈夫だ!」と答え続けた。

その時点で、エリザベス2世のプラチナム・ジュビリーなど
ダイアンのバースデーの露払い程度のイベントに思えた。
それからある日、リビングにはムンク展のチラシが堂々と
張り出され、「ここに行くのだ」と言い渡される。
彼女が傾倒する国はインド。大好きなインド料理を食べるために
飛び切りの店が予約されたらしかった。

何しろ、あらゆる予約情報が、メールをしない彼女の代理で、
私のアドレスに届く。レストランが3人予約になっているので、
「他に誰か来るの?」と訊くと、「来ない。こうすれば大きな
テーブルが押さえられる」と自分の流儀を示して自信満々。

当日の朝、日本との深夜のミーティング続きでヘトヘトになりながら
起き出し、ガラガラ声でGood Morningと伝えると、
「アツシよ、あたしにハッピーバースデーはないのか?」と迫ってくる。
そこで、部屋から急いで隠しておいたプレゼントを取り出しながら
Happy Birthday to Youの歌ってやると嬉しくて泣きだす始末・・・

ダイアンとした初めての都心への外出は面白かった。
電車待ちの間、近くのベンチで大声を出して喋る女性を見咎めると、
ここでは書けない言葉で罵り倒す。

乗り換え時に不案内だった駅員に対しても容赦ない辛辣さ。
がカバンの中に見当たらないと、すぐに泥棒に違いない!と訴える。
常に本気か冗談かわからない物腰なので、こちらはずっと爆笑。

ムンクを見にThe Coutauldというギャラリーに初めて行きましたが、
素晴らしかった。ルネサンスや印象派の有名絵画が溢れんばかり。
そして、それらの常設展示物を経てムンクの遍歴を辿る展示を見れば、
彼がいかに多くの先行様式に学びながら、『叫び』で有名な
あの独特の画風にたどり着いたのかを知ることができました。
展覧会の作り方が、とにかく上手かった。

ちなみに、今回の展示に有名な『叫び』は無く、
『メランコリー』などがメインディッシュでしたが、満足しました。

それから、ダイアンの40年来の友人が営む有名パブに顔を出し、
インド料理屋でたらふく食べて、電車とタクシーを乗り継いで帰宅。
その間、普段は節約を旨とする彼女が、店員や運転手に惜しげもなく
チップを弾むことに驚きました。ハレとケが、マジ徹底している。

「夕食は私が払う!」と言って聞かなかったので、
クリスマスはこちらで持とうと誓いつつ、お祝いの一日が過ぎた。

7/4(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS10回レポート(中野)

2022年7月 4日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 唐十郎戯曲を読む『蛇姫様 わが心の奈蛇』

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↑かつて、小学校にはバケツを持って廊下に立つという罰があった。

そういう話をして盛り上がったのも、時間が押した原因かも。

劇団の稽古もそんな感じです。脱線なくして良い本番なし。

(写真:伏見行介)


昨日は難所につき、いつも20ページを目安にしている

進行ペースを大幅に下回り、約10ページを進めるのがやっとでした。

それほどまでに昨日のシーンは難しかった。


場面は3幕中盤の、小林とあけびが再開するところ。

主人公二人の会話だけで15ページほど続く箇所です。


ここは要するに、2幕で仲違いし夢破れた二人が、

もう一度お互いの目標を設定し直し、協力し合うまでを描く場面です。

この会話を成立させる、駆け引きがとにかく難しい。


初め、挨拶だけして小倉に去ろうとしたあけびを

気のふれた振りをした小林が引き止めます。

そして、1幕で約束した探偵事務所の話題を持ち出し、

あけびの出自がわかり、「蛇姫様」などと浮かれるにはあまりにも

過酷な出生を引き受けた上で、二人の夢をやり直したいと希望する。


それを受けたあけびは、探偵事務所のパトロンになると宣言する。

当然ながら、小林はよろこびます。探偵事務所を開いて、

二人の目標である白菊谷、そこに咲く黒あけびを探そう。

そうやって、再び意気投合する。


ところが、今度はその方法が問題となる。

あけびが目当てにしている資金調達の方法から、

彼女が身支度をして小倉に帰ろうとしていた理由が明らかになります。


それは、朝鮮戦争の終結に伴うキャンプ・ジョーノの解体による

最後の死体処理業務に従事するという仕事でした。

しかも、処理する死体とは、朝鮮半島から誤って運ばれた現地の人々の

それということも分かる。つまり、


①朝鮮半島→②北九州→③アメリカ→④北九州→⑤朝鮮半島


という長時間を経ながらあっちこっちを行き来した死体について、

④⑤の過程のエンバーミング・輸送という仕事だったのです。


従来のアメリカ兵に関する仕事よりさらに過酷。

それゆえに小林の探偵事務所を支え得る高ギャランティが期待されるも、

それを聞いた小林が、今度は止めにかかる。


という具合に、それぞれが相手を思いやりながらも、

犠牲や力の無さゆえに起こるチグハグ、足並みの揃わなさを

ほんとうに丁寧に追いました。


こういう場面をなんとなくでやってしまうと、

お客さんが主人公とヒロインの関係を形式的にだけ追うことに

なってしまいます。これから迎えるエンディングを心から

感情移入してもらうために、まるで公演を想定した稽古のように

丁寧にやりました。


思えば、2010年に唐ゼミ☆で上演した時も、

ここの場面の稽古には時間がかなり時間がかかり、

けれども、その分だけ身入りが大きかった。

終わった後に充実感がある、良いWSができました。


オンラインWSとしてはやりすぎたかも知れないけれど、

参加者の皆さんに感謝です。会話に終始した今回でしたが、

次週はタチションが加わって賑やかになります。


7/1(金)おそるべき義手の女

2022年7月 1日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑ホルボーンの教会で通行人のおじさんに撮ってもらった。
たいてい一人で行動するので、自撮りでなくするのに骨が折れる。
スマホを渡したら、そのまま逃げられるリスクがあるのがロンドンだ。
この場合は親切な人だった。一回一回が賭けである。


"義手"についての興味とおそれは唐さん譲りのものだ。
『宝島』に出てくるジョン・シルバーからその興味は始まる。
その『ジョン・シルバー』シリーズを、これまでに自分は
何度上演してきただろう。

また、『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』のドクター袋小路や
『少女仮面』に登場する腹話術人形も「♪俺の体は義手義足〜」と
歌い上げる。この歌はもともと、麿さんが得意だったらしい。

そんな唐さんの義手に対する好みが最高潮に高まったのは、
2000年春に初演された『夜壺』だと思う。
もともとのタイトルは『人形の都』だったとも聞いている。
ズラリと並んだ義手と義足がいっせいに動き出す脅威の舞台は、
いまも記憶に鮮やか。

ある日の朝食時、ロンドンの危険についてミス・ダイアンが語り始めた。
ロンドンにいる数多くのスリのなかで、最も巧妙だった女の手口について。

その女は路上に立ち、
赤ん坊を抱えながらスペイン語で困窮を訴えてきたという。
泣き止まない赤ん坊をこちらに傾けられれば、人はそれを支えざると
得ない。生粋のブリティッシュで、常に警戒を怠らないダイアンも、
この時ばかりは赤ん坊を半分、抱かずにはいられなかったという。

しかし、そこに罠があったのだ。
後から考えれば、その女の右腕はぎこちなかったという。
つまり義手だ。そして、大きなワンピースに隠した、本物の右手を使い、
赤ん坊でできた死角からダイアンのバッグの財布を抜き取ったという。
財布は、彼女の本物の手に握られ、そのままワンピースの中に収まる。

・・・・・。
果たして、そんなことが可能なのだろうか。
ロンドンは都会中の都会だが、かなり魔術的な雰囲気のする話でもある。
ここまでやられたら、悪くはないような気さえする。

唐さんに伝えたら、きっと喜ばれるだろう。

6/30(木)パレストリーナを聴く

2022年6月30日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑終了後に、客席から後方のオルガンと合唱スペースを眺める。
お香の香り、水とパンを口にする仕掛けも含め、五感を総動員させて
立ち会う者を巻き込むスペクタクルが展開する。おそるべき装置だ!

お金をかけない愉しみを覚えてきている。
月に一度は遠出をしたい。場合によっては二度行く。
どうしてもお金がかかるから、温存しておかなければならない。

しかし、かといってAlbanyでの用事を終えてじっとしていたのでは
つまらない。何より、ロンドンにいる意味がない。
そういう時、教会の催しは良い。
セレモニーは当然ながら無料。
建築的にも風習的にも面白く、何より珍しい音楽が聴ける。

昨日は再び、ワーグナーの達人指揮者、
レジネルド・グッドオールが働いたという
聖アルバン・マーティル・ホルボーンに行ってきた。
通例は日曜朝に行われるミサだが、昨日は水曜の夜にも行われたのだ。

初めて、パレストリーナという作曲家の合唱曲を聴いた。
カソリック音楽の父と呼ばれる16世紀イタリアの作曲家だ。
彼は自身の曲もさることながら、ハンス・プフィッツナーという
19〜20世紀の作曲家がつくった、その名も『パレストリーナ』
というオペラで有名だ。

それで、大元のパレストリーナ自身の曲もCDで聴いたことが
あったけれど、いまいちピンと来なかったので生で聴きたかったのだ。

まず、この教会の音響的に優れていることに唸らされる。
前回はオルガニストの練習に立ち会って感心したが、
伴奏にかぶせて数人の合唱が増大されて空間を満たす。

ちなみに、演奏や合唱はすべて客席後方のバルコニーで行われ、
聴くものは降り注ぐサラウンドを浴びながら、向き合うのは
神父様、その向こうにいる神様のみ、という格好だ。
素晴らしく良く演出されていて、しかもこの教会は特に
飛び抜けている。

ラテン語もイタリア語もよく分からないが、
こういう反響の中、幾つもの声が重なっても歌詞が聴き取り易い
よう工夫したのが、パレストリーナの功績だそうだ。

すべての曲は、セレモニーの進行と完全に一体化しており、
説教や聖書の朗読、いろいろと取り決められた所作ごとが目の前で
繰り広げられるなか、時に伴奏になり、時にメインになりながら
歌われ、演奏されていった。要するに「作品」ではない。

家に帰り、早速に今日聴いた合唱のCDを買った。
一回、生で聴けば、録音もそれぞれの違いがよく分かって面白くなる。
こうして、知っている曲が増えるのは楽しい。

アマゾンUKを使えば、CDも600円くらいで手に入る。
教会は数知れず、各地にある。宝の山だ。

6/29(水)コロンビアからやって来た

2022年6月29日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑夜はアート・アンサンブル・オブ・シカゴのロスコー・ミッチェルを聴く

英語の成長実感が無い。困ったことだ。
語学学校の学友たちはメキメキと腕を上げている感じがする。
彼らは授業後も連れ立っているから、どんどんツーカーになっている。
それに比べてオレは・・・。

また、英国人同士が目の前で容赦ないネイティブトークを展開すると
完全に振り切られて、左耳の先がピクピクいうようになってきている。
ストレスだろうか。気になる。

そんな中でも、いつも会っている人たちならば
徐々に人間関係ができてきている。
今日のようにWSがある時には、お茶の注文をとって回る。

・コーヒーと紅茶、どちらが良いか?
・ミルクの有無は? また、その加減は?
・砂糖は入れるか? 入れるとしたらホワイトか、ブラウンか?
・クッキーは欲しいか? 4種あるうちのどれが良いか?

こんな具合で、聞き取れなければ、もう一回!と言えるようになって
来ている。参加者のシニアたちも、分かりやすく発音してくれる。

今日は長い時間、80歳を過ぎた女性の話を聴いた。
彼女は1963年に一家でコロンビアからやってきて以来、
ずっとロンドンに住んでいるという。

「コロンビア、きっとマイナーだから知らないわよね。
 あっ、そうだ! ベネズエラ! ベネズエラの隣よ!」

そう言われて思わず笑ってしまったが、
コーヒー豆のおかげでコロンビアが有名であること、
ベネズエラの方がむしろマイナーだと伝えた。

彼女はあまり外国には行ったことがないそうだ。
けれど、スペインとフランスには行ったことがあり、
良い思い出だそうだ。

左脚の悪い彼女は、イスから立ち上がる時にサポートを必要とし、
私の右腕を借りて、休み休み、お迎えの車まで歩く。
左足を持ち上げる道具を常に持っていて、今日はその使い方を
教えてくれて、初めて見送りを一人で完璧にすることができた。

そこへ、ちょうど代表のギャビンが来たので、
彼女を「大事なパティシパントです」と紹介し、
「私は今や、パティシパントのパティシパントです」と伝えたら
笑っていた。まさにそんな感じなのだ。

彼女が劇場に来始めて5年、毎週が楽しく、幸せだそうだ。

6/28(火)私は悪魔ではない

2022年6月28日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑これがウィリアム・ブレイクのステンドグラス


先週末は久々に現場仕事をした。

都心にあるキングス・プレイスという会場で「能」のイベントを手伝った。

早朝に家を出、帰りは24時を過ぎた。鉄道ストライキも気苦労の理由だった。

面白い人たちの現場にいさせてもらったけれど、疲れた。


翌日曜日はワークショップや劇団本読みをして、そのあと遊びに出かけた。

2週間前に訪ね、閉まっていたバタシーの教会でセレモニーがあったのだ。


あの教会は基本的に午前中しか開いていない。

この機会でなければ、午前中は学校かAlbanyにいる私が訪ねるのは難しい。

バスを乗り継ぎ、片道1時間半。今度こそ扉は開いていた。


私が興味を持ったのは、詩人ウィリアム・ブレイクが婚式を行ったからだ。

教会内には彼を表すステンドグラスもある。


儀式に参加するわけだから、入り口で聖書を受け取った。

聴衆は20人。コーラスが15人。オルガンの伴奏でアンセムが歌われ、

説教師のお話が繰り返された。そこで事件が起きた。


1時間が過ぎたところで、説教師の話が途切れ、

突然、奇声とともに倒れたのだ。明らかに癲癇の発作だった。

もちろん、人がこんなことになるのを初めて見た。

皆が慄き、合唱隊の一人が救急車を呼んだ。

ピアノをどかしてマットを敷き、彼を寝かせる。

聴衆はそれぞれの判断で、五月雨にその場を去った。


悪いことに、私は最前列の一番端に座っていたから、

立ち去りずらくなってしまった。ここに座ったのは、

すぐ横にブレイクのステンドグラスがあったからだ。


通路をバタバタと人が行き交う間、

私はじっと祭壇を見て、周りの状況が落ち着いたところで

そっとその場を後にした。そして水を飲みながらすぐそばのテムズ川を眺めた。

それから気付いたのだ。自分の怪しさに。


考えてみれば、ここはローカルな教会だ。

あの場にいたのは誰も彼もが知り合いに決まっている。

しかも、外に置いてあった看板を読んだところ、

この日は、永年ここに勤めてきたあの説教師の、

引退前、最後のセレモニーだったらしいのだ。


思い返せば、合唱隊の若者の何人かは騒然とする教会の中で

私の方を見ていた。200人以上入る席の中で私だけが変な位置に

座っていたし、見知らぬ顔だし、無表情だし、一言も喋らず、

なかなか動かなかった。あの視線には明らかに、

何か不気味なものを見る感じがあった。


確かに、ドストエフスキーやブルガーコフの小説に出てくる悪魔は、

さっきまでの自分みたいな物腰なのだ。


このままではいけないと思った。

しばらく待ち、戸口で救急車を見送った若者に挨拶することにした。

自分の身分やここに来た訳を話し、また来ますと伝えた

彼は初めは訝るような感じだったが、少しフレンドリーになった。


救急車に乗せられていく説教師を見る限り、命に別状は無さそうだった。

6/24(金)タッチか、挿入か

2022年6月24日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑Albanyのチケット売り場も、当然カード決済。これが読み取り機。

ロンドンではほとんど現金を使わない。多くの場合、カード決済なのだ。
私にとってこれは喜ばしい。記録が残りやすいし、スリを恐れてポケットに
ねじ込む財布も厚くならず、かなり薄くて済む。
エスニック料理店のうちのわずか何軒かが、
うちは現金のみでと言うが、紙幣もコインも、だからあまり持たない。

カード決済には2種類の方法がある。
読み取り機会にカードを差し込んで支払う方法と、
ピッとカードをタッチするやり方だ。

渡英当初から、私はもっぱら前者を選んできた。
タッチでの支払いをしたことが無かったし
私の持っているクレジットカードには、もともとその機能が無いのだ。

が、しばらく生活するうち、皆が皆、タッチ支払いしているのに気づいた。
速いし、手軽なのだ。が、危険も感じる。挿入支払いにはパスワード入力が
必要だが、タッチにはその必要さえない。つまり、カードを落としたら
使われ放題になる。恐ろしい。

そんなある日、現金の引き出しのため、
渡英直前につくった手持ちのデヴィットカードが、
タッチ対応していることがわかった。
便利に違いないし、大概の人がタッチ支払いだから、
会計のたびに店員と問答し、彼らが機械を翻すのにもくたびれてきた。
だから試してみようと思ったのだ。

なるほど、確かにこれは便利だ。レジでの流れも極めて良い。
郷に入っては郷に従うのも悪くはないか。そう思った矢先、
しくじりがあった。その日、私はケータイ・ホルダーに
英国のSuicaであるオイスターカードと、デヴィットカードを
一緒に入れてしまったのだ。

結果、地下鉄の支払い機は同時に2枚を読み取り、
ネットでキャンセルせよと駅員に告げられた挙げ句、
厄介な手続き方法に四苦八苦するうちに時間が過ぎて
約260円を失う羽目になってしまった。

あんなことは二度とゴメンだ。
そう誓った私は、すぐにまた元の挿入支払いスタイルに戻った。
いちいち暗証番号を打ち込むから間違いもないのだ。

今日も私は、タッチを求める店員にCan I insert?と切り出す。
すると店員は、OK!と言って機械をクルリと反転させる。
やはり安全が一番だ。お金は安全第一!

6/23(木)永い出稼ぎ

2022年6月23日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑今日からAlbanyでは、特に注力して準備してきた"Sun and Sea"が始まる。
レセプション会場の飾り付け、DJブースの準備もバッチリ。

今日は知り合いから聞いた話をしたい。本当に驚いた。
彼女の家には週に一度ハウスキーパーさんが来る。
その人は、フィリピンから来た男性だそうだ。渡英して40年になる。

週に一度やってきて、家中を掃除し、庭やゴミ捨て場を整え、
買い物のサポートもしてくれるそうだ。始業時間は朝8:00。
買い物も含めると午後まで働くらしい。

ところが、彼はいつも朝7:00にやってくる。
ロンドンでは電車よりバスの方が安い。けれど時間がかかるので、
5:30には家を出てやってくるらしい。
そして早めに到着し、電話をかける。フィリピンに向かって。

家族との会話の時間だ。
奥さんと喋り、お子さんと喋り、お孫さんと喋る。
ただし、彼はそのお孫さんに会ったことがない。
40年間、国に帰っていないからだ。

国に帰るのにはお金がかかる。
そしてそれ以上に、彼は観光ビザでイギリスに入ったので、
一度帰ったらロンドンに戻ることができなくなる。
彼にはロンドンのパートナーがいて、おそらくフィリピンの奥さんにも
別の相手がいるのだろうということだ。

今のようにWhatsAppやLINE、Facebookメッセンジャーなど、
無料で国際電話できるようになる前はどうしていたのだろうとも思うが、
ともかくも今の彼は家族で電話している。

不思議な関係だ。
40年会っていないという状況を私は想像することができない。
おそらく、彼が話しているお孫さんに彼が会うことは、この先もないだろう。
そんな風に思いを巡らせてしまう。

そして、それが当たり前の彼にはまったく悲壮感がないらしい。
極めて明るい人だそうだ。そりゃ、人間はいつも悲しんではいられないもの。
だけれど、やはり不思議だ。
こういう生き方を知ると、優れた劇場プログラムと同じくらい、
いや、それ以上に、ロンドンにきて良かったと何故か思う。

6/22(水)ストのはじまり

2022年6月22日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑5種類ある魚のうちHaddockを選んだ。タラ系の魚だ。

今週は鉄道のストライキ週間。
火曜、木曜、土曜とそれは行われるらしい。
過去30年間で最大級規模という

たまたま昨日は電車を使う予定がなかった。
朝からAlbanyに行き、午後は劇団のオンライン会議や事務をして
夜は近所で行われるフォークソングの集まりに行く。
すべてが徒歩だから問題はない。そう思っていた。

が、生活に影響がある。
周辺の店がけっこう休んでいるのだ。
確かに、電車が停まるということで、職場や学校をオンラインに
しているところが多数あると聞いた。
ということは、飲食店にとってお客さんが減るわけだし、
従業員が店にやってくるのも大変だ。ええい、休んでしまえ!
と休みことに対して常に前向きなイギリス人が判断するのは当然だ。

そういうわけで、Albany周辺のカフェもインド料理屋も、
ベトナム料理屋も休業しているためにランチ難民になり、
結局はゴールデンチッピーに行くことになった。

私はこの店が休んでいるのを一日しか見たことがない。
バンクホリデーのその日にだけ開いていなかった以外、
ずっと11-23時で営業している。

おかげで午後5時にやっと昼食を食べることができた。
面倒なことが目に見えているので、珍しく昨日は出かけるのをやめ、
日用品の買い出しに精を出した。

戦争の影響により、何もかもが値上がりしている。
貧しい人たちが住むゾーンまで歩いていって、
トイレットペーパーを買いだめした。
高いものは十分に在庫があるが、
4ロールで1ポンドというのは稀になってしまった。
6セット買い、まるでオイルショックのようだと思いながら、
大荷物を抱えて家に帰る。久々によく寝た。

6/21(火)オールドバラ音楽祭に行ってきた

2022年6月21日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑すごく良い人だった。彼への感謝は尽きない

先週末もいつくかの場所に出かけたが、やはり遠出は印象深い。
DVDで予習済みのオールドバラ音楽祭に行ったのが面白い体験だった。

まず、ロンドンを出る際のやり方は相変わらず難解だ。
リバプールストリート駅から北東に進む電車に乗れとナビが入っているが
駅に着いたところで自動券売機が壊れまくっている。
仕方なく窓口に並ぶと、スムーズに券は買えた。
次は正確な電車が停まっているレーンを探さなければならないが、
これがよく分からない。だらしなく立つ駅員に訊いたら、
その人にも分からないという。

イギリスでは、どの電車がどのレーンに入るか、
場合によっては直前になるまで分からないのだ。
出発10分前になり、不安になりかけたところでようやく
電光掲示板に13番と出た。急いでそこに入ってみると、
今度は改札が開かない。なぜだ? さっき買ったばかりの切符を
通しているのに。駅員に訊きたくとも、改札の中、
10mくらいのところに立っている二人はおしゃべりに夢中だ。
役に立たない奴らよ。

かなり遠いところにいた駅員のところまで走ると、
彼がチケットを確認して入れてくれた。他にも同じ事情で
困る人たちがいて、私の後に続いた。

電車の中は空いていて、快適だった。
1時間ほど行ったところで乗り換え、そこから3駅の単線無人駅に
降り立つ。そこから8キロのところに会場はある。

送迎車があると聞いたが、ぜんぜん来ない。
不安にかられて事務所に電話すると
「あなただけ? すぐ迎えにやるから!」と電話が切れた。
そして、電話を切った瞬間に向こうの駐車場から一台の車が動し
こちらに向かってきた。待機はしていたが、誰も来ないので
運転手がぐうたらしていたのだ。ロンドンの駅員とは違い、
彼の高木ブー的な感じに好感を持った。

距離は遠いが田舎道なのであっという間に着く。
この時点で、帰りはタクシーを予約しなければならないことが
分かった。コンサートが終わる時間に送迎サービスはないらしい(何故?)
なんとか歩けないことはない距離だが、狭い道に歩道は無く、
車がかっ飛ばすので危ない。それに、動物に襲われる可能性もある。
親切なブーちゃんがタクシー予約を手伝ってくれた。

会場に着く。そこは、ブリテンがウィスキー工場を改造してつくった
施設群だ。ひなびていて、アートセンターという言葉は似つかわしくない。
工芸品を売る店があり、楽器を売る店があり、ギャラリーがいくつもある。
もちろん、食事や酒を売る売店やパブもあり、川下りも楽しめる。
それに、美術の野外展示が多くて、どれも変テコで面白かった。

例によってCDやパンフレットを買ってしまいながら、開演を待つ。
バームンガム市交響楽団によるブリテンの曲がメインのプログラムだが、
私の目当てはパトリシア・コパチンスカヤのショスタコーヴィチ
ヴァイオリン協奏曲1番一択だ。恐るべき弱音を聴きたいし、
一番安かったので、最前列、ソリストの目の前の席を買った。
アンサンブルは捨てる。

当たりだった。聴いているとこっちまで身体が熱くなる演奏だった。
昔、巨人時代の清原が大嫌いな阪神・薮を相手にホームランを打った瞬間
「ボケェ!」と叫んでしまった。あんな感じなのだ。
ソリスティックな部分をガンガンに弾きまくり、オケにつなぐ時など、
彼女は「オラァ!」という感じで後ろを向く。最高だった。

終演後、例のタクシーが来るまで時間があった。
聴衆もスタッフも引き上げてしまって、自分ひとり、時間を潰すために
もう一度オブジェを見て回った。すると、向こうから演奏を終えたばかりの
パトリシアが一人でやってきた。思わずデカい声でリアリィ!?と言ったら
笑っていた。彼女は、ずっと誰かとビデオ電話していた。

帰り道はあっという間で、ナビよりも常に早めの電車に乗り継ぎながら、
2時間ちょっとで帰ってくることができた。
地元のシニア・ボランティアが大活躍して支えている
実に人間味のある音楽祭だった。

6/17(金)それは彼の王国だった

2022年6月17日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑わざわざスコアを持たされて撮影したのだろう。

後ろに見えるホールに行く予定。



今週末、再び遠出するつもりだ。

前回に行ったブライトンとグラインドボーン音楽祭から3週間。

次なる目的地はオールドバラ音楽祭である。


これは『戦争レクイエム』で有名なベンジャミン・ブリテンが

1948年に創立した音楽祭だ。彼は20世紀イギリスが生んだ最大の

作曲家だが、その最晩年期に自分の故郷オールドバラでの音楽祭を

立ち上げるに至った。ロンドンから電車で2時間半の土地。


その後、彼自身は1976年に亡くなってしまったが、

半世紀を越えた今も、音楽祭は健在、今年も6月に行われている。


音楽もさることながら、ホール自体も愉しみだ。

もともとウィスキー工場だったところを改装してできたというのだ。

音楽祭が開始されて程なく火事になったが、また復元されたらしい。

趣きもあって音響も良いと聞くから、期待が高まる。


ところで、先日、いつも都心に出た時に立ち寄る大型書店で、

この音楽祭に関するDVDを発見した。これは行く前に見ておきたい。

けれど15ポンド=2,500円する。一回見てしまえばおしまいなのに

高いと思い、Amazon UKを調べたら2ポンド送料無しの出物を発見、

注文した。


たった三日で届き、蓋を開けると監督のサインまで付いていた。

サインしてもらったのにとも思うが、ふとどき者のせいで恩恵に

あずかることができた。早速に本編を見たら、創立時の様子、

ブリテンの奮闘、若かりし日のエリザベス女王が祝辞を述べるところまで、

経緯が良くまとめられていた。


ホールの様子も 予習することができたが、

そのうち、気になることが出てきた。妙に少年たちがものを

食べるカットのインサートが多いのだ。

それに、ボーイソプラノのコーラスの稽古を熱心にやるブリテンにも

しつこいくらいにフォーカスしていた。


・・・要するに、そういうことなのだ。

ブリテンの盟友といえばピーター・ピアーズという男性歌手であり、

その関係が公私にわたるものであることは有名だ。

加えて、この監督は、ブリテンが音楽祭を立ち上げるに至った

モチベーションを潜ませたのではないかと思う。


少年たちを故郷の田舎に集め、熱心に指導をし鍛え上げる。

当然、都会からは遠いので合宿状態。

これは、ブリテンのモチベーションを大いに高めたに違いない。


私は、こういう仕事の仕方が心から好きだ。

個人的な動機があってこそ、仕事はただの仕事以上の迫力を帯びる。

そう考えてみると、『春の交響曲』『シンプル・シンフォニー』

『青少年のための管弦楽入門』など、ブリテンの仕事はまた違った

角度からも強く輝き始める。明日の昼過ぎ、オンラインの本読みを

終えたら出発だ。

6/16(木)神より仏

2022年6月16日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑目を凝らすと台座に落書きが見える。罰当たりな奴らよ。

学校が終わったところで、今日が自由であることに気づいた。
皆さん、昨日のTea Danceで燃え尽きているので、Albanyに行っても
会える人が少ない。特筆すべき会議も無い。
そこで、繰り出すことにした。

前から行きたかった聖マリー教会バタシーに向かう。
ここは極めてマイナーな場所だが、ウィリアム・ブレイクが
結婚式を挙げた場所だ。アクセスが極めて悪いから、
こうして大きな時間がとれないと訪ねることができない。
チャンスだと思ったのだ。

徒歩→バス→電車→徒歩という工程は面白かった。
東京都心から芝浦の方に向かう感じなのだ。
工場や倉庫が増え、テムズ川を挟んで対岸はお金持ちゾーンを
思わせるが、やはり南側はハングリーだ。

駅を降り、小ぶりかつワイルドな商店街を抜けた川沿いに
目的の教会はあった。結婚式の前後に、ブレイクもこの川面を
眺めたのだと思うと良い気持ちだ。言い忘れたが、今日から
気温は急上昇に、ロンドンにも夏が来た。

すっかり良い気持ちになって教会に入ろうとしたところ、
扉が閉まっている。側面に入り口があるのだろうと回り込んだが
そんなものはどこにもない。ネットで見たら18:00まで開いている
と書いてあったのに。教会の半地下にある幼稚園を覗いたら、
保母さんが出てきて優しく教えてくれた。
最近は昼で閉めるようになっていて、今日の営業はおしまい・・・。
別組織なので、私はカギを持っていなくてごめんなさい。

せっかく来たのに中に入れなかった。
でもまあ、道を付けたので次は早い。
自分なりに安く、早く来られる方法も発見できた。
ナビもまた当てにならないのがイギリスだ。

そう思って歩き出した。次の予定はウィグモアホールで、
かなり離れている。夏到来で汗だくになるので、途中からバスを
利用することにした。バタシー公園の反対側に、都合の良い
バス停がある。スタスタと公演を抜けるべく歩いていると、
八角堂を発見した。生まれたばかりの釈尊が天を指差し、
「天王天下・・・」とやっている黄金の像も見えた。

曹洞宗系の高校を卒業しているので、親しみを感じる。
かつて我が演劇部は、いつも仏像のある講堂で稽古していたのだ。
テムズ川沿いにあるこのお堂は日本人の手によるものらしく、
なんちゃって、でなく本モノだった。材料の調達から、
こちらの大工さんとの共同作業まで、さぞ苦労したろうと思う。

そしてよく見ると、神をも恐れぬ落書きがあった。
まことに罰当たりな話だが、台座にアルファベットが書かれていた。
新鮮で、ちょっと面白いと思ってしまった。
神様は見られなかったが、立派な仏様を見ることができた。

ウィグモアでは、今日からイザベル・ファウストによる
ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集が始まった。
3日通って全部聴くつもりだ。日本にいたらこんなスケジュールは
絶対無理なので、これも海外研修の贅沢だ。
人が燃焼し尽くすのにドキュメント的に立ち会う苦労が良いのだ。

『ジョン・シルバー』シリーズを連続でやった時に立ち会ってくれた
唐ゼミ☆のお客さんへの感謝も思い出す。

それにしても、先週のサー・シフの協奏曲全集といい、
本当はベートーヴェン生誕250周年だった2020年に公演される
予定だったのではないかと思う。ほとんどの人がマスクをしない
ロンドンにも、パンデミックの残滓がある。

6/15(水)すべてティー・ダンスに通じる

2022年6月15日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑15台以上のポットが使われて壮観だった。

昨日は、「ティー・ダンス」という催しが行われた。
会場は、ゴールドスミス・コミュニティ・センター。
キャットフォードという街にある地区センターだ。

会場に着くと、すでに昨日からエンテレキー・アーツのメンバーを中心に
仕込みが行われていて、パーティーの様相が整えられていた。
「Rooted 21 Century Tea Dance」というのが会の正式名称で
イス・机の他に「Rood」→植物にまつわる飾り付けがなされている。
もちろん、音楽演奏や合唱、朗読をするための設え、
お茶やケーキを食べるための準備もなされていた。

いつもWS「Meet Me」「Moving Day」に参加している
シニアたちがお洒落して集まり、会の中で発表する合唱の仕上げをした。
その中の何人は、一人で詩の朗読に挑戦し、別の男性は得意の
『ダニー・ボーイ』を独唱するようだ。

そして、別の曜日にやっていて、私がまだ加わったことのない
障害者向けWSのメンバーも集まってきた。

クリスという、歌も演奏も司会もできる万能パーソナリティの
仕切りで会が始まった。恰好は女性用のワンピースで、
「彼」と「彼女」、どっちで呼べば良いか訊いたら、
どっちでも良いということだった。
前回はWS中に会って、その時は男性の恰好をしていたけど、
今日が本領発揮だそうである。英語も性別も難しいね、
と笑いながら話した。

参加者とスタッフ、併せて100人くらいの大パーティーだった。
前後に、お迎えや、タクシーでの送りの管理もあるから、
エンテレキーの中心スタッフ、ジャスミンやロクサーヌは
大変そうだった。こちらは、英語と会への不慣れの二重苦を乗り越え、
ちょっとずつ手伝うことができた。イベントのアテンドは、
どこの地域に行っても似たようなものだから、勘は働く。

ああ、このために日ごろのWSがあったのだなと合点がいった。
飾り付けに使われたバナーなんかも、美術の時間に創作されたものだし、
歌も、この時のために練習されたものだった。

美術には植物を使ったり、楽しい歌、悲しい歌、思い出の歌を
取り混ぜたり、会の趣旨に合うよう、日常的に行われてきたWSが緻密に
計算されていたことが分かった。会場デザイン、進行台本づくり、
すべてアーティストの仕事だ。こちらの芸術家は、自分たちの職能が
社会に向けて広範に役立つことを知っていると思った。

美術館やオペラハウスを頂点とするような、
芸術分野の中のヒエラルキーからも自由な感じがした。
人間や社会のためのものなので、どっちでもいいじゃん、
という物腰だった。これは強い。

恐るべき量のチョコレートケーキ、レモンのパウンドケーキ、
生クリームとジャムを塗ったスコーンが供され、皆が一斉に食べてゆく
様子は壮観だった。日本だと、餅つき大会みたいな盛り上がりだった。

半年に一度行われるわけだから、次の会は12月だろう。
その時はAlbanyでやるようだ。今回のことで全体像を理解できたので、
これからの日々行われるWSの意味を噛み締めながら参加してゆける。
長期スパンで研修できるありがたさを実感した。

それにしても、クリスの仕切りはすばらしかった。
そして、もっともすべての人を狂騒に巻き込んだ最強コンテンツは
シヴァ先生による「ジャマイカ・スカ」だった。カリブ海の文化は強い。
Linton Kwesi Johnsonがレゲエを武器とした理由を実感した。

6/14(火)苦みばしったフォー

2022年6月14日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑単にタダ飯を食べたのではないが、それにしても美味かった。


ロンドンにもようやく夏の気配が感じられる。

日差しも強いし、昼間にひなたを歩いていると汗ばむ。

日本と違ってじめじめしていないので、夜になると冷え込む。

いつも朝8:30過ぎに家を出、方々巡り歩いて帰るのは23:00頃だから

どうしても寒い状態に衣類を合わせる。昼間は余計に暑い。


先週の土曜はかなりユニークなイベントに参加した。


Albanyの一角に事務所を構えるレジデントカンパニーのひとつ

New Earth Theatreによるイベント"Sonic Pho"だ。

Pho=フォーとは、あのベトナム料理屋で出てくる麺類のこと。

ルイシャム地区にはベトナム人コミュニティがあり、

食を絡めた面白い劇場プログラムをつくり、

同時に相互交流を図ろうという狙いだ。


受付を済ませると、スタジオに行き、

そこで、フォーづくり、主にスープづくりのデモンストレーションを見る。

ハーブや香味野菜について説明を受けながら匂いを嗅ぎ、

出汁の取り方も目の前で料理してもらいながら、見る。

普通はチキンだが、ベジタリアン用には昆布を使う。

昆布だしなんて、4ヶ月半ぶりだった。

試飲させてもらったが、さすがにしみる。

アジア人が大好きな、これがグルタミン酸ナトリウム。


昔、唐さんが飲み会で上等の生ハムを食べながら

「これはアジアじゃ無理だ!」と絶賛していたのを思い出した。

ああ、オレも慎ましきアジア人の一人。


同時に、ベトナム人女優さんが、簡単にベトナムの現代史、

特にベトナム戦争の影響で世界中にベトナム人コミュニティができた

エピソードを紹介してくれた。


そして、移動。


近所のベトナム料理に皆で移動して、席についた。

そこでは、配られたヘッドホンをして、供されるフォーに向かう。

メインの具は好みによって指定でき、私はビーフにした。


本格的なフォーだ。

別皿にミント、もやし、コリヤンダー、唐辛子の輪切りが大量に盛られ

レモンも付いている。明らかに移民の人による店。


英国人は麺をすする音を嫌うから気を付けて食べ始めると、

すぐにヘッドホンから音楽が、続いて、ベトナム戦争を含めた現代史を

誦じる詩。要するに『ミス・サイゴン』的に国を追われた人たちが

この本格的なフォーをロンドンに持ち込んだのだ。


私はヒヤリング能力の貧弱さゆえにけっこう美味しく一杯を食べたが、

周囲の参加者にとって、けっこう苦い味だったのではないかと思う。

戦争の話題とフォーの味・・・。


はっきり言って今はあまり上手くいっているとは言えない

実験段階の企画だったけれど、その心意気が素晴らしい。

味覚をきっかけに地域のコミュニティにアプローチしたいという

着想が面白い。こちらも一所懸命アンケートを書き、連絡先を交換した。

近く、事務所に行くつもりだ。


劇団スペヤタイヤ、エンテレキー・アーツに続いて、

知り合った三つ目の団体ニュー・アース・シアター。


今回行ったベトナム料理屋にも、

これからアジアの味を求めて通うことになるだろう。

6/13(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS7回レポート(中野)

2022年6月13日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 唐十郎戯曲を読む『蛇姫様 わが心の奈蛇』
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↑角隠しをまとい亡き母が現れる(写真:伏見行介)

唐さんの3幕物はいつも2幕がすごい。
2幕の中盤から終盤に差し掛かるところをやったので自然と盛り上がる。
バカバカしさと悲劇性が矢継ぎ早に入り混じる場面を追いかけました。

あけびは伝治のもとでエンバーミング修行し、
晴れて一人前になることを目指しています。
そのための教則本は、伝治が書いた『日本人の恥骨』。
変なタイトル。

伝治はあけびを調子付かせるため、
一人前になったらあけびにテレビ取材が殺到すると予言します。
今風に言えば「美人すぎるエンバーマー」として世間にデビューする。
そういう感じです。

そして、予行演習をする。
権八一家の部下たちが鏡をカメラに見立て、あけびにインタビューする。
頭にわらじを乗せたまま取材を受けるあけび。

この際、徹底してNHKを持ち上げ、
その他の民間放送を邪険にあしらうところが面白い。
この芝居の初演は1977年春。一方、当時の唐さんたちは翌年の
お正月から始まる大河ドラマ『黄金の日々』を控えていました。
撮影がすでに始まっていたか、そうでなくても、キャスティングや
打ち合わせは確実に進行していたはずです。

舞台の上で、徹底してNHKをヨイショする唐さん。
こういうところが洒落っ気というか、興行師としての才覚というか
唐さんの面白いところです。せっかくなので「NHK」を
キーワードに、後に唐さんが三枝健起監督とつくることになる
テレビドラマについても紹介しました。
骨のある仕事です。NHKならでは。私たちはドラマでも唐さんの
世界に触れることができます。

転じて、一人の女性の登場により、舞台の空気は一変します。
角隠しをした、あけびの母シノが亡霊のように現れる。
これは、薮野一家の妹・知恵が霊媒としての才能を発揮したもので、
当時のスピリチュアル系番組が隣のスタジオで収録中という設定で
取材を受けるあけびの前にシノを降臨させたのです。
(唐さんなりの、強引なリアリズム!)

シノの口から語られるあけびの出生はおぞましいものでした。
朝鮮戦争のさなか、北九州に向けて出港する屍体輸送船「白菊丸」には
何人かの密航者が紛れ込んでいました。シノもその一人。
アメリカ兵たちの死体に紛れて同じく船に乗り込んだ男たちに
輪姦されて生まれた子どもこそ、あけびだとシノは語ります。
あまりのショックに、持病の癲癇の兆候が徐々に現れるあけび。

と、ここで重要なのは、ふと冷静になることです。
かなり勢いと迫力があるシーンですから、私たちはすぐに飲まれて
しまいますが、なぜ伝治がこんな道具立て(テレビ取材や知恵の霊媒)を
駆使してあけびに迫るのか、それを忘れてはなりません。

3幕終盤で、伝治の意図が明らかになります。
唐さんの仕掛けに思い切り飲まれながら、どこかで冷静さを忘れない。
しかし、やはり大いに飲み込まれてしまう。

矛盾する二つのベクトルを同時に兼ね備えることが、唐さんと渡り合う
方法論だと思います。昨日やったところは、好例のなかの好例。
来週は2幕が終わります。

6/10(金)久しぶりに学校で震撼

2022年6月10日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑画像はネット上から引っ張ったイメージです。左側の感じ。

すっかりルーティン化していた語学学校で久々に震撼した。
授業中にブルガリアから来ている女の子と喋っていたら、
彼女が面白い話をしてくれたのだ。

まず、彼女は常にビジャブをしている。
ムスリムの女性が頭に巻く布だ。英語が上手く、
たちどころに発表のための文章を書く。なぜ、このクラスに?
聡明、という言葉がぴったりだ。単に賢いのではない。聡明なのだ。

年齢は19歳だそうだ。そして既婚者。
早い!と驚いたが、彼女の国では常識の範囲内なのだそうだ。
それだけで凄いと思ったが、いつも熱心に授業を聴く彼女が
今日だけはチラチラと窓の外を気にしている。

どうしたの? と訊いたら、旦那さんが外にいるのだそうだ。
歩いて30分ほどのところに住んでいるらしいのだが、
30分の休憩時間を狙って会いに来たらしい。青春である。

結婚したのは2月で、それから彼女はロンドンで暮らし始め、
これから就職するために英語を学んでいるそうだ。
てっきり彼と一緒にブルガリアから引っ越してきたのだと思った。
どうやって出会ったの?と訊いたら、こともなげに
「アツシはインスタを知ってるか?」と言う。

なんと、彼女はインスタ上で彼に出会い、
同じブルガリア出身で7年前からロンドンに住んでいる彼と
結婚するために、英国にやってきたのだという。
出会ったのは去年の秋。

驚いた。結婚適齢期はそれぞれのお国柄があるだろうが、
この果断さ、行動力については国境を超えたパッションを絶大に感じる。
物腰は大人しめなのに、ふつふつと燃えたぎっている。
家では、ブルガリア語、トルコ語、英語が飛び交うという。

クラスの中でもっとも控えめに見えた彼女は
実はもっともアグレッシブな女性だったのだ。

放課中に旦那さんと少し話したが、「結婚の時は大変だったよ」と言う。
てっきり家族の反対とか、そういうことかと思ったら、
「彼女が乗った飛行機がなかなか着かなくて」と言っていた。
唖然とした。「おめでとう!」と言うのが精いっぱいだった。

6/9(木)橋の上の天国と地獄

2022年6月 9日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑足元に転がるチープなカップにより、ポンドが動くのだ

昨日は会議が無くなったので、午後に時間ができた。
そこで、Albanyには行かずに美術館に行く。テート・ブリテン。
ダイアンが一番好きだというターナーを観に行った。

ロンドンの美術館は巨大で、しかもここは無料だから、
こうして何度でも来ることができる。自分はじっくりと
絵を観て回るのが苦手だから、散歩がてら来て、
興味が湧いたコーナーだけを観、また別に関心が湧けば、
何度も来たらいいと思っている。

先週末の連休で力尽きたとみえ、ロンドンの都心は静かだ。
実に歩きやすい。こういう時は逆にベタなルートで
歩いてみようと思い。ウェストミンスターからロンドン・アイという
巨大観覧車に向かう橋を渡ってみた。
そこに面白いものが。

橋の中腹で、数人を相手におじさんが張り切っていた。
三つのカップに球を入れ。カップの並び位置をサッサッと変える。
さて、球を入れたカップはどれでしょう?
というお馴染みのマジックをやっていた。

面白いのは、ここにお金がかけられることだ。
当たると賭け金が倍になって戻り、外れると賭け金を没収される。
恐ろしく分かりやすいシステムだ。

興味本位の人が参加して、おじさんはけっこう負けていた。
球のありかがさほど難しくなく分かるのだ。
しかし、少し離れた位置から眺めていると、
そのうち、勝っている何人かがおじさんの仲間だとわかる。
そして、通行人を誘って、その人が大きく賭けた時に初めて本気を出す。

この単純さに、ハマる人はハマってしまうだろうけれど、
なんだか、この分かりやすさといかがわしさ、簡単さとスピード感に
好感を持った。晴れ渡る青空のもと、観光地のど真ん中で
こんなことも行われている。きっと警察が来たら雲の子散らすのだろう。

ロンドンに溢れる人間味を、またひとつ発見できた。

6/8(水)痛恨のスリースター

2022年6月 8日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑この劇評にオレも撃沈。腹立つわ!

最近観た劇の中で一番おもしろかったのは
グローブ座の『ヘンリー8世』だ。
最近、というよりも英国で観たすべての劇の中で一番だった。

観劇前はくたびれていたのだけれど、
終わった後はあまりの面白さにすっかり元気になって、
すぐにまた来ようと思った。それくらいの興奮で帰ったのだ。

なのに、今朝、ダイアンが見せられた新聞評を観て驚いた。
三つ星。これがレストランなら最高位だが、劇評の場合は五つ星が最高。
二つ星以下を見たことがないから、要するに低評価。
文章を一生懸命に読んだが、あまり誉めていない。
これには落ち込んだ。

グローブ座はゆるい。
囲み形式の客席になっていて、天井は空いているし、観光地だし、
特に立ち見席は安くて日本円で800円くらい。座る席は高いけれど、
立ち見は極端に安い。だから、疲れて途中で帰ってしまう人もいる。

そういう環境に立ち向かっている俳優たちは、
みな、シェイクスピアのせりふを言いこなす技量があるとともに、
ゆるくて、どこか芸人的だ。観客とのコントタクト多めだし、
それでいて、いざという時には熱演して、聴かせる。

反面、ダレ場の抜き方も心得ている感じがする。
ムラもあるだろうし、あまり芸術家然としていないところが
むしろ自分は好きで、大らかな人間の自然を感じる。

その中でも、『ヘンリー8世』は出色の出来だと思った。
前に観た『ジュリアス・シーザー』チームには悪いけれど、
座組みも、予算投下も、何よりアイディアが格別だった。

下ネタのオンパレードだったから、それが文句言われている
ようだけれど、それらは山田風太郎的で、大笑いして見ながら、
大好きになったのだが。

やっぱり劇は、リビングルームで満たされぬ家族や性を
じくじくと悩んでいなければならないのか、と疑問に思う。
ロンドンではここに人種の問題が加わる。

当の『ヘンリー8世』は、最後に生まれるエリザベス1世を
黒人の女優が演じていて痛快だった。

巨大なキャラクターや大きな物語。
それでいてバカバカしい公演に触れたいと思っている自分には
あの三つ星が五つ星以上に見える。

もっと観に行きたくなった。
10月まで飛び飛びで、レパートリーシステムでやっているから。
新聞の低評価を受けて、むしろあれを応援したいと思う自分の心が
燃え上がっている。

6/7(火)立体駐車場にて

2022年6月 7日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑向こうの方にグランドピアノが見える。天井が低い!


先日、ピーター・フィッシャーに誘われて面白い催しを見た。

会場はペッカム。なかなかガラの悪い場所で、語学学校の同級生は

この街でケータイを擦られた。駅前の歩道はゴミの散乱がすごい。


それで、迷いながらフラフラとナビを頼りに進んだら、

ゲームセンターみたいな建物の裏手にたどり着いた。

名門フィルハーモニア管がこんなところでやるか!

っていう場所で、立体駐車場の上の方でたった1時間の

コンサートをやるという。


どうせ客は少ないだろうと舐めきって受付に行ったら

完売だと言われて返り討ちに遭い。しょげていたところを

ピーターのショートメールが助けてくれた。


これを見せろ!と。


で、スマホのモニター見せたら、

仕方ないなあと正価で入れてくれた。ああ、友よ!


入っていってのけぞった。

こんなんで満席って頭おかしいんじゃないか、と。

どんどん入れりゃ、いくらでも入るような隙間がいっぱいあって

演奏が始まってからも壁が吹き抜けてるから、ノイズだらけ。

近所を通る国鉄の軋みはすごいし、周囲のゲームセンターの放送も

元気よくなだれ込んでくる。


一方、肝心のフィルハーモニア管は、

大男だったら頭擦っちゃうんじゃないかという低い天井の空間で

ノイジーなスクリャービンを2曲弾いた。


『法悦の詩』『プロメテウス』という、

どっちも官能性充分、ノイズも充分という曲なので、

周囲の雑音と妙にマッチしちゃって、後ろの方の聴衆はみんな

ケータイかざして聴いてるし。心から堪能した。


まざまざ思い出したのは、

自分の青テントの舞台を後ろの方から眺めているあの感覚。

同時に、オレたちはいつも周囲のノイズにハラハラしてたけど、

案外と観客は平気なもんだって気づいて、開き直りも含めた

無頼な気持ちになった。


こんな感じでここれまでやって来たし、

我ながらやっぱり好きだなあという確認。

他方、こういうのは忘れ難くて最高だけど、

一回性のイベントで処理されちゃうから、

本心からやりたいこっちと、作品を評価するラインに乗せた公演、

両方やらなきゃならんのだあということをこのオケから教わりました。


周囲のノイズに負けないために音圧を強くして、

反響しすぎる空間に対処するため、アーティキュレーションを

クッキリ。彼らの腕前もいつもより分かった公演だった。


音楽について、これは2度と無い経験だろうなと思う。

またテントを自分でやって味わおう。

6/6(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS第6回レポート(中野)

2022年6月 7日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 唐十郎戯曲を読む『蛇姫様 わが心の奈蛇』

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↑わらじを頭に載せる。汗の量がすごい初夏の芝居(写真:伏見行介)


昨日は本読みワークショップでした。

二幕も半ばに差し掛かり、再び再開したヒロイン・あけびと小林が

"蛇姫様""白菊谷""黒あけび"にまつわる妄想を育むシーンです。


冷静に考えると、二人は二十歳を過ぎているわけですし、

かなりイタい大人の男女だとも言えます。


が、

一人は小倉から出て来たばかり、床屋見習いのてんかん持ち、

しかも自分の父親や亡くなった母の出自もよく分からない。

一人は、グレてスリに手を染めたところ、指を詰めさせられた

パチンコ屋の新人店員ということで、なかなかに過酷な現実を

生きています。


こうして二人で蛇姫様ごっこしていないとやっていられないよ!

という彼らの切実な願いは、唐十郎ファンなら誰しも共感できるはずです。


それに、このシーンは全体のキモです。

小林が妄想する白菊谷の描写、暗いところに沢山のヘビがウネウネしている。

直視できないほどの不気味さゆえに、Barハコシ開店お祝いの鏡を使って

間接的に見なければならないほどの光景のおぞましさ、

という伏線が、劇の終盤で明かされるあけびの出自に繋がっていきます。


現実には、Barのセットの中で二人が探検ごっこしているだけなのですが、

この妄想をお客さんに共有してもらうことはかなり大事で、上演する側と

しては難所でもあります。てんかん予防にワラジを頭に載せて冒険する

あけびは可愛らしく、これも楽しんで欲しい。


さらにその後、伝治が登場してエンバーミング=死体化粧の

何たるかを語り始めると、舞台は一転、闇の雰囲気に包まれます。

朝鮮戦争時代の小倉に現れた凄惨な死体処理現場が

唐さん一流の長ぜりふによって想像力の中に現れる。


この陰と陽の目まぐるしい切り替え。

参加者の皆さんも心得たもので、コミカルの中にあるシリアスと

シリアスの中にあるシリアスを縦横に操ってもらいました。


ことばの力を借りて観客を弄ぶ快感。役者に弄ばれる観客の快感。

それらを同時に味わえる名シーンです。

あけびの床屋修行が、実はエンバーミング修行であったことも分かる。


次週は、そんなあけびが一人前の死体化粧師になり、

テレビ各社の取材が殺到するという奇想天外な場面からいきます。

大河ドラマ『黄金の日々』を翌年に控えた唐さんの露骨なまでのHNKびいき。

これが炸裂する洒落っ気に満ちたシーンです。


途中参加でもかなり楽しめます。ご興味ある方はぜひ!

6/3(金)今日はトリプル・ヘッダー

2022年6月 3日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑ヘンリー8世の巨大な黄金マラに場内は大喜び

昨日は良い休日だった。
ウィリアム・ブレイクに関するいくつかの土地をめぐることが出来た。

生まれた家→洗礼をした教会→彫刻師としての作品が飾られた美術館
→創作が最高潮に達した時の家を渡り歩き、土地柄を把握できた。

地震のないロンドンでは、日本よりかなり多くの建物が保存されている。
100年前のビルは新しい、などというのは言い過ぎだと思うけれど。
ブレイクが暮らしたのは、いずれも都心の貧しい地域であることが
如実に実感できた。

自分には、彼のこじれっぷりが面白い。
現世的にはまったく成功できなかった人だから、
打ちのめされた彼は鋭くて巨大な内面世界を築いた。

普通、現代人は「経験」という言葉を肯定的な意味で使う。
「良い経験をさせてもらいました」10代の若者までもがこんな常套句を
使いこなす。

けれど、ブレイクは「経験」を悪しきものと断じた。
生まれた時が最高潮で、経験も人を汚すものだ、
そう考えて自分に閉じ籠り、そして死後に評価される結果を残した。

・・・と云うことが分かった時、
『無垢と経験の詩』というタイトルと、それぞれの詩の真意が理解できた。
唐さんが『吸血姫のテーマ』のベースにした『愛の園』もこの中にある。
ブレイクがこれを著したのは30代後半。当時、暮らしたランベスという土地は、
ロンドンの中心地であるウェストミンスターのテムズ川対岸にある。
ガラの悪い土地で、彼がここの自らの無垢を鍛えたことがわかった。

今後は、晩年を暮らした土地やお墓、たった3年だけ地方に暮らした
家も訪ねてみよう。

↓今の建物にもちゃんと印がある。
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そして、夜にはグローブ座で『ヘンリー8世』を観た。
彼はエリザベス1世の父親だから、最後は女王が生まれるシーンで終わる。
世間とはまた違ったエリザベス2世へのお祝いを体感できると予想して
行ったのだけれど、果たしてその通りだった。

8人もの奥さんを渡り歩いたこの劇の一部がマラ祭り化していて
マジで面白かった。もう一度観たい下品さ、生演奏もあって豪華だし、
アイディア豊富な絶好調の公演だった。

観光地だと思ってナメてはいけない。
というか、お前らが観光でくるならオレたちはこんな風にやるぜ!
という風に舞台が観客をナメていて、それが良かった。

今日はこれから、黄金のカエル劇場の子ども劇→フィルハーモニア管の
『2001年宇宙の旅』コンサート→アンネ・ソフィー・オン・オッターの
ナイトコンサート。初めての3本立てだ。

6/2(木)今日から連休

2022年6月 2日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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現在、朝9:30。さいわい天気が良い。

今日から週末までイギリスは連休になった。
本日木曜はもともとの祝日で、明日金曜も休みにして4連休とし、
在位70周年を迎えるエリザベス女王のお祝いをする週末にしたようだ。

私がこれを把握したのは最近だったため、
何か拍子抜けしたような感じで今日の朝を迎えた。

ポカンと予定が空いたので、身辺を整理することに使おうと思う。
こういう時に気を抜くと、あっという間に夕方になり、
ああ、1日を無駄にしてしまったと後悔に苛まれることになる。

まず、部屋の掃除をしよう。
最近はよくチーズを買って食べるようになった。
物価の高いロンドンで安いのがチーズやアイスクリームだが、
後者は恐れをなして食べていない。あの味を思い出して
際限がなくなってしまうことが目に見えているので、
4ヶ月間食べずにきている。

チーズはカバンの中に忍ばせておいて、お腹が空いたらかじる。
これは便利なことに気づいたが、パルミジャーノがボロボロと
こぼれることがあり、部屋の掃除は必須である。

次に英語の練習をする。
これは日本にいた頃から続けているもので、
ネイティブの人が喋っているのを追いかけてこちらも発語し、
完コピを目指すというもの。そうすることで、しゃべり言葉が
何を示しているのか、そのパターンを自分に叩き込む。

「洗濯機」という言葉を知っていても、日本人は口語で
「せんたっき」と発話する。「せんたっき=洗濯機」と体感したり
「それで、その時は」→「んでそんときは」となることを自分の中に
蓄積しないと、人の会話についていけない。

その次は傘を買いに行こう。
これはすでに4代目だ。イギリス人は傘をささない。
強風ですぐに壊れるからというのが理由のようだが、
私は日本人だし、アウェイで風邪をひきたくないから、
この予算投下を惜しめない。だいたいが粗悪品だが、
代替わりするごとに、あるホームセンターで売っている品が
強度と値段に満足できるものだと気づいた。あれを買いに行こう。

その次は都心に出る。
美術館は昼間にしか開いていないので、そのどれかに行けたら
しめたものだ。あるいは、最近ハマっているウィリアム・ブレイクの
生家や過ごした家を訪ねてみたい。ふと、気づいたのだが、
彼はロンドン指折りの繁華街であるソーホー出身で、
4月に帰国したサウジアラビア人のヤジードは
タイガー・タイガーというソーホーのナイトクラブが好きだった。

Tyger Tyger・・・、ブレイクのもっとも有名な詩の書き出しである。
ナイトクラブの創業者のセンスはたと気づき、興味を持った。
イギリスの建物には、そこここに青いマーク(プラーク)がついていて
過去の偉人との関係を教えてくれる。

夜はグローブ座に行けたら良いと思う。
『ヘンリー8世』がやっていて、歴代国王の中で抜群のキャラ立ちを
誇る彼について、シェイクスピアが書いたものだ。日本にいたら、
演目的にはマイナーでなかなか観ることができない。
今週、王室について体感するに、良い選択であるようにも思う。

さあ、ここに書いた。これから上記の予定をこなしていこう。

6/1(水)友人ピーター・フィッシャー

2022年6月 1日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑この喫茶店で過ごしていると、次から次へとピーターの友だちが
やってくる。昨日はソファの特等席に座れて特に根が張ってしまった。

昨日は朝と夕方にAlbnayで予定があり、途中が膨大に空いたので、
フィルハーモニア管の海外ツアーを終えて帰ってきた
ヴァイオリニストのペーター・フィッシャーと喫茶店で落ち合った。

主目的は、彼の新譜をもらったり、前回聴いた彼のコンサートについて
話すことだったのだけれど、自分の好きな音楽とか、今後に構想している
お互いの仕事の話になって、完全にとりとめも無くなってしまった。

私のパソコンからピーターを始めとした様々な音楽を再生して
遊んだりした。当然、お互いが生きてきた過去についても話は及ぶ。

ピーター・フィッシャーのヴァイオリン演奏は凄いと思う。
けれど、ロンドンで彼がメジャーかといったらそうでもない。
でもやはり、ひと目見た時から彼は凄いと私は思う。

ソロで活動し、室内楽団を率い、名門フィルハーモニア管に
エキストラで呼ばれながら、彼は生活している。

話の流れで、自分の子ども話をして、あなたはどうなのか?
と訊いたら、独り身だそうだ。子どもをつくるには歳を取りすぎたよ、
それに家族と子どもにはお金がかかる、もう60歳だ。
いつも陽気でパワフルな彼はそう言って、少し寂しそうだったけれど、
あとは、ひたすら楽しく、時にダラダラと話した。

途中には、お互いがケータイの向こうの知り合いにメッセージを
打っているだけの時間もあった。それでも許される感じが
とても居心地が良い。

彼の友人ダニエルのお店の雰囲気も相まって、
午後の4時間をここで過ごした。この居心地の良さときたら。
ロンドンで一番なのではないか。

ミミ、エリザベス先生、ダイアン、ピーター。この4人は格別だと思う。

正直、自分は外国への憧れが強くないし、
家族と劇団員、親しい人たちがいる日本での生活の方が好きだ。
何かあればいつ帰っても構わないくらいなのだけれど、
この4人と別れるのは相当に堪えるだろうと、既に今から思う。

だからこそ、一緒にいられるうちに存分に過ごしたいと思う。
ピーターは私が通っているフォークソングの集まりに興味を持った。
まさか、バリバリのプロである彼を、連れて行くことになるのだろうか。

5/31(火)渡英からちょうど4ヶ月目

2022年5月31日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑グラインドボーン音楽祭の庭


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↑我がThe Albany Theatreの庭


『腰巻おぼろ 妖鯨篇』研究を終えてから1週間が経つ。

台本に取り組んでいないと予定に余裕が生まれる。心にも余裕がある。

先週末はブライトンのフリンジ・フェスティバルに行ってショーを見、

ケッチさんに会えた。ケッチさんの出番は短かったけれど、

そのかわりケッチさんの勧める若手女性クラウンの素晴らしい出し物を

見ることができた。このショーの感想を間に置きながら、

私たちは来年2月に創る舞台について話し合った。


その後に泊まった海辺のドミトリーは8人相部屋で面白い経験だった。

帰るのは夜中だし、朝早く起きてエントランスの広々としたカフェで

仕事をした私は、むしろ彼らに迷惑をかけた側だったと思う。


朝になっていそいそとタキシードを取り出し、

四苦八苦しながら慣れない身支度をする私を笑いながら見守ってくれた。

案の定、芸人か、友人の結婚式に備えているだと誤解された。


ちなみに、ミス・ダイアンには帰ってからこの宿泊体験を報告した。

ブライトンはゲイの街だ。そう断言する彼女に事前に宿泊先を告げたら

猛反対されたに違いない。私としては、グラインドボーンという

貴族的な土地へ赴くことへの禊としてここに泊まったのだ。


シャンパン片手にドレスアップしてピクニックを楽しむだなんて、

名古屋の地方公務員家庭に育ち、テント演劇に明け暮れてきた

自分には耐えられない。


そしてグラインドボーン音楽祭。

タキシードその他、ドレスコードを満たす準備や、

生き帰りの方法について調べるのは大変だったけれど行った甲斐があった。


この小旅行にはやたらと膨大な待ち時間がつきまとうから、

林あまりさんが教えてくれたチャペックの『園芸家12ヶ月』と、

ウィリアム・ブレイクの本を読んだ。数年ぶりにのんびりできた。

以前にのんびりしたのは、親知らずを抜くために入院した時だ。


グラインドボーンは想像していたよりもずっと人間味があって、

嫌な感じはせず居心地が良かった。演奏はいつも聴いている

ロンドン・フィルで、相変わらずわんぱくな弾き方だ。


何より、イギリスの女流作曲家エセル・スマイスの

The Wreckers』という演目と、新たな演出が良かった。

レッカーズ、つまり"レッカー車"の"レッカー"には

"故意に物事をダメにする"という意味がある。


20世紀の貧しい漁村の共同体の中で、不倫関係を貫く男女が描かれる。

僧侶の言葉も村人の忠告も彼らは振り切り、やがて心中を選ぶ。

こんなオペラだから、衣装はジーンズやオーバーオールが目白押しで

ひどく簡素だけれど、これはブリテンの『ピーター・クライムズ』と

ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』を掛け合わせた作品なのだ。


民主主義下の大衆の圧力にも、宗教的な抑圧にもヒロインは屈しない。

イギリス人にも関わらず、イギリスの地方都市を舞台にしたオペラを

フランス語の作品にしたスマイスの反骨心が溢れていた。

彼女はレズビアンだったらしい。女性の闘争心が全開のオペラ。

演出もそういう要素をさらに先鋭化させていて痛快だった。


休憩時間には、ウィンザーからきたという常連さんのおじさんに

話しかけられて、楽しく過ごすことができた。

ビルギット・ニルソンを生で聴き、マリア・カラスに会ったことが

あるという彼は、大の音楽ファンで、一年で何回か、ここに来るそうだ。

最近の歌手には不足を感じるとこぼしていた。


彼は手荷物を庭に置きっぱなしにして客席に戻る。

ロンドンの喫茶店では、トイレに立つ時には全ての荷物を

持っていかなければならない。それと、ここでの人々の振る舞いが

好対照を成していた。誰も盗みなんかしない。なんと贅沢な。

してみると日本は豊かだ。落とした財布が返ってくる世界。


私はと言えば、売店でこの音楽祭の過去公演CDが1枚5ポンドで

叩き打っているのを発見し(定価30ポンド)、狂喜して大量買いした。

まるでディスクユニオン。この買い物には本当に満足した。


無事に深夜に帰って翌日。朝の本読みWSを終えた後、

今度はオールバニーの庭でのアフリカ音楽フェスだ。

巨大スピーカーを持ち込み、街中に響き渡る音量でガンガンにレゲエを

かけていると、オシャレした若者たちが集まり、踊り始める。

参加無料のイベントだが、酒やスナックが飛ぶように売れる。


面白かったのは、トイレの数が全然足りず、若い女子たちが茂みに

飛び込み、ギャハハと笑い合いながら用を足していたことだ。

そしてまた踊りに戻る。若さと健康を撒き散らしていた。


グラインドボーンとオールバニー。

表面的にはぜんぜん違う両者は、しかし、

劇場、庭、オシャレ、飲み食い、音楽という衝動において

まったく同じ欲求に根ざしている。どちらかを侮るなかれ。

オールバニーを回りくどくするとグラインドボーンになる。

この回りくどさが文化だと、栗本慎一郎先生なら言うだろう。


日曜の夜は夜で、バービカンに行き、

ロンドン響とゴスペルのジョイントコンサートを聴いた。

いつもより格段に観客に黒人や子どもが多く、活き活きしたライブだった。

途中から立って踊り出す人さえいた。


昨日で、渡英してから鑑賞したものが100本に達した。

5/27(金)ドイツのタケシ・キャッスル

2022年5月27日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑なぜか道端にナイフが落ちていた。日本ではあまり見ない。

今日はAlbanyで予定されている会議が直前でキャンセルになった。
これまでもこういうことはあったのでさして驚かないが、
何か発言を求められるかも知れないと身構えているこちらとしては、
多少は拍子抜けした。

AlbanyやWe Are Lewisham絡みで見聞きしたものを中核にしつつ、
不慣れな異邦人として、この界隈での生活全般についてお届けする。
私に与えられる時間というのは、みんなにとってはリラックスタイム
だろうから、せめてここだけは面白くありたい。

シニアたちとの交流においては、あそこに行け、ここに行けと
指示を受けるので追っかけて回って、翌週に再開して話すのを
楽しんでいることや、ドキュメンタリー演劇づくりでは、
いきなり人生のヘビーな話題が目の前で展開したので
面食らった話をしようと思っていた。

来年に日本でつくるキッズプログラムに、
Albanyでの観劇体験が生きるだろうことや、
週末のグラインドボーン音楽祭に向けて七転八倒したことも
伝えたかった。側から見たらずいぶん間抜けだろうが、
こっちは必死だ。唐ゼミ☆の運営や大学〜劇場の仕事の中で何度も
壁を感じたことがあったが、今回のは種類が違った。

荷造りから各種の予約から、すでに準備はあらかた終えたけれど、
決して油断はできない。現地で、どれだけ所在ないだろうかとか、
終演後のバスにきちんと乗れるかどうか、電車の駅から間違えずに
ロンドンまで戻って来られるかどうか。とにかくトラップだらけだ。

ところで、久々に語学学校が面白い。
さほど英語が進歩しているとも思われないが、
新入生としてやってきたドイツの青年たちが楽しませてくれる。

彼らの英語はスピーディで、発音も綺麗に感じる。
それでいて、休憩時間に一緒にコーヒーを買いに行きながら話した
エリザベス先生に言わせると、文法はメチャクチャなのだそうだ。
それを計るだけの技量は、自分にはまだない。

授業中に日本の話になり、節分の可笑しさについて説明した。
鬼の格好をする。豆を投げる。年の数だけ豆を食べる。
このくらいまでは良かったが、恵方巻きの説明はひどく難しかった。
ノンカット・スシロールのサイズ感は、彼らに分かりにくい。

一通り話すと、今度はドイツ人青年アレックスが、
タケシ・キャッスルが好きだと言い出した。要は「風雲!たけし城」だ。
あれ、ヨーロッパでも放送されていたんだ、と驚いたが、

トラックにパンツを引っ張られながら走るゲームの、
たけし軍団が力尽き、スピードに負けて皆が全裸になってしまう面白さ。
あれを伝えきれず悔しかった。英語は難しい。

5/26(木)ロンドン、その園芸の世界

2022年5月26日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑曇天だったし、花も盛りを過ぎていた。左下の紫の花はイチハツ。

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↑こういうのを見ると、造園家は、自分にできるはずだと思うらしい。


イギリス人の園芸にかける情熱、あれは一体なんなのだろう。
彼らは本当に熱心に造園する。古い建物を大事にするから
自ずとリフォームも多く、出来るだけ自分の手でやろうとする。
楽しみなようだが、週末は庭づくりで大変だった、などとミミは話す。
何か、マゾヒスティックな快楽が潜んでいる感じだ。

Albanyでは、新たに参加するべきプログラムが一つ増え、
これで、月・火・木にルーティンを持つことになった。
英語にも慣れ、しゃべっている雰囲気は醸し出せるようになった。
土地勘も備わり、楽である。

シニアの中には毎回熱心に話しかけてくれる人も現れ、
こちらはもっぱら聞きやくだ。あまり複雑な話はできないから、
そのほうが私も助かる。

WSに参加する中で一人、ボランティアスタッフの女性が
自作の絵画をプリントしたオリジナル葉書にメッセージをくれた。
そこにはチャールトン・ハウスを訪ねるべし、とある。

チャールトンと言えば、同名のフットボール・クラブを頂く土地だ。
今まで訪ねたことはなかったけど、語学学校から歩いて30分強。
次に彼女に会う来週火曜までに行きたいと思い、授業後に向かった。

郊外型の巨大商用施設を横目にスタスタと歩き、
チャールトン・ハウスにやってきた。建物を囲む公園がデカい。
ベストコンディションでは無いものの庭があり、
なかなか大きな建物があって、サンドイッチを食べたり、
資料展示室で説明を聴いたりした。

カントリーハウス。そう呼ぶらしい。
この地域にはカントリーハウスがたくさんあるらしいのだ。

ここから先は私の推測だが、グリニッジ公園にある
エリザベス1世の別荘クイーンズハウスといい、
ロンドンのセントラルからテムズ川沿い南西のこの地域は、
幾多の来客に備えた屋敷を必要としたのではないか。

飛行機もユーロスターもない時代。
ヨーロッパの大陸からロンドンを目指したかつての人々は皆、
このルートを通ったはずである。かなりゆっくりとしたペースで
人々は行き交っただろう。
式典へのご招待ともなれば要人もいたはずだ。

自分はこれまで、花鳥風月への興味に乏しかった。
が、ロンドンに住み、ダイアンの渡仏の間に庭に水をやったりして、
興味が湧いてきた。ロンドンには巨大な公園がたくさんあるので、
ここを通り過ぎる時間を楽しくしてくれるとも思い、
花の名前を調べるアプリをダウンロードした。

これからは、いろいろな花の名前を調べて回りながら、
匂いも嗅いでみるつもりだ。ジャスミンの香りは確かに良い。

明日〜明後日のブライトン行きに備えて、グリニッジ駅で電車の切符を
買うなどして準備している。きっと様々な植物にも会うだろう。

5/25(水)『腰巻おぼろ-妖鯨篇』ひと区切り

2022年5月25日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑2016年に補陀落寺を訪ねて撮った写真。この小さな船に和尚さんを
乗せて、太平洋に送り出すらしい。

ものすごい時間がかかった。
さすが最長作品。こんなにもかかったのは初めてだったが、
2回り読みこんでかなり把握することができた。

執筆当時、よくこれだけの内容が頭に入っていたものだと眩暈がした。
唐さんは頭パンパンで、はち切れそうだったんじゃないか。
追いかけるだけの私も、最後の方は冒頭からの情報と緊張を維持しながら
読むのに苦労した。気をつけないと、すぐにその場で起こることだけに
飲まれ過ぎてしまう。

誰も彼もが死んでいるような世界で、文字通り死中に活を見出そうと
するのがこの台本だ。『唐版 風の又三郎』を書いてしまってから、
『唐版 滝の白糸』『夜叉綺想』そして『腰巻おぼろ-妖鯨篇』と、
まるで魅入られているかのように死の影が濃い。根っこが暗い。
本読みワークショップでこれを展開したならば、5ヶ月かかる量だ。

大物が終わって、少し解放されている。
もう6月が近いというのに、イギリスは暖かくならない。
今日など雨が数回にわたってドカ降りし、冬に戻ったかのような冷え込みだ。
暑さが苦手な自分には過ごしやすいが、この気候にはさすがに驚いている。
自分は1月末に来たものだから、英国の本当の冬を知らないように感じる。

1月や2月はどんなものだろうか。サマータイムの終わりが10月末だから
急激に日没が早くなり、きっと昼間がすごく短い体感になるだろう。
研修を2月スタート、12月終了にして良かったと思う。
同じ11ヶ月でロンドンの気候なら、冬場をカットできた方が良い。

台本を読みながら、何度も新宮を思い出した。
あそこには石川淳の『補陀落渡海記』のもとになった補陀落寺があって、
一定年齢に達した和尚さんを流すという船を見に行ったこともある。

それにしても、ある年齢になった住職は
補陀落(仏教における伝説の山)に向けて旅立たなければならない。
ひとり船に乗って太平洋に漕ぎ出し、信仰に範を示すため、
拒むことや止めることは許されない。・・・恐ろしい習慣だ。

『普賢』の好きな唐さんのことだから、影響があるかも知れない。
『補陀落渡海記』の主人公は、先ほどの習慣に抗う。
補陀落に行けるなどというのは迷信、自分は生きたい、
追い込まれた主人公はジタバタして渡海の途中で逃げ出すが、
結局は村の人々に見つかって殺されてしまう。

おぼろはかなりジタバタして、生き延びる。
最後のシーンは生きるということへの執着を見せつける大仕掛けの
場面だが、これはどうしたものか・・・。唐さんのイメージはわかる。
けれど、『盲導犬』で犬が飛ぶようなもので、難儀しそうだ。
上演を目指すとしたら、一番にクリアしなければならない問題だ。

5/24(火)まずは週末に備えて

2022年5月24日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑一昨日に行ったジャマイカ音楽のライブを以って、
渡英以来、鑑賞してきたステージ数は92になった。92/112日。


イギリスに来る前、同じ文化庁の制度を使ってフランスで研修した
先輩演劇人に「自分は200本観た。その全てに鑑賞の記録を取ってあり
今も時々見返すことがある」と聞いた。それに感化されて、
数も、記録も素直に真似することにした。

しかし、今後は少し本数を絞ったり、工夫しようと考えている。
週末にロンドン近郊のブライトンに向かうのを皮切りに、
いよいよ遠出しようと計画しているからである。

遠出すれば、交通や宿泊代がかかる。
食事だって近所では安く済むけれど、かさむに違いない。
きっかけは週末に予約したグラインドボーン音楽祭だ。
金曜にブライトンに行き、フリンジに参加しているケッチさんの
参加するショーを観て一泊する。

先にFacebookで発表したが、プロデューサー・テツヤの剛腕により、
帰国後、2023年2月に『3びきのこぶた』を原作にキッズプログラムを
演出する。ケッチさんこそ、その出演者なのだ。

こちらは一方的に存じ上げてきたけれど、初対面だ。
そして、翌日はブライトンから電車で20分のルイスに移動し、
そこから送迎バスに乗ってグラインドボーンに行こうと計画した。

ところが、新作オペラに惹かれて予約した後、
この音楽祭には、今まで自分の人生には経験の無かった
「ドレスコード」があることが分かったのだ。かなり狼狽えた。

男は絶対にタキシードが必要なのだそうである。
これに対し、自分は「スーツ タキシード 違い」とググるところ
から出発しなければならなかった。襟が違うらしい。

すでに予約してしまったので、諦めたらチケット代が無駄になる。
そんなことは許されないし、何より自分が情けない。
日本にいたら唐ゼミ☆の衣裳を動員するのに・・・

何とか希望を繋いで、庶民の味方、
ルイシャム・ショッピングセンターのTK-Maxに行った。
ここは結構なハイブランドの売れ残りを結集させた店だ
ひょっとしてタキシードが無いか探したが、もちろん無かった。
それによく考えたら、ズボンの裾上げが間に合わない。

悲嘆に暮れてダイアンに打ち明けたところ、
「Boss Brosでhireすべし!」と言われた。レンタルがあるらしい。

昨日、朝の語学学校を終え、午後にエンテレキー・アーツのすごく
高度なシニアのドキュメンタリー演劇創作に立ち会った後、
夕方にBoss Brosに殺到し、対応してくれた女性のベテラン店員に
「オレ、グラインドボーン、分からず、予約した」と伝えたら
すべてを察して、一発でジャストサイズを見繕ってくれた。

金曜の昼過ぎに受け取りに行った時、蝶ネクタイのつけ方も教わる。
果たして帳尻は合うのだろうか。

こういうこともあって、今後はできるだけ、
無料で入れるミュージアム、教会でのイベント、読書に精を出そう。
タダだけど、ロンドンではすごく良質なものに触れることができる。
そして、ストラトフォード=アポン=エイボン、コーンウォール、
バーミンガム、エディンバラ、ウェールズなどを目指すのだ。

5/20(金)ヨルノハテより第二指令!〜帰国後の舞台

2022年5月20日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑テツヤとの対話。ここで話しながら企画が生まれた。


劇団をやり、劇場で働く。

主宰と演出をし、コミュニティワークと劇場運営を身につける。

目下わたしが行っている取り組みだ。

 

今日は演出家としての話題。

 

コロナ以降、配信番組をつくってたびたび対話し、

去年のお盆には太田省吾さんの『棲家』リーディング公演を

一緒に行ったプロデューサー・テツヤから、

新たなお題が来た。キッズプログラムをつくろう!

 

今日が情報解禁日で、詳細はコチラ

http://yorunohate.net/

オオカミだ!- 『3びきのこぶた』に出てくるオレの話 -

日にち:2023.2.18.sat,19.sun

会 場:本多劇場

「第33回下北沢演劇祭参加作品」

出演:ケッチ

演出:中野敦之

企画製作:ヨルノハテの劇場

主催:合同会社ヨルノハテ

 

原型は『3びきのこぶた』。

去年の終わり頃、テツヤはこの童話とロシア文学を並べて

「どっちがいい?」と訊いてきた。

 

ロシア文学は好きだけど『3びきのこぶた』と即答した。

ロシアの方だとつい難しぶったり、カッコつけそうで良くない。

『3びきのこぶた』の方が逃げも隠れもできない感じがしたのだ。

 

ひたすら子どもたちのための劇をつくる。

そう思ってより平明な方を選んだつもりだったが、

なかなかどうして、このイギリス産の童話には、英国の人たちの

生活に根ざしたメッセージがあることがロンドン暮らしの中で

わかってきた。

 

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ただ一人の出演はケッチさん。

これはすごい。テツヤの剛腕だ。

すっかり張り切って、今から構成台本製作や演出プランを

つくっている。年末には、帰国後すぐに稼働できるよう体調を整える。

 

初めてキッズプログラムを演出する。

初演以降の展開もすでにテツヤは狙っている。すごいぞ、テツヤ!

5/19(木)ロンドン。パリに屈する。

2022年5月19日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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イギリスの食事は不味いと言われるが、自分はそうじゃないと思ってきた。

前にも書いたが、フィッシュ&チップスは美味いところは美味い。
パイ&マッシュに付いてくる鰻の煮凝りも、ほとんどの英国人は
気味悪がるが、自分は大好きだ。野菜中心のインド料理も良いし、
かのイングリッシュ・ブレックファーストは豪勢だ。
イタリアンとかハンガリーとかアラブの料理もある。
ともかくも自分は満足してきた。しかし・・・

最近、パリに住む日本人の知り合いと会う機会があった。
そこで自分は、グリニッジで気に入っているパン屋の
チョコレートケーキとハニーケーキを差し上げることにした。
これらは間違いない。そう自信満々に思っていた。

が、彼女が勧めるパリのクロワッサンをひとかじりして、
これは勝負にならないと思った。ダイアンが好きなので、
毎週日曜の朝はクロワッサンを食べているが、格が違った。
時間も経っているのに、驚異の美味しさである。
それに、このレベルの店はざらにあり、値段はロンドンの半額だという。

この衝撃は、例えばこんな感覚。

小さい頃から大好きな『北斗の拳2』には、
中国大陸に渡ったケンシロウをたちを待ち受ける敵がいる。
そのちょっと前にケンシロウと互角に渡り合った元斗皇拳の
ファルコがその敵と闘ったわけだが、死力を尽くして相打ちがやっと。

問題はその敵が、中国大陸に無数にいるザコの一人に過ぎないことだ。
そのことを死にゆく彼が告げた時の絶望感といったら無かった。
子ども心に戦慄し、ケンシロウの今後を思って天をあおいだ。

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・・・という時のことを思い出した。恐るべしパリのクロワッサン。
さらに、今となっては私が差し上げたふた品が心許ない。
彼女は美味しいと言ってくれたけれど、別のものにすりゃ良かったかな。


5/18(水)同じくマージナルなもの

2022年5月18日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑みなさんよく体を鍛え、ビジュアルのセンスを磨いている人たちだった

日本でいうところの知的障害、英国では学習障害者のための企画。
高齢者のための創作企画。こういったものにレギュラーで参加できる
ようになってきた。彼らの英語は容赦ないわけだが、
話しかけられたら何とか返事できるようにもなってきた。
わからなくても、今こんなこと言いそうだな、と推測して返事する。
トンチンカンな受け答えかもしれないが、こちらにそれは分からない。
分からない側の強みってあるよな、と自分を励ましている。
開き直るところまではさすがに行かないけれど。

そんな流れの中で、LGBTの人たちが大集合する
ファッション&ダンスのイベントに行ってきた。
これもルイシャム区とAlbanyの企画なのだ。

コロナによる行動規制が多い日本からすれば
考えられないほどの密着と熱狂だった。
みんな、ここぞとばかりに思い思いの、
大概は露出度の高い格好をしてランウェイを歩き、踊り、歓声を上げる。

初めは目を丸くしたが、しばらくいると、警備員の多さに気がついた。
そういえば、入口のチェックもかなり厳しかった。
チケットはもちろん、荷物も。サイトを見れば、
犯罪行為する人はつまみ出しますよ、と強調してある。
これを見てわかってきた。

彼らは強面に見られがちだ。
旧世代からすると鼻じらむようなイベントかもしれない。
けれど、よく考えてみると、彼らはなかなか苦労多き人生を歩んで
きたのかも知れない。自分の好みをに気づくのに時間がかかったり、
思いを打ち明けるのにハードルがあったかも知れない。

そして、それを素直に発露できる場所に行こうとすると、
どうしてもそこは都心であり、ドラッグや犯罪に近づいていくことに
なりかねない。誰だってそんなのは怖い。
そんな危険に自ら近づきたい人はいない。

だから、公共の仕事で安全性を確保することが大事なのだ。
格好は奇抜に見えたとしても、それは趣味の問題だから、
内面が暴力的だということには全くならない。

ところで、公共の仕事というものは、どこかソフトに
行儀よくなってしまいがちだが、このイベントにはそんな要素は
微塵もなかった。一見するといかがわしい。それが彼らを存分に
燃焼させる。けれど、安全である。健全である。
良いイベントだと感心した。

5/17(火)おそるべき伴奏

2022年5月17日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑大好きな真横の席から

『唐版 風の又三郎』浅草公演が終わった後、
私と林麻子はサントリーホールに行った。
林は音大のピアノ科を出ていて、その能力を活かして
劇中歌ワークショップを行っている。彼女は内田光子さんが
好きだそうなので、それで初めて生を聴きに行ったのだ。

私が内田さんのCDを初めて聴いたのは大学1年生の時で、
当時、横浜国大の先生だった許光俊さんの本『クラシックを聴け』
の中で、内田さんのモーツァルトのピアノソナタへの解説があった。

あの本はいまもしばしば読み返す。
自分にとっては、時間芸術とは何かを教えてくれた本。

渡英後に気づいたのはロンドンでの内田さんのリサイタルの多さ。
彼女にとってここは地元だ。だからけっこう頻繁に、
それもあまり高くない値段で聴くことができる。

オーケストラとの共演も、ソロでの演奏も、すでに何度も聴いた。
最も印象に残っていうのは渡英直後に行ったモーツァルトの協奏曲の
演奏会で、アンコールに呆然とした。モーツァルトK.545ソナタの
第2楽章のみ。人の人生を数分間に叩き込んだような演奏に、
打ちのめされた。

そして昨日も、それとは別の素晴らしい経験をした。
室内楽やバロック音楽用のウィグモアホールで、
内田さんはテノール歌手のマーク・パドモアの伴奏をしたのだ。

パドモアは当代随一のテノール、
彼の声の爽やかなこと理知的なことは見事なもので、
昨日、彼はこれまで見たどの時より格段に燃焼していた。
それは、内田さんの伴奏があったからだ。

とにかく煽る、煽る。
いま、パドモア相手にあんなに攻めの伴奏が
できるのは内田さんだけだろう。
それでいて、歌詞が終わって伴奏だけになると、
今度は内田さんがあっという間に主役になって、
アップダウンの強い、ロマンティックな演奏を繰り広げる。
達人同士が燃え盛っていた。

伴奏は大事。
神奈川には竹本駒之助師匠という娘義太夫の人間国宝がいて、
師匠の人間描写の徹底した味付けの濃さと燃焼にはいつも唸らされる。
そしてここでも、重要なのは三味線による伴奏。

伴奏はボクシングのスパーリング・トレーナーのようなもので、
ミットの差し出し方や位置で、次に打ち込むべき場所をリードする。
打ち手の力を何倍にも引き出すことができる。

僕らの芝居の音響や、集団シーンも同じだ。
せりふと音響、話し手と周囲が見事にキャッチボールする時、
人の力は何倍にも増幅される。昨日観たものは一生忘れないと思う。

5/13(金)恐怖との遭遇

2022年5月13日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑人種が入り乱れて、日本の会議より華やかに感じる。
ちなみにこれは自分の報告があると知る前で、人の多さに浮かれて
撮影した。直後に追い詰められるのをまだ知らない。

昨日は木曜。
学校を終えて電話や買い物をしながらAlbanyまで歩く。
劇場直前の十字路、先週に刃傷沙汰があった場所でまたケンカだ。
ただし今回は口論のみ。捨ててある段ボールをめぐって、
商店主とホームレスが激しく言い争っていた。

捨てられたばかりの段ボールを持って行きたいホームレスを
きちんと業者に持って行かせたい商店主が咎める。
「捨てたんだろう。なぜこの段ボールがお前に必要なんだ!?」
とホームレスの男は怒鳴り散らしていた。

周囲もやきもき見ていたが、暴力沙汰にならずに済んだ。

その後オフィスに行き、Albanyでの定例会議である。
いつものように末席に座り、フンフンと半分くらいしかわからない
彼らの話を聞いていた。15:00から1時間ほどこれは行われ
(英国の会議は短い)、わからないところは後でミミに聞く、
というのがいつものやり方である。

それにしても、対面とリモートが並行して行われてきた会議への
出席者が、今日は妙に多い。4月に加わった新人スタッフが
二人いるし、繁忙期が迫っているということだろう。

あとで自己紹介しようかな、と思っていたら、
一個めのトピックが終わった後で、いきなり全員がこちらを向いた。
聞けば、自分の番だったのだ。開始時間10分前に送られた会議進行の
メールをまじまじ見ると、確かにAtsushiとある。

「We Will Be Happy Hereについて報告してみて」と言われた。
確かに、皆は忙しいので自分が一番張り付いている。
それで、渡英以来もっとも大人数の前で喋ることになった。
これが恐怖との遭遇である。ビビったが、すぐに頭を切り替えて。

We Will Be Happy Hereがどんなだったか。
学習障害を持つ参加者それぞれによって、リハーサルの内容が
どう変わったか。かなり念入りに伝え、1980年台のファミコン的
世界であったこと、その時分に小学生だった自分にはそれがよく
わかるという話をした。

演出家のレベッカの一人一人に対する真剣さには驚かされる。
真のアーティストの迫力。アーティストであるが故に狂気も感じる。
プロジェクトに厳しく、参加者に優しい。
皆さんもぜひ土曜に見て、参加者それぞれによって生まれる
世界の違いを見てください。この企画の一人への向き合い方に、
全ての人たちに開かれたメッセージがある、と伝えた。

ついでに、最近参加しているMeet Meについても話し、
初めはミミと「ミート・ミー」の区別がつかなかったことや、
参加者のシニアをお世話するどころか、むしろ英語の歌を教わり、
全員が英語の先生状態になっていることを告げた。

・・・ということで、10分以上しゃべったが、
皆は声を上げて笑ったり、ニヤニヤしながら聞いていて
それがまた自分を調子づかせた。いけなくはない。

終わった後は飲み会に誘われたので、当日券でどこかに行こうと
していたのをやめてこれに加わった。
ロミカと英国内で訪ねるべき場所について喋り、
文学少女だと分かったリヴと、イギリスの詩人や小説について話す。

それも20:00過ぎに散開となり(英国の飲み会はサクッと終わる)、
早めに家に帰って、頭が疲れたので22:00に寝た。
そして今日は、苦もなく5:00に起きることができた。

明日からダイアンが遠出するので、先日の庭の水やりに続き、
トイレ掃除の仕方をこれから教わる。

ちなみに、『腰巻おぼろ-妖鯨篇』2周目は絶好調だ。
一度目はとりとめもなく感じたせりふの中に、二度目は多くの伏線や
つながりを感じて、遥かに緊密に感じる。やってみたくなってきた。

5/12(木)今日は雑感

2022年5月12日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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少し雨が降っただけでカタツムリ大量発生。1m四方に30匹以上いて爆笑

今日は雑感でいく。いくらか気になったことを。

(1)金芝河さんが亡くなった。
私は唐さんを通してこの方を知っているのみだが、
やはり1972年に始まった友情は熱い。
言葉の違う二人がどうやってコミュニケーションしていたのか
想像もできないが、きっと通じ合うものがあったのだと思う。
日韓反骨同盟。
この二人は揃って叛逆児だけれど、叛逆の種類が違うとも思う。
文化とは何か、という問答になった時、
金芝河さんは「闘争の結果である」と答えた。
対して唐さんは「瓦礫の前を横切る少女のくるぶしのようなもの」
と応じたそうだ。
・・・なんだか大上段な金時河さんを向こうに回し、
唐さんがとりとめもない感じもする。が、実際この通りと自分も思う。
背負っているものがあるから金時河さんは偉い。
けれど、唐さんにとって文化とは、人を驚かせる大いなるいたずらであり
チャームを持つものなのではないかしら。そんなことを思った。

(2)学校の友人がケータイを盗まれた
トルコ人の彼は、ここ二日無断欠席をしていた。
それが、今日は遅刻して悲壮な感じでやってきたのだった。
開口一番「先生、ごめんなさい。ケータイを盗まれてしまい」と。
続けて、ペッカムというまあまあ治安の悪い場所でバス停で
ケータイをいじっていたところ、黒人男性がそれをヒョイと
つまみあげ、走り去ったという。驚くべきは、彼がなかなかの
偉丈夫だということだ。背も高いし筋肉も多そう。
普通はもっとか弱い人を狙うと思うが、容赦なし。
自分にも緊張が走った。

(3)コインを拾いすぎ
いつかまとめて書くが、最近はもう確実に1日1枚+αのペースで
拾ってしまう。最も多くて1日に15枚拾ったことがあり、
先週の土曜は8枚、今日は13枚拾った。
特筆すべきは、あ、ここにホームレスの人が座っていた感じ、
というスーパーの前に、まとめて5枚が転がっていたことだ。
これはどうなのだろう? せっかく人がプレゼントしてくれたのに。
流石に「もっと必死になれ!」と怒っても良いのではないだろうか。

(4)アルメイダ劇場で新作劇『THE HOUSE OF SHADES』を観る
3時間の芝居を観ました。女流作家の新作書き下ろし。
20世紀後半のイギリス中流家庭が、共産主義にかぶれた息子を
力づくで更生させて無気力人間にしたり、娘が秘密裏に妊娠した
赤ちゃんをゴミ捨て場に捨ててでも表向き幸せを保つ。
当然ながら、対面を保っているものの、家族の誰もがいつも表面下に
ストレスを抱えている、という物語。
俳優は上手かったしスタイルも洗練されて、何よりアルメイダ劇場の
舞台後方のレンガの壁がカッコ良かったけど、はっきり言って趣味じゃ
なかった。ロンドンの人は実感を持って観ているのかなとも思ったが、
案外これは日本で数年後に翻訳されて上演していそうな気がする。

5/11(水)研修らしくなってきた

2022年5月11日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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昨日は二つの事業に参加して、劇的に理解を深まった。
3週前から通い始めたシニア企画「Meet Me」と、
学習障害をもつ人たちのための「We Will Be Happy Here」。

まず「Meet Me」だが、やっと事業の枠組みがわかった。

The Albanyには小ぶりな事務所がたくさんあって、
劇場本体の事務局や企画、技術などの部屋の他に、
レジデントしているアーティストや企画団体がたくさんある。

「Meet Me」はエンテレキー・アーツとこの劇場の共同企画なのだ。
なぜ今までそれがハッキリしなかったのかというと、エンテレキーの
スタッフが休暇中だったからなのだ。このへんが英国っぽい。

ちなみに私は、この劇場のどこかにエンテレキー・アーツという
団体があって、福祉的な文化事業をここが主導して行っていることは
日本にいた時から知っていた。しかし、今日に至るまで、ミミなどに
紹介を頼むのを避けていたのだ。

なぜかというと、ただ会っても話が続かなくてしんどいのが
予想できたからである。現場に潜入していけば会うだろうと
思っていたが、果たして今日がその日となった。

ロクサーヌとジャスミンという女性スタッフとシニアを迎えたり、
作業したりしながら喋るのは愉しい。親しくなったので、
これからは事務所にガンガン遊びに行くことにする。

今日はもっぱら合唱の部屋でローズマリーさんという名前のお婆ちゃんと
一緒に歌い続けた。彼女の楽譜を見せてもらい、時には英語の歌詞の
読み方を教わりながら参加した。

"見学です"などと硬い姿勢は現場にとって迷惑でしかない。
新人で、英語ができなくて、そういう自分なりに現場を活気づかせる
ことができると思っている。

私はすでに地元に詳しいので、彼女が住んでいる場所も検討がつく。
オススメの店を教わったり、ローズマリーさんのお孫さんの話を聞いて、
こちらの子どもの話をして、終了後も盛り上がった。

参加者の一人一人が、エンテレキー・アーツが提携している
病院=お医者さんの勧めて参加したそうだ。医療行為の延長として
ドクターは劇場プログラムへの参加を進める。
そういう信頼関係とシステムができているらしい。

午後は「We Will Be Happy Here」。
今週はその企画に注力すると聴いていたが、会議に出席しても
ウェブサイトを見ても、正直その内容がよくわからなかったものが、
今日のリハーサルを見て氷解した。

てっきりWSをすると思って劇場に入ると、すでにセットが組まれていた。
ホール1階には三つの部屋が作られていて、明らかに仕掛けがたくさん。
そこに3人のパフォーマーがいた。彼らが何かやるんだと思っていたら、
お母さんとお兄さんに連れられた青年がやってきた。
その物腰から、彼に学習障害があるのだと分かった。

それから、彼は3人の女性パフォーマーと体をほぐして、
マントのような衣装を羽織って、各部屋を巡り始めた、
モンスターと闘ったり、踊ったり、キーボードを演奏したり、
光るボールで遊んだり、絵を描いた紙を吊るしたり、
最後は真ん中の部屋で大きなロール紙が引き出されて、
そこに、「We Will Be Happy Here」という言葉が書かれていた。
この間、ずっとファミコンめいた音楽が鳴ったり、シーンに合わせて
照明が変化していた。

・・・つまり、こういうことなのだ。
このインスタレーションは、学習障害者ひとりひとりから
内面世界を引き出してホール全体に立体化したものなのだ。
河合隼雄さんの箱庭をスタジオ規模に大きくした。
そんな感じだ。物語の作り手である彼は主人公として冒険する。

明日には他の3人のリハーサルが行われ、明後日はまた別の人の
リハをして、そうして週末の発表に向かっていくことだ。

完全にピンときた。見終わって演出家のレベッカに会い、
「彼はTVゲーム好きなのでしょう?
 ひとりひとりに合わせてカスタマイズするのでしょう?」
と訊いたら、そうだと返事が返ってきた。恐るべき労力だ。

だからこれは、個々のパフォーマンスもさることながら、
「わたしはあなたと徹底的に向き合いますよ」というメッセージを
発信するためのプロジェクトなのだ。

「この人と向き合ったやり方と深さで他の全ての人と向き合う」
というメッセージを贈る。執念と狂気を感じる企画だ。
レベッカから信念が噴き出している。そういう雰囲気の糸田。

お金がどうやって回っているか、とか謎は多いけれど、
上記のことが完全に理解できた。
この企画を主導しているのは劇団スペアタイヤ。
良い劇団名だ。スペアタイヤの事務所もAlbanyにあるので、
これからは遠慮なく訪ねさせてもらう。

もともと3ヶ月くらいかかると思っていたが、機が熟したを感じる。
この研修は第二段階に入った。
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5/10(火)実にハードルだらけ

2022年5月10日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑人は優しい。先週末、前から気になっていたハンガリー料理を初めて

食べた。腕利きの店員さんに説明されながらオススメを頂いた。


英国での生活はドラブルに満ちている。

例えば、最近はワクチンパスを手に入れたいと思い、かなり苦労した。

ワクチンを打つにもかなり手間がかかったが、事後だけでもこんな具合。


まず、接種後2週間が経ったのを確認して、119に電話。

そうすると高速の英語と闘うことになる。当然、相手の顔は見えない。

外国人用の対応窓口につないでもらっているにも関わらず

「ゆっくり喋ってくれ」と何度言ってもスピードが落ちない。

ネイティブの人にとって、ゆっくり話すのは難しい。


自分も可哀想だが、相手も可哀想だ。こちらが電話を置くまで

相手をしてくれるものだから、最後は申し訳なさでいっぱいになる。


埒があかないので、今度は登録の病院に直接に行く。

ここ数週間、保険証登録などでもすっかりお世話になってきたので、

こちらのことを覚えてくれている。受付の人は優しい。


スマホにこのアプリをダウンロードしてみて、

というアドバイスをもらい、GoogleからのDLに挑戦する。

すると今度は、ダウンロードのためのパスワードを、

Gmailアドレスに紐づいた私の日本のケータイ番号に送るという。

当然それは凍結してあるわけだから、キャッチできない。


そこで、現在持っているイギリスのケータイ番号に紐づいた

アドレスを新たに作ることにした。これ、病院の受付の前の

イスで焦りながらやったものだから、自分の名前なのに

アカウントがAtusshi Nakanoで登録されてしまった。

「アトゥッシ ナカノ」。でも、まあいいやと気を取り直す。

名前がどうでも今回は関係ない。


今度こそDLを試みると「あなたのデバイスではキャッチできない」

という。日本で買ったスマホだからなのか。ここで、方針転換。

同じアプリをパソコンに落とそうとしたが、これもダメ。


さらに別の方法を入れ知恵してもらって、

健康保険のウェブサイトから取り寄せることにした。

ここにもハードルがあって、フォーマットに入力するうち、

自分の写真を添付で送ったまでは良かったが、

「Movieも送れ。その際にこの4ケタの数字を言え」と続く。

この時、なぜか自分のPCのカメラが作動してくれない。

いつもZoomもLINE電話もこのMACでしているのに、

どうやってもカメラが動かない。


仕方ないから、Albanyの金庫番であるセリに頼むことにする。

ミミやロミカは親しいが、リモートワークが基本だ。

チケット売り場のリヴやアレックスやイオシフィナも優しいが、

彼らのパソコンは共用のものだし、いつ掛かってくるかわからない

チケット予約に備えている彼らを巻き込むことはできない。


そこでセリだ。若手スタッフと会議をしていたセリに

「後で時間をください」とお願いし、わざわざ自分のデスクまで

来てくれたセリに「あなたの部屋で話したい」と切り出す。


何事かと、彼女は神妙に私を招いてくれたが、結果こんな要件である。

果たして、セリのデスクトップのカメラで映像を撮影するわけだが、

悪いことに、自分のパスポート写真はメガネを外しているから、

裸眼で挑まねばならない。


そこで、指定4ケタの数字を記憶して臨んだのだが、

初回はテンパって「よんなな・・」とやってしまいセリに爆笑された。

再トライして、ようやく24時間以内にメールを送るという通知を得た。


果たして、明日にこれは届くのか。

最後まで気が抜けないのが外国での生活だ。


5/6(金)

学校→VACCURSE会議→買い物→Albany→ナンヘッド霊園

→『腰巻おぼろー妖鯨篇』打ち終わり→BBC交響楽団


5/7(土)

Zoom会議→洗濯→『鐡假面』本読み→ハンガリー料理

→チャールズ・ヘイワードLive


5/8(日)

掃除→本読みWS→買い物→ロンドン響


5/9(月)

学校でテスト→ワクチンパス取得のため病院→Albany

→ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団



5/6(金)その② ついに事件に遭遇

2022年5月 7日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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Linton Kwesi Johnsonさんと。気さくであった。

先のブログを書いて買い物をしに劇場を出たところ、
ついに目の前で事件に遭遇してしまった。そこで今日は連投する。

Albanyを出て100mほどのところに、馴染みのカレー屋がある。
よく昼飯を食べるし、入らない日も挨拶する。
今日もそうして通り過ぎようとしたところ、
私の後方5mほどの所でガラスの割れる音がした。

さっきからワーワーやっている黒人たちのうち3人がケンカを始め、
一人はナイフを取り出す。「ナイフはやめろ!」と周囲から
怒号が飛ぶなか、敵対する男2人は周辺の店の看板を武器にして
殴りかかった。結果、ナイフが地面に転がり、味方のいない彼は
何度か殴られ、それでも素手でやり返した。

少し距離をとって睨み合うと、
看板を破壊された中華料理屋の女性店員が猛り狂って突進した。
負傷した男の肩をつかみ、大声で「ヤーメーロー!」と怒鳴り続けた。
男は怒りのやり場がなさそうだったが、本能的に女性に危害を加える
わけにもいかず、事態は沈静化した。

改めて周囲は彼の流血に気づき、彼もようやく痛みを感じたのか
上着を脱いでTシャツになった。簡単な手当をするうち、
警察が来て、救急車が来て、あっという間にバリケードが張られ、
インド料理屋は店じまいを余儀なくされた。

自分は予定通りスーパーに行ってオレンジジュースを買い、
そこから2時間、劇場での催しを観たが、終わって外に出ると
まだ警察はそのままで、サイレンの音こそないものの
パトカーの明かりが強烈に周りを照らし続けていた。

驚いたのは、警官の視界の届く範囲内で、
ベンチにたむろしていた別の黒人の青年たちがまたぞろ口ゲンカを
始めたことだ。さすがに今度は暴力に至らなかったが、
けっこうな大声だった。

今日のAlbanyで催しは、Linton Kwesi Johnsonという当地の
伝説的な黒人抵抗詩人のレクチャーで、満席の場内に集まった
聴衆の中にはたくさんの若者もいて、熱心に彼の話と朗読を聴いた。

劇場の内外で観た出来事を自分はどう理解したら良いのだろう。

5/6(金)死闘『腰巻おぼろ 妖鯨篇』

2022年5月 6日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑Deptfordは造船業が盛んだったらしく、商店街の端に錨が飾られている。

イースター明けの4/18(月)以来取り組んできた『腰巻おぼろ 妖鯨篇』。
二日ほど前に峠を越えた感じがあったが、いよいよ踏破が見えてきた。
130ページの台本に毎日6ページずつ向き合って、残りあと8ページ。

今回はさすがに堪えた。肩も背中も痛いし何より目が霞む。
イギリスの照明は暗く、室内灯を煌々とつけることは、
倹約家のダイアンの手前、憚られる。

だから早朝や昼間に時間を見つけて取り組んできたが、
用事たくさんで夜にもつれこむ日もある。そうなるともう泥試合。
暗い中とり組むことになるから、負荷が高い。
蛍雪時代という言葉を思い出した。

例えば、ドストエフスキーやトルストイを今の生活の中で読むことは
難しい。あれは20代の暇な時だったから何度も何度も読めたのだ。
ラブレーやセルバンテスは大学1年の時に読んでおいて良かった。
プルーストは来世に託すしかない。
『チボー家の人々』やムージルの『特性のない男』も同じ。

今年は降ってわいた学生時代なのだ。
とにかく、『腰巻おぼろ 妖鯨篇』と『下町ホフマン』を仕留めること。
そうすれば70年代まではほぼ頭に入る。
80年代唐作品にも『あるタップダンサーの物語』とか『住み込みの女』
『ねじの回転』などがあり、先は長いけれど、とにかくこの2作が
ずっと引っかかってきたのだ。

手もとの様式で現在290ページ。
渡英後初めて打ち込んだ『秘密の花園』のざっと倍だ。
その実、プロットが非常に単純なのだが、唐さんは赴くままに
せりふを書いてここまできてしまったのだ。

34〜35歳の唐さん。まず体力がすごい。
『白鯨』の主人公エイハブ船長の気迫を感じる。
巨大なクジラに銛を撃ち込まんという勢いだ。

あとはひと息に。今日と明日は1日6ページのルールを完全無視。
空いた時間の全てを唐さんに捧げて畳みかける!
こんな事をしながら気づいたが、今年は全体が合宿なのだ。
中年以降をよく働くための強化合宿。

5/5(木)グローブ座へ

2022年5月 5日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑カーテンコール。8人で上演できちゃうのだ。

5月なのにロンドンは寒いままだ。
ジャケットこそお気に入りのTK-MAXで買った薄手のものに変えたが、
インナーはまだヒートテックのまま。なのに、そう汗をかくわけでもない。

気になってダイアンに訊いてみたら、これは異常なのだそうだ。
例年の5月の気持ちよさといったら。それなのに今年は・・・
そう愚痴こぼしていた。

暖かくなるのを心待ちにしてきたのには理由がある。
グローブ座に行ってみたい。が、あそこは吹き抜けの青天井。
しかもシェイクスピアだから3時間弱を覚悟しなければならない。
こんなアウェイで体調崩したら面倒だ。そう思ってきたが、
今日は他に鑑賞の予定もないし、『ジュリアス・シーザー』は
超メジャー演目でもないから£5の立ち見席が空いていた。

語学学校を終え、Albanyで事務をして18:30。
Deptfordからグローブ座まで30分ほど。行くべし。

初めてグローブ座で劇を観ることができた。
たった8人の役者で全編を演じ切り、最後に素朴な踊りまであった。
衝撃的な大感動を呼ぶわけではないけれど、町中華で食べるラーメンの
ような安心の美味しさがあった。

今日は観客がまばらだったし徐々に寒さが増していく。
観光客が多いからか、休憩時間に帰ったお客もたくさんいた。
けれど、役者たちは熱演して、演出により、時には観客と絡んだりした。

『ジュリアス・シーザー』は革命青年たちがクーデターを起こす話だ。
そして大義を持ったはずの殺人のあと、彼らは追い込まれ、滅ぶ。
後方のベンチシートで観ていた中年男性が嗚咽するように泣いていた。
学生運動に挫折した経験でもあるのだろうか。

主役のブルータスは黒人の若い女性が演じていて眉毛が繋がっていた
このメイクに、役柄の一徹さが表れていた。相棒のキャシアスは白人女性。
衣裳はスーツやミリタリーを使った現代服でシンプル、そこに少しずつ
古風に見えるように工夫されていた。

太鼓やタンバリンなど打楽器を使った原始的な演奏が随所に見られ、
最後にはダンスがあって、盛り上がって終わった。

地面はコンクリートで、照明も電気だけれど、
吹き抜けによって見える空だけは400年前と変わらない。
テントや野外劇をやってきたから、雨の日の様子も含めて気になる。

それに、さまざまな演目を立て続けにやっているから、
『ジョン王』とか『ヘンリー8世』とか、珍しい演目を観られる。
オーセンティックな衣裳による上演も見てみたいし、また来よう。

全体に誠実な感じがした。観光客が観にくるわけだし、
グローブ座の様子を再現するというミッションもある。
しかしその枠組みの中で、純粋に芝居としても面白い上演のために
最善を尽くしている感じがしたのだ。ダレる日もあるだろう。
でも、空だけでなく、人間も大して変わっていない。
そういうことを実感させる良さがあった。

↓お土産物売り場で異彩を放つマンガ版『リア王』。まるで漫画ゴラク
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5/4(水)アヴェ・マリア大集結

2022年5月 4日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑都心でテント小屋を発見。なかなかの安定感とエントランスだ。

グリニッジ駅前の殺人事件から二日が経った。
事件そのものにも驚いたが、輪をかけて驚異を感じるのは、
翌日も平然と事件現場となったパブが開店していることだ。
今日は都心から帰ってくる際に横を通ったが、
警官が三人いて聞き取りを行っているところだった。
お客は少ないが、三組ほどいるのが外から見て分った。

衝動に駆られて惨事を起こしてしまうのは辛うじて理解できなくはない。
しかし、淡々と開店していることは冷静な行動だ。
確かに、では何日閉めるべきかと問われたら答えに窮するが、
それにしても・・・・。献花が増えていた。

帰宅して、英国人としてどう思うかダイアンに訊いたら
普通は閉めるものだとの答えが返ってきて、少し安心した。

時間を戻すと、連休明けの今日は火曜日なので、
ソフィーの仕切るシニア向けWS「Meet Me」に参加した。
合唱と美術創作の2種目で好きな方に参加しているメンバーが
早くも自分のことを憶えていてくれて、やりやすかった。

「グリーンティーをちょうだい!」などと頼まれる。
よし来た!と思ってお茶を淹れて持っていくと「ミルクを入れて」と。

日本人としてはかなり違和感を感じたが、
怯まず「スタンダードミルクかソイミルクか?」とすかさず
訊いて、「ソイ!」とのリクエストを受けた。

日本人は緑茶にミルクを入れることに抵抗があるが、
紅茶にミルクを入れるわけだからこちらの人は緑茶も同じように
するのかと思ったが、これもダイアンに普通ではないと言われた。
簡単に国民性の違いにしてはいけないらしい。

シニアたちの英語は容赦ないが、まあ何とかやっている。
合唱に加わって英語の歌を覚えられるのは良いことで、
これは自分にとって英語学習プログラムだと皆さんに伝えたら、
ヘンリー8世をからかった俗謡を歌ってくれた。

その後は文化庁に提出する3ヶ月に一度の報告書を書いて、
都心に出かける。ウィグモアホールで初めて聞く合唱団が
色んな作曲家のアヴェ・マリアばかり歌う、という過剰な企画を
やったので当日券で入ったが、思った通りかなり面白かった。

アヴェ・マリアは唐さんも好きで、『腰巻お仙 忘却篇』や
いま本読みWSをしている『蛇姫様 わが心の奈蛇』でも使うよう
ト書きに指示がある。いつもギャグ的な使用なので、
今日のコンサートは大変に美しかったが、やっぱりバカバカしい
シーンが思い出されてニヤニヤしてしまった。

ちなみに、なぜか入場料はたった£5で最上等の席に座れた。
当日券だと安いのだろうか。よくわからないが幸運だった。

5/3(火)先週末から週明けのロンドン

2022年5月 3日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑終了後の稽古場。チェンバロが見える。


これをロンドンの都心で書いている。

飲食店はどこも高いこの街では、屋内にフリーで座れる場所は貴重だ。

ナショナルギャラリーの横にある教会セント・マーティン・イン・ザ・

フィールズの地下は落ち着いてデスクワークができる場所だ。


それにこの教会はイベントに大変熱心で、

3月にはここでBBCシンガーズの『ディドーとエネアス』を聴いた。


今日は地下1階のテーブルに陣取ったところ、地下2階に稽古場が

あるのを発見した。このゼミログを書いているすぐ横では、

ガラス1枚を隔てて木曜に上演予定のヘンデルのオペラ

『セルセ』の稽古が行われている。


主役級の歌手が、出番の合間にコーヒー片手に目の前のテーブルで

休憩し、電話をし、くつろいだ後、また稽古に戻っていく。

稽古場の中はは紀元前5世紀頃のペルシャ。

さすがヘンデルの地元。これがロンドンだ。


4/29(金)夜は内田光子さんのリサイタルに行ったが、苦しかった。

弱音と不協和音が連続する現代作曲家の曲に対し、周囲に沢山いた

中国人旅行者たちが騒々し過ぎたのだ。


まず、私の席に言ったところ、先に座っている人がいて閉口。

チケットを示してどいてもらった。

隣の中年夫婦はひっきりなしにお互いの体をまさぐり合うか、

姿勢悪く寝ているかだった。一方、当日パンフがオンライン配布なので、

ケータイの明るさを最弱にして読みながら聴いていたら、

二席隣のおじさんが「目に入るから電話を閉じろ」という・・・

苦いコンサートだった。


4/30(土)はサウジアラビア人の友人アジードと最後の晩餐。

その前にロンドン・セントラル・モスクに一緒に行こうと約束したが、

こちらが着いたところで電話があり「間に合わない!」と。

後でレストランに着いて分ったが、この日、彼は半年間お世話になった

ホストマザーを連れてハロッズに行き、お礼に高級なアラビアの香水を

買っていたのだ。彼が案内してくれた店でした三人での食事は面白かった。


予定の組み方も、案内の仕方も、メニューの頼み方も、

18歳の彼のアテンドはものすごく未熟だ。

でも懸命で、こちらに自国の食べ物や感謝を伝えたい気持ちが伝わってきた。

同じアラビア圏のトルコ人留学生たちと、友達になってはケンカ別れを

繰り返していた彼。彼の目標である良い医者になって欲しいし、

彼とは再会の可能性があると思う。何年後かに日本を案内できたら嬉しい。


一人で満喫したモスクでは、イスラム教の合理性がよくわかって

楽しかったし、食事も美味しかった。久々に沢山お米を食べた。

アジードに幸多からんことを!


5/1(日)は唐ゼミ☆本読みWSをしてキングスプレイスに出かけた。

ピーター・フィッシャー率いるチェンバー・アンサンブル・オブ・

ロンドンを聴くためだが、キングス・クロス周辺の文化施設は

綺麗すぎて自分はどうも馴染めない。演奏会は会心の面白さだった。

ピーターはフィルハーモニア管のツアーに同行するため、

夜中にヘルシンキに向かった。激務だ。


5/2(月)。銀行が閉まるバンクホリデー。メーデーだ。

朝から『腰巻おぼろ 妖鯨篇』と格闘して、へばり気味だが、

昼過ぎにはウィグモアでガーシュインを特集するコンサートを聴いた。


その後、今後の遠出に備えて電車に切符を買いに行った。

オンラインでの申し込みが基本だが、なぜかクレジットカードが

はじかれる。そこで現地購入。


時間の無駄とも思うが自分はこういうのが好きだ。

劇や音楽の公演も、できればボックスオフィスで買って

紙チケットが欲しい。スタッフに質問したりすることも含めて、

時間に余裕があるからできる贅沢だと思う。


そして都心を歩き回り、今、冒頭の教会にいる。


今日、ダイアンは大金持ちの友人に誘われて、

ロイヤル・オペラ・ハウスでディナー付きボックスシートだそうだ。

出がけにストールの色やバッグの色について意見を求められたが

明らかに派手な方を選んで欲しそうだったので、そちらを指さしたら

喜んでいた。


他方、土曜未明にグリニッジ駅前のバーで殺人があったそうだ。

酔っ払った30歳前後の友人二人がケンカをして、一人が刺されて

亡くなり、一人は警察に捕まった。あまりにあっけない。

これがロンドンだ。

4/29(金)必ずしも英国が良いわけではない

2022年4月29日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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猫の捜索願いを目にするのは二度目。が、これはインパクトある。

片目の黒猫を捜している!


Albanyにいて感じるのは、ここで行われる劇場運営が

日本のそれよりはるかに多く地域の人たちに関わっていることだ。

もともとそう思ってこの劇場を研修先に選んだわけだが、

実際に一緒に過ごしてみて、強く実感する。

 

そのため、この劇場が行う催しは圧倒的に音楽イベントが多い。

子ども向けのプログラムを除けば、これまでにストレートプレイは

3つしか観なかった。つまり、それだけせりふ劇の間口が狭い

ということなのだ。

 

また、辣腕のソフィーが仕切るシニア向けの定例WSに立ち会った。

皆で染め物によるバナーづくりをしたり、サイモン&ガーファンクルの

曲を合唱するのに参加した。作業や練習そのものは90分程度の

長さだが、皆さん早めに集まってくるし、休憩時間もたっぷりとる。

劇場から供されたお茶とお菓子で団欒して過ごし、

終わった後もみんなで残って茶話会のような感じになる。

 

とてもステキな光景で、それら一連が終わると、

ある人は自身で帰途につき、別の人は家族が迎えにきた車に乗って

帰って行く。ソフィーはそのひとりひとりと話をしながら見送っていた。

ソフィーはオーガナイザーであり、参加者の娘や看護師のような

存在でもある。「ソフィーはどこ?」と誰もがすぐ彼女に助けを求める。

その度にソフィーは二つの会場を駈けまわっていた。

 

まるでデイケアサービスのようだと思った。

内容的にもアートの度合いは薄めにしてあり、そのかわり間口が広い。

そして、Albanyがこうなったのには明確な理由がある。

地域経済が逼迫したからだ。

 

21世紀に入った頃、この地域は困窮した。

Lewishamはシニアにかかる医療費を支えきれなくなり、

Albanyは文化予算の削減に喘いだ。そこで両者は手を取り合ったのだ。

追い詰められたもの同士が結びついて、劇場の新たな事業展開に活路を

見出した。言わば、窮余の一策ともいえる。

 

必ずしも英国が良いわけではないと書いたのはそういうわけだ。

医療と文化、その両方がいまだ一定水準の予算規模を保っている日本は

幸せである。しかし、若者が減り、高齢者が増える国家経済の行き先を

誰しも明るいとは思わない。だから、来るべき時のためにと思って来た、

ともいえる。

 

いずれにせよ、そういう苦さも含めて自分は学びの日々を送っている。

音楽イベントに集まる若者たちにとって、Albanyは劇場でなく、

DJのいるクラブとしか記憶されていなのかも知れない。

そういうことも思う。


それが良い。それで良い。やっぱり劇場だと思われたい。

こんな風に3段階の感情が湧き、正解は見えない。

やはり、劇場は最高水準の芸術性を追究するべきでしょう。

という思いもある。最高水準の芸術性・・・。

 

しかし、しかしである。

これらは、やりようによって共存するのではないか。

それどころか、人々の事情や暮らし向きに接していることは、