6/28(火)私は悪魔ではない

2022年6月28日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note

IMG_1473.jpg

↑これがウィリアム・ブレイクのステンドグラス


先週末は久々に現場仕事をした。

都心にあるキングス・プレイスという会場で「能」のイベントを手伝った。

早朝に家を出、帰りは24時を過ぎた。鉄道ストライキも気苦労の理由だった。

面白い人たちの現場にいさせてもらったけれど、疲れた。


翌日曜日はワークショップや劇団本読みをして、そのあと遊びに出かけた。

2週間前に訪ね、閉まっていたバタシーの教会でセレモニーがあったのだ。


あの教会は基本的に午前中しか開いていない。

この機会でなければ、午前中は学校かAlbanyにいる私が訪ねるのは難しい。

バスを乗り継ぎ、片道1時間半。今度こそ扉は開いていた。


私が興味を持ったのは、詩人ウィリアム・ブレイクが婚式を行ったからだ。

教会内には彼を表すステンドグラスもある。


儀式に参加するわけだから、入り口で聖書を受け取った。

聴衆は20人。コーラスが15人。オルガンの伴奏でアンセムが歌われ、

説教師のお話が繰り返された。そこで事件が起きた。


1時間が過ぎたところで、説教師の話が途切れ、

突然、奇声とともに倒れたのだ。明らかに癲癇の発作だった。

もちろん、人がこんなことになるのを初めて見た。

皆が慄き、合唱隊の一人が救急車を呼んだ。

ピアノをどかしてマットを敷き、彼を寝かせる。

聴衆はそれぞれの判断で、五月雨にその場を去った。


悪いことに、私は最前列の一番端に座っていたから、

立ち去りずらくなってしまった。ここに座ったのは、

すぐ横にブレイクのステンドグラスがあったからだ。


通路をバタバタと人が行き交う間、

私はじっと祭壇を見て、周りの状況が落ち着いたところで

そっとその場を後にした。そして水を飲みながらすぐそばのテムズ川を眺めた。

それから気付いたのだ。自分の怪しさに。


考えてみれば、ここはローカルな教会だ。

あの場にいたのは誰も彼もが知り合いに決まっている。

しかも、外に置いてあった看板を読んだところ、

この日は、永年ここに勤めてきたあの説教師の、

引退前、最後のセレモニーだったらしいのだ。


思い返せば、合唱隊の若者の何人かは騒然とする教会の中で

私の方を見ていた。200人以上入る席の中で私だけが変な位置に

座っていたし、見知らぬ顔だし、無表情だし、一言も喋らず、

なかなか動かなかった。あの視線には明らかに、

何か不気味なものを見る感じがあった。


確かに、ドストエフスキーやブルガーコフの小説に出てくる悪魔は、

さっきまでの自分みたいな物腰なのだ。


このままではいけないと思った。

しばらく待ち、戸口で救急車を見送った若者に挨拶することにした。

自分の身分やここに来た訳を話し、また来ますと伝えた

彼は初めは訝るような感じだったが、少しフレンドリーになった。


救急車に乗せられていく説教師を見る限り、命に別状は無さそうだった。


トラックバックURL:

コメントする

(コメントを表示する際、コメントの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。その時はしばらくお待ちください。)