6/14(日)重村さんの目(熊野)

2020年6月14日 Posted in 日々のこと
熊野です。

唐ゼミ☆でのリモート読み合わせを続けている他にも、
俳優仲間と遠隔で集まって読み合わせをしたり、
なんと、リモートオーディションというものも体験したり
狭いアパートの一室で、パソコンやスマホの画面を相手に芝居をしています。
昨日は「殺すぞぉ!」なんて物騒な事を叫んでいたので、
通報されないか心配です。


この遠隔での芝居作り。
相手役がいるとはいえ画面の向こうです。
タイムラグもありますし、声量だって相手に対して適切なのかわからない
相手を見ようと画面を見れば、カメラとズレがあるので目線がズレる。
触れることができれば解決するやり取りも、嘘をつかざる得ない。
台本の内容を皆で共有していくには十分な環境であるのですが、
役者としては、
「その場で起きることに、その場で反応して、打ち返す」ことが出来ているか
これが重要なチェックポイントになるので、なかなかのストレスです。
この感覚についての自問自答の日々は続きます。


「その場で起きること」を、いかに新鮮に捉えていけるか。
これを自覚的に毎回考えるようになったのは
唐組の春公演『ビンローの封印』出演時です。
稽古中、演出の久保井さんからのダメ出し
「熊、芝居をするな。その場に身を放り出してくれればいいんだよ。」
唐ゼミ☆の本番を観に来てくださった時にも、よく言われていたことで
これが悔しいかな、わかったようでわからない。
本番が始まってからは紅テントでの舞台を楽しみながらも、
今日の自分は「その場に身を放り出していられたのか」を考える日々でした。

『ビンローの封印』冒頭のシーンでは
一緒に出演していた重村さんとの掛け合いが続きます。
唐組への出演で、唐ゼミ☆の二人だけのシーンですから、かなりの緊張感です。
本番前は、二人で入念に段取りを確認し万全の態勢で臨んでいたのですが
ある日、事件が起こりました。

重村さんが、段取りを、間違えた。
瞬間、僕は相当焦りました。
緊張と焦り。身体が強張り固まっていく...
なんとか段取りを追いかけなくては...

その時、先輩・重村さんの目を見ると
「熊ちゃん、ごめんネ!後は任せた!」
という目をしていたのです。
その場で起きたこと全てを受け入れ、
舞台上に残る僕に全てを託した男の目。
な、なんだそれ!?そんなことできるの!?
重村さんを見ても、段取りの行き違いがあったことなど、誰にも分からない。
この先輩に対して「この野郎っ!」とムカつきもしましたが、
何故だか緊張や焦りは何処へやら。
むしろ、目の前の重村さんとキチンと舞台上でやり取りが出来ていました。
逆を返せば、
今までは目の前の重村さんとやり取りせず、
段取りの中の重村さんと芝居をしていたのではないか。
その日の本番は、その後の全てのシーンが鮮明だったように感じました。
重村さんによって窮地に立たされ、重村さんによって助けられたのです。

終演後、ひやりとした一瞬について久保井さんに頭を下げながら、
「芝居をしない。その場に身を放り出す」ってこういうことなのか...?
と考えていました。
きっと「段取りは守れ」とお叱りを受けると思いますが。


これについて考えると、
あの時の重村さんの目が、いまだに思い出され
腹が立ち、笑ってしまいます。
なんなんだよ、あの目。
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