8/1(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS 最終回レポート(中野)
2022年8月 1日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
3人のあやとりが広がっていく。友情に溢れたエンディング!
(撮影:伏見行介)
この大長編が、どうやって大団円を迎えるのか
10人で読み込みました。
物語は、ヒロインあけびの父親探しを基調にしています。
自分の父親は誰か。自分はどこから来たのか。
前回、バテレンが過去を暴きたてる場面をやりました。
朝鮮戦争中にアメリカ兵の引き上げ船「白菊丸」の中で起こった出来事、
そこに居合わせた人が誰で、あけびの母を集団で強姦したのは
誰だったのか。それが、あけびの父と思しき人物であるはずです。
本物の伝二が登場し、薮野一家が死に絶えていたことが知れると、
これまで伝二を騙っていた男は李東順(り とうじゅん)を名乗ります。
薮野一家の面々もニセモノが居座っていたと暴露される。
ここからが昨日のシーン。
まず、あけびが畳み掛けます。
肝心の部分がハングルで書かれた母シノの日記を読み解けば、
李東順を名乗り、薮野一家だと言い張る男たちは朝鮮人かと思いきや、
そうではなく、彼らもまた日本人だというのです。
このあたりの事情が込み入って非常に分かりにくいとWS参加者から
問い合わせがあったので、よく整理をして重点的にやりました。
こういう質問というか、オーダーは、こちらも助かります。
細部をいい加減にせずに、まずは筋立てて考え抜くことが大切です。
整理しながら、
朝鮮戦争が起こっていた1950-53年に朝鮮半島から15歳で引き上げて
くる日本人がいるとすれば、それはもう太平洋戦争の残留孤児に
違いない。そういう推理を立てました。
・・・が、唐さんはこの問題に回答を与えていません。
突き詰めて考えていくと、伝二を騙り、李東順を名乗る男、
あけびの父親らしきこの男が何者か、決定的な尻尾が掴めない。
朝鮮人かと思いきや日本人かも知れない。
しかし、やっぱり究極的な正体が判らない。
・・・だから彼は「蛇」なのです。正体不明な「蛇」なのです。
考えた末に、
「蛇」は「蛇」であり、「蛇」は「謎」である、
と今回は結論づけました。
あけびの父親は巨大な「謎」なのです。
これはなかなか唐さんの素敵なところだと感じます。
「蛇」で強引に押し切る。考え抜いて尚、辻褄を合わさせない。
これでいい。これがいい。
結局、この謎の男は大蛇になって天に逃げました。
かなり破天荒で強引な幕引きです。スペクタクルを駆使して、
強硬に逃げ切っている。だからあけびの謎は解けずじまい。
あけびも小林も落ち込みますが、
最後に、もう一度まむしに噛まれたタチションを、
あけびは再び身を挺して救います。
目標の探偵事務所取得は遠ざかる一方ですが
小林はあけびを励まし、あけびはタチションと3人で事務所を
やろうと提案します。これで、タチションを加えたトライアングルが
完成します。
最後は、1幕で小林とあけびの出会いのきっかけになった
スリのやり合いを、今度は3人でやってエンディングを迎えます。
皆、スリへの用心のために赤い紐をつけているから、
3人を頂点に、赤い紐はキレイな三角形を描く。
この物語は終始、どこか子どもじみています。
「お姫様ごっこ」を思わせるのどかさで全体が進行する。
大人の男女関係や友情は複雑ですが、
3人は子どもの世界に生きてるからこそ、このトライアングルが可能です。
友情パワーにより、唐作品の中でもかなり幸せいっぱいのエンディング。
三ヶ月かけてやってきた長編もこれでおしまいです。
皆さん、ありがとうございました。
唐ゼミ☆にとってかなり手応えの大きかった作品なので、久々に思い出しました。
来週から10月の半ばまでかけて『黒いチューリップ』をやります。
唐作品の中ではそれほど有名な演目ではありませんが、
唐十郎流に「引きこもり」を追究する物語です。
蜷川幸雄さんと行ってきた一連の作品群の最終形でもある。
ポップで面白い台本です。ぜひ参加してください!
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