12/15(火)祠(ほこら)の時間⑦

2020年12月15日 Posted in 中野note
IMG_9972.jpg
↑使い捨てコンタクトレンズ
唐さんにかかると、ありふれたものが劇の題材に。

常に張り詰めた空気を漂わせていた執筆中の唐さんですが、
着想〜取材〜執筆〜脱稿までのスピード感には怖るべきものが
ありました。とにかく速い。

前にも書いたことがありますが、
『少女仮面』に要した時間は2日間、
『唐版 風の又三郎』のような長編を書き上げるのに3週間、
いずれも驚異の速技という他はありません。

現在『ベンガルの虎』をせっせと書き写している私ですが、
2幕までを書き写すのみで3週間弱かかっています。

人が喋る時に自らの思考を意識しないように、
唐さんの腕がほとんど自動筆記で動いていかなければ無理な
スピードと想像します。その走りっぷりは、
上演する側に立ってみた人なら誰しも、体感したことがあるはずです。

そんな具合に、とにかく尋常ではない速さをたたえた唐さんの執筆ですが、
その取材もまた、異様な打率を誇っていました。
もちろん、ご本人にはご本人の産みの苦しみがあったと想像する一方で、
唐さんが取材に動けば、必ず何かを掴んでくるという印象が拭えません。

特に印象深いのは、  
2006年春に唐組が上演した『紙芝居の絵の町で』のケースで
2005年暮れの一日、都内(近場!)に取材に出掛けた唐さんは、
「使い捨てコンタクトレンズ」という格好の素材を発見しました。

私たちの身の回りに溢れたあの使い捨ての一枚にも、
その日、一日のかけがえのない記憶が宿っている。
そういう着想を唐さんから伺った時、それが日常的であるが故に
かえって天才を痛感させられました。

実現した舞台では、巨大なビンに満々と水をはり、
過去のレンズを延々と保存した男が登場します。
このビンのビジュアルがすごい。

舞台上の久保井さんの口から「Johnson & Johnson」
というメーカー名が発語されると、紅テントの雰囲気との違和感から
盛大に笑いが起こりました。そのあたりのセンスも凄かった。

私はその時、これはきっと、
80年代の傑作『ジャガーの眼』の現代版なのだと感じました。
あれは、恋人を失った女が、「ジャガーの眼」と呼ばれる恋人の角膜を
移植された別の男を追う物語です。

人の身体の一部に、
それを生きた人の記憶が宿っているという卓抜なアイディア。
寺山修司さんの『臓器交換序説』を自分なりにアレンジしてしまう手腕。

使い捨てコンタクトレンズという、より現代的で
さらに刹那的な物の中に同じ思いを抱く唐さんは、
やっぱり掛け値なしに素敵な作家だと、
そう思わずにいられませんでした。

取材にかかった、都内で一日という剛腕とともに、
『紙芝居の絵の町で』は私のなかに記憶されています。

トラックバックURL:

コメントする

(コメントを表示する際、コメントの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。その時はしばらくお待ちください。)