3/31(水)春は稽古の日々
2021年3月31日
本日は異様に早起きしてしまい、朝4:30の桜。未明なのに暖かい。
ちょっと暑すぎるくらいです。月曜に写真撮影を行った若葉町ウォーフの
近くには大岡川があり、ここは桜の名所なのですが、さすがに今年は
露店がないにせよ、やはり人の出は多く、春、という感じがしました。
春、といえば稽古です。
テント劇団をやっていると、季節を強く意識しながら生活することになります。
公演期間は4月から11月まで、というところです。
4月と11月は寒さの中での公演を覚悟し、7月下旬から9月上旬までは暑すぎる。
そして、6月は梅雨。本当にコンディションの良い時はごくわずかですが、
それでもやっぱりテントがやりたい。
そのような年間スケジュールを意識すると、必然、春先は稽古という風になります。
その中で思い出されるのは、自分の劇団よりも、
なぜか唐さんにお呼ばれして伺った唐組の稽古場です。
2003年の春先。数年後に建つことになる立派なアトリエが無い頃の唐さんは、
高円寺駅前にある商店街のスペースを借りて稽古されていました。
初めて訪れた時、演劇界の大物である唐さんをして
こういう環境で稽古しているのか、と意外な感じもしましたが、
同時に、生活感の中にあるスペースは不思議な居心地の良さもありました。
その時、唐さんは『泥人魚』の稽古をしていました。
2003年の演劇賞を総ナメにすることになる演目ですが、いまだ胎動中。
『泥人魚』は、諫早湾干拓事業により引き裂かれてしまった者たちが
それぞれの事情から東京に集い、自分たちのあとにしてきた土地を想う話です。
ブリキを加工して湯たんぽをつくる工場に、続々と集まってくる人々。
ある者は事業に反対し、ある者は生計を立てるために干拓事業の働き手となる。
有名なギロチン堤防は干潟だけでなく、人間関係も引き裂いてしまった。
そういう社会状況を、現地でなく、東京の下町に呼び込んでくるところが
唐さんの絶大な手腕でした。
私が訪れた時は2幕の稽古中。
唐さんの稽古場は、当然ながら緊張を伴います。
劇団員の皆さんは一撃必殺の気合で演技に当たり、瞬間々々の勝負を仕掛けます。
ウォーミングアップなどは無く、せーの!で正解を出さなければならない。
これはもう本番、そういう感じがしました。
その緊張が、20歳過ぎの自分を圧倒しました。
加えて、唐さんがこちらを見てくる。その緊張感。
要するに観客のモルモットとして、自分の劇作がどのように受け取られるか
明らかに探っている様子なのです。これにはビビりました。
取り繕って笑ったりしても見破られますし、
なるべくその視線を気にしないように、もう無心に、一生懸命観ました。
あとになって気づいたのですが、自分のような弟子に対し、
どうやら唐さんも緊張していたようなのです。
自信満々と思いきや、ドキドキしながらこちらを伺っていた唐さん。
そんな感じで、とにかくその場にいる全員がひどく緊張していたように思います。
けれども、ギロチン堤防が再現されるシーン。
それは段ボールで作られた稽古用の仮のセットでだったのですが、
舞台一面にズラリと並んだそれが振り下ろされた瞬間は、
唐さんの視線も忘れて息を飲みました。
正直に言えば、後に観た紅テントでの本番よりも、
初めて観た稽古場での段ボールギロチンの方が、自分にはズシンときました。
ファーストインパクトがそれほどに強かったし、段ボールが堤防としか
見えなくなる状況に飲み込まれてしまった。
稽古が終わったあと、唐さんに誘われて焼き鳥屋さんに行き、
薄い薄いチューハイをつくってもらって、さっき観たものの凄さについて
おしゃべりしました。お互いに緊張が溶けて、ちょっとした打ち上げでした。
あるいは唐さんは、いけるな、という感触を掴んでいたかも知れません。
私が唐さんに、豚の内蔵である「シロ」の美味しさを教わったのはその店です。
今はもう無くなってしまった、高円寺駅前の「さわやか」という焼き鳥屋さんでした。
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