11/26(水)『盲導犬』本読みWS 第1回 その②
2025年11月26日 Posted in 中野WS『盲導犬』
一昨日の続きです。
実は、この『盲導犬』本読みは2回目です。
来年に『ベンガルの虎』に取り組むことになったので、
同時期に書かれ、同じ1973年春に初演された『盲導犬』をきちんと
読み直してみたくなったのです。唐組が秋公演の演目にとりあげて
くれたことも、追い風に感じています。
以前にワークショップでも触れたと記憶していますが、
この劇にはぜひとも押さえておきたい作品が四つありますので、
簡単に紹介します。
①澁澤龍彦著『犬狼都市(キュノポリス)』
1962年に初版された本のタイトルになっていますが、
作品自体はこのなかに収められた短編です。
名家の令嬢がつまらない婚約者との結婚を控えて反発していたところ、
一匹のコヨーテが一家にやってきます。この犬を「ファキイル」と
名付ける。「飢えたるもの」という意味です。
やがて、令嬢はファキイルが自分を犯す夢を見ます。
彼女の指にあった指輪に傷つけられ、流れた血が、令嬢には
ファキイルに自分の処女を捧げたもののように思われるのです。
古来、魚族と犬族が対立し、現在は勝利を収めた魚族が世を席巻して
いるという背景が語られます。やがて令嬢から生まれる子が犬族=
ファキイルの後裔として覇権を奪い返す予感を以って短編は閉じます。
「ファキイル」の名前、「銀杏」の父親の職業が魚の学者であること、
「影破里夫」が歌う劇中歌の歌詞にこの『犬狼都市』が影響しています。
②H.メルヴィル『白鯨』
唐さんはまず、映画で親しんだものと思われます。
グレゴリー・ペック扮する主人公「エイハブ船長」に憧れたそうです。
「エイハブ」が「影破里夫(えいはりお)」に転じました。
不屈にして大敗北を喫する男として共通しています。
「防空頭巾の女たち」との掛け合いに「エイハブ船長」の残滓が
見てとれます。
③ATG映画『あらかじめ失われた恋人たちよ』
脚本:清水邦夫 監督:田原総一郎 による映画です。
石橋蓮司さん、桃井かおりさん、緑魔子さんが出演しており、
いずれも『盲導犬』初演メンバーです。政治運動に挫折した青年が
地方都市でオルグを続け、挫折する物語です。緑魔子さん扮する
人妻が唐突に登場し、青年を食事に誘います。
「若いだからもっと食べて!」と連呼して青年を追う魔子さんの姿は、
理不尽にして、全編を忘れさせるおもしろさに満ちています。
私はこの場面が、「銀杏」というキャラクター造形に影響したと
睨んでいます。
④現代人劇場公演『真情あふるる軽薄さ』
清水邦夫さんが書き、蜷川幸雄さんが公式に演出家デビューした
舞台作品です。『盲導犬』と同じ、アートシアター新宿文化にて、
ロードショー終映後に上演されました。そのクライマックスで
背景幕が振り落とされると、機動隊のジェラルミンの盾がずらり
並んだ舞台装置が展開します。このセットが、コインロッカーの
着想のもとになったと私は考えます。
ちなみに、当時の蜷川作品の特徴として、夜遅くの映画館で公演
できるよう上演時間が短いこと、セットが単純であることが求められ
ました。こうした現場の事情が想像力を刺激した好例が『盲導犬』
および、清水邦夫作品の数々といえます。
今日は以上です。
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