2/12(水)突然、心を射抜くせりふ

2020年2月12日 Posted in 中野note
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唐さんの台本には、何の前触れもなく、
突然、聞く者の心を射抜くせりふがあります。

それは登場人物にも、物語にも縛られず、ひょっとしたら、
唐さんご自身がこれを言いたいがために書いてしまったのではないか、
と思われるせりふです。

こんなことを思い出したのは、一昨日『透明人間』に触れたからです。
あの芝居は、唐組が何度も何度も上演してきた名作です。
当然、私は何度も何度も通って観ました。

2001年に新宿西口の原っぱで。
2006年に井の頭公園で。
2015年に花園神社で。

それぞれ何度も行きました。

あの芝居は基本的に、
悪漢「辻」に惹かれる主人公「田口」の目線で観る劇ですが、
私はいつの頃からか、どの上演の折にも、
中学生の少年「マア坊」が1幕で言う、
こんなせりふを心待ちにするようになりました。


母 親 下りなさいよ。(と、手を引き)ここは、
    あんたなんか上がってくる階段じゃないんですから。
白 川 (引き下ろされる)
マア坊 階段なんか、誰が上がったっていいじゃないかよおっ。


これは、かなりドタバタしたシーンの末尾に紛れ込んでいるせりふです。
マア坊の母親が、青少年には似つかわしくない居酒屋の二階、
怪しげな「辻」のもとに息子を誘った担任の白川先生を非難する場面の、
最後に現われるせりふです。
このせりふは、前後の流れを超えて妙に耳に残るのです。

それはきっと、世間にくすぶっているあらゆる青年の野心や屈辱を、
このせりふが代表してしまっているからです。

自分の近くで、
いかにも恵まれた人がスッと階段を上っていくのを感じる度、
かつて私を射抜いたこのせりふが、ふつふつと甦ってきます。

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