5/25(水)『腰巻おぼろ-妖鯨篇』ひと区切り

2022年5月25日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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↑2016年に補陀落寺を訪ねて撮った写真。この小さな船に和尚さんを
乗せて、太平洋に送り出すらしい。

ものすごい時間がかかった。
さすが最長作品。こんなにもかかったのは初めてだったが、
2回り読みこんでかなり把握することができた。

執筆当時、よくこれだけの内容が頭に入っていたものだと眩暈がした。
唐さんは頭パンパンで、はち切れそうだったんじゃないか。
追いかけるだけの私も、最後の方は冒頭からの情報と緊張を維持しながら
読むのに苦労した。気をつけないと、すぐにその場で起こることだけに
飲まれ過ぎてしまう。

誰も彼もが死んでいるような世界で、文字通り死中に活を見出そうと
するのがこの台本だ。『唐版 風の又三郎』を書いてしまってから、
『唐版 滝の白糸』『夜叉綺想』そして『腰巻おぼろ-妖鯨篇』と、
まるで魅入られているかのように死の影が濃い。根っこが暗い。
本読みワークショップでこれを展開したならば、5ヶ月かかる量だ。

大物が終わって、少し解放されている。
もう6月が近いというのに、イギリスは暖かくならない。
今日など雨が数回にわたってドカ降りし、冬に戻ったかのような冷え込みだ。
暑さが苦手な自分には過ごしやすいが、この気候にはさすがに驚いている。
自分は1月末に来たものだから、英国の本当の冬を知らないように感じる。

1月や2月はどんなものだろうか。サマータイムの終わりが10月末だから
急激に日没が早くなり、きっと昼間がすごく短い体感になるだろう。
研修を2月スタート、12月終了にして良かったと思う。
同じ11ヶ月でロンドンの気候なら、冬場をカットできた方が良い。

台本を読みながら、何度も新宮を思い出した。
あそこには石川淳の『補陀落渡海記』のもとになった補陀落寺があって、
一定年齢に達した和尚さんを流すという船を見に行ったこともある。

それにしても、ある年齢になった住職は
補陀落(仏教における伝説の山)に向けて旅立たなければならない。
ひとり船に乗って太平洋に漕ぎ出し、信仰に範を示すため、
拒むことや止めることは許されない。・・・恐ろしい習慣だ。

『普賢』の好きな唐さんのことだから、影響があるかも知れない。
『補陀落渡海記』の主人公は、先ほどの習慣に抗う。
補陀落に行けるなどというのは迷信、自分は生きたい、
追い込まれた主人公はジタバタして渡海の途中で逃げ出すが、
結局は村の人々に見つかって殺されてしまう。

おぼろはかなりジタバタして、生き延びる。
最後のシーンは生きるということへの執着を見せつける大仕掛けの
場面だが、これはどうしたものか・・・。唐さんのイメージはわかる。
けれど、『盲導犬』で犬が飛ぶようなもので、難儀しそうだ。
上演を目指すとしたら、一番にクリアしなければならない問題だ。

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