4/11(火)そりゃないぜ、乱歩版『鐡假面』

2023年4月12日 Posted in 中野note
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↑残念ながら、こっちの方が断然良かったです!

ずいぶん前に江戸川乱歩版『鐡假面』を入手したと書きました
なにせ昭和20代の本で陽灼けしていたが、読む分には何も問題もなく、
むしろすべての漢字に振り仮名がふってあるから読みやすい。
児童用の本につき文字も大きめでした。

しかし、何かが読みにくい。
ボアゴベの原作は、最後まで苦味ばしった大人の魅力がつきまといます。
虚無感と言ってもいい。悪政を敷く大臣を倒すべく青年たちを率いた
主人公モーリスが投獄され、残された恋人、仲間たちが数十年に渡って
彼を救い出そうと試みるも、ついにその願いは叶わず、
やがて歳をとり死んでゆく話です。

獄中でモーリスがかぶせられたのが鉄仮面であり、
モーリスを中心とした若者たちの夢も希望も、時間さえも、
息苦しい鉄仮面が無惨に覆い尽くしてしまうところに味わいがあったわけです。

ところが、乱歩版は違う。
全てがミステリー。全てが冒険譚。要するに怪人二十面相のノリなのです。
時代がかった口調で、それ自体は慣れてくれば読みにくくはないのですが、
全体にB級感、軽薄さが漂う。

驚いたのは大きなプロットを丸ごと無視しているところで、
時のフランス王の双子が秘密裏に幽閉されており、彼が国王と瓜二つの
顔を見られてはいけないために鉄仮面を被せられている、という設定が
丸ごと無し。主人公モーリスを救い出そうとした一党が、この王の双子を
助け出してしまうという運命の皮肉が思い切りパスされていました。

その代わり、なんだか怪しげなドクロ顔の男が登場したり、
別の姿に化けていたあの男は実は・・・、と言った具合に、
明智小五郎がいつ登場してもおかしくない言い回しばかり。

最終的に、あの原作が持つ無常感、そこからくる抒情性はどこへやら、
いきなりとってつけたようなハッピーエンドで、
主人公モーリスは仲間たちの思惑とはぜんぜん別のところで
勝手に脱獄を成功させ、老体ではあるけれど、
悪徳大臣を倒す他国の抵抗勢力に将として加わっている、
という具合に結ばれます。どうも白々しい。

特に最後の方の展開はグダグダで、取ってつけた感が半端ない。
なんだかんだと時間をかけて読んできて、ラスト数ページの結びに
思わず「・・・そりゃないぜ」と呟いてしいました。

唐さんが幼少期にこれを読んだことは間違い無いでしょうが、
読後の感触としては原作にかなり劣ります。
少なくとも私にとっては。

・・・というわけで、同じ児童文学化されたものだったら、
冒頭に写真を上げた、さとうまきこさんのバージョンが格調高く、
明らかに原作の持ち味を生かしています。

口直しに読んでみようと久々に引っ張り出しました。
唐さんが何を読んでいたかがわかったというのは収穫でしたが、
乱歩版は内容的には問題あり。まあ、こういうこともあります。

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