12/5(月)『ベンガルの虎』本読みWS 第8回レポート(中野)

2022年12月 5日 Posted in 中野WS『ベンガルの虎』

download.jpg

↑銀次はこのようになれるのか。素手ならなお良し。


昨日は『ベンガルの虎』を読みました。


先週の段階では三幕冒頭まで進もうと思っていましたが、

残りを計算したところ時間に余裕があるとわかり、

じっくりと腰を据えて二幕終盤に取り組むことにしました。

この場面にはそれだけの価値があります。


ヒロイン・水嶋カンナとは誰なのか?

彼女は生きているのか、死んでいるのか?

そもそも、彼女はこの世に生まれ落ちることができたのか?

物語の進行とともに死と生が交錯し、

カンナを見つめる銀次の役割が鮮明になるのが、この二幕の終わりです。



前回、カンナの母・マサノが登場しました。

村岡伊平治が語ったマサノの生業=からゆきさん

娘であるカンナの出自=駆け落ちした現地人との子ども

は、カンナにとっていかにもショッキングでした。


が、カンナもまた、

母と同じラシャメンの格好をして村岡一家の一員であることを

受け入れようとする。ビルマ僧に化けてその場に踏み込んだ

銀次が静止を試みるも、力およばず。


でも、これはカンナの作戦でした。

言うことを聞くと見せかけたカンナは村岡を拳銃で撃つ!

(どこから手に入れたのかは、謎! 同時期の『盲導犬』と同じ構造!)


これにより、日蝕から続いていたカンナの悪夢に区切りがつきます。

場面はもとの競輪場に戻り、村岡は酔って浮かれ騒ぐ俗物にかえり、

銀次にはビルマ僧としての記憶がありません。

ただ、カンナのみが先ほどまで見てきた悪夢、

出自に絡む悪寒を引きずります。

銀次の取りなしで徐々にそれも落ち着いてくる。


しかし、あの悪夢はカンナの気のせいでなく、確実に存在してました。

いつの間にか競輪場では全てのレースが終わっている。

つまり実態があったのです。カンナはそれを認めたがらず、

二幕冒頭の目的であった競輪をしようと言って聞きません。

困り果てる銀次。


そこへ、一台の自転車がやってきます。

それ見たことか! まだレースは終わっていないと喜ぶカンナ

でしたが、その競輪選手こそ夫の水島であり、カンナを再び

南洋の過去の悪夢へ、ラシャメンへと引き戻そうとする導きでした。


あまりのしつこさ、ついにカンナも折れて拒絶をやめ、

むしろ自分から悪夢に飛び込んでやると水島を煽りはじめます。

唐さんが生んだ名ぜりふ「クレイジー・ラブ!」がここで炸裂。


この、ともすればちょっと恥ずかしいせりふを成立されるためには、

カンナの、拒絶からの開き直りへの変化の瞬間、そのダイナミズムを

押さえなければなりません。


今まで拒絶していたのが一転、

俄然、自ら悪夢に向かって乗り出していく破れかぶれの勢いが重要です。

そうでなければ、単なるヤンキーの箱乗りになってしまう(笑)


水島は骨の運搬屋です。

その水島に運ばれるカンナもまた、骨=死者になろうとしています。

それを制止したのが銀次でした。

単なる恋愛感情のもつれ、三角関係の女性の奪い合いではありません。


銀次の側に止まると言うことは、カンナが確かに入谷に育ち、

家庭科教師であったという"生"を選ぶことなのです。


気弱だった銀次、ライオンと闘うに程遠かった銀次が、

少しずつ男としての覚醒を始めます。


ただし、依然として南洋から虎の吠え声は響いており、敵は強大!


銀次はカンナを"生"に引っ張る!

水島はカンナを"南洋=白骨街道=ベンガルの虎

=生まれてすぐ死んだ赤ん坊という出自"に引っ張る!


という構造がいよいよはっきりしてきました。

銀次はライオン≒虎と闘い得る男になれるのか。


年内、残る3回で三幕を踏破します!


↓虎を倒した男は確かにいるらしい

main-qimg-d72acdc10e070dc21b7b54d03b713cc2-lq.jpg


トラックバックURL:

コメントする

(コメントを表示する際、コメントの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。その時はしばらくお待ちください。)