10/16(水)ゆらぐ。好きな本ランキング

2024年10月16日 Posted in 中野note
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ここ3週間とちょっと没頭してきた本をついに読み終わりました。
トゥキュディデスの『戦史』全3巻です。
これはおもしろかった。県民ホールで大きな公演を抱えていたので
日に20ページしか進まない日もあったけれど、克明に描かれている
ペロポネソス戦争が白熱すると、ノートを取って固有名詞を書き留め、
地図とにらめっこしながら1日に100ページちょっと進む日もありました。

この本の驚くべき点は、リアリズムへのこだわりです。
2,450年前の戦争を通じて、そこに生きる人々の足掻きや駆け引きを
克明に描いてみせる。これを読むと、人類はちっとも進化していないと
いうより、この時点で人がある完成度に達していたことが体感できます。
頭の良い奴、キャラ立ちの良い奴。次々と登場して、同時代を
生きていたら全く敵わないと思わせる英雄がいくらも登場します。

アテナイからは雄弁家ペリクレス、交戦的で道化的なクレオン、
現代人にも愛されそうな穏健で慎重なルキアスらが活躍します。
スパルタには名称ブラジダスがおり、シュライクサイには
ヘルモクラテスがいて、相手にとって不足なしという闘いを
見せます。中でも最も面白いのは、アテナイに生まれながら、
最終的にはスパルタ、ペルシャをも手玉にとるアルキビアデスです。
彼こそ、この戦争を通じて随一のトリックスターです。
色男にして賢い彼の誘惑に屈しなかったので師であるソクラテスのみで、
当時の世界のすべてを引き摺り回し、翻弄させる魅了に彼は充ちています。

ヘロドトスのように伝説化するのでなく、克明に細部を集積させていく
作者のやり方が私は好きです。伝聞を頼りに想像して描いた箇所の多さを
考えれば、ここで展開するリアリズムもフィクションの一種に違い
ありません。けれども、努めて冷静であろうとする意志が細部に宿す
説得力が半端ないのです。自分もまた、このような姿勢で、物事に、
唐十郎作品に臨みたいと、範を示してくれます。

これまで好きな翻訳物は
1位 ヴェルギリウス・マロー『アエネーイス』
2位 ミハイル・ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』
3位 ダンテ・アエギエーリ『神曲』
という順番だったのですが、いきなりトップに躍り出るくらいに
面白い本でした。嬉しい混乱と興奮です。

おさらいに、これから中公クラシックから出ているダイジェスト版も
読むつもりです。小さい頃に大河ドラマを観て、最後に総集編を観た
感覚が甦ってきます。

例えば、ソポクレスの『オイディプス王』に出てくる登場人物たちが、
神話的人物たちに想をとりながら同時代の誰を描こうとしていたか、
いかに当時の現代演劇だったのか。この『戦史』は教えてくれます。

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