11/12(火)もしも唐ゼミ☆が上演したら

2019年11月13日 Posted in 中野note
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↑今日の景色。こういうのを「夕まづめ」と言うのだと、むかし唐さんに教わりました。


さて、時には飛び飛びでしたけれども、
『少女仮面』のことから話してきました。

また年明けから、上演がいくつもあります。
唐さんの代表作ですし、
3場の1幕もので、やり方にもよりますが上演時間は1時間半ちょっと、
現場にとってもやりやすい演し物です。

思い返せば、これまでに沢山のバージョンを観てきました。

唐組の久保井さんが演出された伊東由美子さん主演のもの、
小林勝也さんが折に触れて演出される文学座研究所のもの、
同じく小林さんが別の若い劇団を演出された北池袋の小さな劇場で上演されたもの、
そうそう。劇団俳小による上演は春日野が女型で、
お風呂に片足を入れるシーンはこれまで観た中で最もインパクトがありました。
宇野亜喜良さんの美術が印象的だった新宿梁山泊による上演は、
唐さんの娘である美仁音さん扮する「貝」が喫茶店を舞台に、
妙に横柄に振舞っていたのがコミカルで印象に残っています。

また、同じ梁山泊の金守珍さん演出で、
李麗仙さんが主演されたものもスズナリで観ました。
これはやはり、登場から圧倒的に李さんの世界だったのですが、
同時に、登場から「吐気を催す程ゆっくり歩いてくる」と記されているト書きを、
完璧に遵守した上演でもありました。
台本の隅々に至るまで、一徹な演技・上演でした。

唐さんが演出して近畿大学の学生たちが出演したバージョンもよく覚えています。
あれは、満州平原より現れる甘粕大尉の一行が客席花道よりやってくる点で、
他の上演とは一線を画していました。
普通は奥からやってくるんですが、こっち側が満州というユニークな世界でした。

当の唐さんご本人の口からは、
早稲田小劇場による鈴木忠志さん演出の初演と、結城座を佐藤信さんが演出した人形芝居版が、
とりわけ優れた、これまで観てきた中で双璧の上演であると伺ったことがあります。

ちなみに、もしも自分が上演するのであれば、いつも通り、肩の力を抜いて普通にやりたい。
心の中は乙女として現役、孫に夢を託す若づくりのお婆ちゃんですとか、
夢に胸を膨らませてやってきた世界を、かえってその曇りのない眼が崩壊させてしまう貝ですとか、
老婆と貝の間にいるはずの、貝の両親の存在感がかくも抜け落ちていることの意味とか、
考えながら作ります。

そしてやっぱり、喫茶店の舞台に必死に演劇と夢にしがみついている、
春日野とボーイ主任の夫婦は全力で造形しないといけない、などと考えます。
まず、登場人物のことが一番気になる。
それからセットや照明や音楽や、イスやテーブルや人形や仮面の造形を考え、
テンポや強弱の配分を思案する。そんな感じです。


やっぱり唐さんは、宝塚歌劇を観ずに書いたのではないかな、と自分は直感しています。

初演当時。岸田賞で耳目を集めたこともあって、
その頃は東宝にお勤めであり、後に高名な演劇評論家となる渡辺保さんは、
宝塚から問い合わせを受けたそうです。
その際、渡辺さんは、実際の宝塚や春日野八千代とは関係のないものだと説明した、
そう何かに書いていらっしゃいました。

私が『少女仮面』について受け取っているところでは、
「宝塚」や「春日野〜」はやはり唐さんの中の観念的なイメージであって、
渡辺さんがおっしゃるように実際的ではないように思います。

同じ、「男装の麗人」の描写では、81年初演の『下谷万年町物語』に出てくる、
ヒロイン「キティ瓢田」の方がよほど肉感的で、書き手の実感が伝わる存在だと感じます。
上野・浅草が小さい頃の遊び場だった唐さんですから、
やっぱり関西の宝塚より、国際劇場で観た松竹歌劇団だったのではないでしょうか。


というわけで、『少女仮面』の話題はこれで一区切り。
明日以降は私たちもお世話になった「浅草」をキーワードにしてみたいと思います。
私たちもお世話になった「浅草」をキーワードにしてみたいと思います。

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