7/12(火)辣腕の政治家

2022年7月12日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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↑車窓からは山羊が見えた。シェイクスピアは田舎の小さな村から

世界に挑んだのだ


リチャード3世のことである。

今、ストラトフォード・アポン・エイボンに向かいながら

これを書いている。午前中にAlbanyのシニア向けWSを終えて、

ロンドンを飛び出した。シェイクスピアの故郷で、

これからロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによる

『リチャード3世』を観る。


現地に到着してから開演までさほど時間は無いだろうから、

各所を見て回るのは明日だ。


そういうわけで、先週末は読み進めていた『ユリシーズ』を一時中断、

シェイクスピアの伝記と『リチャード3世』の台本をおさらいした。

思えば、高校2年の時に初めて読んだシェイクスピアがこの本だった。

以前より格段に面白く読めた。


ロンドンに暮らすことになって5ヶ月半。

台本を読みながら、彼が王位を手に入れるため、あるいは、

望みを叶えてからは逆賊を退けるために、いかに素早く立ち回ったか、

実地に想像できるようになっていることに気づいた。


何にもの邪魔者に矢継ぎ早に死を与え、

同時に、必要な人間は最短距離で口説き落としている。迅速だ。


史実としては、リチャードはもっと時間をかけて

一手一手、策を実行に移していったのかもしれないけれど、

シェイクスピアのスピード感は5日間くらいの出来事のように感じさせる。


ロンドン塔、聖ポール寺院、ホルボーン、

ベイナード城があったブラックフライアーズ、

戴冠をしただろうウエストミンスター・・・・など、

新宿区の端から端までの広さをひたすらかけずり回っている。


「ロンドン、街路」とあるだけのト書き、今まで無味乾燥だった

このト書きが色彩を帯びて、豊かに想像できる。

そこここに、忙しなく行き交っては足を止め、持ち前の饒舌を尽くす。

そんなに広くないセントラル・ロンドンをコマネズミのように立ち回り、

口八丁と切った張ったで人生を切り抜けていったことがわかる。


後半の敵軍との闘いのために進軍した場所も想像できる。

最近は英国地図と首っ引きで旅行計画を練っているためだ。

それぞれの都市の位置と距離感がだんだん身体に入ってきた。


そういえば、前にYouTubeの動画で銀座のママさんが語っていた。

デキる男は皆、素早くて可愛げがあるのだそうだ。


グロスター公リチャードは素早くて、可愛げがある。

主人公のキャラ立ちは良くても、若書きだから緊密さに欠けると思っていた。

けれど、辣腕政治家の一代記として、この台本は面白い。

面白いように出世して、政務を取る間も無く殺される。

作者のタイムコントロールに喝采してしまう。


もうすぐ目的地だ。


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