12/10(火)北千住の教え

2019年12月11日 Posted in 中野note
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◯1◯1ビルの一角に輝く「THEATRE1010」のロゴで、思い出しました。


ちょっと時間が経ってしましましたが、
12月の頭、久しぶりの北千住に行ってきました。
そこで思い出したことを。

確か、2006年の春でしたが、
この劇場で唐さんの演目がかかったことがあります。
三田佳子さん主演、三枝建起さん演出による『秘密の花園』でした。
舞台美術は、当時この劇場の芸術監督だった朝倉摂さんでした。

朝倉先生とは、あれが初対面でずいぶん緊張しましたが、
後に唐ゼミ☆の公演を観にきて下さったり、
電話や葉書のやり取りもするようになりました。

自分は高校生の時、
『朝倉摂のステージワーク』に載る『下谷万年町物語』初演の写真を観て、
大学で唐さんに学ぼうと直感しました。
ですから、朝倉先生に対しては一層の緊張を感じたのです。
一方的な恩人、という感じでした。

で、肝心の芝居なのですが、
あの時は、ゲネプロと初日に立ち会うという珍しい体験をして、
これがなかなか面白い体験だったのです。

ゲネプロを観て、私はその上演時間に驚きました。
休憩時間をしっかり取るとはいえ、3時間もかかるのです。

それまで『秘密の花園』といえば、
私は大学一年生の時分に唐組が紅テントで公演したのを観ていました。
99年秋のことです。
あの時は、10分間の休憩をはさんで、2時間強という感じでした。
それが、同じ芝居で1.5倍の時間がかかったのです。
驚きでした。

劇でも音楽でも、内在する律動があるという考え方があります。

簡単に言って、台本や楽譜には、
それにふさわしいスピード感があらかじめ書き込まれているはずだ、
という考え方です。

唐組の場合は、作者である唐さんが演出されるのですから、
そこには当然ながら、ある種の「正解」めいたものが漂います。
そこへ行くと、3時間の上演はいかにも間延びして感じられたというのが、
正直なところでした。

ところが初日を迎えると、これが実にフィットしている。
面白い体験でした。

理由の一つには、
座組みが三田佳子さんを始めとする豪華キャストでしたから、
やっぱり初日に照準を当てて温存をした、
ということはあったように思います。
同じ「ゆっくりさ」に込める、充実度が違う。

当時の自分たちなど、稽古から盲滅法にやっていましたから、
そういうことが、ゲネプロの段階ではわからなかった。

しかし、それにも増して違ったのは、お客さんの有無でした。
演出の三枝さんは、メインの観客である三田さんのファンに合わせて、
劇の進行スピードを決めていたのです。

『秘密の花園』1幕終盤には、
プラトニックラブの権化である主人公、いちよとアキヨシが、
アキヨシの別の相手との縁談をきっかけに、別れ話をする場面があります。
その際、それまで仲睦まじかった二人は激しく諍うのですが、
いちよがトイレに立つことによって、このケンカは終わります。

そこのところなど実に客席は笑って、湧いていました。
ケンカの緊張のあと、三田さんが「ご不浄」と言うところで、
空気が一気に緩むのです。
ああ、観客が話に付いていっているな、と実感しました。
唐さんを難解と感じるお客さんは多いですから、この実感は大切です。

やっぱり、作品自体が求めるテンポがある一方で
観ている人に伝わらなければ意味がない、というのも一つの真実です。

終演後、三枝さんに、
「建起さんには、お客さんが見えていたんですね」
とお伝えした記憶があります。


自分はやはり、今でも俳優に対してある種のスピード感を要求しますが、
一方で、自分の言っていることが伝わっているかどうかには、
特に敏感であって欲しいと常に思っています。

本番でいきなりテンポを落として内容を伝えきることも、
時と相手によって、必要だと思うのです。


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