11/29(金)勝負は「池の蓋(ふた)」②

2019年11月29日 Posted in 中野note
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ちょっと分かりにくいんですが、池の蓋がスライドして徐々に開く場面


『下谷万年町物語』の舞台美術はややこしい。
スタンダードに上演する限り、まずは、もちろん長屋が必要です。
オカマ100人が住むのですから、その規模は言わずもがな。

もうひとつ、大変なのは瓢箪池。
ヒロイン・キティ瓢田は、1幕の終わり、
この池の底から浮上して登場します。
つまり、この池は舞台袖につながっている必要がある。
ヒロイン役の女優は、
袖から池に入って、潜水して進み舞台中央に進み、
タイミングを見計って、ガバッといくわけです。

もちろん、水底で控えている間に呼吸をするために、
何らかの仕掛けも必要です。

と、ここからが今日の本題。
経験者たる濃野さん曰く、本当の敵はその後に現れる。
すなわち「池の蓋」。

私たちは、初めにこれを伺った時、
正直、よくわかりませんでした。
何故って、世の中に数多ある池に蓋はありませんから。
「池の蓋」そのものが、
この世の中に無い物と言って過言でない。
池の蓋?

でも、お話を聴いて、よくよく考えたら判ってきました。
『下谷〜』のセットの真の難しさは、劇中劇の仕掛けと関係がある。

つまり、同じ長屋でも、『下谷〜』という劇の中での本物の長屋と、
軽喜座とサフラン座による合同公演『娼婦の森』の劇中劇に出てくる、
偽物の長屋があるんですね。

で、本物と偽物の長屋と言っても、
土台、全体が作り物の演劇ですから、
そもそも本物の長屋だって、唐ゼミ☆が造った偽物の長屋に過ぎない。
ですから、持てる技術の全てを尽くしてベースとなる長屋を造ったら、
それより偽物っぽい劇中劇用の長屋も造る必要があるわけです。

さらに、最終幕の終盤、クライマックスにおいて、
偽物の長屋が並ぶ劇中劇『娼婦の森』の稽古場から、
いきなり1幕で出ていた瓢箪池に、舞台が飛ぶ。

だから、「池の蓋」がとにかく重要。
暗転すれば絶対に間が抜けるこのシーンにおいて、
できるだけ速やかに、できるだけ音も無く、
舞台前面の過半を占める面積の池を覆う「蓋」を払い除け、
さらにその「蓋」を舞台上から消す必要があるわけです。

後ろの方のシーンだからといって、
手前に出てくる長屋や池ばかりに気を取られていると痛い目を見るよ、
ということを、濃野さんは先輩として教えてくれたのでした。

さらに、私たちは初のテント上演への挑戦でしたから、
ラストに名物、屋台崩しがあり、
この、濃野大先輩も未踏の領域を達成するために、
劇団員は難儀してくれました。

『下谷万年町物語』のセットについては、
劇のテーマを伝えるために、さらに望まれることが多数あり、
まだ達成できていないところが随所にあります。

いつか、完璧にこの劇が求めるものを達成したいという衝動が、
今も自分の中にあります。

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