2/8(火)研修がはじまる
2022年2月 8日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
↑帰り際のミミ。彼女は7分後に出発する電車に乗らなければならない。
1/31にロンドンに来てからはあくまで肩慣らし、
時差を克服して生活リズムを整え、周辺の環境を知ることに注力してきた。
そして、いよいよ第二週から劇場研修と語学学校と、
自分がロンドンに来た主目的がスタートした。
正確に言うと、研修先のThe Albanyには前日2/6(日)に初めて入った。
『The Dark』という子ども向けのプログラムを上演するとHPで見たので
ミミさんにリクエストすると、招待してくれたのだ。
が、昨日はミミさんも、劇場のトップであるギャビン・バロウさんも
いないとのこと。日本だと「今日はアツシが初めて来るから」と
特別に出張ることもありそうだが、きっと休日に対する意識や就業体制が
しっかりしているんだな、と推察しながら劇場を訪ねた。
演目は巡回しているものをThe Albanyが受け入れたもので(買い取り?)、
この劇場のオリジナルではなかったけれど、演者は流れるように喋り、
歌い、踊り、パントマイムし、客席の子どもたちと即興で対話していた。
暗闇を怖がるというのが万国共通の子どもの習性だが、
少年に扮した俳優を、"闇"を演じる女優さんが脅かしながら劇が始まり、
やがて最後には友情を結ぶ。女優さんは電子ピアノやエレキギターも
演奏したりして、とにかく万能。
スタッフ(おそらく2名ほど)や美術も含めて、
ハイエース1台に乗る量の、とにかく洗練された1時間弱の劇だった。
実は、面白かった一方で、不安にもかられた。
それは、劇場空間そのものがとても小ぶりで、はっきり言えば
チープな感じがしたからだ。例えば、KAATの大スタジオや
世田谷のトラムなどの方が大きいくらいのサイズ。
設備は比べるまでもない。まあ、自分はテント演劇の徒なのだから、
これが向いていると自分を鼓舞する一方で、11ヶ月間研修する場所として
不安を覚えなかったと言ったら嘘になる。
と、ここまで読んで気づかれたと思うが、
さらに正直に言うならば、自分がここに実際に来るのは初めてなのだ。
我ながら、これはあまり良いことではない。研修先というものは、
やはり実地に目で見て選ぶのが本道だと思う。けれども、
自分は、いつかさいたま芸術劇場で聴いた劇場主ギャビンさんの講演と
伝え知る情報によってこの場所を選んだし、研修への応募を本格的に
思案した2020年の初頭は、パンデミックの始まりでもあったから、
渡英など考えられない状況だった。だから賭けをした。
賭けをして自信がずっとあったけれど、それは訪問初日で少し揺らいで
ホテルに戻った自分を少しナーバスにしたというのが、偽らざるところ。
果たして、初日。
すべてが始まったと冒頭に書いたのは、今日が語学学校の初日でも
あったからだ。すでに週末に確認済みなので、自信満々に学校までの
道を往き、建物の2階に入った。
事務局のあいさつしたら、9:00まで待っていてと言われる。
その間に、PCとケータイのWi-Fiを登録し、朝だけでは足りなかった
『秘密の花園』の研究時間を補った。
9:00になると、今日が初日の生徒を集めてイントロダクションがあり、
学校について、ロンドンでの生活について、細かな説明があった。
説明してくれた男性はマホメッドさんといって、
僕の趣味は、哲学・歴史・神学を学ぶことだと言っていた。
さすが、ムスリムの預言者の名を冠する男だと思った。
初めの2時間は各種登録作業や英語力を測るためのテストで
瞬く間に過ぎ、英語を学ぶ簡単な個別面談を経て、授業へと案内された。
と言っても、この時間は座学ではなく、いきなり各チームに別れて
先生が課したお題で話すというもの。自分が参加を命じられた
女子3人チームの関係性や話題はすでに流れに乗っており、
しかも彼らがイタリアやドイツから来たティーンだったので、難儀した。
「ア・ツシ?」「ジャパン?」「スシを思い出すわ」
「もうお昼だからお腹すいた」そんな感じだった。
こわばった1時間は異様に長く感じた。
事務局に、初日は難しかった、また明日!と大声で伝えて学校を後に。
ホテルに一旦戻り、荷物や身支度をし直して、劇場に向う。
ちなみに、ホテル〜学校は徒歩25分、ホテル〜劇場は15分。
15時少し前にThe Albanyに着くと、
受付の男性(トム)がセキュリティを解除してくれて、案内された。
カフェに、ミミとヴィッキーが打ち合わせしながら待ってくれていた。
Zoomで会ってきた彼らと、やっと初対面。
皆、自分にも分かりやすく話してくれた。
日本茶と両口屋是清の二人静というお菓子をプレゼントした。
足柄(神奈川)と名古屋である。特にミミには、1/3に広隆寺で入手した
弥勒菩薩のポストカードを渡して、自分の変な英語と付き合い続けて
くれているお礼をした。
そのうち、エマというスタッフの女の子も加わって、重鎮ヴィッキーの
長広舌が始まった。このあと年末まで、この劇場を拠点に周辺一帯の
ルイシャム地区を巻き込んで行う様々なプロジェクトについて
説明してくれた。これは聴き取るのにさすがに苦労したが、
①地域の人々から集めたエピソードを音楽化する企画
②伝統から最新流行までを網羅したダンス企画
③LGBT問題に取り組む企画
④貧困の問題に取り組む企画
があると理解できた。全体のアテンドをミミが行ってくれ、
まずはエマの担当する企画にくっついて動くべしと言われた。
説明の全ては理解できないけれど、一緒に動きながら理解していくだろう
と伝えて、ヴィッキーにお礼を行った。
それから、オフィスに案内された。
スタッフの誰も彼もが女性。ハーレムのようだと伝えると、
ミミは笑いながら、うちは女性23人、男性は4人、アツシで5人目と言う。
KAATも女性が支えている。世界的な傾向なのだろうか。
ちなみに、デスクは全てシェアするシステムで、日ごとに予約して
押さえるのだそうだ。だから全てのデスクはキレイで、
1日の終わりにはそれぞれが自分の痕跡を消して帰る。
役割によってだいたいの定位置が決まっている感じもしたが、
原則はシェア&予約制で、代表のギャビンはだいたい家で仕事しているそう。
ここにきて、ギャビンは腹痛により今日は来られないことも分かった。
それから、新しいメールアドレスをもらった。
これで劇場のメーリングリストに加わるということだ。
ただし、ログインの仕方が分からず四苦八苦していると、
明後日にセリという総務担当の女性が詳しく指南してくれると教わる。
いずれにせよ、生まれて初めて末尾が「.UK」のアドレスを入手。
さらに施設案内を受けたが、これが良かった。
この劇場には昨日見た小さなホールの他に、三つの会議・稽古スペースと
数多くのオフィスがあり、さらに広い庭もあった。
「うちには今、26のレジデントカンパニーがある」とミミが言った。
しかも、たまたま今日はカフェミーティングの日で、フェスティバルに備えて
創作中のアーティストたちがカフェに大勢集まってきて、賑やかになった。
ここにきて、昨日の印象は完全にくつがえった。
The Albanyを日本と同じ感覚で単なる劇場と捉えてはいけないのだ。
ここは"拠点"であって、多くの人が出入りしているその規模は、
KAATなどを遥かに凌ぐ。この劇場の小さなホールも公演会場だが、
発表の場はそれだけではない、劇場前の広場も、街のそこここも、
巨大な会場なのだ。このことを実感して、完全に安心した。
自分の選択は間違っていなかったと思った。
創作の基地だとすると、とてもデカい基地なのだ。
安心して、改めて年末までを過ごすことができる。
昨日の感慨を、皆さんに謝りたいような気持ちになった。
夕方を過ぎると、近所のパブに連れていってもらい、
気の向いた何人かがアフター5を過ごす輪に加えてもらった。
「アツシは初日だから」と、ミミとキャロリンという女性音楽家が
一杯ずつジンジャーエールをおごってくれた。
皆、食べずに飲んでいる。飲んで、たくさん話している。
キャロリンの相棒らしきアナという女の子、ロミカという女性とも
たくさん喋った。ここ1週間、自分がロンドンに着いて経験した
トラブルの数々は、皆を愉しませることができたようだ。
喋るのは簡単だ、ブロークンでもなんでも、自分が何を言っているかは
当然ながらよくわかる。問題は聴く力。早く、皆の話を詳しく正確に
聴き分けられる英語力を身につけたいと思った。
19:30過ぎにミミが帰るというので、自分も店を後にした。
彼女の家は遠いらしい。それを知って、なおさら頭が下がった。
明日は13:30に合流して、ランチをともにし、家探しを手伝ってくれる
という。ミミが菩薩に見える。
20:00頃にホテルに戻ったが、当然ながら英語ばっかりの初日に
疲れて、すぐ寝てしまう。夜中に起きて、これを書きました。
↓デスクをシェアするシステムなので、いきなり自分もデスクで仕事できる
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