8/7(水)『煉夢術』本読みWS 第1回 その②

2024年8月 7日 Posted in 中野WS『『煉夢術』
IMG_8107.jpg
↑初演時のチラシの写真です。ギターを担いだ青年が時計付きの塔を
眺めている。山高帽はベケットの影響でしょう

一昨日の続きです。
『煉夢術』冒頭の物語を整理してみます。

まずは、青年のモノローグから始まります。
地図売りの青年です。彼はどうやら、この街に久しぶりに
帰ってきたらしい。しかし、現実に広がるこの街に飽き足らず、
この街に潜む隠された姿、夢魔の世界をあぶり出そうとします。
この芝居のタイトルが『煉夢術』となっているのは、そういうわけです。
そして、具体的な行動として地図をカミソリで引き裂き、
この世界の裏側に潜む世界に観客を誘う。

どこからか聴こえてくるオルガンとか、赤い星とか、
思わせぶりなモチーフが登場しますが、詩的な雰囲気にいたずらに
飲まれることはありません。

要は、これらは幼少期を過ごした街に帰ってきた青年を劇的に
見せるための仕掛けです。青年は幼少期、赤い星の瞬く夜に姿を消し
やはり赤い星の輝く夜に帰ってきた。何とも激しく、ミステリアス。
次に登場した老婆は、そういった青年を識る者として語り、
青年の素性を匂わせます。

地図を引き裂いた後に現れた老人は、
夢魔の世界、静寂の中に眠れる街で唯一、動くことのできる存在です。
しかし、この老人もまた、青年と話すうちに石化し、動かざる者と
なっています。

・・・ちょっと抽象的なストーリー、登場人物です。
けれど、少し考えてみれば、上記が青年の心象風景として当たり前の
ものであることがわかってきます。

青年はとかくイラだつもの。
何者かになってやろうと意気盛んな若者(執筆当時の唐さん)に
とってみれば、街の人々が、平々凡々に甘んじて生きているように
思えるのが理解できます。それが、眠っている、止まっている、
石化しているという風に例えられている。

また、それでいて、この青年には街に対する強烈な郷愁があるわけです。
沈んだ難破船から聴こえてくるオルガンというのは、沈没したように
物言わぬこの街の底から聴こえてくる懐かしき響き。
小学校の教室で聴いたオルガンに他なりません。

私が唐さんのこうした書き方を面白いと思うのは、
これが当時の唐さんの偽らざる郷愁ったろうと考えるからです。
しかし、一方で、唐さんが実家を出たのは状況劇場を立ち上げた頃と
伺っていますので、つまり、23-24歳の頃に生まれ育った上野を出て
吉祥寺周辺で暮らし始めてから一年も経っていない。
しかも、吉祥寺と上野の距離感なわけです。

主観は自由です。が、ここまで極端だとそれが才能につながってくる。

冒頭、主人公が地図売りであるのも、唐さんの体験に起因しています。
東京オリンピックの開催に合わせて都市計画が進む東京で、新しい
地図への広告出稿を掛け合ったセールスマン生活がもとになっている
のは間違いありません。

抽象的に書いていますが、内実、かなり具体的です。

2場になると、地図売りからギター抱えた時計の修理屋になるのも、
自分は止まった街の時間を動かす存在だと表しているということでしょう。
けっこうダイレクトな例え。こんな風に読み解いていくなかで、
普通の青年と変わりない当時の唐さんの心象風景と、
後に発揮される才能の萌芽を読み取っていく。
今回はこういう読み方で展開していきます。
続きは、8/11(日)19:30。

トラックバックURL:

コメントする

(コメントを表示する際、コメントの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。その時はしばらくお待ちください。)