10/25(月)カーテンコール〜小川哲也・津内口淑香
2021年10月25日 Posted in 中野note
↑『少女仮面』を読み解く際に必要な第一級の資料がこれです。
『別冊新評 鈴木忠志の世界』。唐さんの寄稿に執筆にまつわる重要な記述あり。
昨晩は唐ゼミ☆ワークショップでした。
公演で一週お休みにしていましたが、再開して『少女仮面』に取り組んでいます。
初めて、自分がまだ実際の舞台をつくったことのない作品への挑戦です。
さて、今日のカーテンコールは、小川哲也くんと劇団員の津内口淑香。
舞台でカップルを演じた二人です。
小川くんとは神奈川芸術劇場で働き始めた2017年に知り合いました。
確か、松本一歩くんの紹介だったと思います。
もともとは文学座の研修所を卒業して、
その時の仲間たちとともに「平泳ぎ本店」という劇団を立ち上げました。
後に紹介する松本一歩くんがリーダーで、丸山雄也くんも劇団員。
その後、2018年3月に秦野市で行った野外劇『実朝出帆』に出演してくれました。
あらかたメインキャストが揃ったところで、後発で加わったのが小川くんでした。
少し軽めの役だったけれど、稽古の過程で小川くんの声と身ごなしに接して、
いつか、初めから念頭に入れてキャスティングしたいと思わされた。
今回はそれが叶っての出演、物語の引き金となる「高田三郎」を託しました。
宮沢賢治のオリジナル『風の又三郎』の主人公の名を、
唐さんは自衛隊機乗り逃げの青年に結びつけました。
幕が進むごとに、謎めいた存在のベールが解かれ、
尻上がりに出番とせりふの量を上げていくこの役を小川くんと造形しました。
小川くんとは稽古の途中で、
この高田がヒロイン・エリカに気持ちを寄せていたのか、いなかったのか、
折に触れて話し合いをしました。傍に死の少年(後に死の花嫁)を置く
高田の心中は謎めいている。けれども、高田は確かに、
エリカへの想いがあったのではないか。
生きているのか死んでいるのか分からず、
超然としているような高田は、実は今も自衛隊の先輩たちの圧力に囚われ、
同輩たちの視線を気にしてもいて、世間体に揉まれている。
登場人物が人間関係に揉まれるほど芝居は面白くなる。
この鉄則を小川くんに伝えました。
それに、序盤からの伏線ががあってこそ、
三幕でエリカと二人きりになった場面のクドキが生きる。
小川くんとは、こういう作戦でいこうと話し合いながら稽古しました。
本番が近くなると、一徹に見えた小川くんが、
意外にもはユーモラスな人だということがわかってきました。
高田三郎ならでは長広舌の中に、お婆さんの語りが紛れている。
それを彼は忠実に写実し始めた。お婆さんの入れ歯の外れたような喋り方。
真面目なのか、ふざけているのか、いまだに分かりません。
客席がウケてもウケなくても、彼は正確にこれを続けました。
あの光景を思い返すと、後から笑いが込み上げてくる。
爆笑ではなく、クスクスとした笑い。小川くんは謎めいている。
本番前の栄養補給をつぶさに観察していると、どうも餡子が好物のようでもある。
メンバーの中で、彼が浅草をもっとも満喫したのではないでしょうか。
☆津内口淑香(つないぐち よしか)
劇団員の津内口は、先の小川くん扮する高田三郎と常に一緒にいる
「死の少年(死の花嫁)」を演じました。
花やしき裏にいると、津内口が大学に入ったばかりの頃を思い出します。
2010年初夏、唐ゼミ☆は浅草第二弾『蛇姫様 わが心の奈蛇』全三幕を
出し物に、長さ暑さと闘っていた。劇団員はみな出ずっぱり
大学一年生になったばかりの彼女は、受付を手伝ってくれました。
それから、唐組の久保井研さんが指導にあたる横浜国大の講座で、
『赤い靴』という唐作品を稽古する津内口を見ました。
すぐさま、私たちは「天才・津内口」ともてはやすようになった。
役柄に対する彼女のデッサンは実に正確で、余計なことをしない。
二十歳にもならない俳優志望には稀有なこと。私たちは唸りました。
何度か同じ授業で活躍し、唐ゼミ☆に入って劇団を支えるようになった津内口。
デザインもでき、実務の才もある津内口の貢献は大きいけれど、
唐ゼミ☆には、椎野がいて、禿がいます。
彼女を役者として活かしきれていないという想いが私にはありました。
突破口となったのは『ジョン・シルバー三部作』。
『続ジョン・シルバー』の少女「田口みのみ」も良かったけれど、
あ、発見した!と思ったのは『あれからのジョン・シルバー』でした。
あの舞台、主人公の青年・花形の亡き姉「春子」を演じた津内口の
まがまがしさといったら無かった。色白で細面で、ふるえるような発声でも
正確にせりふを伝える津内口から、ゴシックロマンの感じがしました。
当然、『唐版 風の又三郎』では「死の花嫁」。
しかし、実は今回のキャスティングには初期段階で迷いがありました。
初演の唐さんすら女優を登用したこの役は、
ほんとうは少年のような男優が演じるべきではないのか。
その可能性がこびりついて離れません。
こういう時の判断は難しい。
考えを巡らせていると、ひたすら台本に向かい合っているつもりが、
これまでの上演にどこかで反骨している自分に気づきます。
考えに考えて、最終的に二幕のエリカのせりふ「女と女が向き合うと〜」
というフレーズを余さず成立させるのはやはり女優だと決断しました。
となれば、津内口の登用に迷いなし。
青テントがたち、音響スタッフの平井さんが
現場にやってくるようになると音の質が格段に高まります。
とりわけ効果音は彼の真骨頂で、プロの腕前を見せつけられる。
三幕の舞台稽古中、棺桶の中からウエディングドレス姿の津内口
が現れるシーン、あれはマジで怖かった。私はビビリなので、
花やしきのスリーラーカーには決して乗りません。
あの大きな目も、いつも困ったような眉毛も怖さの原因だと思います。
気苦労が多い津内口には、いつも朗らかでいて欲しい。
が、舞台の上ではあの独特の不吉さを全開にして、
さらに呪われし女を極めてもらいたいと思います
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