11/28(月)『ベンガルの虎』本読みWS 第7回レポート(中野)

2022年11月28日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野WS『ベンガルの虎』
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↑再びアサヒグラフより。バングラデシュで日本刀を振り回し、たくさんの行李が
押し寄せるこの劇を、現地の人たちはどう観たのだろうか?

二幕も中盤を過ぎて後半に差し掛かり、
村岡伊平治やカンナの母・マサノが入り乱れるシーンをやりました。

時間も空間もワープする。そう言われる唐作品に真骨頂です。
が、ただ単に幻想文学、ファンタジーでないところに唐作品の面白さがあります。
俗物隊長が村岡伊平治を演じていた、というオチをちゃんとつける。
唐さん流のリアリズム。

この俗物隊長=村岡伊平治を初演で演じたのは大久保鷹さんです。
その二年前には『吸血姫』で大陸浪人・川島浪速に扮し、
袴姿で日本刀を振り回した鷹さん、
唐さんの中にその成功体験があったことは間違いありません。

ストーリーに入ります。

伊平治がヒロイン・水嶋カンナの出自の謎に迫る。
母・マサノは、東京→下関→長崎?→バッタンバンに連れてこられたラシャメン。
マサノが現地にいるカンナ族の青年と駆け落ちする。
海に飛び込んで逃げようとするが、青年は死に、マサノも虫の息。
その時に産み落とされたのがカンナ。

伊平治はマサノの遺体を行李に詰めて日本に送った。
行李はバッタンバン→長崎→東京入谷町三丁目の実家に届いたが、
マサノの母がそれを東京→長崎→バッタンバンへと送り返した。

伊平治の説明の中で、カンナの出自が揺らぎます。
東京入谷町に生まれ育ったと言っていたカンナでしたが、
マサノの行李に一緒に入って東京に到着し、そこでお婆ちゃん(マサノの母)に
引き取られて育った、という風に説明しなおす。

伊平治も気付かぬうちに、生まれたての赤ん坊がどうやって行李に入れたか、
船旅をどのように生き抜いたか、これが謎です。
そしてこの謎はかなり重要です。
唐十郎作品だから何でもアリなのだ、となってしまうと、
かえってこの不思議さを見落とすことになります。
カンナは出自だけでなく、生存自体が危うい。

カンナが生きているのか死んでいるのか分からない。
それどころか、実在するのかも分からない。
そういう疑いが鮮明になるシーンです。
そしてここに、『ベンガルの虎』の中心がある。

当初はカンナに味方し、物語を追いかけてきた読者・観客が裏切られ、
揺さぶられる大事なシーンです。推理小説でいうところの
語り手が犯人という構造にも思える。

マサノの登場がそれに追い打ちをかけます。
(このマサノこそファンタジーです。実在しないものが甦って語り出す)
彼女は東京から身売りされてきた過去を語りながら
伊平治に駆け落ちを詫び、もう一度、ラシャメンとして置いてくれと訴えます。

村岡が
「マサノは死んでいる。しかも迷惑なことにカンナも来ている」と言い放つと、
娘を大人しくさせるから二人で置いてくれと頼むマサノ。
マサノのあまりの気味の悪さに、伊平治は部下に命じて彼女を退出させ、

行李の中に立てこもったカンナを始末しようとします。
すると、領事がやってきて、水をさす。
一転、彼に頭が上がらない伊平治とのコミカルな場面に突入します。
領事は「女郎屋なんてやってちゃいかん」と説教する。

この領事は、ミシン売りの中年男=予想屋の将軍を演じてきた
唐さんの役です。「おれは女房にかどわかされっぱなし」というせりふも
楽屋オチで大いにウケたはずです。

笑いの場面を挟むことで、緩急がついた物語はさらに吸引力を増します。
東京からラシャメンの骨("象牙"と隠語で呼ばれる)を詰めて叩き返された
行李が、数限りなく南洋に押し寄せる。

伊平治は悪夢的な現状を打破するため、
すべての行李を日本刀で刺し、始末してゆく。

そして最後に残った行李を串刺しにしようとすると、
ビルマ僧に扮していた銀次が正体をあらわし、カンナを救おうとする。
銀次を振り払って行李を刺し貫く伊平治。が、最後の行李の中身も、骨・・・・

次回、カンナがラシャメン姿で登場するところから二幕の終わり、
三幕の冒頭までをやります。

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