1/23(木)作者は豹変する

2020年1月23日 Posted in 中野note
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2007年に取り組んだ『鐵假面』。ヒロイン・スイ子の手にボストンバッグ。

昨日お伝えした通り、
今頃、重村がバーをお借りして皆さんとお話ししているはずです。
その模様は、明日にレポートされます。

今日は、劇作家による書き換えや改訂の話題です。

私たちは台本のベースを作ると、劇団員で本読みをしながら、
これまでに出版されたあらゆるバージョンと見比べます。

それには理由があって。

2007年の初夏から秋にかけて『鐵假面』という芝居をやっていた頃、
一人のお客さんから受けた指摘に驚かされました。

その方がおっしゃるには、
確かに自分はこの戯曲が初めて掲載された文芸誌を読んでこの芝居を観に来たが、
エンディングがまるで違う、というのです。

私は基本的に台本をカットしませんし、
まして書き換えなどもっての他と思っているタチなので、
台本を見せながら説明をしました。

すると、その方は家に帰ってわざわざ古い雑誌を取り出し、
そのコピーを見せてくれたのです。

確かに、違う。

新潮社から出ていた『二都物語・鐵假面』単行本に準じた私たちの上演だと、
主人公の青年「タタミ屋」が最後に刺すのは悪役「味代」ですが、
この台本が初めて掲載された総合文芸誌「海」昭和47年11月号によれば、
刺されるのはヒロイン「スイ子」なのです。

これでは、だいぶ話も違ってくる。

ここから先は私見ですが、
物語がより残酷で、ヒロイックに輝くのは初掲載の「海」バージョンです。
単行本版は、ともすればご都合主義的で、ちょっとコミカルなんですね。

もともと、姉の同棲相手を不意に殺してしまった姉妹が、
ボストンバッグにその男の頭部を入れて逃げ回っているという設定です。
おそらく、ストーリーが陰惨すぎるのを嫌ってか、
書き下ろした時点のものから、稽古や本番をしながら書き換えたのではないでしょうか。

それにしても、唐さん演ずる「味代」が最後、
大袈裟に刺される姿を想像するだけで何となく笑えてきますが、
正直に言うと私は書き下ろし版の方が好きになってしまって、
「次やるときは、『海』版だな」と強く思いました。

書き換えられた単行本版は、
何だが「現場の都合」に寄りすぎているように感じますし、
元来のエンディングの方が二枚目なんです。

そのようなことがあったものですから、
以降、唐さんのものに限らずすでに書かれた作品に取り組む際は、
活字化された全ての版と、できれば生原稿もチェックするようにしました。

劇団員と一緒に本読みをしながら、ちょっとした変化を発見すると嬉しくなります。
単なる間違い探しではなく、
そこに作者の試行錯誤を想像するのが、なんとも愉しいのです。

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