12/25(金)電車と唐さん③

2020年12月25日 Posted in 中野note
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↑その頃の唐さん。
ご自身で作った講義ノート(何故か連なっている)とともに

今日も「電車と唐さん」についてワンエピソードを。

予め打ち明けておきますが、今日の話は伝聞です。
私自身が見たのではなく、都内に住む私の友人が
電車の中で唐さんを見た、という話です。

2005年頃のこと。
友人が中央線に乗っていると、目の前に見知った人がいる。
「あ、唐さんだ。中野の先生だ」友人はそう思ったのだそうです。
聞けば、友人と唐さんが向い合わせに座っていたのは、
車両の端っこの、あの三人がけの椅子だったと云います。

友人が気になってチラチラと唐さんを見ていると、
それまでシャンと背筋を伸ばして座っていた唐さんが、
電車が走行中にも関わらず立ち上がり、ツカツカと歩み始めた。
そして、同じ車両のほとんど反対側に立っていたお婆さんに話しかけ、
自分が座っていた席へと案内し始めた。

車両の端と端ですから、それは結構な距離で、
二人はひどく目立ったと云います。
乗客の何人かが「あ、唐十郎だ」と思ったはずだ。
そう友人は言っていました。

私には、そんな度を超えた生真面目さや、
使命感をまとった唐さんの姿が容易に想像できます。
なかなかの距離に当のお婆さんも戸惑ったでしょうが、
唐さんの勢いに押され、まるで歌舞伎役者が花道をゆくように、
二人は中央線の通路を道行きしたに違いない。

かくて、暴れん坊で知られた唐さんは、時に正義の人ともなります。
いずれにせよ、常に隙なく芝居がかって余りあるところが、
我が師が唐十郎たる所以なのです。

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