2/19(水)わたしの新聞配達②

2020年2月19日 Posted in 中野note
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禿の銀杏さん。『盲導犬』はダブルキャストでやりました。
禿ちゃんはイタリアっぽいから「ヴェネツィア版」
椎野ちゃんはフランスっぽいから「コートダジュール版」
唐さんが名付けました。

一昨日の続きです。
「ファキイル」をゴムで表現したところまでお話ししました。

問題は2日目、自分に迷いが生じたことにありました。
かつて蜷川さんが『盲導犬』を演出した時、
件の「ファキイル 」を音響と照明で見事に表現されたと、
エッセイで読んだことがあったのが、頭をもたげました。
そして、どんなものか、一遍自分でもやってみたくなったのです。

現在では、私は断然「ゴム派」です。
芝居というものは高度なテクノロジーが支えるのでなく、
小学校低学年くらいでも理解できる仕掛けの方が、
立ち上がる世界が豊かになると考えているからです。

まあ、貧乏くさくなってはいけませんが、
いかにも"人間の営み"という分を守って、
単純な仕掛けで創った方が、想像力が羽ばたく感じがするのです。

でも、当時は色んなことを試してみたいですから、
昼間のうちにちょっと工夫をして、2日目の上演にぶつけました。

すると、終演後に焼酎を煽りながら、みるみる唐さんが怒りはじめた。
「ゴムはどうしたんだ!(怒)ゴムは!!(超怒)」
こういう感じで立ち上がると、
私を怒鳴り付けながらサッと引き揚げて行かれました。
弁解や謝罪の隙も、取りつく島もなく、
まさに斬って捨てられたようなスピード感でした。

当然、ひどくショゲまして、
しかし、翌週末には東大の駒場小空間での公演が控えていたので、
夜のうちにバラし始めました。

少し寝て、翌朝も横浜国大の丘の上でバラしていたのですが、
そこに唐さんから電話が掛かってきました。
「研究室にスポーツ新聞を忘れたから、届けに来て欲しい」と言うのです。

そこで、私はバラしを抜けて新聞を手に、高円寺に向かうことにしたのです。
急いで。急いで。1時間半かけて唐さんの家のチャイムを鳴らすと、
唐さんが出てこられて、「昨日は怒りすぎちゃってゴメン!」と言うなり、
サッと新聞を受け取って、またガチャンとドアが閉められました。
自分は「こちらこそスミマセン。来週もよろしくお願いします!!」
と閉じられる扉の内側にお詫びとお願いをねじ込むのがやっとでした。

なんだかホッとすると、
帰りの道々、明らかに読まない新聞を口実に呼び出されたことが、
だんだん可笑しくなってきました。
同時に、怒る時も、歩み寄る時も、
全くベタベタしないヒット&アウェイの早技に、妙に感心してしまいました。
こういうのをスパッとやりおおせるのはなかなか出来ないことだぞ、
と、いまだに思います。

しかし、あの時、
なぜ唐さんがスポーツ新聞を持って大学にいらしていたのか、謎です。
あれはデイリースポーツだったような気がしていますが、そのチョイスも、
全く謎めいています。


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