第21回公演 『吸血姫』
前のページへ戻る11月 長野:長野市 ごんどう広場特設テント劇場
東京:浅草花やしき裏特設テント劇場
一人は彼と同じく歌手を目指す高石かつえ。もう一人は人力車に乗り、自らを謎の引っ越し看護婦と名乗る海之ほおずきであった。
二人に魅かれる肥後だったが、彼女たちは愛染病院の院長・袋小路浩三(ふくろこうじ こうぞう)と、彼の手下でムチウチ症の中年男や歌謡界の鬼を名乗る花形(はながた)らにたぶらかされ、かつえは地方へ売り飛ばされ、浩三に見初められたほおずきは連れさられてしまう。
ほおずきが連れ去られたのは、愛染病院のある夏の江ノ島。院長・浩三ほおずきは口説かれている。そこに突然"父親"を名乗る男が訪ねてくる。その父親の口から、彼女の素性が明らかになる。
本当の名前をさと子ということ、母親は既に死んでしまっていること、そして、彼女は実父の子を身ごもっていること・・・。怯えるさと子に父親は突如求婚する。子どもを生ませ、その子に同じ名前をつけることを続けることで、近親相姦を繰り返し"さと子"を永久的に生かし続けるのが父親の目的であった。そこに大陸浪人・川島浪速を名乗る中年男も便乗。第二の川島芳子として、また最も濃い血を持つ満州国の王女としてさと子を仕立てあげる。
しかしそのとき、肥後の守が救出のために乱入して来る。それにより父親との不幸な現実に戻されるさと子。そしてまたしても肥後の守の目の前で、さと子は浩三にさらわれてしまう。
時は過ぎ、3年後。晩秋の上野の森。落ちぶれた院長一味は売春組織に成り下がり、さとこはそこで体を売る日々。また肥後の守は、歌手として夢をあきらめ、車屋に就職していた。しかし奇跡的にさと子と肥後は再び出会ってしまう。落ちぶれたさと子を救おうとする肥後。しかし二人の出会いに呼応するように、浩三と川島浪速が再起し、二人の前に姿を現す。今度はさと子の最も濃く優しい血によって堕胎児たちを育て、お世話する"不滅の乙女"として生きていくことを提案。さとこは肥後の守との愛に生きるか、浩三とのお世話に生きるか、決断を迫られる。
その時、さと子は浩三のカミソリで肥後の守を切りつけ、また浩三を振り払う。ひとり堕胎児の世話をして生きていく決断し旅立とうとするさと子。それを止めるべく、肥後の守は、さと子の胸をナイフで突き刺す・・。彼女から溢れ出る濃い血。醸し出される堕胎児と糞便の匂いが混じった、強烈な匂い。それらと共にさと子は、銀杏の臭う、上野の死の森へ、最も優しい女として旅立っていくのであった。