7/13(水)RSCとグローブ座

2022年7月13日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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RSCとはロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのこと


昨晩、この劇団の本拠地ストラトフォード・アポン・エイボンで

『リチャード3世』を観た。結果、期待したほどではなかった。


この劇の魅力はタイトル・ロールを演じる俳優に依存するところが

大きいと思うけれど、さほど惹かれなかった。

何より、この劇場の構造が良くないと思った。


どう良くないかと言うと、同じシェイクスピアを専門にする

グローブ座と比べると判りやすいと思う。


自分はグローブ座が好きだ。

先日に書いた通り、特に『ヘンリー8世』は最高だった。

けれど、グローブ座が好きだとロンドンで劇場関係者に言うと、

意外に思われる。「あそこは観光施設だからね」という

コメントも即座に寄せられる。


だから、私は好きなのだ。

あの劇場の役者たちは、観光客を相手に闘っている。

正確に言うと、闘わなかったりもする。


まるでうらぶれた芸人のようにやる気がないかと思えば、

急に大熱演して場内を盛り上げ、また急速に意気をしぼませたりする。

要するに、緩急を心得ているのだ。

それに、人間としての自然の姿があって、好感が持てる。

要するに芸能、大衆演芸的なのだ。


そこへいくと、RSCも街ぐるみで観光客を相手にしているが、

彼らは芸術家っぽい感じで、どこかお高い。

劇場は近現代風で、中身もそうかと言えば、ステージ様式は

グローブ座と同じ張り出しを採用しており、演出家の美学が

あらわれにくい。この辺が中途半端なのだ。


何より重要なのは、シェイクスピアは明らかに大衆演芸路線の

作家だということだ。私はグローブ座で、なぜこの作家が書く

台本にラブシーン、下ネタ、残酷シーン、決闘が多いのかを知った。

あれは明らかに、野外上演で途切れがちな集中をつなぎ止め、

庶民で構成される客席のウケを狙ったものなのだ。


チケット料金の取り方や客席の様子も違う。

グローブ座は、舞台近くの立ち見はすべて5ポンド、

椅子席には25〜75ポンドをとる。そして観劇中も飲み食いできる。

野外なので、完全暗転はないし、昼の上演は明るい。


RSCは全て椅子席で、ステージ近くが高くて最高値が65ポンド。

安い席でも40ポンドする。中には10ポンドの席もあるが、

これは柱で視界がさえぎられる席だ。客席は暗く、

周囲に迷惑をかけないように飲み物を口にすることはできる。


ちなみに、双方ともにせりふが徹底的に上手い。

このあたりはさすが専門家だ。


世間の評価は逆だろうけれど、私にはグローブ座の圧勝に思える。

この後は『テンペスト』『ジョン王』『ヘンリー5世』

『タイタス・アンドロニカス』が控えている。


『タイタス〜』では、我が子の死体でつくったミート・パイを母親が

食べてしまうシーンを、観客を大爆笑しながら観るのではないか。

残虐極まりないがゆえに、突き抜けすぎてギャグになってしまう。

芝居とシェイクスピアの不思議な魅力、その真骨頂だと思う。


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