11/10(木)川口くんとクレメンティ・ハウスへ

2022年11月10日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
IMG_7321.jpg
昨日、友人の川口成彦くんとロンドンで落ち合った。

常にアンティークの楽器や音楽家関連の場所を見て回っている
彼にくっついて、クレメンティ・ハウスに行ってきた。
多くのピアニストを育て、作曲し、ピアノ製造まで行った
ムツィオ・クレメンティの暮らした家である。

川口くんは、彼が東京芸大院生の頃に知り合った。
唐さんの母校である入谷の坂本小学校でやなぎみわさんが書いてくれた
『パノラマ』を公演した時、相談役だった焼き鳥たけうちさんの
マスターから川口くんを紹介されtのだ。

彼はイベントに参加して書生姿に扮し、エレピを弾いてくれた。

その後、椎野と自分が結婚した時、椎野のリクエストに応えて
ショパンの『英雄ポロネーズ』を弾いてくれた。
この時も焼き鳥屋備え付けのエレピによる演奏だった。

その後、彼はアムステルダム音楽院に留学してこれを卒業すると、
ブリュージュのコンクールで2位になり、
第1回ショパン・ピリオドコンクールでも2位に輝いた。
それから一気に有名になって、現在に至る。

これから国際的キャリアを築いていこう、
という時期にパンデミックになってしまったので、
彼は日本での時間を増やして、多くの国内需要に応え続けてきた。

けれど、その間もアムステルダムの住居も維持して
アフターコロナに備えてきたそうだ。

ロンドンであれば、ウィグモアホールに登場するクラスの人だと思う。
前に川口くんのシューベルト即興曲や連弾曲を聴いたけれど、
その後に彼を凌ぐ演奏に出会ったことがない。
実力はあるのだから、あとは巡り合わせだと思う。

彼の発案で、ノッティングヒル近くにあるクレメンティ家を訪ねた。
これが面白かった。ネットには開場時間や入場料などが書いてある。
けれど、そこは本当に単なる家で、現役で暮らしている一家の長らしき、
おじいさんが案内をしてくれた。

一応、居間にはクレメンティ社で造られたスクエア・ピアノが
置いてあったが、鳴らない鍵盤もあるなど、ケアは全くされていない。

「ここにはメンデルスゾーンも来たこともあるんだよ」
おじいさんはそんなガイドを少しばかりしてくれたが、
「クレメンティの肖像画などはないのでしょうか?」という質問には、
「ここにあるのはうちの家族の写真か絵ばかり、クレメンティの肖像は
グーグルを検索しなさい」という大胆な答えが返ってきた。

「この家のどこを見ても良い」と言われて階段を登ったが、
どこもかしこもおじいさんの家族が暮らす現役の居室で、
ある部屋を覗くと、中でお孫さんの青年がくつろいでおり、
なんだか申し訳ないような気になった。

「わたしはこの家で生まれ暮らしてきた」
おじいさんはそう言い、特に親族関係も無いらしい。
こじんまりとしたギャラリーやミュージアムを想像していた私たちは
顔を見合わせて笑い、この方がよほど面白いと言い合った。

その後は近くにある中古CD屋で希少盤を漁り、日本食屋に行った。
川口くんをヴィクトリア駅に送りながら満員電車にも乗ったので
まるで東京で会ったみたいだったが、クレメンティ・ハウスだけは
圧倒的に外国だった。

夜行バスでアムステルダムに戻ったら、数日後は現地の音大生相手に
英語でマスタークラスをやるらしい。さすがだ、川口くん!

トラックバックURL:

コメントする

(コメントを表示する際、コメントの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。その時はしばらくお待ちください。)