3/17(木)ロンドン塔に行ってきた

2022年3月17日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

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朝起きてブラインドを開けると曇天。しめた!

今夜はAlbanyでイベントのみ。昼間に特筆すべき打合せもない。

ということは、昼間の自由行動が許される。

これが夜に他所の劇場へ行くようなら、

必ず昼にAlbanyを訪ねなければならない。


誰に強要される訳ではないが、そうでなければ新参者の、

言葉の苦手な自分がこの劇場の一員たることはできない。

大学に入った時、唐さんに接する時、KAATに入った時も

自分はそうしてきた。こういうところには室井先生の教えを感じる。

人は自分を見ている。一番大切なものから目を切ってはいけない。


Albanyに夕方遅くに行けば良いし、典型的なロンドンの曇り空。

となれば行くべき場所は一つ。ロンドン塔。


学校では絶対に今日出掛ける場所を言わない。

一緒に行こうよ!などと周囲に言われては台無しだ。

こちらは漱石の小説も日記も読んで盛り上がっているのだ。

必ずやひとりでなければ。


授業を終えるとすぐにカティサークに行き、

初めてテムズ川のボートに乗った。横浜のシーバスより揺れる。

うねうねと上流に進みタワー・ブリッジに接岸。

途中、高級住宅らしき建物をたくさん見た。


ボックスオフィスでMature studentと主張し切符を買う。

ロンドンはメリハリが効いている。あらゆる美術・博物館の

常設をタダにしておいて、ここは約4,000円とる。


中に入ると落胆の連続だった。

当然ながらすっかり観光地化されている。

小学生たちの遠足も元気に行進。さらにやたらと写真撮影を頼まれる。

カップルに、おじさんの二人連れに、言葉が不得意なオレに

頼むなよと思うが、声をかけられるとつい全力で応えてしまう。


さすが高額をとるだけあって場内は清潔。ロンドンでは珍しい。

庭も建物内もトイレも。スタッフにも緊張感があった。


が、展示のショーケースやモニターの数々が邪魔すぎる。

ついラーメン博物館を思い出してしまう。

歩き回っていると小雨が強めの雨に変わって子どもたちが去り、

夕暮れが近づいたので少し雰囲気が出てきた。


正直に言って、夏目漱石の『倫敦塔』は最初と最後だけ面白くて、

塔内の描写は自己陶酔が鼻につく。それにジェーン・グレイの

くだりなど、あまりに絵画のパクリなので興醒めだと思ってきた。

が、実際のロンドン塔に行ってみてその中間部を見直した。


漱石が訪れたのはすでにヴィクトリア朝末期だ。

ここはもうとっくに観光地化されていたはず。

だから、彼は十二分に現実を受け止めながら、

こうであって欲しいという姿を書いたのではないかと思った。


実際を体験して小説の価値が増した。

この小編の最後、漱石は宿屋のおやじに塔の感想を述べて冷や水を

浴びせられ、もう二度とロンドン塔の話をすまいと決心する。

当然、二度と足を運ぶこともない。


一方、自分は一度も行かず小説だけ読んでいれば良かったと思う。

最後はヤケクソで売店のキーホルダーを買ってしまった。

唐さんの『鐵假面』という戯曲が好きだ。だから鉄仮面を見ると弱い。


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せめて、倍の値段をとっても良いから、

全消灯のうえ蝋燭でいくナイトツアーを組んでくれないだろうか。

それなら、自分はもう一度たずねてしまうかも知れない。


ところで、最もプロフェッショナルなのはカラスたちだった。

こちらの手の届く範囲に近づいても彼らは一向に物怖じしない。

目の前1メートルのところで糞をするカラスを初めて見た。

これには感心させられた。


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