10/29(金)カーテンコール〜丸山雄也・米澤剛志
2021年10月29日 Posted in 中野note
ここは幼少期の美空ひばりさんがステージに立った劇場として有名です。
美空ひばりさんといえば、
今回、私たちの劇を久々に三枝健起監督が観にきて下さいました。
三枝さんは唐さんの盟友の一人で、お二人は1984年の『安寿子の靴』を
皮切りに5本のドラマを創られた。唐さんが作詞し、中島みゆきさんが
作曲して歌った主題歌を、CDでも聴くことができます。
ある時、健起さんが教えてくれました。
幼少期のひばりさんが「のど自慢」に出たとき、
あまりの歌の上手さに「子どもらしくない」と言って辛い点を付けたのは、
あれはウチの親父なんだ、と。杉田劇場でそんなことを思い出しました。
『唐版 風の又三郎』を観てくださった健起さんは、時世柄スッと帰られた。
他のお客さんを送り出しながら健起さんの背中越しに御礼をお伝えすると、
「良かったよ」と言うように、親指を一本たてて去っていかれた。
健起さんはそういう仕草がサマになる。嬉しかったなあ。
今日のカーテンコールは、丸山雄也くんと劇団員の米澤剛志です。
☆丸山雄也(まるやま ゆうや)
今回の座組には丸山姓が二人いて(もう一人は丸山正吾くん)、
だから、主人公「織部(おりべ)」を演じた彼のことを、
私は雄也くんと呼んできました。
雄也くんはすでに紹介した小川哲也くん、松本一歩くんと同じ劇団
「平泳ぎ本店」に所属しており、私はこの劇団の公演を観に行くことで、
彼のことを知りました。その時、確かなせりふも印象に残りましたが、
何より素晴らしかったのは、その動きのキレ。
扉を閉めて部屋に入ってくる、それだけの動きが、
実に見事な見せ物になっている。面白い俳優だと思いました。
以来、劇団員の林麻子が「平泳ぎ本店」の公演に参加したり、
雄也くんが若葉町ウォーフで行われる公演に関わっていたりしていて、
交流を重ねてきました。いつでも礼儀正しく、丁寧で、
現代にこんな好青年がいるのかと思った。
そして今回、ずっと出演してもらいたかった彼を、
物語の真ん中にいる「織部」に据えると決めました。
織部は『唐版 風の又三郎』の主人公、つまりお客さんの窓口です。
観客は、織部の視線を通して他の登場人物や物語を体験します。
だから必要なのは、観る人たちが自分を託せる容姿とリードの確かさです。
あまりに個性的な体格だったり、エキセントリックな感情表現をすると
窓口にはなりにくい。役割としては、歌謡ショーの司会者の感じ。
その点、彼は冷静で、実に正確に自分が置かれている状況を伝え、
次々に現れる過剰な登場人物たちを受けていく。
一方で、織部には自身の感情を露わにするべき時もあり、
例えば、精神病院から抜け出してきたことが知れるシーン、
エリカが死んだと思って悶々とする場面では、
大いにエモーショナルになって攻め抜こうと、私は背中を押す。
雄也くんは、大半を受けつつ、少ない攻めどころでは一気に
タガを外して、期待に応えてくれました。
普段も節度を心得た男で、こちらが他件に忙殺されている時には
堪えて質問したりして来ないような気遣いもありつつ、実は粘り腰。
千秋楽に至るまで私の隙を伺っては、前夜に自分で考えたこと、
工夫のしどころについて相談し続けました。
ああ、役者だなあと思います。
終幕、すっかり仲良くなったはずの織部とエリカが、
突如として反目する場面があります。
そこから、夜の男との決闘になだれ込む。
この少し強引な流れに対し、雄也くんと私はどうにか自然に
見えるよう調整を続けました。
そして、一応の解決を見たものの、正直を言えば、
もっと優れたアイディアや解決方法があるのではないかと
いまだに気になっていますし、きっと、彼も同じだと思う。
雄也くん、これは次回以降の宿題で!
ご存知、劇団員の米澤です。大役「教授」を演じました。
去年・今年と、『唐版 風の又三郎』は米澤にとって挑戦と飛躍の演目でした。
何しろ、長い長い芝居の中で、長い長い圧倒的な饒舌が課せられている。
普段の米澤は寡黙です。自己を主張することが全くない。
その変わり、何をし、何を考えているかもわからない。
彼が劇団に関わり始めた2015年からそうでした。
唐ゼミ☆が『青頭巾』の東北ツアーに挑んでいたころ、
米澤はまだ大学2年で、学生らによる前座パフォーマンスの一員として
参加していました。即席でつけた芸名は「コメ兄弟」。
「一人でも"兄弟"。"劇団ひとり"みたいなもんだ」と付けたこちらのノリが
気に入ったのか、いなかったのかの意思表示はまったくなく、
ただ、淡々とオリジナルの芸を披露していました。
米澤が台頭したのは唐ゼミ☆が新宿中央公園にデビューした『君の罠』公演。
望月六郎さんが書き下ろしてくださった台本に登場する、
自転車にまたがって登場する主人公のおじいさん役。
せりふにも身体の裁きにも、強い土台を感じさせました。
以来、悪役の手下ポジションを数多く演じて、今回は親玉になった。
面白いのは、手下たちを従えながら、日常では米澤が年少であることです。
加えて、生来の気質から、皆をリードするという風ではまったくない。
ただ、他の仕事に追われて私が稽古に遅れる時には、
シーンに応じて、禿か米澤が仕切ってくれていた。
"米澤の仕切り"というのが気になりますが、
当然、私にはそれを見ることができません。
米澤は自分のもとで唐作品に取り組みつつ、別の世界を持っています。
佐藤信さん演出の芝居に参加し、清水宏さんのもとでスタンダップコメディ
にも挑戦、竹屋啓子さんのスタジオでダンスに挑んでいたりもする。
誰にも知らせない日常で、様々な芸能を見聞きしながら芸について
研究を重ねている様子。
細身ながら恐るべき体力の持ち主で、現場入りの前夜でさえ、
過酷な全体作業の後に自分の衣裳や小道具に改良を加え続ける米澤。
今、彼に望むことは一つで、お腹が空いてカネがない時には連絡して欲しい。
これくらいです。
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