最終講義レポート:前編
厳冬。いよいよ大学も後期終業を迎える。
横国生は只今講義の締めくくりとして課せられるレポートや試験をこなす毎日を送っている。
ということで、唐ゼミブログでも、我らがゼミ教授の最終講義レポートを前・中・後編で綴っていくことにする。
号外新聞のような最終講義ポスターが貼られた看板に導かれて6号館に向かう。ものものしいポスターだなと思いながら目にした入り口は、もっとものものしい。
これはもしかしなくとも、唐ゼミとしての最後の公演であった『黒いチューリップ』のでセットではないだろうか。パチンコ台が並ぶ上にタクシー会社の看板が凛と立つ。もはや教室に入る前から空間の境界が失われている。しかも中央に垂らされているのは繋がれて籠に閉じこもった黒いチューリップ。果たしてこれからキチンと電気のついた教室に入れるのだろうか。一抹の不安を覚える。
案の定教室は暗かった。教壇があるべき場所の左右には銀色に鈍く光るコインロッカーの壁。肝心の教壇には上から真っ白い緞帳がかぶさっている。プリントを配ったり出席カードを回収するはずのティーチングアシスタントらしき人たちはばっちりメイクで声を張っている。「こちらの席が空いております。」「お荷物はお膝の上に置いて下さいますようお願い致します。」講義を聴きにきた生徒相手になんとかしこまった人たちだ。
しかしなるほど周りを見渡せば「生徒」たちの年齢層が非常に広いようだ。ああ、皆「お客」なのだな、と理解する。
白い緞帳が開くとようやく教室のシンボルとも言える黒板が姿を現す、と、思えば真ん中に人型の穴があいている。
ここは当時唐教授が突入してきた教室なのだそうだ。「はっ、路地を抜けたら教室だった」という台詞を第一声に。今度は時間が一本道からそれてしまった。もはや何が起こっても「これが講義だ」と受け止める覚悟がいるようだ。
教授登場!
・・・?
野太い二人の男の声がするので振り返ると、1台のかごが男達に担がれてやってきた。歓声と拍手。今日は教授は教室の内側からやってきた。目の前を時代錯誤なかごが通り抜けるのになぜか少し安心する。男達がかごをめくると教授登場!
のれんをひらりと瞼にかからせたまま、教授の口は笑って、そこへ拍手の雨が降った。
自らの開けた穴の前で、扇田昭彦氏との対談。教授の大学の中での体験談は、「学校」と「唐十郎」がけして素直に結びつかないだけに面白い。
○舞台における「役者」と「小道具」の間にはフェティシズムが存在するという話の最中に、無数の生徒が携帯電話コミュニケーションを始めた。教授は机に飛び乗り生徒の携帯を掻き集め始める。生徒は教授を指差し「あ、変な人、変な人!」と叫んだ。教授はそれが自分に対する評価なのだと納得する。
○実践で舞台を作り、それを生徒に観せ、生徒に感想を書かせると言う活動を開始。汗だくで演技する同い年の学生に疑問を持つもの、登場人物の行動を“非生産的だ”と指摘するもの、自分もよく知らない哲学者を引き合いに出してくるもの。そんな感想があったのだと話す教授の顔は、なにやらとても楽しそうだ。レポートが巻物のように長く繋ぎ合わされて、教授の懐の中にあった。
○自身の劇団、唐組の公演中、公演日の合間を縫って講義をしに横国へやって来たという。授業中にいつものように生徒と舞台を作っていたら(つまり演技練習中)、別の教授が「お前ら何をふざけているんだ」と憤怒して研究室に飛び込んで来た。唐教授と目が合うとその教授はゆっくり教室から出て行った。「僕は物陰に隠れていたんですが、彼ときちんと話したかったなあ」というのが教授の感想。
笑いと驚きと感嘆を小刻みに繰り返すうち、教室が非常に暑いことに気づく。
それもそのはず、教室は満員御礼、座席の外にも立ち見の観客が大勢なのだ。
教室の中の全員が前を向いている講義は入学して初めてだ。
そんなこんなで対談は終了。唐教授は足下に目をやると「あ」と声を上げた。
「これはどうしたらいいんだ?」
自身が突き破ってあけた穴の影。それをひょいと持ち上げてしまって、唐教授は教壇から降りたのだった。
中編は唐ゼミアンソロジーレポート。
report by C
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