11/18(月)音二郎と唐十郎〜その①
2019年11月18日
今日から始まる話は、ちょっと長いので数日に渡りますが、
いずれ『下谷万年町物語』に行き着きます。
気長に読んでください。
やなぎみわさんの個展「神話機械」が開催されています。
ハイナー・ミュラーの『ハムレットマシーン』がテーマとなっているこの展覧会、
凡百の演劇人より遥かに鋭く『ハムレット〜』の真芯をとらえた展示がなされています。
実は唐ゼミ☆劇団員も展示の仕込みを少しお手伝いしました。
私はこれを見て、つくづくやなぎさんの偉大さを痛感しましたね。
美しく、グロテスクで、ユーモアがある。
ユーモアというか、何事にも真剣すぎるくらい真剣なやなぎさんは、
ダジャレかとツッコみたくなるようなアイディアを出発点にして気高さに至ってしまう。
なるほど『ハムレットマシーン』です。
12/1(日)までやっていますから、ぜひ足を運んでください。
さて、ここからが本題ですが、
そのやなぎさんと私たち唐ゼミ☆が共同製作をしたことがあります。
2014年の年明けに取り組んだ『パノラマ』という芝居でした。
詩人として名高い萩原朔太郎らしき男の視点を借りて、
日清戦争から太平洋戦争までの約半世紀に移行していく時代を扱った劇です。
パノラマ館〜サイレント映画〜ラジオという具合にメディアが変遷していく中、
ほんの一瞬かがやきを放った「パノラマ」に魅了されてしまった主人公の、
強烈な思い入れをテーマにした台本でした。
この時、私はパノラマ館が世を席巻した時代に通じるために、
同時代を生きた川上音二郎の業績についても調べ、
次いで「書生芝居」という言葉を知りました。
ものの本によれば、
時代の流行にとりわけビビットだった音二郎は、
日清戦争のさなかも従軍記者に混ざって大陸に渡航し、
帰国すると、すぐさまルポルタージュをまとめて芝居に仕立て上げ、
大喝采を取ったそうです。
その時、特に人々の注目を集めたのは、
舞台上の役者が着ていた、
戦場に倒れている軍人から頂戴してきたという軍服でした。
つまり、実際に戦争を体験した本物の衣装をつけて、役者たちは演じたわけです。
よくよく考えてみれば、これが本当に本物かどうかは誰にも知る由はないのですが、
真偽のほどは別にして、ともかくそういう触れ込みが宣伝に大きな力を振るった、
ということです。
まさに興行師、という感じ。
また、川上音二郎が始めた演劇のスタイルは「書生芝居」「壮士芝居」と言われ、
これは要するに素人たちによる芝居なのですが、
往時の現在進行形を描くに当たっては、
音二郎が集め、指導した素人役者たちの生々しさが、
絶大な威力を発揮したのだそうです。
この頃、時代的には演劇=歌舞伎だったわけですが、
歌舞伎役者たちも日清戦争を題材に新作に挑んだそうです。
今では考えられないことですが、その記録絵を見ると、
歌舞伎界の大名跡が西洋式の軍服を着て演じています。
ところが、旧来の所作や科白の様式から脱却できないために、
どうしても現在形の戦場を描くに迫力が出ない。
近代の白兵戦、サーベルや兵器を使った戦いを、
いかにも立派な役者たちがつけ打ちに合わせて舞踊的な立ち回りで演じていたのを、
素人演技である書生芝居の生々しさが粉砕してしまった、
ということだったようです。
このあたり、どうも唐さんは影響を受けていそうな気がする。
また、初めに書いたように、『下谷万年町物語』の設定に、
ひょっとしたら影響を与えていそうな気がする。
明日に続きます。
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