1/12(木)結局どんな職業なのか?
2023年1月12日 Posted in 中野note
↑忘れてはならない『夢十夜』
ここ数日、『秘密の花園』冒頭について語りながら、
触れそびれてきたシーン、人物がいます。
それは「中年男」とされる登場人物。
劇の冒頭中の冒頭、プロローグと言ってよい始まりの部分に登場して、
主人公のアキヨシを妖しい世界に導きます。彼とアキヨシの現実感の無い
会話によって、この劇は一気に幻想譚の雰囲気を帯びます。
中年男は赤ん坊を背負いながらアキヨシに声をかけ、
まずはアキヨシが押さえた額の心配をします。
という心配りや優しさからアキヨシに言葉巧みに接近し、
どこか胡散臭がられながらも、気の弱いアキヨシと会話を続ける。
アキヨシはお姉さんのことが特別に好きらしい、
そういう様子に敏感に気づくのも、この中年男の年の甲という感じや
会った瞬間に相手の素性や無意識を見抜いてしまう、占い師めいた雰囲気に
繋がってきます。
そして二人の会話が極まると、
中年男はズリズリとおぶった赤ん坊を背中から引きずり出し、
陸橋から落とそうとする。アキヨシが止めにかかると、
「おまえをおぶうように、坂の上の姉さんから」頼まれたと
アキヨシを翻弄します。
この中年男は、夏目漱石の『夢十夜』の第三夜にインスパイアされています。
もともとは、我が子を背負った男が突如として背中に重さを感じ、
耐えかねていると、いつの間にか赤ん坊に自分の殺した敵が乗り移っていた
という怖いお話です。
それが唐さんの手にかかると、
お前も背負って赤ん坊にしてしまうぞ、というユニークな迫り方に転化する。
次なるシーンは、いちよがアキヨシに語る『青い鳥』、
「未来の王国」に影響された生まれる前の子どもたちの場面ですから、
生まれる前の世界、赤ん坊の世界、彼らがみている夢や無意識、
という具合に繋がってきます。
このようにして中年男はなかなか不思議な存在なのですが、
自分の職業を「ベビー預かりの大番頭よ」と宣言します。
なかなかハッタリの効いた唐さんにしか生み出せない言葉だと思いますが、
よくよく考えてみると、これは0歳児保育で働くおじさん、保父さん、
のことだと考えられます。
自分もまた年の甲で、学生時代に始めてこの台本に触れた時とは
違って人の親になりましたので、こういう風にも考えられるようになった。
唐さんは子育て熱心な人ですから、ちゃんと社会に生きる一人として
「中年男」を思い描きながら、彼が「赤ん坊を背負う」のに過剰な情熱を
持っていたとしたら、と発想したに違いありません。
保父さん、保育園の先生、という風にも地に足をつけて考えながら
ベビー預かりの大番頭、という押し出しを楽しんで幻想性を持たせる
唐さんを読み解く時のコツが、この役柄の捉え方ひとつにも込められて
いると考えます。
トラックバック (0)
- トラックバックURL:
コメントする
(コメントを表示する際、コメントの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。その時はしばらくお待ちください。)