4/20(火)想像力の源〜『ベンガルの虎』から『海の牙 黒髪海峡篇』へ

2021年4月20日 Posted in 中野note
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↑てのひらに目玉。これこそがインスピレーションの源に違いない。

目下、劇団で研究している『ベンガルの虎』。
毎週水曜の夜にワークショップで取り組んでいる『海の牙 黒髪海峡篇』
どちらも1973年に状況劇場が初演した演目です。

そして、その二つをつなぐアイテムが上に挙げたお守り「ファーティマの手」。
『海の牙〜』という演目は、恐ろしく強い眼力を持つ女「瀬良皿子」と、
彼女の強烈な一瞥によって鉄棒ワザの「大車輪」を失敗し、
右手を負傷してしまった青年「呉一郎」を主人公とする物語です。

「瀬良皿子(せらさらこ)」とは、『アラビアンナイト 』『千夜一夜物語』
に登場する語り部の姫「シェエラザード」の名前を文字ったキャラクターで、
中東に由来するがゆえに、鋭い眼光を持つという特徴づけがなされている。

中東は乾燥を防ぐために肌の露出を嫌います。
そしてまた、特に女性の場合は、できるだけ身体を覆うことが、
倫理的な防御にもなっている。
その分、中東を露出度満点の女性たちが旅をすればトラブルは必定です。

で、結果的に、露出を避けられない眼ばかりが目立つことになる。
顔の造形として彫りが深い上に、さらにその部分だけ露わになることで、
眼力はより研ぎ澄まされる。唐ゼミ☆でこの演目を準備していた時、
中東の人々の視線の強さについて、室井先生から実体験を聴いた記憶があります。

話を冒頭に挙げた「ファーティマの手」に戻すと、
「ファーティマ」とは預言者・マホメットの娘さんの名前で、
イスラム教における聖女なのだそうです。

イスラム教では、視られることをひどくおそれます。
「視姦」「邪眼」「イビルアイ」という言葉がありますが、
視られること=犯されること、という意味合いすらあるらしい。

そういう時、そんな邪悪なる視線をはじき返すための身に付けるのが、
この「ファーティマの手」。このお守りの真ん中にある聖女の眼が、
邪悪な力を相殺する。そんな聖なる力を帯びた瞳が手のレリーフに収められている。
「眼」と「手」。『海の牙〜』を構成する二大要素です。

ムスリムの人が行き交う地域では、
この「ファーティマの手」はかなりメジャーなお土産ものでもあるそうです。

何かの偶然でこのお守りの存在を知った時、
あ、唐さんはこれを見たな!と思いました。
そして、唐さんとイスラム教圏との接触を類推した時、
『ベンガルの虎』バングラデシュ公演が気に掛かる。
調べてみれば、やはりバングラデシュはイスラム教圏でした。

状況劇場のバングラデシュ行を記した文章のどこを見ても
この「ファーティマの手」は一切登場しません。けれども、
唐さんは必ずや現地でこれを見たはずだと私は考えています。

大作『ベンガルの虎』を手掛けながら、次なる作品も視界に捉えている。
作家としての着想が沸騰している、若き日の唐さんを想像します。

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