皆の唄・その③

2004年10月15日 Posted in 2006以前

♪食べれば消える 使えばなくなる それで人生誤るぞ
 生きれば疲れる 死ねば損する それで一生馬鹿見るぞ

自分の歳も数え切れなくなった景品買いたちが、三幕冒頭でこの「♪おまちどうさま」の歌を唄う。
パチンコ台に賭された金は、ひとつの景品となり、客の手に渡る。それらを買い取りまた客に金を渡すのが、“景品買いの婆ァ”達である。彼女らは景品をパチンコ屋の棚に返す。こうして景品は永久に姿を消さない。進まない時間が出来上がる。
パチンコ屋にいる者達は、客も、景品買いも、閉じられた世界にいて、また自らそう望んでいる。景品のタバコ一個でさえ、現実の風の中に消えていくのは恐怖なのだ。

婆ァ達はパチンコ台の裏で育ったケイコを“ジュリエット”と呼び可愛がる。しかしそのジュリエットは、春に恋をしてしまった。そこで、景品買いの首領、閉鎖された界隈を仕切る魔女、サキはケイコに「あるもの」を与える。

♪恋すりゃ破れる 旅すりゃ迷う そして帰ったか ジュリエット
 黒い黒い ジュリエット


〔いとうしげの〕


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