11/3(祝金)唐さんの好きな短編
2023年11月 3日 Posted in 中野note
↑面白かったので、2冊並べて読みました
長男が生まれてから、自分たちが揃って芝居を観にいくことは
無くなりました。どちらかが家にいて、子どもの面倒をみます。
大概出かけるのは自分ですが、唐組はやはり特別です。
娘がある大きさになった時から、椎野もひとつの公演につき
1回は立ち会う習慣を復活させました。
で、留守番の間、子どもが自分で遊んだり、
昼寝をしたり、夜になって就寝してしまうと、本を読みます。
今日読んだのはW.フォークナーの『エミリーに薔薇を』。
ここしばらくずっと新潮文庫でしか読めませんでしたが、
昔に福武文庫で出ていた翻訳が中公文庫で復刊されたので、
それも手伝って読みたくなりました。
次に上演する『鐵假面』には、この短編に触れるくだりがある。
『エミリーに薔薇を』、それからゾシマ長老に触れるシーン。
要するに『鐵假面』は、ホステス二人が殺してしまった男の首を
ボストンバッグに詰めて各地を逃げまわる話です。
ですから、彼女たちの荷物から溢れる死臭に引っ掛けて、
エミリーが殺した恋人とゾシマ長老という、死体の匂いが小説世界の
衆目を集める存在をこの芝居で唐さんは引っ張り出しました。
ほんのひと言だけのせりふですが、やっぱり発するからには
読んでおきたいと思って、これまで随分と豊かな世界に出会ってきました。
これも唐さんとずっと付き合ってきたことの効能のひとつです。
試しに唐さんのガイドによって読んだ短・中編をいくつか挙げると、
・モーパッサン『脂肪の塊』
・ホフマン『砂男』
・ゴーゴリ『外套』
・ドストエフスキー『地下生活者の手記』『白夜』
・アンドレ・ブルトン『ナジャ』
・泉鏡花『夜行巡査』
・夏目漱石『夢十夜』
・上田秋成『雨月物語』
なんかがパッと思い浮かびます。
ことに翻訳ものとなると唐さんは、登場人物の自意識が暴走するもの、
事件としては小規模でも個人の内面がひどく痛ましいものが好みです。
そしてそれは、唐さん自身の繊細さの証左でもあります。
『エミリーに薔薇を』、
初めて読んだ2007年より格段に面白く感じました。
自分を捨てた男を殺して、朽ちていく遺体と寝続けた女の話です。
たった20頁に、死んで肖像画になっても威圧的であり続けるエミリーの父、
自分より遥かに身分の低い男に捨てられ、誇りを踏みにじられつつも
同衾をやめられないエミリーの愛、物言わぬ黒人の召使の非人間性などが
いっぱいに詰め込まれています。
この短さ、凝縮度をして、唐さんはよく"珠玉"と言い表します。
自分もそれに倣って、これぞ珠玉と思います。
トラックバック (0)
- トラックバックURL:
コメントする
(コメントを表示する際、コメントの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。その時はしばらくお待ちください。)