12/3(火)『外套』と宝物①

2019年12月 3日 Posted in 中野note


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↑演出の岡島哲也さんと。若葉町ウォーフの入り口で。

先週の土曜日。若葉町ウォーフで一人芝居を観ました。
主演は、初めて拝見するSATACOさん。
パントマイム・アーティストです。

奇しくも、前夜のシルヴプレの柴崎岳史さんに続き、
二日間連続でパントマイムの方の舞台を観るという珍しい週末。

原作はニコライ・ゴーゴリの短編小説『外套』。
腕利きの舞台監督やプロデューサーとして活躍する岡島さんですが、
ウォーフの運営に関わるうちに久々に作品を作りたくなり、
「ヨルノハテ」という企画名で演出を再開されました、
今回はその第二弾です。

壁面まっ白の、ホワイトキューブを生かして広がる、
ペテルスブルクの雪景色。
舞台上に敷かれた一枚ものの白い紙は、
クシャクシャと揉み跡が付けられ、
SATACOさんが歩を進める事にたてる足音が、
感興を高めます。

SATACOさんがマイムも駆使して、
アカーキイ・アカーキエヴィチ・バシマチキンを演じながら、
寒空の下に終電を失った自身の体験を織り混ぜて語る、
という構成でした。

特に、アカーキイが慎ましい生活の中で他に楽しみも無く、
就寝前にも唯一の趣味にして役所での職務である清書に励むところ、
味わい深い佇まいでした。


さて、『外套』です。
これは、唐さんが『特権的肉体論』にも一節を展開する小説ですし、
薄くて読みやすそうだったので、大学一年生の時に手に取った作品です。
その時は、なんだかピンと来ず。

ところが、二十歳を過ぎた頃に再読して一気に覚醒、
それからはゴーゴリにはまり、
翻訳で手に入るものは未完の『死せる魂』を含めてほとんど読みました。

「我々は皆ゴーゴリの『外套』から生まれ出たのだ」とは、
ドストエフスキーの有名な言葉です。
また、ロシアのアニメーション作家、ユーリー・ノルシュテインは、
何十年もこの作品のアニメ化を志し、いまだ途上にあるようです。

小市民の悲劇には違いないですが、
哀しみの中に滑稽さ、愛らし差があり、身につまされる短編でもあります。
実に、それだけの観力がありますし、
唐さんも大いにこれを好むからこそ、
『特権〜」に収録されることになった文章を書いたのだと思います。

明日は、いつか唐さんと語り合った、『外套』の話をしてみましょう。

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