10/26(水)ディヴィットさんの引退

2022年10月26日 Posted in 2022イギリス戦記 Posted in 中野note
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昨日、デイヴィットさんが引退した。
今年、イギリスにいるきっかけをつくってくれた一人だった。


私は、自分が長期にわたり外国で暮らすことになると予想していなかった。

きっかけは2つ。
ここ5年間、一緒に働かせてもらっているKAATの眞野館長に
絶対に行くよう勧められたこと。Albanyという劇場を知ったこと。

5年前、さいたまゴールド祭初回に合わせて来日した何人かの中に
Albany代表のギャビン・バロウさん、Entelechy Arts代表の
ディヴィット・スレイターさんがいた。 

二人は盟友である。
ギャビンさんは劇場そのものを運営している。
Albanyは催しも手がけるが、もっとも重要な役割は場を提供することだ。
いくつもの提携団体が長屋の住人のようにこの劇場に事務所を持っている。
各団体の事業が合わさって、Albanyの力になる。

Entelechy Artsは提携団体の代表格だ。
ディヴィットさんが創立したこの法人は四半世紀に渡り、
高齢者・障害者・地域の人々を意識した創作と実験を続けてきた。

二人の存在と活動を知った私は、
外国への苦手意識を忘れ、初めて行きたい劇場が見つかった。

外国にはもちろん、ユニークで優れた舞台がたくさんある。
観たり聴いたりすることで大きな影響も受ける。
けれど、単に鑑賞するだけでなく、主体的に関わりたいと思うには
もう一つ何かが必要だった。そして、二人の話にはそれがあった。

Albanyを中心とした活動の面白さはいつも書いてきたから
ここで繰り返さない。大切なのは、昨日、ディヴィットさんが
引退したこと。実にさりげない引退だった。

"Moving Day"の座組みのみんな、15人ほどで記録映像を見た。
その後、ディヴィットさんは少しスピーチをして、
仕事にひと段落をつけた。

考えてみたら、自分が参加してからの半年強、
ディヴィットさんはずっと自身の気配を消していきながら、
後進に法人の活動を託すことを考えてきたのではないだろうか。
一貫してそういう振る舞いだった。

Entelechy Artsの手がける企画は、
すでにマディとジュリーという二人の若手(正確な年齢は訊けない!)
を中心に回ってきた。ディヴィットさんは最後の仕事として、
それぞれの営みを自然に継続させることを狙ってきたように思う

普段と変わらない、ちっとも特別なことのない午後の活動
だったけれど、やはり終わった後は、次々に立ち上がって喋る
シニアたちの涙が、彼の帰りを引き止める格好になった。

自分も、ディヴィットさんの意図に反すると知りながら、
日本の関係者からのメッセージや、花束を渡さずにはいられなかった。
今まで見たことのなかったタイプの、信念に溢れた引退だった。

ディヴィットさんによって、時代は終わらずに続いていく。


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