12/26(月)『ベンガルの虎』本読みWS 最終回レポート(中野)

2022年12月26日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野WS『ベンガルの虎』
download.jpg
↑スタンダードなベンガルトラ


第11回=最終回の『ベンガルの虎』本読みでした。
同時に、これは2022年最後のWSであり、
私がロンドンからお送りするラストの開催でもありました。


前回、月光仮面を名乗ってイキった銀次が巨大ハンコで
グリグリされかかり、追い詰められたところまでやりました。

このグリグリに対し、猛然とカンナが助けに入ります。
が、『薔薇族』というゲイ雑誌のエディターに扮した中年男=二幕の
予想屋・将軍が乱入し、敵方はますます強大になるばかり。

ここからは、70年代の唐作品ではお馴染み決闘シーンに入ります。
今回はフェンシング。基本的に終盤に決闘があるのは
唐さんが大好きなマカロニ・ウェスタンの影響ですが、
フェンシングといえばハムレット。
きっとこの世界的台本もヒントになっています。

しかも、唐さんの方が遥かにコミカルです。
さっさと追い込まれた銀次に変わりカンナが名乗りを上げて
俗物隊長と死闘を演じますが、胸元を切られたカンナが乳房を
閃かせながら立ち回りし、ゲイ設定のエディターがいたたまれずに
目を背けるところなどは、なかなかのふざけっぷりです。

ことに、町内会長たる俗物が町会メンバーから癒着感たっぷりの
声援を受けた際、カンナが俗物に放つ「だまれ、 旦那芸!」
という啖呵は、罵り言葉としてはなかなかの名ぜりふです。

そしてこの珍妙さと悪ふざけの入り混じった殺陣は、
カンナを庇いに入った水島をカンナが偶然に刺してしまうことで、
突然に収束します。

それから一旦、銀次と二人きりになるも、
今や、この世に生まれ落ちることができなかったことが明白となったカンナ、
白骨街道からこだまする死の虎の吠え声を背後にまとった彼女を、
銀次は支えることができません。
このシーン、カンナの「あたしは形が欲しいんだ。形のあるものが欲しいんだ」
というせりふも、彼女の境遇を思えば悲痛です。
水を汲みに行くと言って銀次は退場。

すると、再度、母のマサノがトドメのお迎えのように現れ、
カンナは生を渇望する死者として、リンの光すら周囲に浮かび上がらせます。
そして、いよいよカンナは行李に入る。その時、虎の吠え声も響きます。
つまり、死を司どる虎を行李になぞらえ、行李=虎に飲み込まれる
シーンが出来します。

すわ、勝負あったかというところで、銀次が再登場する。
彼は別の行李を掲げ、この自分流の行李にカンナを背負い、
生に向かう道を切り開いてみせると宣言する。

気弱な水島くんだった銀次が、いよいよ、一幕でカンナがけしかけていた
「ライオンと闘える男」に覚醒した瞬間です。
銀次の「行李に入っていろ、女っ。今度はぼくが旅をするんだ!」という
最後のせりふ、フェミニズム的には問題がありますが、劇の文脈を押さえると、
これがカンナにとって待望の、頼り甲斐のある男の宣言であることは明白です。

死の遠吠えにより迫るベンガルの虎に対峙する銀次、という構図で物語は集結。
まさに死中に活を求める銀次の旅が始まるところで物語が幕を閉じます。
『鬼滅の刃』、鬼となった禰豆子を背負う炭治郎と同じ構図ですね。

劇終盤、カンナは「虎」をめぐって銀次に2種類のオーダーをします。
(1)恐ろしい虎と闘ってほしい
(2)虎のようになって恐ろしい虎と闘ってほしい

ここで扱われる「虎」が正反対の意味だから読者やお客は混乱する。
でも、そんな風に正反対を矢継ぎ早に繰り出し、心地よい混乱を勢いを
竜巻のように生み出すのも、唐さんの才能です。

↓(1)恐ろしい虎を引っ張ってきて闘ってくれと頼む場合。「虎」は恐ろしい悪者
download-1.jpg

(2)カンナが銀次に、虎のように強くなって、恐ろしい虎と闘ってくれと頼む場合
↓この場合、「虎」は正義の味方です。
prof_323.jpg



ちなみに、これはワークショップ本編では触れそびれたのですが・・・

最後まで読み切った上で、劇全体の冒頭のト書きに返ってみるとさらに愉しい。

ト書き冒頭の三行は一見すると『ビルマの竪琴』、白骨街道を示すもののように
見えて、実はカンナの渇望を暗示するものだったことがはっきり理解できます。
もう一度、冒頭を味わってください。それからカンナが登場することの意味。

白骨街道には日本人兵士の骨だけでなく、
それより以前に南洋に散った不幸な女たちの境遇、
生まれ落ちることができなかった小さな命の無念も含まれているのではないか。

実に唐さんらしい視点です。
唐さんの戦争批判を超えた根源的ないたわりの心と想像力。
弱いものへの慈しみを感じとることができます。
『ベンガルの虎』、傑作です。


次回は2023年1月8日(日)から。
19:30-21:30の時程で『秘密の花園 初演版』に入ります。
ご参加お待ちしています。

12/19(月)『ベンガルの虎』本読みWS 第10回レポート(中野)

2022年12月19日 Posted in 中野WS『ベンガルの虎』 Posted in 中野WS『ベンガルの虎』

download.jpg

↑大切な存在が死に飲み込まれてしまわぬよう、人は時に紐を引っ張る


昨日の本読み。『ベンガルの虎』三幕中盤をやりました。


このシーンの主眼は夫の水島が洋行帰りの商社員として

改めてカンナを南洋に誘うというものです。


二幕で競輪選手として現れた時には曖昧なところもありましたが、

ここでは水島が、南洋=死の世界への案内人であることが

よりはっきりと分かるようにせりふが書かれています。


初めは銀次を頼りにして水島を警戒していたカンナも、

ことば巧みに彼女を口説く水島に押されて、

ついには南洋に行こうという気になってしまう。


が、いよいよカンナが水島に取り込まれようとすると、

銀次がこれを阻止する。という構図が繰り返されます。


この際、特に重要な働きをするのが次の二つの道具。


①カンナと銀次を繋いでいる紐→生の世界への命綱

②行李の門→くぐると死の世界が広がる


この価値基準で見ると、

何度か繰り返される紐が切れた、結ばれた

行李の門が壊された、という現象が単なる道具の操作を超えて

この劇のテーマを背負っていることがわかります。


また、男らしさを増した銀次が自ら月光仮面を名乗って

暴れ回るシーンは秀逸ですが、見逃せないのはその前段の彼のせりふ。

初対面の時に、自分は当てずっぽうにカンナを先生と呼んだのだと

銀次は告白します。


つまり、カンナが生存していることに対する唯一のアリバイ、

それが銀次の証言だったのですが、いよいよこれが崩れることに。

当初、劇がスタートした時にカンナが言っていた忍岡中学の

元家庭科教師という設定は、すべて作り話だったと明らかになる。


ただし、銀次がここでわざわざカンナにとって不利な証言を

したのは決して彼女を見放しているのでなく、

月光仮面として新たな関係性をカンナと結びたい!

そういう宣言としてとらえなければなりません。

ここは銀次役の工夫のしどころです。


覚醒した銀次VS馬の骨父子商会の面々+水島

という構図でアクションに突入し、この争いが混沌としたところで

ミシン売り→予想屋の将軍として活躍していた中年男が

ゲイ雑誌のエディター(編集者)として登場します。



次回はこのエディターの登場から。

12/25(日)のクリスマスを最後に『ベンガルの虎』最終回です。

同時に、私の渡英中の本読みもおしまい。


来月からは日本で再開します。

日時は毎週日曜日の19:30。

『ベンガルの虎』。新たに始まる『秘密の花園 初演版』。

こちらもよろしくお願いします。 

12/12(月)『ベンガルの虎』本読みWS 第9回レポート(中野)

2022年12月12日 Posted in ワークショップ Posted in 中野WS『ベンガルの虎』
images.jpg
大学生の頃、映画論の教授に勧められて黒沢清監督作品をよく観た。
中でも仰天したのがこの『回路』。なんと、赤いテープを四角に貼るだけで
あの世とつながってしまうのだ。ホラーなのにユーモアがあり、笑ってしまった。
唐さんの場合は行李のゲート。さらに意味ありげ過ぎてコミカルでもある。


昨日は『ベンガルの虎』本読みの第9回。
最終の第三幕に入りました。

二幕の終わりを思い出してください。
夫の水島が競輪選手に乗って迎えに来る。
その自転車の荷台に乗って南洋までの道を一直線に進めばどうなるか。
南洋からはベンガルの虎の吠え声も聞こえる。
要するに、口を開ける死の世界。その魅力に負けて突き進めば、
カンナもまた南洋で死んだ一つの骨のかけらに過ぎない、
という世界観に行き着く。すわ!
それを寸手のところで押しとどめたのは、これまで弱気だった銀次。
彼がやや覚醒。

三幕。
冒頭では、二幕の顛末のために二人の関係が逆転しています。
銀次がカンナを先導。二人の間には、まるでカンナがどこかへ行って
しまわないよう、しっかりと紐が結え付けられている。
そうして、二人は入谷朝顔市にやってくる。
その目的ははっきりとは書かれていませんが、
明らかに、台東区入谷三で育ったというカンナの人生を確認するため。
それが確認できれば、カンナはちゃんとここで育ったということになる。

ところが、冒頭から不吉。
朝顔市の賑わいの中、明るく歌われる合唱の歌詞をよく読むと、
朝顔の花の様子は、首を吊って死んだ母に見える・・・

しかも、本来は自分が語ってきた出自の正しさをいち早く証明したいはずの
カンナは極めて弱腰。言葉の上では、現在はホステスである身の上に
を引け目を感じるとか、言い訳をしますが、本当は自分の主張に
自信がないためではないか、と読者(観客)は勘ぐりたくなる。

が、いざ町内に足を踏み入れてみると、
お婆さんたちは次々にカンナに声をかけます。
そこで、カンナの主張は正しかったのか、とも考えられますが、
やはりカンナの応答は辿々しく、むしろ自分が語ってきた出自通りに
なってきていることに戸惑いすら感じさせます。
とにかく、カンナは町内の面々に正対して会話したがらない。

この謎を解く鍵は、朝顔市に入るために用意された謎めいたにあります。
これが、行李でつくられたゲート。
つまり、カンナが確かに生きてきた(生きている)証拠を求めてやってきた先の
入谷町会も、朝顔という首吊り死体が群がる白骨街道であるということです。

カンナに親しく話しかけるお婆さんたちの様子も、配役場、
彼女たちが二幕で演じた村岡伊平治が世話するラシャメンに見えてきます。

南洋は死の世界。それを避けるために駆け込んだ台東区入谷も死の世界。
ならば、銀次はどのようにしてカンナを迫りくる死から救うのか。
そういうこの台本の骨格がいよいよはっきりと片鱗を表しました。

とはいえ、三幕冒頭は表面的には賑やか。
馬の骨父子商会の面々が、南洋から送られてきた骨を銭湯で執拗に
洗い清めるくだり。彼らに挑んだチンピラ左近・右近が軍人上がりのおっさんに
腕力で一蹴され、青春の挫折を味わうというサブエピソードが活き活きしています。
左近・右近の挫折は、成長していく銀次を際立たせる効果も生みます。

・・・というところで昨日はおしまい。
年内に残る2回でこの『ベンガルの虎』を読み切ります。
同時に、私のロンドン滞在も終了。

2023年1月からは日本に帰り、『秘密の花園』の初演版と唐組版を比較しながら
読んでいこうと構想しています。


12/5(月)『ベンガルの虎』本読みWS 第8回レポート(中野)

2022年12月 5日 Posted in 中野WS『ベンガルの虎』

download.jpg

↑銀次はこのようになれるのか。素手ならなお良し。


昨日は『ベンガルの虎』を読みました。


先週の段階では三幕冒頭まで進もうと思っていましたが、

残りを計算したところ時間に余裕があるとわかり、

じっくりと腰を据えて二幕終盤に取り組むことにしました。

この場面にはそれだけの価値があります。


ヒロイン・水嶋カンナとは誰なのか?

彼女は生きているのか、死んでいるのか?

そもそも、彼女はこの世に生まれ落ちることができたのか?

物語の進行とともに死と生が交錯し、

カンナを見つめる銀次の役割が鮮明になるのが、この二幕の終わりです。



前回、カンナの母・マサノが登場しました。

村岡伊平治が語ったマサノの生業=からゆきさん

娘であるカンナの出自=駆け落ちした現地人との子ども

は、カンナにとっていかにもショッキングでした。


が、カンナもまた、

母と同じラシャメンの格好をして村岡一家の一員であることを

受け入れようとする。ビルマ僧に化けてその場に踏み込んだ

銀次が静止を試みるも、力およばず。


でも、これはカンナの作戦でした。

言うことを聞くと見せかけたカンナは村岡を拳銃で撃つ!

(どこから手に入れたのかは、謎! 同時期の『盲導犬』と同じ構造!)


これにより、日蝕から続いていたカンナの悪夢に区切りがつきます。

場面はもとの競輪場に戻り、村岡は酔って浮かれ騒ぐ俗物にかえり、

銀次にはビルマ僧としての記憶がありません。

ただ、カンナのみが先ほどまで見てきた悪夢、

出自に絡む悪寒を引きずります。

銀次の取りなしで徐々にそれも落ち着いてくる。


しかし、あの悪夢はカンナの気のせいでなく、確実に存在してました。

いつの間にか競輪場では全てのレースが終わっている。

つまり実態があったのです。カンナはそれを認めたがらず、

二幕冒頭の目的であった競輪をしようと言って聞きません。

困り果てる銀次。


そこへ、一台の自転車がやってきます。

それ見たことか! まだレースは終わっていないと喜ぶカンナ

でしたが、その競輪選手こそ夫の水島であり、カンナを再び

南洋の過去の悪夢へ、ラシャメンへと引き戻そうとする導きでした。


あまりのしつこさ、ついにカンナも折れて拒絶をやめ、

むしろ自分から悪夢に飛び込んでやると水島を煽りはじめます。

唐さんが生んだ名ぜりふ「クレイジー・ラブ!」がここで炸裂。


この、ともすればちょっと恥ずかしいせりふを成立されるためには、

カンナの、拒絶からの開き直りへの変化の瞬間、そのダイナミズムを

押さえなければなりません。


今まで拒絶していたのが一転、

俄然、自ら悪夢に向かって乗り出していく破れかぶれの勢いが重要です。

そうでなければ、単なるヤンキーの箱乗りになってしまう(笑)


水島は骨の運搬屋です。

その水島に運ばれるカンナもまた、骨=死者になろうとしています。

それを制止したのが銀次でした。

単なる恋愛感情のもつれ、三角関係の女性の奪い合いではありません。


銀次の側に止まると言うことは、カンナが確かに入谷に育ち、

家庭科教師であったという"生"を選ぶことなのです。


気弱だった銀次、ライオンと闘うに程遠かった銀次が、

少しずつ男としての覚醒を始めます。


ただし、依然として南洋から虎の吠え声は響いており、敵は強大!


銀次はカンナを"生"に引っ張る!

水島はカンナを"南洋=白骨街道=ベンガルの虎

=生まれてすぐ死んだ赤ん坊という出自"に引っ張る!


という構造がいよいよはっきりしてきました。

銀次はライオン≒虎と闘い得る男になれるのか。


年内、残る3回で三幕を踏破します!


↓虎を倒した男は確かにいるらしい

main-qimg-d72acdc10e070dc21b7b54d03b713cc2-lq.jpg

11/28(月)『ベンガルの虎』本読みWS 第7回レポート(中野)

2022年11月28日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野WS『ベンガルの虎』
LINE_ALBUM_221016_2.jpeg
↑再びアサヒグラフより。バングラデシュで日本刀を振り回し、たくさんの行李が
押し寄せるこの劇を、現地の人たちはどう観たのだろうか?

二幕も中盤を過ぎて後半に差し掛かり、
村岡伊平治やカンナの母・マサノが入り乱れるシーンをやりました。

時間も空間もワープする。そう言われる唐作品に真骨頂です。
が、ただ単に幻想文学、ファンタジーでないところに唐作品の面白さがあります。
俗物隊長が村岡伊平治を演じていた、というオチをちゃんとつける。
唐さん流のリアリズム。

この俗物隊長=村岡伊平治を初演で演じたのは大久保鷹さんです。
その二年前には『吸血姫』で大陸浪人・川島浪速に扮し、
袴姿で日本刀を振り回した鷹さん、
唐さんの中にその成功体験があったことは間違いありません。

ストーリーに入ります。

伊平治がヒロイン・水嶋カンナの出自の謎に迫る。
母・マサノは、東京→下関→長崎?→バッタンバンに連れてこられたラシャメン。
マサノが現地にいるカンナ族の青年と駆け落ちする。
海に飛び込んで逃げようとするが、青年は死に、マサノも虫の息。
その時に産み落とされたのがカンナ。

伊平治はマサノの遺体を行李に詰めて日本に送った。
行李はバッタンバン→長崎→東京入谷町三丁目の実家に届いたが、
マサノの母がそれを東京→長崎→バッタンバンへと送り返した。

伊平治の説明の中で、カンナの出自が揺らぎます。
東京入谷町に生まれ育ったと言っていたカンナでしたが、
マサノの行李に一緒に入って東京に到着し、そこでお婆ちゃん(マサノの母)に
引き取られて育った、という風に説明しなおす。

伊平治も気付かぬうちに、生まれたての赤ん坊がどうやって行李に入れたか、
船旅をどのように生き抜いたか、これが謎です。
そしてこの謎はかなり重要です。
唐十郎作品だから何でもアリなのだ、となってしまうと、
かえってこの不思議さを見落とすことになります。
カンナは出自だけでなく、生存自体が危うい。

カンナが生きているのか死んでいるのか分からない。
それどころか、実在するのかも分からない。
そういう疑いが鮮明になるシーンです。
そしてここに、『ベンガルの虎』の中心がある。

当初はカンナに味方し、物語を追いかけてきた読者・観客が裏切られ、
揺さぶられる大事なシーンです。推理小説でいうところの
語り手が犯人という構造にも思える。

マサノの登場がそれに追い打ちをかけます。
(このマサノこそファンタジーです。実在しないものが甦って語り出す)
彼女は東京から身売りされてきた過去を語りながら
伊平治に駆け落ちを詫び、もう一度、ラシャメンとして置いてくれと訴えます。

村岡が
「マサノは死んでいる。しかも迷惑なことにカンナも来ている」と言い放つと、
娘を大人しくさせるから二人で置いてくれと頼むマサノ。
マサノのあまりの気味の悪さに、伊平治は部下に命じて彼女を退出させ、

行李の中に立てこもったカンナを始末しようとします。
すると、領事がやってきて、水をさす。
一転、彼に頭が上がらない伊平治とのコミカルな場面に突入します。
領事は「女郎屋なんてやってちゃいかん」と説教する。

この領事は、ミシン売りの中年男=予想屋の将軍を演じてきた
唐さんの役です。「おれは女房にかどわかされっぱなし」というせりふも
楽屋オチで大いにウケたはずです。

笑いの場面を挟むことで、緩急がついた物語はさらに吸引力を増します。
東京からラシャメンの骨("象牙"と隠語で呼ばれる)を詰めて叩き返された
行李が、数限りなく南洋に押し寄せる。

伊平治は悪夢的な現状を打破するため、
すべての行李を日本刀で刺し、始末してゆく。

そして最後に残った行李を串刺しにしようとすると、
ビルマ僧に扮していた銀次が正体をあらわし、カンナを救おうとする。
銀次を振り払って行李を刺し貫く伊平治。が、最後の行李の中身も、骨・・・・

次回、カンナがラシャメン姿で登場するところから二幕の終わり、
三幕の冒頭までをやります。

11/21(月)『ベンガルの虎』本読みWS 第6回レポート(中野)

2022年11月21日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野WS『ベンガルの虎』
download.jpg
↑秋元松代さんの劇『村岡伊平治伝』だけでなく、
伊平治本人が書いた『村岡伊平治自伝』を押さえておきたいところ

昨日は日曜恒例の台本読みWS。
2幕のなかばにさしかかり、いよいよ面白い場面に。

先週に引き続き、お市とカンナの掛け合い。
ここは全体からすれば息抜きにあたるかなりコミカルな場面ですが
その中で、見逃してはならない細部が二つ。

一つは、ミシン売りの中年男=競輪の予想屋「将軍」というキャラクター。
競輪における究極の予想は勝者が確定した後でその車券を買うことだと
力説する彼は、1幕に引き続き空回っています。
初演時に唐さんが演じたことを思えば笑いの連続だったと理解できますが、
それにしても、引っ掻き回すだけ引っ掻き回す無意味なキャラクターです。
一体それは何故なのか。今後のカンナの出自をめぐるやり取りに、
このミシン売り=予想屋を読み解くヒントもあると思います。

二つ目に銀次の弱腰。
カンナは何度も銀次に「お尻をさわっちゃダメ」と注意します。
しかしこれは、銀次がお尻を触っているわけではないのです。
よく読めば、何か事が起こるたび、例えば怖そうな人が登場したり、
事件が起こるたびごとにこの問答が繰り返されているのがわかります。
つまり、銀次はお尻を触っているのではなく、ビビってカンナの後ろに隠れて
いるのです。これは、男としてデビューしたいと願う彼のキャラクターづくりに
とても重要な要素です。それだけ弱気であるという基本設定を理解する
必要があります。

ストーリーは進み、競輪選手としての水島があらわれます。
カンナを袖にした一幕とは打って変わり、
彼は強烈にカンナを自分の奥さん扱いし、銀次の名を呼ぶことに嫉妬さえ
します。いつの間にかお市は水島の母になっており、カンナはお嫁さんで、
お市がお姑さんという関係になっている。この関係をカンナに迫る唐さんの
強引さが見事なところです。

そして、水島からカンナに、改めて行李が贈られる。
しかし、バッタンバンの象牙と思われた中身は、実は人骨でした。
驚くカンナと人骨を残して、日蝕による闇が訪れます。

そこに、村岡伊平治や井上馨らしき銀行員など、明治の人物たちが
なだれ込んできます。多くの日本人女性がいわゆる「からゆきさん」
「ラシャメン」として東南アジアに渡った明治と昭和の戦後が同時に
語られ、劇が加速度的に勢いを増します。

そして、カンナの出自が語られる。
ラシャメンの一人にマサノという女がいたこと。
マサノが現地のカンナ族の青年と駆け落ちし、心中を図ったこと。
その表紙に生まれ落ちたのがカンナであること。
カンナはマサノの遺体とともに行李に詰められ、長崎へ船で、
そこからは列車で東京入谷のマサノの実家に送られたこと。
さらに、マサノの母は赤ん坊のカンナだけを引き取り、
マサノの死体を長崎から東南アジアに送り返した・・・・

この出自の部分はかなり駆け足になってしまったのと、
全編にとってあまりにも重要なので、来週は復習するところから再開します。

村岡伊平治が実際に活躍したのはマニラやシンガポールですが、
それをバングラデシュと結びつけるために、唐さんがわざと東南アジア一帯を
あいまいに、混同して書いているのも面白いところです。

ハリウッド映画で、中国・朝鮮・日本の人々が混同して描かれるように
それぞれの国の人たちは違和感を感じるでしょうが、ここは思い切って
押し切ります。それが面白さを生む!

次回は11/27(日)。
二幕後半に差し掛かり、唐さんの筆はますます調子を上げます!

11/14(月)『ベンガルの虎』本読みWS 第5回レポート(中野)

2022年11月14日 Posted in 中野WS『ベンガルの虎』 Posted in 中野WS『ベンガルの虎』

LINE_ALBUM_221016_10.jpg

↑前回に紹介した写真と合わせると、赤テントの屋根と水辺の位置関係が

わかる。お客は明らかに管理しきれていない。1幕終わりで行李を池から

出さなければならないが、入れば病気や虫に襲われそうな池に入って

いたのだろう。過酷な演劇修行。



昨日は旅先のグラスゴーから本読みWSをやりました。

『ベンガルの虎』1幕終わりから2幕序盤。


主人公たちがボロボロの状態から今週はスタート。

カンナは頼みの夫・水島に別の家庭があることを知り、

悲嘆に暮れます。(すぐにニセモノと知れましたがカンナは気付かない)

カンナを見捨てて逃げていた銀次は、流しの左近・右近に

ヤキを入れられ、傷を負って地面に転がる始末。


カンナは家庭や仕事を取り戻すこと、

銀次は流しとしてこの街で大人の男になること、

二人はそれぞれの望みを諦め、錦糸町を去ろうとします。

すると、公衆便所の水洗を越えて、浮かび上がる行李。


カンナが望んだバッタンバンからの行李が、ここにきて届く。

不思議で、不気味で、水島がカンナを捨てたいまとなっては

送り主さえ謎めいた行李が現れたところで、1幕が終わります。


2幕の舞台は花月園競輪場。

"将軍"という予想屋の威勢の良い口上から幕を開けます。

が、よく見れば、この男は1幕に出てきたミシン売りの中年男。

人のことを「シスター」と呼ぶ癖からそれがすぐに分かります。


彼は持ち前の勢いで、オドオドと競輪の車券を買いに来た

銀次を罵ります。差別用語満載の悪口が立て板に水のように流れる。

現在とは隔世の感がありますが、せりふとして聞かせます。


その後、馬の骨父子商会の面々がビルマ僧に扮して現れます。

東南アジアで日本人兵士の遺骨を拾っていたら競輪場に出てしまった、

という強引な設定ですが、ギャンブルに負けてうなだれる人々を

戦地で亡くなった亡者に、賭けに外れ、地面を埋め尽くすように

散らばる車券の量と白さを白骨街道に散らばる遺骨に重なります。


見事なイメージの連鎖。唐さんは、こうして二つの場所を繋げました。

ビルマ僧たちが将軍を言い負かしてこの場面は終了。


次に現れた銀次とカンナは親し気です。

そして、男ならドンと賭けろとカンナは銀次をけしかける。

が、銀次が賭けようとする2ー3車券を売る窓口こそ、

お市が担当する売り場でした。


そこからは、売り場窓口の前に立ったカンナと、

カンナの腕を掴んで離さないお市とのコミカルな闘いが展開。

小さな売り場窓口を挟んで腕の引っ張り合い。

これは、より強行なカンナの勝利に終わります。


というのが今回、扱った内容です。

今回のシーンにはいくつも面白い箇所があり。


・唐さんが車券売り場のシステムを勘違いしていること。

→賭ける番号によって、券を買う窓口が決まっていると思ったらしい

・カンナと闘いながら吐かれるお市の名言

→"人間はみな、この位の穴から出てきたんじゃ"。何か深いせりふ。

・銀次を連れてお市に対抗するカンナの口八丁

→自分たちを安寿と厨子王になぞらえる


など、楽しく演じ、観られる場面の連続でした。


また、参加者からの指摘も受けましたが、

1幕から2幕へ移行する間に、カンナと銀次の

コンビネーションが抜群に上がっています。


二人は一緒に暮らし始めたのか。いずれにせよ、

このペアの受け答えの良いことが二幕を盛り上げます。


来週は引き続き、お市との絡みから。

3週ぶりにロンドンの家から、落ち着いた状態でやります。

11/7(月)『ベンガルの虎』本読みWS 第4回レポート(中野)

2022年11月 7日 Posted in 中野WS『ベンガルの虎』

LINE_ALBUM_221016_9.jpg

↑まだまだあるアサヒグラフの写真。沼とはつまりこういうこと


昨日は旅先からのオンラインWSでした。

到着した二日前にまずしたことは、zoomを起動してのWi-Fiの強さの確認です。

これはイケる。うちより強いくらいだ。そう思いました。


が、調子に乗って動画を見せたら、今度はPCがバグり始めた。

序盤で参加の皆さんをお待たせしてしまいました。

そんな中でも第4回。


1幕終盤に当たるこの回の眼目は以下の3点です。


①右近・左近の示す錦糸町の汚さ、青春の上昇志向

②俗物隊長の夫婦関係

③カンナと夫・水島の関係のあいまいさ


①右近・左近の示す錦糸町の汚さ、青春の上昇志向

この流しの兄弟は折に触れて登場するキャラクターです。

登場するたびに、錦糸町が汚いと言う。時に、そこかしこにある

水たまりを"沼"とも描写します。これは明らかに、東京の下町と

バングラデシュをつなげてしまおうという唐さんの仕掛けです。


沼・蝿・匂い・月によって、はるかに離れた二つの土地の

イメージを結びつけてしまう。

それから、二人はこういう汚らしい土地から一刻も早く

抜け出たいと思って流しをやっています。

ガンマンの英雄ビリーザ・キッドになりたい、というせりふは

こんな動機から発せられます。いわば、主人公の青年・銀次の

モデルケースであるともいえます。のし上がりたい青年たちが

凌ぎを削る青春群像を見せる。


②俗物隊長の夫婦関係

第3回目で、カンナの勤めるキャバレーのマネージャー相手に

息巻いていた俗物体調を思い出してください。

彼が自分がいかにサディスティックに多情な女房に当たっているか、

そのよろこびを自慢していたわけです。

が、実際はぜんぜん違う。


彼は妻に白痴女を選んでいます。

要するに、物乞いをしているような女性でないと心を安んじることが

できない、弱い男性なのです。しかし、世間や部下には虚勢を張っている。


妻は白痴ですから、飴をぶらさげて言い寄ってくる男がいれば

これを断りません。その度に俗物は心を痛めながら、彼女に辛くあたり、

そして抱きしめる。そうやってお互いに依存している。

後につかこうへいが得意とする男女関係の典型がここに

あらわれています。


昨日やったシーンでは、妻の浮気相手はテレビの中の俳優に

過ぎなかったと知れ、その白痴ぶりから、俗物をさらなる情けなさが

襲います。悪役のボスである俗物隊長にぐっと深みを与える

このシーンは誰がやっても面白い。


コンプライアンスに厳しい現代社会では許されぬ

家庭内暴力ですが、虚構の中ではこういった人間の在り方を

保存していたいものだと思います。


③カンナと夫・水島の関係のあいまいさ

この物語は、カンナが夫・水島に振り回されるところから

始まります。ハンコを送ったという。しかし、そのハンコは

手に入らない。すでに日本に帰ってきているともいう。

けれど、会うことができない。


それどころか、水島にはすでに別の女性との間に歴とした

家庭があって、子どもまでいる。というのが、今回のシーンでした。

しかし、実はこの家庭は馬の骨父子商会の面々が協力して

でっち上げた偽物で、水島は妻であるカンナを煙に撒こうと

している。カンナは、頼みにしていた夫にフラれてしまう。

そういう場面でした。


しかし、ここで二つのことが気に掛かります。

カンナを煙に巻いたあと、水島はカンナの定期券を拾い上げて

ひとりごちます。何か、想いを残しているようでもある。


さらに重要なのは、一応この物語はカンナの主観を

正しいものとして進んでいるものの、当のカンナ本人が

読者や観客にとって信ずるに足る存在かどうかが問題になってくる。

言わば、語り手が犯人であった最後に知れるミステリーのような

展開も想定できるよう『ベンガルの虎』は書かれています。



以上3点を経て、次週は1幕終わりから2幕へと移行していきます。

次週も旅先、グラスゴーのホテルから。


もう動画を見せるのはやめます!共有画面はシンプルに台本のみで!

10/31(月)『ベンガルの虎』本読みWS 第3回レポート(中野)

2022年10月31日 Posted in 中野WS『ベンガルの虎』

LINE_ALBUM_221016_1.jpg

↑さらにアサヒグラフより。唐さんがなぜ上半身裸なのか謎。

が、みなぎる気迫は伝わってくる


昨日は『ベンガルの虎』を読む、第3回でした。

第2回目の最後、馬の骨親子商会の面々がビルマ僧に扮し、

戦没者家族から寄付金を巻き上げようとするも、

しっかり者のお市たちに撃退されたところの続きです。


サギが失敗したものの、俗物隊長たちに落ち込む様子は無し、

かえって悪びれて店の中に引っ込みます。

そこにヒロインのカンナが絡みます。


夫である水嶋に言われて自分のハンコを取りに来た、

店の扉をドンドンと叩きながらそう迫る。

しかし、戸口に立った印肉・天地の二人は取り合わない。


そこで、カンナは暴力に訴えます

銀次に命じてタクアン石を店に投げ込ませる。

(これは状況劇場×天井桟敷のケンカで同じようなことをした

四谷シモンさんのパロディ)

すると大将である俗物が飛び出してきて、

ビビった銀次は逃げてしまう。


銀次は体が立派なのですが、根がどうしても小心なのです。

いかにも気弱な唐さんの主人公。彼が立派な男になれるかどうか

物語の目標のひとつがこうして立ちます。その前提条件として、

彼の臆病さが極端に表れた場面です。情けなく、コミカルでもある。

気持ちだけはあるので、遠くからギターをかき鳴らしたりします。

こういうのも面白いところ。


銀次に憤りつつもカンナはさらに訴えます。

夫の水島に言われて来た!そう繰り返す。

仕方なく相手をする俗物隊長たちですが、今は日本人商社員として

東南アジアに散らばる日本人の遺骨を材料にハンコを作っている彼ら、

水島はその供給元です。後ろ暗い商売ではないですから、

そういう事実を嗅ぎつけようとするカンナを追い払おうとします。


と、一人の女がやってくる。

忍ケ丘中学(唐さんの母校)の家庭科教師を名乗るその女こそ、

水嶋のほんとうの妻だというのです。確かに彼女は清楚で、

いかにも学校の教員のたたずまい。比べてカンナはホステスの身なり。

しかも多勢に無勢でニセモノ扱いを受け、まるで水嶋が他所で

引っ掛けた女の扱いであしらわれてしまいます。


さらに登場したキャバレーのマネージャーから出勤を督促されるも

傷心のカンナが欠勤を申し出ると、衣裳まで脱がされ、

下着姿の情けない格好で往来に放り出されます。


からかい半分に俗物がカンナの大切にする定期券を見てみれば、

それは遥か15年前のもの。自身の正しさを訴えようとするも、

いかがわしい男たちによって惨めな扱いを受けるカンナの悲惨が

極まっていく。というところで昨日のシーンは終わりました。


昨日のWSの最後にカンナが歌う『雑巾の歌』はこの劇の主題歌。

家庭科教師として生徒たちんI雑巾縫いを教えていた自分が

皮肉にもボロ雑巾扱いを受けている、その悲嘆が謳われます。

すると、水嶋らしき影がよぎり・・・


続きは来週です。

私は旅先で、ストライキの影響で移動時間がズレたため、

11/6(日)は17:30-19:30でやらせてもらいます。


WS参加の皆さんの中には、体調を悪くして直前に欠席の方が

目立ちました。気温が上がったり下がったり、日本は季節の

変わり目にハードな気候だと聞きました。大事になさって下さい。


では、また来週!

私は旅先で、ストライキの影響で移動時間がズレたため、

11/6(日)は17:30-19:30でやらせてもらいます。


WS参加の皆さんの中には、体調を悪くして直前に欠席の方が

目立ちました。気温が上がったり下がったり、日本は季節の

変わり目にハードな気候だと聞きました。大事になさって下さい。


では、また来週!

10/24(月)『ベンガルの虎』本読みWS 第2回レポート(中野)

2022年10月24日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野WS『ベンガルの虎』

LINE_ALBUM_221016_3.jpg

↑再び「アサヒグラフ」より。この唐さんの男ぶりを見よ!


昨日は『ベンガルの虎』本読みの2回目。

一幕半ばに差し掛かるところ。

初回から登場していたヒロイン・水嶋カンナに加え、

もうひとりの主人公である青年・銀次を登場させるのが

今回の主眼でした。


前回の終わり、中学の家庭科教師であったカンナの思い出を

横取りしたミシン売りの中年男は、謎めいたまま舞台を去ります。

取り残されたカンナは、次に町内のご意見番であるお市と対峙し、

見ない顔だと邪険にされます。

東京下町で繰り広げられる日本の村社会は、よそ者を許さない。


しょげかえったカンナに手を差し伸べたのは、

今は流しとなった元生徒の青年・水嶋でした。

冴えない生徒だった彼ですが、今や"銀次"を名乗り、

夜の街をギター担いで渡り歩く男に成長したのです。

(と、ここで、ドラマ『きついやつら』で"流し"を演じる

玉置浩二&小林薫コンビの動画を見たりして)


しかし、彼は精一杯突っ張っていても、元々は唐さんの描く

内気な主人公青年です。元先生のカンナに会うことで、

すっかりお里が知れてしまう。それどころか、キャバレーの

ホステスになってしまったカンナに大きなショックを受けます。

この辺が、彼の弱気で童貞気質なところ。


そして、ここハンコ屋の前に来た理由をカンナが銀次に説明する際、

"バッタンバンの象牙"という言葉に合わせて再びハンコ屋の扉が開く。


俗物隊長たちが扮するビルマ僧が登場し、

戦争未亡人であるお市たち町内の婆アたちと対峙します。

戦没者記念碑の建立のために寄付を募るビルマ僧たち。

が、たくましいお市は彼らを一蹴、すぐにニセモノだと喝破します。


お市らが去った後、サギ師としての正体をあかし、

ブラックジョークを言い合ってふざける馬の骨父子商会の面々・・・


というところまで進みました。


今回、特に良かったところは、銀次の登場シーンです。

格好つけ、背伸びしてワイルドに登場した彼が、

かつての先生との再会によってあっという間に素朴な青少年に

戻ってしまう。その一言一言の変化を、巧みに表現してくれました。


この短いシーンは、端的に主人公のキャラクターを表すツボであり、

一瞬一瞬が表情を変える工夫のしどころです。

それを上手くやってくれて、かなり嬉しくなりました。


それにしても、中年男のせりふ、お市婆さんのせりふ、

ビルマ僧に扮した俗物隊長のせりふと、この芝居のせりふには

たくさんの死の匂いが溢れています。


ミシンを踏みながら何気なくカンナが歌う歌もそう。

日本軍兵士が闘った戦地の過酷さを、まるで絵画のゲルニカのように

感じさせる。また、俗物隊長の部下でイジられ役の天地くんが

ふざけて歌う何気ない歌も、生まれてすぐの命が失われる歌です。


1幕冒頭のト書きによれば、この劇は「死者が見る夢」と宣言されています。

「死者」とは誰か? 基本的には『ビルマの竪琴』が下敷きですから、

亡くなった日本人兵士がそれに当たります。

が、それだけにとどまらないところにこの『ベンガルの虎』の真髄が

あると考えています。


もっとも根本的に"死んでいる死者"は誰なのか。

それを考えながら物語を追い、全編に散らばる言葉を読み解いています。


続きは来週日曜日!

10/17(月)『ベンガルの虎』本読みWS 第1回レポート(中野)

2022年10月17日 Posted in 中野WS『ベンガルの虎』
アサヒグラフ_1973.4.20.jpg
↑助成金が無かった時代に唐さんが編み出した海外公演の資金源。
隣の「和尚さんと八匹のムササビ」も極めて惹きつける。


昨日は『ベンガルの虎』本読みの初回でした。

 

まずは恒例、唐さんの活動年表の確認から。

1973年の唐さんは特に多忙です。

 

1973

2月8日 『四角いジャングルで唄う』

2月15日 『ベンガルの虎』書下ろし新潮劇場 出版

316-23日 『ベンガルの虎-白骨街道魔伝』バングラデシュ公演

421-627日 『ベンガルの虎-白骨街道魔伝』国内公演

5月 『盲導犬』公演@アートシアター新宿文化 櫻社

68日 ラジオドラマ『ギヤマンのオルゴール』放送

8月 『追跡 汚れた天使』撮影-封印

9月  文芸誌「海 1973.10号」に『海の牙 黒髪海峡篇』が初出

922-1028日 『海の牙 黒髪海峡篇』

おそらく11月に『唐版 風の又三郎』を執筆


さらに出版物をいくつか紹介しました。

状況劇場の海外公演の資金源の一つだったアサヒグラフの紀行

それがまとまった単行本『風にテント、胸には拳銃』

当時の劇団員だった山口猛さんの『幻想と廃墟の街』


あと、やはり映画『ビルマの竪琴』を観る。

新旧のバージョンを見比べながら、『はにゅうの宿』から

「水島、一緒に帰ろう!』の名シーン、

隊長が手紙を読むところまでを確認しました。



ここまで来ると、まったく上記を知らない世代でも、

冒頭から唐さんが仕掛けたパロディについていくことが

易しくなります。


舞台は錦糸町。

地盤はゆるく水が染み出し、ホステスがたむろしています。

台東区民だった唐さんの墨田区への思い溢れる設定です。


謎めいた公衆トイレの中から登場するハンコ屋の社員たちは

水島と同僚だった隊のメンバーです。


と、そのハンコ屋「馬の骨父子商会」に水島を名乗る女が

ハンコを求めてやってきます。『ビルマの竪琴』の水島二等兵は

独身なので、かなり謎めいた設定です。

彼女は、水島を名乗るハイティーンの青年を探してもいる。


他に気になるのは、町内に灰を撒いてまわるお市婆さん。

彼女はエリア随一の産婆にして、競輪場では名の知れた切符売り。


露店でミシンを売ろうとする中年男は、

元は中学校の家庭科教師で、生徒に暴力を振るうのみならず

自分を気絶するほどに殴ったことで放校になった。


・・・という具合に、登場人物の約半分と、

彼らの背景がやや明らかになったところで初回は終了しました。

かなり序の口です。来週はさらに登場人物も増え、

ハンコ屋や、水島のその後や、水島の妻を名乗る女の素性も

徐々に明らかになってきます。