2/27(土)道に倒れていた人②

2021年2月27日 Posted in 中野note
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↑就職を決めて、その次の公演に出演した石井永二。現在は敏腕ディレクター。

2002年の春、唐十郎ゼミナール生だった石井君と私は、
夜中にウロウロしていました。

今ではテレビマンユニオンのディレクターとなった石井永二は、
歌を歌わせれば唐さんも一目置く存在でした。
当時の彼はまさに就職活動の只中で、目前の『ジョン・シルバー』に
参加することができない。
そこで、私は彼に『ジョン・シルバーの唄』をソロで歌ってもらい、
その録音を舞台でかけることにしたのです。歌声のみによる出演。

劇中には、何度もソロの『ジョン・シルバーの唄』が響きます。
どこからともなくシルバーが還ってきた。そういう気配が漂うたびに、
歌声が遠くから近づいてくるのです。

当時の私たちには音響加工技術などほとんどありませんでしたから、
良い空間を求めてさまよいました。

高架下かトンネルの中か、自然と音が響く空間で、
実際に歌をうたいながら近づいてくれば良い音が録音できる。
その際、石井は足を床に引きずりながらレコーダーに接近。
さらに、原付のヘルメットを床に打ち付ければ、
シルバーの片足の棒が床を踏み鳴らすのを「コツッ!コツッ!」と表現できる。

こんなプランが私たちの頭にあり、実際に道具も揃えました。
あとは、適切な場所が無いものか・・・

場所を求め、相鉄沿線を走る国道16号線を黄金町に向かって進んだところ、
関東学院の附属高校の手前くらいに、やはり倒れている人を発見したのです。
歩道に横たわり、膝から下が、車道にヌッと出ていました。
石井と私はたいそう驚き、やはり恐る恐る接近。

酔っぱらったおじいさんでしたが、声をかけて、
とにかく歩道に完全に身体が入り切るところまで後退させました。
あのまま私たちが何もせずにいたら、
おのお爺さんの脚は、車かバイクかに惹かれていたに違いありません。
「やれやれ。危うくシルバーみたいになるところだった」
そう思いながら、尚もウロウロし続けました。

結局、黄金町方面に相応しい空間はなく、
音源は相鉄線上星川駅近くのトンネルで録音することになりました。
夜中の2時くらいでしたが、時おり上手くいきかけたテイクを
車の音に邪魔されて何度も録り直し、現在も使っている音源が完成しました。

駅を降りて、高名な大野一雄先生の舞踏研究所に向かったところにある
あのトンネル。通り過ぎるたびに、良いトンネルだなあと惚れ惚れしています。

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