11/12(火)『少女都市からの呼び声』本読みWS 第4回 その②
2024年11月12日 Posted in 中野note
↑兄の中指・薬指・小指を切って自分に移植するシーンです
今日ご説明する「指切りの場面」こそは、この演目最大の見せ場です。
これまでにさまざまな上演に接してきましたが、このシーンになると
決まってお客さんが集中して舞台を観ます。
突出して吸引力の高いシーンですが、それでいて難しい場面でも
あります。
要点はこうです。
雪子は、フランケと兄・田口の間で逡巡します。
自らをガラス化してフランケとともに永遠の世界に生きようとするのか、
田口と現実世界に帰ってもう一度、世間に揉まれて生きる道を選ぶのか、
悩んだ末に、雪子は後者を選択します。
今度は、「肉」が必要になる。
硬質な「ガラス」でなく、常に呼吸し、老廃物を生み出しながら
自らを更新していく「肉」を得て、現実と渡り合う。
そのために、雪子は3本指を必要とします。
かつて工場で吹き飛ばした3本指が消滅してしまっているとしたら
今度は肉親である田口の指をもらい受けようと決意します。
ここから、メスを取り出して、任侠映画さながらに指切りの場面が
始まります。「指切りげんまん」をリアルにしたかの如く、実際に
指を斬り始めるわけです。
上演によってはかなり血糊も使い、ともすれば陰惨になります。
勇気・情熱・約束と、3本の指を徐々に切り落としてゆく。
この場面を成立させるにはコツが2つあって、
ひとつには雪子の現実世界に対する不安をしっかり描くこと、
だから指が必要なんだ、とお客さんに共感を呼ぶだけの
心理の流れを押さえることです。
不安に慄くからこそ、仕方なく指を切る。
もう一つは、コミカルな場面を活かすことです。
指を切断する緊張感マックスの瞬間ど真ん中に、
雪子は視界に入った虫が気になって右往左往します。
この場面は、張り詰めた兄妹が一気に緩む効能があります。
なにしろ、指づめ途中の相手をほったらかす、早くやってくれと
催促する、という流れがコミカルです。
そして、コミカルに一度振るから、また指切りに戻った時の
二人の真剣さが生きるわけです。そうするなかで、妹・雪子は
もういちど現実と渡り合う決意をし、兄・田口もまた、劇冒頭の
ダメ人間ぶりを克服していきます。この場面は、田口の成長譚
でもあるのです。
私たちの本読みでは、これらのコツをよく押さえて
この名シーンを終えました。次回、11/17(日)はここに
フランケが乗り込んできます。
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