3/28(月)『下谷万年町物語』本読みWS第8回レポート(中野)

2022年3月28日 Posted in ワークショップ
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2010年秋公演『下谷万年町物語』二幕より金杉病院でのキティ瓢田
(写真:伏見行介)

いよいよ物語の佳境となる第8回。
二幕終盤、ピロポン中毒の脇役だった国際劇場時代の
キティの姿が明らかになりました。

火事場に飛び込んでしまうほどの錯乱に
過度の中毒症状を見てとったかつての恋人・洋一がキティを
金杉病院に入院させるくだりには、実際に起こったことと、
洋一がキティをなだめるためについた「これも俳優修行」という
嘘と願いが入り混じります。

皆さんには、ひとつの言葉が複数の意味と感情をはらむ難しいシーンに
挑戦してもらいました。

キティは『赤と黒』の主人公ジュリアン・ソレルに扮して
牢獄に囚われたシーンに挑んでいたのだと嬉しげに語りますが、
彼女が前向きであればあるほど、薬物中毒の辛さが際立ちます。
偽りの俳優修行を見守りながら国際劇場の洋一が涙する場面も良い。

文ちゃんに白井から受け取った思い出の注射器は
このように様々な波紋を呼びますが、同時に、六本指の現在の洋一を
演じるための小道具、キティの六本目の指ともなるところが
唐さんの卓抜なところです。

俳優に必要な資質はマゾヒズムだと、唐さんから教わったことがあります。
辛酸を嬉々として味わうところに役者の才能と妙味がある。
今回の場面はそれを地でいっています。

そして、軽喜座との合同はキティの過去が露見して破断になる。
軽喜座員たちが鏡を持ってキティに迫る場面は、
明らかにミュージカル『ラ・マンチャの男』の「鏡の騎士」のシーンの
影響を受けています。当時の蜷川さんと縁の深かった松本白鸚さん
(当時は市川染五郎さん)のライフワークです。

このシーンがヒントになって、二幕終幕、
元六本指の文ちゃんと、キティ+注射器=劇中劇の中の六本指の洋一
という鏡合わせが成立します。

『下谷万年町物語』全編を通じて、もっとも読み解くのが難しく
しかし、その難解さを乗り越えれば他にはない感動を味わえる場面です。

今回は欲張って三幕にも侵入し、
キティが金杉病院を訪ねる場面も読み合わせしました。

この企画が持つ""女優は一人""キティのみ紅一点"という原則の例外として
つくられた「乞食のパンスケ」という役柄がいかに大切か。
物言わぬ彼女に多くを語らせることはこの芝居の成功の秘訣であり、
ここにも、キティを映す鏡が表現されています。

次週は三幕本編に突入。大ボス「お市」の登場が迫っています。

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