1/15(金)ワークショップレポート(中野)

2021年1月16日 Posted in 中野WS『唐版 滝の白糸』 Posted in 中野note
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↑佐々木あかりの劇団員デビュー。『唐版 風の又三郎』三幕冒頭の看護婦

いやあ、参りました。
一昨日のワークショップでのことです。

昨日、このゼミログで劇団員の佐々木あかりが書いた通り、
私は彼女をワークショップに参加させました。

一昨日はたまたま男性ばかりの参加。
女性参加者も一人はいらっしゃったんですが、
その方は少し遅刻して入られた。
そこで、佐々木に入るように言いました。

目下取り組んでいる『唐版 滝の白糸』という演目の中で
紅一点のヒロイン・お甲(こう)が登場して2度目に当たる回でしたが、
このお甲を男性がやったのでは感じが出ない。
そこで、佐々木に振ったわけです。

佐々木は、21歳の若者です。
劇団に入ってちょうど一年が経ったところ。
2019年、彼女がまだ桐朋学園の演劇科に在籍していた頃、
唐ゼミ☆の募集に応じて『ジョン・シルバー三部作一挙上演』に
出てくれた。それが面白かったらしく、学校を卒業して
劇団員になりました。
ですから、前回の『唐版 風の又三郎』が団員として過ごした
初めての公演だったわけです。

で、彼女がせりふを読み始めると、内心、私は焦りました。
何箇所か、漢字の読み方におぼつかないところがある。
あと、現代っ子の故からか、それともいきなり振られて緊張しているからか、
イントネーションがちょっと変だ。

(ところで、今の20代は「えもん掛け」「物干し台」と言っても通じません。
「『ハンガー』のことだよ」「『ベランダ』や『バルコニー』のことだよ」と、
写真を見せながら説明する必要がある。
人間って、不思議と実感していないことばを発語すると、実感している人に
とっては変な響きを帯びる。古いことば、硬い物言いもそうですが、
こういった言い慣れなさや実感の無さを克服するのも、俳優の仕事です)

そういうわけで、
台本を読み込むという以前に、漢字の読みなどですから、
これは地道な予習が足りないなと思い、急に振った自分を恨みました。

白状すれば、そこにはつまらない自意識もあり、
そういう佐々木を看過すれば、WSに参加されている皆さんに
「ははん。劇団員なのに唐ゼミ☆はこの程度か!」
と思われるのではないかとも思いました。だから、正さないわけにいかない。

ところが、佐々木も緊張しているから、平常時よりさらに修正が効かない。
すると、こっちも時間を割かざるを得なくなり、
せっかく1,000円を払って参加してくださっている参加者の皆さんを前に
劇団員ばかりがせりふを言って、それを修正している事態になってしまった。
さらに慌てました。

焦っているのがバレてはいけないし、お客さんの前だから、
劇団の稽古みたいに「おい、お前なあ」と口汚くなってもいけない。
「あかりちゃんねえ・・」とかえってソフトに言いたくもありますが、
客人の前でだらしないから、「佐々木さんねえ・・」と私も堅くなる。
私たちは、不自然の渦に飲み込まれて必死になりました。

・・・ところが、終わってみたら、
皆さんにはどうもこれが面白かったらしい。
お客さん相手のワークショップとしては失敗だったはずなのに、
そのあたりも含めて面白かったらしいのです。

ことに、たまりかねた私が、ちょっとキツい口調になりながらも、
お客さんの前なので、無理にオブラートに包もうとしているところまでを
含めて、皆さんは楽しかったようでした。

よく考えてみると、ワークショップで伝えたかったことって、
まさにこういうことなんですね。

私と佐々木あかりの会話は、立ち会っているお客さんに影響されます。
「銀メガネ」による「お甲さん」への対し方は、
「アリダくん」に影響されるし、「アリダくん」への意識なしに成り立たない。
と、こういうところを捉えながら会話のアヤをつくりたかった。
その上で、そういう心の揺らぎが観客に見て取れるように演じると、
単なる会話がとっても面白くなる。

図らずも、私は課題を体現してしまいました。
バレないようにしたつもりが、完全に、すべてバレていた。

「泰然自若」からは程遠い自分の感じ、
度胸の無さや、目下の者に対する日頃のぞんざいさ、
世間体を気にして右往左往する感じまでもが露見してしまったわけですが、
皆さんの優しさに救われました。

申し訳なく、情けなくもありますが、
何だか評判が良いし、佐々木を育てたいので、来週以降も参加させようと思います。
(漢字の読みだけは、予習して来いよ!)

それにしても、例え大勢の人の前でも焦らず、
さりげなく人をフォローできるようになりたいと改めて思いました。
「教えることは学ぶこと」
ここ数日、たまたま読んでいた二代目神田山陽の伝記の一節が痛感せられます。
参加の皆様と、佐々木あかりにも、ただただ感謝です。

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