5/31(土)地球に落ちて来た男
2025年5月31日 Posted in 中野note
リーディングドラマ『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』の最終公演地がここなのです。
確かシアター1010に来たのは、三枝健起さんが演出し、
三田佳子さんが主演した『秘密の花園』以来のことです。
あの時はまだ、朝倉摂さんもお元気で、ゲネプロから観せてもらった記憶が
あります。初め、たっぷりとしたペースで演じられる『秘密の花園』にとまどった
覚えがありますが、翌日にお客さんが入って納得させられました。
三田佳子さんのファンが客席を埋め尽くしているのですから
いつもの唐十郎節でまくし立てると話について来られなくなる。
そこを三枝さんと三田さんは分かっていて、わざとゆっくりに、丁寧に物語を
運んでいました。確かに、せりふが内発的に求めるテンポはあります。
が、お客に伝わらなければ何にもならないということを
自分はあの公演から学びました。
たしか、漫才コンビのナイツも、浅草でやると、ゆっくりかつ分かりやすく
なるのだと言っていました。チェリビダッケがフルトヴェングラーにある曲の
テンポについて訊いたところ、「それは演奏する空間によるだろう」と
言われたという有名なエピソードもあります。
・・・ということを、北千住駅についた瞬間に思い出しました。
そして、夜はKAATに行き、デヴィット・ボウイのミュージカル『ラザルス』初日
にも立ち会いました。ミュージカルと謳われてはいますが、これは
中島みゆきさんの「夜会」のようなもので、全編がボウイがさまざまな時代に
つくってきた楽曲を再構成して成り立っています。
それらをつらぬく筋立てが変わっていて、地球に落ちて、帰る手段を失った
男が監禁され、地球での思い出や宇宙にいる家族のもとに戻ることを夢想
する、というストーリーです。
最初から最後まで瞠目しながら観て、ボウイの音楽をたくさん浴びながら
要するにボウイは、地球人として違和感だらけだったということに
思いを馳せました。自分は宇宙から来たんじゃないか。
そう思っていたという内容でした。
さらに、遺作としてこのミュージカルを発表したということは、
つまるところ近く訪れる死を、宇宙への帰還と位置付けていたわけです。
天才と言えば天才、ナルシストといえばナルシスト。
それを押し切るところにボウイと『ラザルス』の醍醐味があります。
演出・白井晃さんの真骨頂を観た思いです。あれは白井さんしかできない
作品です。と同時に、唐さんもまた『唐版 風の又三郎』の教授役のせりふの
なかで、「おれは天からの授かりものだ!」と吠えていたのを思い出します。
地球に落ちて来たり。天から授かったり。才能は自己を劇化してやみません。
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