2/5(水)空を飛びたい
2020年2月 6日 Posted in 中野note
昨日のゼミログで紹介した写真を見ながら台本を読んでいて、
あの頃の唐さんに言われたことを思い出しました。
細かい時期は忘れてしまいましたが、
あれは例によって、唐さんと都内で何かの芝居を観て、
終演後の飲み会にも参加し、流れでご自宅に泊めて頂いた時のことです。
翌朝に起き出して朝食をご馳走になり、
先に食べ終わった唐さんはソファーでくつろぎながら、唐突にこう仰るのです。
「オレが今、中野の歳だったら演劇はやらないなあ」
当時、私は20代の前半でした。
現在よりもさらに盲目的に唐さん目指して演劇一生懸命でしたから、
ドキリとして、思わずこうお尋ねしました。
「唐さんだったら、今、何をされますか?」
すると、唐さんはこう言うのです。
「そうだなあ。ハンググライダーなんか造りたいなあ」
私はなんだか、可笑しくなってしまいました。
今の演劇が、
ご自分の青年時代ほど威力を持っていないという見立ての厳しさ、
それは別にして、唐さんが一生懸命ハンググライダーを作ったり、
空を飛んだりする姿を想像すると、ちょっと笑えてきます。
同時に、唐さんから漂う「手仕事」の感覚に、安心したりもしました。
唐さんの演劇づくりは常にコツコツとした手作業の気配があって、
いかにも生身の人間が手と体を使ってやっている、
そういう安心感があります。
「やっぱり唐さんは芝居を作ってますよ」とこちらが笑いながら応えると、
唐さんは「そうかなあ」などと仰っていました。
『唐版 風の又三郎』の冒頭には、
かつて唐さんが演じた「教授」が「ヒコーキです」という科白を言う場面があります。
「ヒコーキ」とか「ハンググライダー」とか。
唐さんの、あの涼しく高い声にはいつも、
どこか空を飛んでいるような気配があります。
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