7/11(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS 第11回レポート(中野)
↑シノとあけびの対話。シノ随一の見せ場である(撮影:伏見行介)
難所だった前回を経て、昨日はまたもとのペースで物語が進み始めました。
3幕の中盤です。
あけびが小倉に戻って死体処理と朝鮮半島への輸送に反対していた
小林ですが、その際に必要な帰化手続きを巡って、彼の心が揺らぎます。
日本人の身元引き受け人として、あけびは小林を指名したのです。
それはつまり、最も心の許せる相手であるという告白に他なりません。
さらにあけびは、1幕で切り落とされた小林の指を大切に
保管していました。そして、それを書類に押すハンコとして
使わせて欲しいと小林に懇願します。
それに感じ入り、自らの血を印肉として捺印を完成させようと
小林は提案。写真ボックスの傍に落ちていた三角形のガラス破片
(『唐版 風の又三郎』3幕とまったく一緒の小道具!)
を用いて、傷口から血を得ようとします。
・・・ちょっとグロテスクなシーンです。
が、ここにはハンコというものの本質があります。
ハンコとはもともと、骨と血を以って誓いをたてる呪いめいたもの。
二人の結びつきが強まります。
と、ここにタチションが飛び込んでくる。
ガラスの破片とはいえ刃物ですから、あけびが小林を傷つけようと
していると思って、兄貴分を助けようとしたのです。
(ここは、本作第2幕の終盤と一緒)
しかし、助けに入り、手に入れたバー箱師の権利書を持ち出して
二人で探偵事務所を立ち上げようというタチションを、小林は拒絶。
それだけあけびとの結びつきが強まっているとはいえ、小林を慕って
ここまで尽くし、しかも袖にされるタチションは可哀想です。
そこに、タチションを恨む権八の弟子たちの邪魔だてもあり、
舞台はまた小林とあけびに。今度こそ帰化の手続き書類を完成
させようとする二人に、今度はシノや薮野一家が割って入ります。
薮野一家が千恵の身体を使ってあけびの母・シノを操り、
薮野のハンコを使ってあけびの帰化を果たそうとする。
それによって将来の利益を得ようとする。
ここは、シノの見せ場で、薮野一家に脅かされながらも、
彼女は心の内で娘のあけびに小林という仲間ができたことを喜び、
あけびが自由に生きていくように願います。
薮野一家のハンコを使ってはいけないとメッセージする。
・・・というシーンまでをやりました。
面白かったのは、参加者の中にはこの台本が初めて掲載された
雑誌「新劇」をチェックしながら参加してくださっている方がいて、
シノの見せ場については、書かれていないことを指摘してくれました。
要するに、執筆時の唐さんは、
暴力されながら娘の幸せを願うシノのクドキを初執筆時には
書いておらず、稽古や上演の中で付け足していったことがわかりました。
この役は映画界のスターである清川虹子さんをゲストに招いて
上演した記録があるので、きっと清川さんに合わせて書き足されたものと
推測します。一方、舞台上で彼女をリンチしていることには変わりなく、
この辺が唐さんと清川さんの付き合いの面白いところだと思います。
あと、3回で終了。
クライマックスに向けて、物語が加速します。
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