3/26(金)追いつめられた人は・・・

2021年3月26日 Posted in 中野note
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↑追い詰められた人間が暴発する瞬間。かつて読んだマンガの
この場面を思い出します。

先日、講座で久々に『蛇姫様 我が心の奈蛇』を読んだ話をしました。
改めて、上演した時に一番好きだったシーンを思い出しました。

三幕の終盤、「バテレン」が颯爽と登場し、
多羅尾伴内よろしく謎解きをする場面。

悪役である伝次(実は李東順)、青色申告、藪野文化は
追いつめられ、ついにその正体を暴かれようとします。
それは、こんなせりふのやり取り・・・

バテレン   伝次が伝次でないならば、床屋の藪野は何者だ。

     あたしはそれから、風呂屋跡の横に建った、あの床屋に行ってみた。

     しかしあけび、お前が働いていた床屋は、もうどこにもありゃしなかった。

     そこには只、竹藪があるばかり。区役所に行って調べてみれば、

     床屋の藪野の一族は、去年の暮れに死に絶えて、

     そのヨイヨイのぶらさげている骨壺が、藪野の御霊さ。

     その一族は、その一族は、よく聞けよ、蛇年なのをいいことに、

     空き家の床屋に居座っていただけなんだ!

     そうだろ、内縁、お前の見たことを言ってやれ!

内縁 (尻ごみして)こわいよお!

バテレン 尻ごみせずに言ってやれ、こいつらは、一体何者なのか!?

伝次と名乗る男  (緊張のタガがはずれて、急に踊り出す)

         ♪ワーイ ワーイ もういっぱい

          渡辺のジュースの素だよ もういっぱい

          俺たちゃ昔、死人に触った。世に出ることの商いが、死人に触ることだった・・・

私はここがとにかく好きなのです。人間のリアリティが溢れている。

まず第一に、深刻味がいや増す只中に
「蛇年なのをいいことに」というギャグを入れていること。
一族が死に絶えた家屋に勝手に入りこんでいる男たちが
何故そんなことをできたか、と言えば、「蛇年」だから。

まったく理由になっていませんが、唐さんのシャレが効いています。
しかし、演じる側となると、これだけ勢いのあるせりふに
突如として配されたギャグを活かすのは、とっても大変。
ここで笑いを取れたら、その役者の腕はかなり確かです。

そして何より、バテレンに追いつめられた男たちの反応。
伝次(を騙る男)の激しい緊張は極限をむかえ、思わず、
ワタナベのジュースの素のCMソングを歌ってしまうのです。

一見、荒唐無稽のように見えますが、
激しい緊張にさらされ過ぎた人が行き着く先、
突如として幼児性が炸裂してしまう姿に、思わず納得せざるを得ません。

かくて、子どもの頃に見たCMソングの直後に、
もっともシリアスなせりふがやってきます。
この行き来こそ、人間のダイナミズムにしてリアリズム!

長い長い『蛇姫様 我が心の奈蛇』を通じて、
私がもっとも好きな、人間の核心にダイレクトに迫るシーンです。

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