2/20(土)少年役への熱血指導

2021年2月20日 Posted in 中野note
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↑寡黙な役どころ。眼光の鋭さを買って、彼女を配役しました。

唐十郎ゼミナール時代から、
唐さんが自ら演技指導をするのは珍しいことでした。
基本的には、通し稽古を見て、みんなに感想を伝えて、
その後に、私にだけもっと詳しく感想を伝えて、
飲み会をして、酔っぱらったところで、
気に入ったところと気に入らないところ、
両方をさっきまでより激しく表明する。
これが唐ゼミのやり方でした。

ですから、唐さん自ら模範を示した事例は珍しく、
それだけにひとつひとつが印象に残っています。

もっとも初期に印象に残っているのは、
大学3年の時、『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』に取り組む
私たちに送った「堕胎児」役への演技指導でした。

軽やかな音楽に乗せて、
「2ヶ月」「3ヶ月」「4ヶ月」「5ヶ月」と「堕胎児」たちが
行進しながら入場してくる。
唐さんは両手を広げてカニさん歩きをしたら良いのでは、
と手ずから実演してくださいました。
かつて鳴らした金粉ショーダンサー時代を彷彿とさせる独特のリズム。
この時の唐さんは掛け値なしに面白く、私たちは爆笑しました。

が、問題なのは、誰にもこれが再現できないことです。
唐さんだと面白いのに、他の誰がやってもせいぜい三割の笑い。
何とかしたいと繰り返すと、ますます面白さから遠ざかる。
どうしたら良いか分からず、稽古場は迷子になってしまいました。


昨日、井出情児さんの話をしましたが、
かつて井出さんが「少年」役を演じた『続ジョン・シルバー』に
私たちが挑んだ時、この役に対する唐さんの思い入れには
格別のものがありました。

実に特殊な役なのです。芝居の進行中、少年はずっと寡黙を貫く。
本当に一言も喋らないのです。ところが、最後の最後になって、
たった二言だけ決定的なせりふを吐く。
まるで堪えてきたものが堰を切ったように。

少年  あのーー
ボーイ (マスクの顔を上げる)う?

 少年の足からは血が床に滴たる。

少年  慰謝料をください。少なくていいのです。せめて、親子そろって
    ヘルス・センターにゆくぐらいの慰謝料をくださいっ!

唐さんは、一言目の「あのーー」に最弱音を求めました。
その後、「慰謝料をください。」で一度ボリュームを上げ、
「少なくて〜は再び最弱音に。その後、徐々にクレッシェンドし、
最後には最大音量に至りつつ、キレの良いシャウトを求めました。
「慰謝料をくださいっ!」と言い切った後、
空間全体に残響が、余韻が残る。そういう言い方です。

当時、新人だった佐藤千尋が四苦八苦していましたが、
少しずつ唐さんの要求するレベルに近づくと、
これまで重ねてきた少年の忍従と、
家族でヘルス・センターに行くことを最大級の目標にしながら
自動車に飛び込み続けてきた悲哀、切望が溢れ、
皆がその指導に息を飲みました。

芝居の最後の最後、疲労が蔓延した稽古場に唐さんが最後の鞭をくれる。
稽古場のボルテージが一気に湧き上がる。そういう指導でした。

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