10/27(水)カーテンコール〜佐野眞一・松本一歩

2021年10月28日 Posted in 中野note
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今日は朝から都内に行き、昼過ぎからはKAATで働きました。
公演のためにうっちゃっておかざるを得なかった仕事を
急ピッチで片付けつつ、年明けに渡英するための準備もしています。
さらに、一年なんてあっという間ですから、その先のことも考えないと。

同時に、昨日、ワークショップのレポートをしましたが、
一日仕事をしながら『少女仮面』に重要人物「ボーイ主任」の
両方の人差し指にはなぜ包帯が巻かれているのか、考えています。

以前から閃くものがあり、仕事の合間に調べ物をして裏付けを得る。
あとは、もう一度台本に帰って整合性が取れれば、答えに辿り着く。
イギリスでこんな風に気になった時、周りに資料がありません。
ムズムズするだろうから、本棚を整理して周囲にフォローしてもらえる
体制をつくっていかないと。

さて、昨日は一旦お休みしましたが、カーテンコールの続き!

☆佐野眞一(さの しんいち)
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元航空自衛官で、今は帝國探偵社に勤める「珍腐(ちんぷ)」を
佐野さんに託しました。

佐野さんは、唐ゼミ☆の役者募集を見て駈けつけてくれました。
誰の知り合いでもなく、テント演劇を、唐さんの芝居をやってみたい。
その一心で参加してくれた。

初め、応募してきた佐野さんの年齢を聞いて、私は気後れしました。
しかし、よく考えてみると、『下谷万年町物語』の時には幅広い年齢の
メンバーがいて、中にはさいたまゴールドシアターのメンバーもいた。
劇団員にはケアしながら迎えようと言って、
佐野さんがハンディラボに来てくれるのを楽しみに待ちました。

実際に会ってみたご本人は予想を超えて軽快でした。
流山児祥さんが主催するシニア劇団「シアターRAKU」のメンバーである
佐野さんは、饒舌で、フランクで、興味を隠さない人でした。
桐朋学園で芝居を学んだあと役者をやり、一時仕事で中断していたものの、
ある時期に復活した。そんな話をしてくれました。

稽古が始まると、佐野さんには時代考証的な質問をよくしました。
例えば、「フェザーシングルのCMはどれくらいメジャーだったのか」とか。
知識でなくて、当時の体感、実感。
佐野さんに聞くのが一番で、全体の知恵袋という感じでした。

稽古の合い間には、千田是也さんに直に接した話なんかしてくれる。
こちらは変わりに、唐さんの台本の読み方を伝える。
そんなやりとりをしました。

人柄も、役者体も、座組みの一員としても、
徹底して佐野さんは軽快でした。

特に川崎で行った集中稽古の頃から、
全体で稽古する中で物語やせりふを自分のものにした感があり、
どんどん面白くなっていった。

どこか、イタリア軽演劇の役者風に、
せりふを言いこなしながら飛んだり跳ねたりする。
休憩時間に腰が痛いと言いながら、動きまくり、声も出る。

お客さんに伝わりやすくするためにもうちょっと抑えましょう、
自分からはそんなことをアドバイスしていましたが、
後から考えてみれば、これは恐るべきこと。
もっと声出しましょう、でなく、
小さくしましょう、大人しくしましょう、と言っていましたから。

テントを立て始めてからは、いつも早めに現場にやってきて大活躍。
その気働きは一流で、「誰かその道具を取ってくれ」と言われた時の
一歩目が異様に速い。

マスクを外せば二枚目で、散乱しがちな男子楽屋の中で、
佐野さんの化粧前だけはいつも整然として、
メイク道具にオシャレな布がかけてある。

何人かのお客さんから「珍腐おもしろい」と言われましたが、
そりゃそうだ。だって、佐野さんなんだから。

☆松本一歩(まつもと かずほ)
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「乱腐(らんぷ)」を演じた松本くんとは、2017年春に知り合いました。

その頃、私はKAATでの仕事を始めたばかり、
有能なアシスタントを探していました。
すでに知り合いだった劇団員の津内口から紹介されて、
あの頃はまだ細かった松本くんに出会いました。

確か、二人で藤沢まで行き、白旗神社で買いたてのラフェスタの
安全祈願をしながら話をしました。結果的に松本くんと一緒に
働くことにはなかったけれど、「平泳ぎ本店」という風変わりな劇団名、
松本一歩という実直な役者が、自分にインプットされました。

以来、徐々に「平泳ぎ本店」メンバーとも知り合いました。
身体能力に優れ、発声も鍛えられている。明らかに頭も良い。
そんな劇団員の中に小川哲也くんや丸山雄也くんもいました。

神奈川県が主催する演劇コンクールを紹介したところ、
彼らは優勝する。圧倒的な得票数でした。

実は、特に松本一歩くんには、去年から出演してもらいたかったのです。
初めて取り組んだ『唐版 風の又三郎』に誘ったところ、
スケジュールの都合で無理だった。
すると、彼は気にして、テントたてを手伝いに来てくれた。
松本くんには、そういう義理堅いところのあります。

一方で、この頃から彼の体格は激変していました。
明らかに巨大になっている。際限なくマッチョになっている。
松本くんに?マークが点き、謎めいた人だと思うようになったのは、
この頃からでした。

今回、初めて役者と演出として付き合いましたが、
彼には、ある種の狂気が宿っていると確信しています。

松本くんは過剰な男で、持ち前の正義感も、身体の鍛え方も、
稽古への取り組みも、どこか行き過ぎていて、
まるで唐十郎作品の登場人物のようでした。
それに、独特のリズムを持っている。
これはありがたい。すぐにそう思いました。

端的に言って、私は自分が稽古で敷くレールを乗りながら、
そのレールをはみ出してしまう役者を常に求めています。

私は演出家として役者に、
唐作品のせりふ・ト書きの細部に宿る意味を徹底して伝える。
物語の構造を伝え、全体から見た役柄やせりふの役割を伝える。
それら全てを理解し、乗りこなし、なお、役者には自由であって欲しい。

松本くんは実にそういう人で、
伝えるべきことをしっかり観客に伝えられる冷静さを持ちながら、
自分の生理や感覚を見事に貫く。

従来、松本くんの演じた「乱腐」を含む「三腐人」は、
月並みな変態キャラクターとして処理されがちです。
そこで、自分は何としても、彼らが誇り高い元自衛官であり、
強すぎる愛国心と職業意識のための男色であるという基本設定を伝えたかった。

松本くんは、私の願いを充分に叶えてくれました。
しかも、彼にしかできない、彼独特のやり方で。
まるで、個と組織、自分と全体を矛盾なく両立させる、
ヨーロッパの一流フットボール選手のようでした。

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